書き溜めが見つかったので投稿です。
レイチェルに会うため、来た道を引き返していた。
どこに居るんだろうか。レイチェルの方から返事をしてくれないだろうか。
今は何時だろうか。
半日は経っているんじゃないかな。
今頃、私やレイチェルのことを捜索しているのだろうか。
屋内照明はどこにもない。
マトリョーシカのように部屋の中にはさらに小さな部屋が何層にもなって構成している。
一度部屋に入ると、何処にいるのか忘れそうになる。
窓があれば時間帯くらいわかるのだが.......
(君は知りたくないだけだよ....)
ん?
(ねぇ.....)
誰だ?
(君はここにいるべきじゃない.....)
どこから聞こえる?
耳を澄ませるが、どこの方角から声の出処は見つからない。
その声は人間の声ではなかった。
限りなく人の声を近づけようとしているものの、人工音であることが分かる。中性的というのがやや近い表現だろうか。
まるで、自分の耳の中でのみ反響しているようで。
耳鳴りなんかではなくて。
その声は続ける。
(少し、お話をしようよ。)
刹那、
私の身体は全く動かなくなった。
金縛りでも受けたように。
金縛りにあったことはない。脳は起きているのに身体は眠っている現象だとは聞いたことがある。睡眠障害であるのだったか。
これは夢の一種なのだろう。よく幽霊を観たという話をしている人がいる。大概は金縛りが見せる幻なのかもしれない。
それでも、怖い。冷静になろうと必死になる。
もし、すでに私の夢の世界だとして………
なら、ここでの幽霊は恐らくこの声か。
(少し眠ろうね)
夢の世界に引きずり込まれる感覚がする。
抗えないのは直感的に分かった。
『おいっ!誰だお前ッ!!!!!』
必死に見えない幽霊に問いかける。その声が意味をなさないとしても。
(自分の過去を知るのが怖いんだ?)
だれ.....だ.......
意識は深い闇に落ちていった。
私は、みなしごで施設育ちでした。
もちろん親はどこかにいたと思いますよ。
ただ、私にとって気づいたときには親は居らず、周りには私と同じくらいの同年代が一緒だったんです。大人と言えば職員さんの方達でしょうか。とてもいい人たちでしたよ。
だからなのか、親の存在を気にすることも、親がいないことに悩むこともありませんでした。
施設に入るまでどうやって育てられたのかな。
そんな事を今では疑問に感じますが、あまり問題ではないでしょう。
自分のことは気にしなくてもいいかな、そこで暮らしていると次第にそう思うようになっていきました。
私のことよりも周りの同世代と遊んでいる方が楽しくて自分の事を考えなくて済んだんです。
気が紛れる、といった方が正しかったのかもしれません。
5歳くらいの頃でしょうか。
施設内で特に仲の良かった子たち数人が集まって旅行に行こうよという話になりました。
それは、大人を入れない、子どもたちだけでの旅行でした。
5歳からは多くの子たちは幼稚園に通うことになっていました。義務教育というやつですね。
私たちの何人かは養子縁組が成立していることもあり、必ずしも同じ地域の幼稚園に通うという訳ではありませんでした。
その前の思い出作りだったのでしょうか。いや、ただ遊びに行きたいというだけだったかもしれません。私以外活発な子たちの集団でしたから。
さてさて、そんな訳ですが米国と日本は違うんですよ。
子どもたちだけでの外出というのは難しいんです。
13歳以下の外出というのは州によって幾らかの差こそあれど、推奨はされていません。禁止されている場合もあります。
それなのに私たちは5歳です。普通に考えたらあり得ないことです。もちろん、少しは子どもたちの間でも作戦を練ることになりました。
といっても、子供がやることです。彼らは思い思いにアイデアを出します。
それで失敗しても思い出にはなったかもしれませんが、
私は最後の機会なので成功させようと躍起になっていました。
私が中心となっていくつかの方法を練りました。
唯一の問題だった玄関をどう出るかについて考えました。
私たちの施設では正面玄関があったのですが、非常用出口の方に目をつけました。非常用ということで長年使われておらず、鍵はカードキーではなく古い南京錠でした。
その鍵を閉まっている場所も大凡の検討はついていました。正面玄関の方は夜間は警備がついているくらいだったのですが、非常用の方は出口が狭いためか、あまり用心する必要はなかったのでしょうか。
その日の夜中、実行に移しました。普通は数日かけてもっと細部を詰めるのでしょうか。ですが、私たちは5歳の子供でした。そんな我慢が出来るほどではありません。
私たちの集団は同じ部屋で寝ていました。だから仲が良かったのかもしれません。
まず、第1の扉は遠くからは分からないほどに開けておきました。このときに気づかれても可笑しくなかったのでしょう。ですが、不思議なことにバレることはありませんでした。
その後は問題なく当初の手筈通りに外に出ることが出来ました。予想以上にすんなり上手くいき、内心ではかなり驚きました。
私はワクワクしていました。他の子たちも同じ気持ちだったのでしょうか。
でも、どこに行こうか。そんな話になりました。行き先すらも事前に決めていませんでした。全ては行き当たりばったりです。
暗い周囲をライトで照らしながら思い思いに話し合いました。
ある子はこう言いました。
『海に行こう。みんなで泳ぎたい。』
