「……なぁ、遅くねぇか?」
「そうね……どうしたのかしら、ハルカ」
今日は珍しく全員それぞれ別の仕事を依頼されて、夜に集まってみんなで祝勝会でもしようと言う話になっていた。
だが、予定の時間になってもハルカだけ来ない。
依頼によっちゃ急な邪魔が入ったりして、時間が延びるってことは良くあるが……
文を読む限り、ハルカが苦戦するような内容にも見えない。
簡単な暴徒の殲滅。
ハルカの耐久力と戦闘能力を鑑みれば……てっきり一番乗りだと思ってたんだがな。
「心配ね……」
「場所は……D地区か。俺が迎えに行ってくる。アル達は先に店に行って事情を話しておいてくれねぇか?」
「分かったわ、頼むわね」
アルが心配する気持ちも分かるが……車を運転出来るのは俺とハルカぐらいだからな。
俺が迎えに行く方が色々手っ取り早いってもんだろう。
そのことを理解してくれたアルは、ムツキとカヨコを連れて店へと向かう。
ったく、時間に遅刻するようなタイプじゃねぇと思ってたんだがな。
何処で道草を食ってやがるのか……
俺は車に乗り込んで、ハルカの受けた依頼の場所へと向かう。
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全身に痛みが回る。
もう空も暗い……時間を確認しようにもスマホは壊されてしまい、時計もないので、傷の開く体を動かして、目的地へと歩き続ける。
車の停車音が聞こえる。
片方の瞼が腫れあがってしまっているせいで、視界が朦朧としている。
誰かがこっちに走って来る……黒いスーツと帽子……
「せ、先生……時間に遅れてしまい、申し訳ございません……伊草ハルカ、ただいま戻りました」
「ハルカ、その傷……」
先生が珍しい声色をしている。
私なんかを心配してくださっているのですか?
私にそんな価値はないのに……もっとしっかり喋らなきゃ……安心していただかないと……
「ふへ、えへへ……その、想定よりも、敵の数が多くて……その手こずってしまいましたが……」
先生にみっともない姿は見せたくない。
笑顔で、笑顔に見える顔で。
「でも、依頼通りキチンと全て殲滅してきました……フヒ……そ、それに報酬も少し多くもらったんですよ」
先生に懐に入った札束を見せる。
あ、ちょっとだけ血が着いちゃってる。
「ご、ごめんなさい、みんなのお金に私の汚い血が……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ……先生!?」
私が何度も謝っていると、先生は黙って私の事を抱きしめる。
な、なんで?
私の汚い血が、先生の服に……!
「大丈夫ですからっ、先生のスーツが私の汚い血で汚れちゃいますから!駄目です!」
それでも、先生は離れてくれない。
それどころか、先生は抱きしめながら、私の頭をそっと撫でてくれる。
「……うぅ……」
何故か、私の目に熱いものが込み上げてくる。
ギュッと、先生の服を掴む。
「先生……私、頑張りました」
「あぁ……よくやってきたな」
「私偉いですか……?」
「偉いぞ」
ギュッと先生を抱きしめる力が強くなってしまう。
先生の服に皺が出来てしまうのに……こんなこと私がしていいはずがないのに……
カツンと、道の端の方で音がする。
誰かに見られていた?
私の泣き顔なんて価値がないのですから、問題はないのですが……
それでも心の何処かにモヤモヤしたものが込み上げる。
何故そんなことを思ってしまったのか、考えていると、聞き馴染みのある大好きな方の声が聞こえる。
「アルちゃん……バレてるよ」
「しーっ、邪魔したら悪いじゃない……!」
「あの、アル様……?」
明らかにその曲がり角の先に誰かの気配を感じる。
しばらく待っていると、声の聞こえたアル様にムツキ室長だけでなく、カヨコ課長まで……
待っていると三人も私のことを抱きしめてくる。
「み、皆さん!?その、お洋服が……!! そ、それにお店は……」
「キャンセルしてきたわ。大切な社員が怪我してるのに、私達だけで食べれるわけないじゃない」
「そーそー、うちの末っ子が頑張ってきたんだしさっ。家に帰って、手当てしてー、先生の美味しいご飯食べよっ」
「先生もそれで問題ないよね」
「あぁ……ふっ、先に車に向かってる。エンジンかかるのに、時間がかかるから少し待ってろ」
そういって先生は行ってしまう。
まるで、舞台から掃けていく役者のように。
「くふふ、先生ってばお見通しなんだね」
「えっと……?」
「先生は、社長が先生に嫉妬してるのを分かって、時間を取ってくれたの」
「カヨコ!?分かってても言わないで!!」
え、アル様が先生に……?
な、何で……?
頭の中が疑問で埋め尽くされる。
「その、あれよ……ハルカ。貴女の社長は私よ? 貴女が、最初に我儘を言うのが私じゃなくて先生だったのが、少し悔しいだけよ」
「そ、そんな!私がアル様に要求だなんて──「良いに決まってるじゃない」」
「ハルカ、貴女の頼れる社長で居たいのよ……私じゃ力不足かしら」
アル様が、本気で悲しむ目をしている……
私なんかの為に……
少しだけ生まれる身分不相応な優越感。
私も、少しは……愛されていいのでしょうか……我儘を言ってもいいのでしょうか……
「そんなことはありません、アル様の背中を追って、皆さんと一緒にいて後悔したことは、一度もないです……その、だから……あの……わ、私は皆さんの為に、頑張りました……ので……え、偉いでしょうか……?」
「偉いに決まってるわ。貴女は私たちの誇りよ」
アル様が私の頭を優しく撫でて、皆さんが私のことを再度抱きしめてくれる。
先生の時には耐えていたはずの涙が零れ落ちる。
痛くて辛かったことも、全部吐き出してしまう。
それを受け止めて、抱きしめてくれる温かさに……
夜空の星が見える街に私の情けない泣き声が響く。
ハルカはもっと我儘になっていいし、自分を認めていいと思うんですよね
元々、アルちゃん達をラスト出すつもりなかったんですけど、勝手に動きましたね……
まぁ、蛇足ではないことを祈りましょう。
こっちが本当の蛇足なんですが、水着ミカナギドヒナ全員出ましたね。
書いたら出る教に入信します。アロナぁ……調子いいじゃねぇか……