思ったよりも機敏に襲いかかってくる。
あまり長い時間こうしてると、まずいだろうな。この身体は再生能力はあるように感じるが、体力は特別なものを感じられない。
それでも僕の精神力(根性)である程度はどうにかできる。無理して身体を動かすということだ。
されどそれは永遠にはできないし、そもそもそんなつもりじゃない。その前にお陀仏になる。
ただ逃げているわけではない。
紙一重のところでエディの攻撃をかわし続ける。ザックとは比べ物にならない程の温さだ。おままごとに見える。向こうにとってこの攻撃もおままごとなのだろうか。
『すばっしこいんだね。しつこい女の子って僕嫌いなんだよっ!!!でも、これでとどめだ!』
斧を振り下ろすエディ。だけれどもう勝負はついているんだよ。
そしてここまできてくれた……
そのことに感謝の意を表明したいくらいだ。
事前にこの区画フロアにのみ高濃度の特殊なガスをまいておいた。
ボンベの替えがあって助かった。ただサイズに関しては少女がつけるには少々無理があるかもしれない。傍目から見ると、特定の性癖のある人が喜ぶ仕様かもしれない。だが、そうでもしなければバタンキューだ。
笑えない。
そんなわけで彼が罠にかかってくれたわけだが、正直これが賭けでなかったとは言い切れない。
目の前に見えるかぼちゃになんらかの細工がされていた時点で終わりだ。私はあのカボチャがただの正体を隠すための被り物なのかどうかついて何も知らないのだ。
この世界のエディについては知らないので何を用意してきても不思議ではない。
もちろん、この手が通じなければ終わりというわけでなく2の手、3の手はあったわけだが・・・・
ともかくまずはこの状況を、現実に起きたこととして理解することに努めよう。
こういうことをするのは初めてなので心臓がドクドクと鼓動しているのが聞こえてくる。
確実に眠っているようだ。
睡眠薬をエディの口に放り込む。実家から持ってきたものだ。残りの数が心配だが、大丈夫だろうか。
目を開かせて眼球の様子を確認する。
よし、気絶したのは間違いない。
これで終わりではない。
まずこのガスをどうにかしないといけない。レイチェル達がこれで意識を失うなんてことがあれば、もはやただのギャグアニメになってしまう。ギャグ要素もアニメ本編であったのはそうだが、そういう問題ではない。
すると、
トランシーバー?のような機械が何やら音を発している。なんだろう。手に取って耳に当てる。
「エディっ!!! どうしたんだい?」
あぁ、ダニーみたいだな。とりあえず返事か。
「ごめんね、墓の手入れをしていたら転んじゃってさあ。にしてもすごく美しいんだよ、最近の墓ってさあ・・・良かったら君も来るかい?」
適当に返しておいたが、それよりも後始末が先決だ。まずは空気清浄機のようなものが近くにあったのでそれを使う。かなりきれいに管理してたのかな。にしてはあまり手入れもされていないような乱雑な墓もあるようだが。
これだけでいいようにも思えるが流石にそういうわけにはいかない。排気口をたどった先がどこのフロアに通じているか分からない。私や彼らが空気を必要としない新人類ならよかったのに。
なので簡易的な空気タンクを使う。ビル近くには置いておいたが、誰かに持ち出されないかは心配だったのだ。
火気厳禁とは書いておいたが日本ならともかくアメリカだからそれもただの気休めに過ぎないと不安視していた。
『はぁ………とある少女が来るからね、君のほうでもおもてなしをしてほしいんだ、かなり期待してくれて良いよ。……レイチェルと言うんだけどね』
何がおもてなしだ。
内心は鼻で笑いそうになる。
というかこんなに喋りかけてくるのか。随分と馴れ馴れしいな。もっと仲間としてエディへの敬意みたいなものがあるのも知りたかったんだけどな。
『うん、任せてよ、君がどうするか次第だけど、僕の方からも楽しみにしてるさ。』
通信が切れたのを確認する。
トランシーバーもどきを斧でぶち破る。これこそおままごとの道具だろう。
