『ねぇねぇ、君が誰かは知らないけど、ここにいるってコトはもちろん、そういうことなんだよねっ???』
いつの間にいたのか………気づけなかった。
予想以上に早かった。まだ準備は終わってなかったっていうのに…
時系列は私がビルに忍び込んだときに遡ることになる。
辺りを見回した限り、割れた、というか、落下しそうになっているシャンデリアが目に付く他には、乱雑に倒れた椅子やテーブルなどだろうか。自動販売機に関しては明かりすらついてないので飲み物に関しては期待できなさそうだな。
他にはダーツやビリヤードなんかもあるみたいだ。ただまともに遊べる状態とは言えない。私自身も遊び方を知らないのでググる必要があるが、あいにくスマホは手元にない状態だ。
非常階段のようなものはないのだろうか。
……お、あった、あった。しかし人が通れる状態ではなかった。
階段のようなものはない。と思っていたが、
あるのはある。
ただ、段ボールが何段にも積み重なっていなければの話だ。軽く持ち上げようとしたが分かったのは、びくともしないということだけだ。
筋力チートのようなものがあればいいのに………
なんて思うけども少女の時点で筋骨隆々の身体というのは流石に私の独断でも憚られる。持ち上げられるような代物でもないと分かった。
ではどうするか。
辺りには何かないだろうか。そう思って壁際を順々に確認していく。ただでさえ暗いのでライトの明るさが頼りだ。
取り敢えず、これくらいか……と思ってきた頃合いに見つけた。
空調ダクトだった。
だが、かなり小さいように見える。恐らく大人では無理だ。
言い切れる。そもそも、そういう用途に使うものじゃない。
しかし、事態は一刻を争う。
決心してドライバーを取り出した。正直、このダクト構造はよく分かってない。
だが何度も試行錯誤して、スピードで技術を補うしかない。
フィルター、フィルタユニットの部分はドライバーをぶち込んでなんとかする。
思ってたよりも早く終わった。
しかし次が問題だ。中に入っていく。
その瞬間、強烈な圧迫感を感じた。
とんでもなく狭いのだ。しかも匂いも酷い。
あらかじめガスマスクに加えて防護服もどきがなければ、自身の姿を見せられない事態になっていただろう。
どちらかというと苦しさの要因には狭さの方に分配が上がる。
よくハリウッド映画でダクトに入る俳優達がいる。スパイ行為というやつだ。私のような素人はそれを見て圧倒される。
それに対して、あんなの入れるわけないだろという、専門家の人がテレビで発言していたのを思い出した。
なるほど、最もな意見だった。
今なら1kだった前世の私の住処が天国のように思えてくる。恐らく、ここで何かが顔にぶつかったとしても回避する余裕はない。一巻の終わりだろう。
それだけならまだしも……………
なんとか体をよじらせながら、窮屈さに苦しみつつ匍匐前進する。
.........それだけならよかったのだが、
途中には仕切り板のようなものがある。こんなものがあるのかと思いつつ、ため息が漏れる。
ますます人が通る空間ではなくなってきた。
なんだか円柱形のような形状だけど、こんなものも入ってるんだなあ。
普段ビル内の構造なんて意識したこともないので新鮮だ。
少し触ってみる。
かなり、脆くなっている。
..........点検とかしてないのかなあ。
そんなことを思いながら、ドライバーと己の拳で少しずつ部品を分解していく。
………よく分からないままやっていたが、通れるくらいの隙間はできた。
数時間はかかると覚悟していたから、こんなに上手くいくと思わなかった。
にしてもこれってこの状態でも大丈夫なのかなあ。
ダクトというのは新鮮な空気を絶えず送るという機能を注目されがちだが、それだけではない。
前世の日本で起きた火災事件に千日デパート火災という火災事件がある。
この火災の原因には未だに様々な説があり、確定してないものの被害はデパート火災における歴代最悪の数字を叩き出している。
これにはデパートの設計の構造的問題や従業員間での連絡体制、指示命令系統においての構造的問題があったと言われているが、ダクトが特に被害の拡大の一因の1つになったと聞いたことがある。
煙.......黒い煙が特に危険なのだが、炎と一緒にダクトを通って各階のフロアに伝わっていき、結果として甚大な被害をもたらした。
ただ吸わなければいいという問題でもなくて、厄介なのは煙の高温さである。人間が触れるのも、ましてやその煙を通り抜けて他のエリアに進むことは容易ではない。
それが何カ所かのエリアに留まった場合、、一層濃密で有毒な煙に変化していくのだ。
炎より煙が危険というのは今では常識だろう。
視覚的にはそうではなくてもむしろ、視覚的に危険には見えない点が危険なのだろう。
この事件をキッカケに建物の安全管理、設備基準が高まったと聞いたことがある。
そんなことを思い出していた。
何かあったとしてもこのダクトを管理している業者の方が知ったことではないだろう。というかこれで責任問題になるのは、とばっちりすぎる。
私は先を急ぐ必要があるんだからそういうことにしておかないといけないし、気にするほどの余裕もないはずだ。
狭い空間に悪戦苦闘しながらなんとかかき分けて進んでいく。
……それにしても、今、ここはどこなんだろうか。
今になって不安が脳内を支配してきた。
すると、外部から小さくだが、声が聞こえてきた。
『……あぁ、本当に美しい瞳だよ……レイチェル』
『………ッ』
声が小さくて聞こえにくいが、ついにダニエル先生こと、マッドサイエンティストの登場というわけだ。
どういうことかというと、もっと早くしないといけないという意味だ。
嫌な匂いに辟易としながらもできるだけ音を立てないようにして更にしばらく進むと、感覚的だが、ここの辺り一帯の空気が変わって来たような感覚がした。
それからすぐにフイルターが見えた。
.......外を覗き込む。見えにくいがなんとか見えるくらいか。
そこにいたのは
探していたかぼちゃの少年だった。
探していた人物を見つけて心臓の鼓動が速くなる。
あぁ、いつもあの被り物はつけてるのか。
それはそうとしてよく目を凝らすと眠っている様子だ。
墓を背もたれにしている様子だから更に驚きだ。背中は痛まないのだろうか。
慎重にダクトを出る。といっても少女の身体をもってしてもかなり狭いのだから慎重にならないと出られない。
眠っている少年の後ろに近づく。
音で気づいた様子はない。
..........斧を振り下ろした。
一時的に意識を失わせるのが目的なので力は加減してある。
暫く様子を伺った。
血……は出てないようだが、痣は出来てしまっているようだ。
しかし私にはやることがあるのでそちらを優先する。
そして今に至る。
「あははは。逃げてばっかりだ。でもさぁ……。そんなんじゃ………僕の大事なお墓に傷が付いちゃう……………でしょッ!!!!!!」
振り下ろす斧、それを躱す私。
皮膚には汗がにじみ出ている。
もう少し待ってくれてても良かったのに………
良く見るとカボチャの被り物が少しズレているの分かった。
急いでいたのかもしれないけど、カボチャ、いつの間に被り直したんだろうか。大事にしているのだろうか。
そこそこ見つけにくい場所に隠しておいたはずなんだけどなあ…………