結果から言うと失敗はしていない。だが失敗してないだけだ。
その日は休日で家族で出かける予定だった。
そこで私は家で留守をしたいと駄々をこねさせてもらった。
手間取ったが、両親は理解してくれたみたいだ。
私の肉体年齢もあるのかもしれない。本来主人格の年齢は13歳だ。前世でこれくらいの年というと第2思春期にあたるだろうか。親と一緒にいる中で不満を訴えることがあっても自然だ。それもあって分かってくれたのだろうか。
次にザックだ。
家の中に上げてまで襲わせるのにはかなり苦労した。
向こうとしても家の中にいる子供よりも外で歩いているほうがターゲットにしやすかったのだろう。
ただ小細工のためにも屋内でやる必要があった。
なんとか誘導して襲わせる事はできた。
ただ誤算があった。
思ったより鎌の殺傷性が高かったという事だ。
いや、違う、本当にこの世のものとは思えない痛みなのだ。
本編でも活躍していたがどんな素材で出来ているのかそれとも、ザックのパワーが桁外れなのか。
私が直ぐに意識を失った。それを見た彼はすぐに出ていく。恐怖に震えて命乞いをする相手に対する加虐性が高い。彼の殺人にはその一貫性がある。
逆に言えばそうではない人間に対して当てはまらない。
史実でも、恐怖を示さなくなったレイチェルに対しては同様の反応を示していた。
ザックがいなくなったのを確認した私はすぐさま、はち切れそうな意識を繋ぎ止める。
本当に意識を失っていたわけではなかった。死んだフリをしていたわけでもない。痛みで気絶しそうになるが、必死に抑えて耐え忍ぶ。
近くの棚に入っていた救急キットを取り出す。
痛みを和らげること、それから傷口への手当てやテーピングに気力を振り絞った。
気がつくと
意識を失っていた。
目が覚めると病室だった。
病院であったことにホッとしたが、一歩間違えれば死んでいたのだろう。
13歳の子供の処置として怪しまれない程度に抑えたつもりだったがどうだったろうか。かなり気を失っていたからか頭が痛い。
どうやら点滴につながれているみたいだ。
前世含めてこのような状態は初めての経験なのではないか。健康的な生活をしていたおかげか、それとも恵まれた身体だったのか病室にいた記憶は殆どない。
非日常的な光景に心なしか頭がフワフワしてくる。
殺されかけるというまさしく非日常な体験をした後だからだろうか。
ベットの横で一定の機械音が聞こえる。
心電図だろう。
全身につながっているチューブも気になる。
不快だが、その感情すらも新鮮だ。
次はレイチェルとの接触か。
レイチェルがいるであろう施設はおおよその見当がついている。にしてもそこからどこかのビルに連れ去られたんだっけな。というかそんな事が可能なのか………?
しかしどうやってビル内でレイチェル達に会うかだ。最初から合流する?そんな事したらザックに殺される。私自身がフロアボスになるというのどうだろうか。無理か、いやどうだろう。
フロアボスは担当のフロアから離れると制裁を受ける。その点では共通をしているように見える。
しかし実際、各々はかなり自由に動いており、そこにまとまりは見いだし難い。
リーダー的存在のグレイに各々が共感していると見えるものの、狂人の彼らが本当にまとまりを持っているか疑問だ。
本編において持ち場を離れたザックに対して敵対的であったがそれくらいだ。ただフロアボスなんて決まってる。
つまり、私が彼らの誰かに成り代わるということになる。
誰なら良いのか。
まず、ダニエルは無理だ。それに私は現状、レイチェルと似たような境遇だ。彼に成り代わるというのは考えにくい。というか彼がいるから物語は開幕する。
キャシーはどうか。これも難しい。唯一の女性という私との共通点は同じだが、それだけだ。
グレイはあり得ない。彼があのビルを管理しているのだろう。彼が本編で与えた影響は大きすぎる。私には把握できていない。
最後にエディ。彼が妥当だろうか。私と背丈と同じくらいで、声もやや中性的だ。そんなことを考えながらしばらくは今後の作戦を練る。
辺りが騒がしいな。どうしたんだろうか。
しばらくすると病室のドアがノックされた。医師、看護師、それとも両親が来たのかな。彼女の両親には謝らないといけないな。いくら異分子でも娘なわけだし。返事をしようかと迷ったがその前にドアは開いた。
どうやら医師の方々みたいだ。体調はどうかと聞かれたがそれよりも大事な情報があった。
聞くになんと1週間も眠り続けていたらしい。確かに頭が痛かったけどそんなに寝てたのか………。
それともう一つあるらしい。なんだ?何だかなかなか教えてくれない。私の方から続きを促す。
でも、もしかしたら聞かないほうがよかったのかもしれない。
『ご家族の方々ですが、お亡くなりにな…………』
何を言われたのか理解するのに躊躇した。
私の両親が死んだ?私にとってこれは最悪の事態なのではなかったか。
少し深呼吸をする。
何度か繰り返していたら落ち着いてきた。
その間、待ってくれていた。
どうして死んだのか聞いた。答えは残酷だった。
あの日、彼女の両親は早めに家に帰ってくることにしたそうだ。そこで、自宅の近くで歩いていた時にザックに襲われたのだ。
私が全ての原因だったのだ。
両親が私の事を心配しているのは日頃から分かっていたはずだった。
だがやはり何も分かってなかったのだろうか。私はゲームの世界に自分がいると錯覚していた。
嫌悪感が募る。吐き気を催す。
なんとか我慢した。
受け入れるしかないのだ。
ここはゲームであってゲームではない、現実だ。
そうだろう。
ここまで来たら後戻りは出来ないのだ。今まで主人格である彼女の両親というフィルターで彼らを見ていた。
しかし、それは違った。
彼らにとっても私にとってもそれは違う。彼女と僕にとっての両親なのだ。
取り返しのつかないことをしてしまった、そう気付かされた。
その日の夜、今世で初めて泣いた。
13年間、両親に一度も見せなかった、それは
もう二度と見せることのできない涙だった。