お久しぶりです。
『したがって、被告人レイチェル・ガードナーを・・・・・』
あぁ・・・私はここで死ぬのだろうか。
約束、守れなくてごめんなさい.........
『レイチェル!!!』
突如、放たれた叫び声に法廷が静まり返った。
彼女の叫び声だった。
今までどこか幻のような世界を生きているように感じていた。
ここに来てから、いやもっと前からだったかもしれない。
現実に引き戻された感覚がした。
来てくれたんだ…………
彼女.........あまり、名前で呼ばないようにと頼まれていたので「彼女」としておく。
彼女は私と、ある意味で似ていて、全く違った。
遠くから見たら快活そうに見える子だった。ところが、実際は違った。
どこか親近感が湧いたのは同世代とあまり馴染めていなかったからなのだろうか。どうだろうか。私は興味・関心の欠如が原因だが、彼女はどこか同世代とは感覚がズレていると感じることが何度かあったのを思い出す。
ここは裁判とは名ばかりの魔女裁判だ。
この司祭紛いが判決を言い渡す裁判官なら、当然、私にとって彼女は………
『待ったをかけさせてはくれないかな?』
急いできたのだろうか。
魔術で作られたとしか思えないようなこの裁判所に彼女の声が響いた。
『………ふむ。ご友人が来てくれたようで。レイチェル・ガードナー。弁護人には対価を払う必要があるのではないかね。礼という形でよいが。』
心に思ってないことをよく言う。感心する。
『ありがとう……来てくれたんだ。』
彼女が来てくれたことには素直に嬉しい。このままここで殺されるなんて、私にはそんな死に方を選ぶ権利はないのだから。少なくともザックとの約束期限が切れていない限りは。
『感謝はいいよ。なんだか、一方的に責められているみたいだったから、あんまりだと思ってね。弁護士資格もなければ、誰かを弁護した経験もないけど、でも、伊達に何年も生きているわけじゃないんだよ。』
そう言ってこちらに笑顔を向けた。
自信があるのだろうか。それとも私を不安にさせないためだろうか。
私と同じくらいしか生きてないという事実に反し、明るく振る舞ってみせるその姿。
まただ……
そこには根拠のない自信とは言い切れない何かがある………
会ったときは特に何も思わなかった。施設では彼女くらいの年齢の子は定期的にでたり入ったりしてくるし、馴染んでいく子もいれば、1人で孤立している子もいる。
私は明らかに後者のタイプに当てはまるだろう。
同世代とはどこかずれている感覚があったし、それに合わせようとする気概も持ち合わせていなかった。
そしてそれで特段の問題があるわけではなかった。
周りとの距離感は感じたものの、こちらが距離を取っているのだからそれが可笑しな状態であるとは判断しなかった。
ただ、全く変化しないままというのは考えられない
彼女が来たとき、少しの変化が現れた。
最初から違和感はあった。
どちらかというと執拗なほどこちらに様々なことを問いかけてくる子だった。
あぁ、好奇心旺盛で社交性に溢れたタイプなのかな。そういう判断でレッテル付けをしようと思っていたが、やがて違うことに気づく。
私以外の周りの同世代とは必要以上に関わろうとしないのだ。
不自然だった。
他人との会話が好きなのかと思えばそうでもなく、複数の人間関係の構築に時間をかけている様子はない。
家族について、趣味について、ここでの生活は楽しいか。そしてその他諸々。終始、私に対して質問攻めを繰り広げてきた。
距離感が掴み取れないな。そんな小さな不快感を持ちつつも、私は淡々とある程度返事をしていた。
大体聞きたいことを聞き終えたのだろうか、彼女が黙ったのを確認して、私からも何か聞こうか、そんな考えに至った。
ここでの生活に飽きてきて刺激が欲しくなったのか。それともここにいる同世代の子たちとは何かが違うと感じたからなのか。
もしかすると、ダニー先生のカウンセリングに当時、辟易していたからかもしれない。
こんなものに何の意味があるのか。
私の何がわかるのだろうか。
そういう内心が彼女との対話を求めていた要因だったのだろうか。
どれにしても私にとって小さな変化だったのかもしれない。
しかし、私の方から質問をしたとき、彼女の顔色は複雑なものになっていった。
最初は嬉しそうな様子で。それは単に私が興味を示したことに対してだろう。
そして、次は……………
何とも言いにくそうな…………
言うか迷っているのだろうかといった具合の表情だった。
距離感を測りかねていたのは私も同じだったのかもしれない。
このような施設に入る子たちだ。
悪い意味で並大抵の背景を持っていないはずだ。
失念していた。
私の様子を察したのだろうか
彼女は言った。
『大丈夫さ。そういうわけじゃなくてね。
言っても仕方ないというか…………』
どういうことだろうか。言いたくないなら言わなくてもいいはずだ。私自身も知られると不味いことは、ぼかして教えた。
『実は、ここに来るまでの記憶がなくてさ………』
……唖然とした。
こればかりは私の表情筋が鈍いのが助かっただろうか。
返す言葉はすぐに出てこなかった。
予想外だった………
が、このような返事は想定できるはずもなかった。
『…………そうなんだ。』
会話力が不足している私に気の利いた言葉が返せるはずもなく、むしろ何が次の地雷を踏み抜くかも分からないので、そう返した。
それからまた彼女の質問攻めが続いた。言えないことが増えてきたが、それはさっきの彼女の答えが私の頭の中で反芻していたからなのかもしれない。
弁護してくれるということで、彼女と初めて会った日を思い返していた。
謎が多い、その一言に集約される。もしかしたら、この廃ビルの中にいる人達の中で最も分からないのが彼女かもしれない。
嫌な想像が過った。
彼女は、もしかしたら味方ではなくて……………
違う、ザックと同じような事を考えていることに気づいた。
ダメだ。
少なくとも彼女は弁護をしてくれると名乗り出してくれたのだ。
そんな時に私が彼女を信用しなくてどうする。こちら側が不利になって私への不当判決が確定するだけだ。
気にするのはそこではないはずだ。
『では、仕切り直し、審理を再開しよう。…………積極的な発言を推奨する。』
『勿論だよ、ここに来たからには自分の役目を果たすつもりさ。』
どうなるんだろうか。
彼女という新たな不確定要素が加わり、議論がややこしくなりそうだが。
ふと、彼女に視線を向けた。
目が合った。
そして気づく。
少し揺れた私の碧眼。
自信に溢れた彼女の翠眼。
そうだ、裁判は始まったばかり。
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