「先生、いらっしゃいますか?」
とあるシャーレの昼下がり、部屋をノックする音が聞こえる。
今日は珍しく特に当番も取らず、ユウカが乱入したり便利屋達が騒がしに来たりせず、ゆったりと仕事をしていた。
「今出るから、少し待ってろ」
扉を開けると、手提げ袋を持ったミモリがそこに立っていた。
あの百鬼夜行の祭り以来の再会だ。
「ミモリか、珍しいな。何の用だ?」
「お久しぶりです、先生。その実は……」
休憩室へと案内しながら、ミモリの話を聞く。
「はぁ、まぁつまりはだ。俺のことが心配で押しかけてきたと」
以前に、こいつの読心術……今思えば、神秘を用いたそれで、俺の心を読まれたことがある。
心って言われりゃ、あんまピンと来ねぇが……
「あのような凄惨な根を持つ先生ですから、自生活は大丈夫かと……」
「そういう所を心配されるのは新鮮だな……なんでそんなことに首を突っ込むんだ?」
俺の純粋な疑問に対して、ミモリは少し照れくさそうに目を逸らしながら、話し始める。
「それは、私が大和撫子を目指す修行部の1人だからです」
「大和撫子か……その修行の一環ってやつか?」
男を立てる女っていう側面よりかは気品のある清楚な女って側面の方だろうな?
まぁ、芯のある淑女ってのは、俺の好みでもある。
不二子みてぇな裏切りばっかする女よりかはうんとマシだ。
「はい、それもありますが、先生はかなりストレスを抱え込んでそうでしたので……少し実力行使をしに……」
今風向きが変わらなかったか?
席に着いていた俺に対して、いつの間にか背後に回っていたミモリが、そっと俺の肩に触れる。
「……んっ、ふっ……やはり、思っていた通り相当凝っていますね……如何でしょうか?肩気持ちいいですか?」
「っ……あぁ、まぁ気持ちいいが……俺ァあんまり尽くされるのは好きじゃねぇんだが……」
耳元で甘く囁かれながら、ミモリが俺の肩を揉み込む。
大和撫子ってのはこういうこともするものなのか?
俺はその辺にはあんま詳しくねぇからな。
「ふむ……この感じ、先生……さては寝ていませんね」
「肩を揉むだけで分かるものなのか?ミモリ先生」
「先生だなんてお止め下さい。ただきちんとした姿で寝ていないと体が教えてくれているだけですよ」
読心術の使い手ってのは知っていたが、それを加味してもなお、それ以上に観察眼ってやつに優れているな。
バラバラの情報を纏めるのが上手いと言うべきか……
「なにか眠れないことでも?」
「寝てはいる」
「……となると緊張によるストレス……睡眠の質の低下ですかね」
思い当たる節はある。
前に一度、俺は寝てる時に反射でムツキを撃ちかけちまったことがある。
傭兵の頃の感覚が戻っているってのもあるかもしれねぇが……
「寝ず食わず過ごすのは、よくある事だ。仕事柄な」
「過去のお仕事ですね……それが原因だとするなら……」
フワリと甘い風が頬を撫でる。
優しく俺は背後から腕を回され……ミモリに抱きつかれる。
「何のつもりだ、ミモリ」
「オキシトシンハグです。ハグをするとオキシトシンが分泌されて落ち着くのだとか」
脳のその辺の話は知らねぇが……これで落ち着くとは思えねぇな。
特に、ハルカ辺りに見られちまったらロクなことにならなさそうだが……
「ミモリ、その辺にしといてくれ」
「もう充分ですか?……分かりました、少しは元気が出ましたかね?」
ハグを辞めたミモリが、離れて俺の正面に座る。
「少しは癒されましたでしょうか?」
「まぁ、少しはな」
「ふふっ、それは良かったです……もし寝付けなくなったら、私が寝かしつけに添い寝しても宜しいのですよ?」
「そいつは遠慮しておく」
ふふっと、俺に微笑むミモリの修行はまだ始まったばかり。
もう暫くは俺もこいつに巻き込まれそうだなと、そう思う昼下がりだった。
チョーク4さんリクエストありがとうございます!
これ、大和撫子ってよりかは良妻賢母なのでは……?
ボブは訝しんだ。
珍しくジメジメしてない生徒との絡みをかけて新鮮でしたな。
時系列的にはムツキとの絆スト終わった近辺を想定してますな