新任教師『次元大介』短編集   作:レイゴン

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#EX20 ティーパーティーと見る!カリオストロの城 の前日譚となります


チェックとチェックメイト

軽い木と木が打ち合う音が、シャーレの休憩室に静かに響く。

 

明らかに腕よりも長ぇ袖の中にある手に摘まれた白い兵が、前に出される。

 

チェス。

 

向こうじゃ、時折ルパンと暇つぶしをしたり……時には謎解きに使われて、時には命懸けのゲームの正体になったりと何かと縁のあるゲームだ。

 

俺の目の前にいる少女。

 

百合園セイアによって指された一手は、d4。

チェスの中でも苛烈なゲームになりやすいオープニングだ。

 

「さて、先生。せっかくだ、何か賭けないかい?」

 

「おいおい、お嬢様が賭け事に興じるたぁ。世も末だな」

 

頭を掻きながら俺は、d5にポーンを置く。

 

「そう釣れないことを言わないでおくれよ、金銭は賭けないさ」

 

セイアは、c4にポーンを置きながら、俺へウィンクを飛ばす。

 

「ったく、いいぜ。お嬢様のワガママにつきやってやるよ」

 

E5にポーンを置き、俺はセイアを見つめる。

俺の言葉を聞いたセイアは楽しそうに笑い、チェス盤を見つめる。

 

やれやれ、神秘の暴走が無くなったせいか、前に比べて随分と活発的になったもんだ。

それともこれがセイアの素なのか?

 

「では、そうだな。話に聞くと先生は料理が上手だというじゃないか」

 

セイアはd4のポーンを掴み、e5のポーンを倒し、チェステーブルの引き出しにポーンを仕舞う。

 

「便利屋にでも聞いたか? あいつらの飯は俺が作ってるが……」

 

俺は、そのままd4にポーンを進める。

 

「ふふっ、さてどうだろうね? それでだ。時間的にも丁度いい、どうだい?」

 

セイアは、ナイトをf3へと進め、俺の顔を見つめる。

嫌な手を取ってきやがる。

 

「それで、俺はお前さんに飯を振舞う。お前さんは俺に何を差し出すつもりだ?」

 

ナイトをc6に進めて、俺はセイアを見つめ返す。

俺の視線を感じたセイアは、吐息と笑みを漏らし、a3へポーンを突きたてながら、宣言する。

 

「では、『私の全て』で如何かな?」

 

ビショップをg4へ渡し、俺は一言かける。

 

「言ったな?」

 

「ふふ、女に二言はないさ」

 

尤も、要るか要らないかで言えば、要らねぇが……

あのセイアがそんなセリフを吐いたんだ。こっちも乗ってやらなきゃ失礼ってもんだろ?

 

そこから互いに、黙々とチェスの駒を動かしていく。

 

Nbd2。 Qe7。

 

b4。 0-0-0。

 

Qa4。 Kb8。

 

駒の動く速度は、徐々に上がっていき、小気味いい音にリズムが生まれる。

 

b5。 Nxe5。

 

Nxe5。  Qxe5。

 

Bb2。

 

俺の手がふと止まる。

 

「チッ……」

 

「どうしたんだい、先生?」

 

セイアはニヤケ面を俺へ見せながら、トントンとボードを指で叩く。

今、確実に追い込まれつつある状況に俺の手は止まっている。

 

こいつ中々やるな。

 

伊達に自分を全ベットなんて酔狂なことを言うだけはある。

 

ナイトをf6へと移動する。

 

Nb3。 Qe4。

 

Rd1。  d3。

 

f3。  Qe3。

 

俺の攻め手が、尽く防御される。

 

Bd4。 Rxd4。

 

Nxd4。 dxe2。

 

Nc6。

 

「チェックだ、先生」

 

不味いな、完全にあいつのペースに飲まれちまってる……

 

b8にあるキングでc6のナイトを取る。

その瞬間、セイアは初めて歯を見せて笑った。

 

Rd8。

 

「さぁ、再びチェックだよ」

 

キングをb7へ移動する。

 

セイアの手が、クイーンを持ち上げ、a6へと置かれる。

 

「チェック……メイト。私の勝ちだ、先生」

 

「やられちまったな、仕方ねぇ……少し待ってろ」

 

俺は席を立ち、エプロンを身に着けて昼飯の準備を始める。

 

その後ろをセイアがついて、テーブルに座ると調理を始めた俺の背中を眺めている。

 

「ふふっ、先生。途中、本気になっていただろう? そんなに欲しかったのかい?私のことが」

 

「けっ、マセるんじゃねぇよ。お遊びでも賭けんのなら本気で相手してやるべきだろう」

 

「確かに、違いないね……それで?献立は何かな?」

 

いつの間にかテーブルをセットしている彼女は、大層俺の飯が楽しみらしい……

お嬢様の口に合うか分からねぇが……冷蔵庫の中にあるものを使って、サッとパスタを作る。

肉だねを前に仕込んでおいたお陰で時間も取らず、いつぞや作ったミートボールのパスタを、俺はセイアの皿に盛りつけて差し出す。

 

「ほほう、これが先生の……では頂くとしようか」

 

セイアは、右手にナイフ、左手にフォークを掴んでお嬢様らしからぬ姿で待機しており、皿が目の前に置かれると、会釈をして食事を始めた。

 

楽しそうで何よりだが……

 

「美味いだろ」

 

「あぁ、本気で挑んだ甲斐があったものだ」

 

セイアは満面の笑みで俺に返事を返す。

 

こいつやっぱり自分を追い込むために、自分を賭けたな?

 

セイアの度胸に驚かされながらも、俺は口に肉団子を放り込む。

 

いつもよりも甘い気がしたが……俺の気のせいだろう。

 

 




身内の創作者さんが、チェスをしてるシーンを出してたので影響されましたな。

前にもチェスをしてるシーンを書いたのですが……今回のはお手元のチェスボードで再現可能なものとなっています。

彼らの見ていた景色をぜひ追体験してもらえると嬉しいですな

卑しフォックスですまない
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