シューっシューっと音がなっているのを背もたれのあるチェア、ストールというんだったか、それに座りながら聞く。
それにしても変声機械が今のところ上手く役に立っているみたいで有り難い。チョーカーみたいな外観だから首元が気になるのが難点だから不快なのはそこだけだ。そういえばレイチェルも同じようなものをつけいたっけ。
僕には分からないが私もそういうのは興味があったりするのかもしれない。
最悪、このチョーカーもどきがなかったとしたらこの身体のポテンシャルを信じることになっぢろつ。転生チートになるかは微妙だが、私の身体は色々と声が出しやすい。よく聞けば、ん、少女の声じゃないかと分かるもののエディの中性的なそれも合ってかなりやりやすいだろう。
さて、少しのんびりしながら監視カメラの方の確認と装備の方についても少し点検をしておこう。
にしても、部屋を見回してみて感じる。
この部屋、汚すぎる。いわゆる汚部屋というわけではないのだ。
今世では如何に日本という国が清潔に公共のアレコレを利用してきていたのかというのがよく分かる。日本の全ての公共空間において清潔だと言うわけではない。都会では一見綺麗に見える部分があっても、汚いところはかなり散乱していた。田舎は概ねきれいだった。
現在、我が母国となったアメリカは前世と比べるとあまり気持ちのいいものではなかった。ゴミが頻繁にそこらによく落ちているというのがまず精神的にくるものがあった。
アメリカだから日本だからという二元論や日本とそれ以外の国という対立関係の話ではなくて、これが世界的には標準なんだと思う。
もしかしたら今頃の日本ではあの頃ほど、綺麗な道路ではなく、悪化しているのかもしれないから何とも言えないが。
前世よりも一層、清潔さに目が届くようになったのにはそうした理由があるのだろうか。
今、眼前に見えるのは、人間の血なのかとかそういうたぐいの汚さだ。
どっちの種類の汚さであろうと、彼らと比べると普通の人間である私にとっては耐え難い。
再びガスマスクをしつつ消毒という掃除に取り掛かる。
ちなみにかぼちゃの被り物を小物入れに入れて、腕にかけてる状態だ。
少し、疲れてきたな………
辺りの墓を見渡す。かなりの数だ。こんなものの世話をするとは他人事ながら信じられない。
それにしても、ただ、墓と言ってもいろんな種類があるんだな。本編ではどうだったか覚えてないけどその分色んな名前が目に付く。
今世での知り合いの名前が掘ってあったら面白いのに……なんて一瞬どうしようもなく不謹慎なことを考えてしまったが、流石にそれは死者への冒涜でしかない。
自制して頭の隅に押し込む。
確かここの辺りには………見つけた。
アニメではエレベーターから出て近い位置にあった気がするが、そうでもなかった。
レイチェルとザックの墓だ。丁寧に彫られているようだ。
ただその後ろの方に別の墓があった。なぜだか、その墓が気になって、覗き込んで名前を確認してみた。
『アンジェ・リムヌス・ラクリマ』
ぇ............
なんで自分の名前があるんだ………???
確かにそう書いてある。しかもミドルネームまで、丁寧な仕事だな……。
いやいや、必ずしも来ることがバレているというわけもないか。
レイチェルやザックとは以前から接点があった。それならば、僅かな可能性で私の墓が用意されているのもありうる。
少し無理があるが、そういうことにしておこう。自分の事ながら、それにしても覚えにくい名前だ。あまり今世の自身の名前にも興味はないが、これは覚えにくい。
おおよその掃除を終えて戻ってきた。
かなり疲労が溜まってきている。
ずっと動き続けたせいか、まともに眠れていなかったのも相まって、視界がぼやけてきた。
『.............あぁ、だからよォ………………』
『.................うん。………………そうだね。』
ん......声が聞こえる。
誰だろうか。
瞼が開かなくなってきた。限界に近いのかな。
こっちは眠くて仕方ないんだけど
……勘弁してほしい。