新任教師『次元大介』短編集   作:レイゴン

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紫煙を燻らせて

肺に熱い煙が入り込む。

 

「……ふーっ……」

 

焦げた匂いとタールの匂い……そして、ニコチンによる鎮静。

煙草とも随分と長い付き合いだ。

 

キヴォトスに来てからは、随分と吸う量が減っちまったもんだ。

まぁガキ共にこんな煙なんざ吸わせちまったら、何時ぞやの相棒みてぇに手痛ぇビンタを食らっちまうのがオチってもんだ。

 

シャーレの室内は吸ってもいいんだが、便利屋共が出入りするようになってからは、こうやってわざわざ屋上に来て吸うようにしている。

 

「はぁあ、めんどくせぇなぁ」

 

あんま吸いすぎるとユウカにも怒られちまうってのによ……

俺はそうボヤきながら頭の後ろを掻きながら、吸殻を灰皿に押し付ける。

始業までまだ時間があるし、もう一本吸うかと煙草を取り出そうとして気付く。

 

「チッ、俺としたことがミスったな」

 

箱の中には1本も入ってなかった。

ソフトパックのそれを握り締めた俺は、箱を屋上の入口にあるゴミ箱に投げ捨て、そして思い出す。

確か俺の記憶が正しかったら、まだ一箱置いてあった記憶がある。

 

記憶の中の煙草に期待して俺は、執務室へと戻っていく。

 

 

──────

 

────────────

 

────────────────────

 

鼻歌混じりに私は、シャーレの執務室のドアを開ける。

 

「先生!聞いてちょうだい!下の自販機のおみくじが当たった、の……よ?あら?先生」

 

今日は、久しぶりの私の当番の日だからか、浮き足立って執務室に入ると先生の姿がない。

朝ごはんの時にはいたから、始まるまでの間煙草でも吸いに行ったのかしら?

 

「……あら、これは……」

 

私の目に留まったのは先生がいつも吸っている煙草。

新品の証であるフィルムで包まれたそれは、私にとってハードボイルドそのもの。

普段は先生が居て、絶対に触らせてくれないそんな代物だけど、今は誰も邪魔する人はいない。

 

こっそり一本くらい盗っても怒られないわよね……

当然私の年齢じゃ吸うことはおろか買うことすら出来ないそんな代物。

 

周りに誰もいないことを見回して確認してから、私は煙草を手に取り、そしてフィルムを剥がして蓋を開ける。

 

蓋を開けると煙草がミッチリと敷き詰められていて、中々取り出せない。

 

「あ、あれ?これどうやって取るのかしら?」

 

振ってみたり、摘もうとして何度も失敗する。

こういう時の私の鈍臭い所、我ながら嫌になるわ。

そうして、しばし奮闘していると後ろから手が伸びてくる。

 

「煙草ってのは、最初はこうやって叩いて取り出すもんなんだ」

 

「えぇ、分かったわ、ありがとう……って、あ、あ、せ、先生!?」

 

慣れた手つきで、煙草を取り出した先生は、私の手から煙草の箱を奪い、そのまま胸ポケットに仕舞ってしまう。

 

「何やってんだ、アル。その綺麗な肺を汚したいのか?」

 

「先生……その、私だってアウトローなのよ、なのに煙草一本すら吸えないなんて笑い種よ」

 

振り返ると少し怒っているような雰囲気を纏った先生が立っていた。

私も一端のアウトローで、先生と比類する悪党なんだから、せめて形くらいは貴方の横に並びたいの。

 

「だとしてもダメだ。体壊しちまうぞ?」

 

「それを言ったら先生だってそうじゃないの」

 

「俺にとっちゃ生命線なんだよ」

 

私のおでこにトンとデコピンをした先生は、笑う。

この笑顔で何度も許してしまっていたが今回はそうは行かない。

私にもプライドってものがあるの。

 

「先生、今回は譲らないわよ」

 

「珍しいなアル。遅めの反抗期か?」

 

「朝の運動に付き合ってもらうだけよ」

 

先生に向かって走り出す。

先生が懐に煙草をしまい込んだのは見えた。

だからそれを掠めとれたら私の勝ち。

 

先生にとっての勝ちはこのまま部屋から出たらかしらね?

 

まずは素直に先生の懐に飛び込んで腕を伸ばす。

うっすらと残像を伴いながら、先生は身を捩って回避し、後ろへステップを踏む。

 

私の髪をなびく風から先生の位置を予測、キュッと音を鳴らしながらターンを決めて再度先生の方へ。

 

分かっていることだけども、力以外じゃ先生にはまだ届かないのね私は。

 

何度腕を振るってもかすりもしない。

それに先生はずっとポケットに手を入れて楽々避ける。

 

「ラジオ体操にしちゃ随分と汗かいてるじゃねぇか、それくらいでいいだろ?」

 

「ふふっ……そうね」

 

私ったらムキになって……クールのくの字もないわね……

でもいいわ、先生の癖は分かったわ。

 

一息ついて、滑り込むように先生の懐へ。

先生は直線での動きに対しての反射神経は、本当に凄い……弾だって避けてしまうのは今までの銃撃戦で培った予測の力なのかしら?

 

だから、使うべき攻撃は曲線。

先生に抱きつくように左右から腕を回り込ませる。

 

「っ!」

 

「盗った!」

 

先生の懐に潜り込ませた手に当たる確かな感触。

咄嗟にそれを抜き取って握り締める。

そのまま先生の背後まで走り抜ける。

 

「ふふっ、先生今回は私の勝ちのようねっ!……ってあれ?」

 

振り返るとそこに先生は居らず、嫌な予感と共に握り締めた手を開くとそこには、『ごくろうさん』の文字と帽子をかぶったニヤニヤ笑顔のドクロマークが書かれている紙が張り付いているココアシガレットがある。

 

「…………先生の馬鹿ぁ!!!!」

 




昔リクエストいただいたシチュを書き出したものです
便利屋の絆ストはタイトルに共通の要素があるのでこれはアルちゃんの絆ストではないのです、ち、違いますからね!

最後に出てきた先生版ごくろうさんマーク

【挿絵表示】
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