もう一人の子はこう言いました。
『映画館にいきたい。〇〇を観たい!』
もちろん、そんな所に行けるわけもなく、最終的には私の提案で近くの公園に行こうということになりました。
その公園は私たちの地域ではとりわけ治安がよかったのです。もちろん、夜中だということで警戒はしていましたが。
通常、夜間になると、その公園はバリケードが張られていたのですが、大雑把な造りでしたので特に潜り抜けるのには気にすることもありませんでした。
それもあって、他の場所に行くよりはマシだろうという判断でした。
歩いて数分の距離だったので慣れない深夜の散歩でしたが、すぐに着くことが出来ました。
途中で誰とも会わなかったので嫌な予感がしていたのですが、そんな心配を無為に他の子達は楽しそうでした。
たった数分が永遠に感じられるくらいで、公園で遊んでいる時間よりも一緒に歩いている時間の方が記憶に残る体験だったかもしれません。
着いてからはひとしきり遊びました。
.......そろそろ皆が飽きてきたかな。
そう思った私は、そろそろ帰ってもいいんじゃないかと、みんなに提案しました。
何人かの子たちが反対したのを覚えています。ここまでで刺激的な体験ではあったかもしれませんが旅行というのには不十分だったかもしれません。
ですが、私の提案に賛成してくれた子達と説得して何とか納得させることが出来ました。
持ってきた荷物もライトぐらいです。遠くまで行けるはずもありません。
帰る、ということになり、私はポケットを確認しました。
鍵を取り出そうと確認しただけです。
ですが、少し探してもありません。すぐに気づきました。
遊んでいる時にポケットから落としたのだろうと。
それから、全員で鍵を探すことになりました。公園で遊んでいる時間よりも長かったかもしれませんね。
結局、鍵は見つかりませんでした。私は諦めて帰ろうと決心していました。ただ、他の子たちは探し続けていました。勝手に外出したことを職員さんに叱られたくなかったのでしょう。
どうするか話し合いました。
鍵を探すグループと帰るグループに別れることになりました。
叱られてもいいから、遊び疲れていたのでしょうか。
私も早く帰りたかったのですが、鍵を所有していた責任を感じて、残った子達と探すことになりました。帰るグループの子たちには施設までの地図を念の為渡しておきました。
結果ですか?.....結局見つかりませんでしたよ。
ですから、遅れる形で私たちも施設に帰ることにしました。
特に問題もなく施設までの道を間違えることもありませんでした。
しかし、施設に近づいてきたとき、何かが可笑しいことは直ぐに分かりました。
帰ってきているはずのグループの子達が何処にもいないと。
ライトでよく照らしました。
窓はヒビ割れ、血の臭いがしました。鉄臭い、嫌な匂いです。
非常用玄関に近づいたとき、その正体が分かりました。
死体でした。まさに今、探していたものでした。
みんなは次から次へと泣き出しました。気絶した子もいたかもしれません。
それから死体の近くには何か置いてあるのを見つけました。
鍵でした。公園で探していたものです。
私が落とした時にバレないように拾ったのでしょうか。
叱られないようにするつもりだったのでしょう。
ちょっとした意趣返しが入っていたのかもしれません。
ただ、私はそれ以上に施設内の様子が気になりました。もちろん、死体を見たことは堪えましたが、それ以上に非現実的すぎてふわふわしていたのでしょうか。
ミステリーモノや医療モノが好きで血や死体は見慣れていたことも要因だったのかもしれません。なんだか楽しくなっていました。気分は探偵さながらでした。
お察しのとおりです。
皆は倒れていました。壁にはまだ新しい血しぶきや乾いてきている血痕が混ざり合って、なんともグロテスクな様相を呈していました。
私は気を取り戻して、すぐに通報しました。施設内の電話が使えたのは本当に運が良かったです。
その後、施設は閉鎖になり、私と隠れて生き残っていた子たちはほかの施設に移送されました。ニュースでは一時期、この事件ばかりが報道されていましたね。
原因ですか?
そうですね、たまたま人通りが少なかったとか、警備の対応が杜撰だったとか、じゃないですかね。治安がいい地域だったから警戒心が薄かったのかもしれませんね。
........あなたの存在を見つけたのはこの事件がキッカケなのかもしれませんね。
あ、何でもありません。
すっ、すみません!!!話が長くなりましたね。大切なときなのに話がまとまっていないなんて.......
そうですね、つまり、私が言いたいことは.......
...
.......
..........
(目覚めよ!)
はっ!!!!!
はぁはぁ........
なんだ。凄く恐ろしい夢........
違うな。自分自身に関わる何か重要な夢だった。
どうやら壁にもたれかかっていたみたいだ。手で汗を払う。
あぁ、小さめのタオルを持ってたんだっけ。
それにしても、意識を失う前までに聞こえていた声はなんだったのか.....
思ってたより汗を掻いていたのだろうか、拭きながら思案する。
何か、決定的なことを忘れている.....忘れようとしている気がする。でも、それ以上は分からない。忘れてはいけないはず......
あの声が聞こえさえすれば.......
そうして耳を澄ませる。
声が聞こえてくることはなかった。
評価、感想などなどお待ちしています。