「先生!ちょっとお時間貰います!」
その言葉と共に、ドアを勢いよく開いて、ユウカが中に入って来る。
この光景も随分と見慣れたものだ。
「先生!またお酒飲んだでしょう!」
「あぁ!?別にいいだろうが!」
確かに時折ユウカから禁酒を言い渡される時はあるが、それでも致し方ない時ってのはあるもんだ。
ただ、ひとつ疑問を覚える。
「真っ先に開き直るとは……むむ、どう責めたものでしょうか」
「……なぁ、ユウカ、そもそもだ。なんで俺が酒を飲んだことを、知ってるんだ?」
顎に指を当てて考え込んでいたユウカが、ピシリと固まり、見る見るうちに顔が赤くなっていく。
嫌な予感がする。
「さてと……」
俺は立ち上がり、ドアの鍵を閉める。
仕事が増えちまったが、仕方ねぇ。
「ユウカ……てめぇどこに仕掛けやがった」
ドジをしたこのバカを締めなきゃな。
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最初は小さな嫉妬からだった。
『主殿〜!イズナ、一つ覚えた事があるんです〜!』
先生を盗さ……コホン。
先生の管理のため……そう、先生のだらしない生活感を管理するために仕掛けたものだった。
エンジニア部に頼んで、決して妨害されないようにしてもらった特注品。
決して安くは無い買い物だったけど、でも値段以上のものが手に入った。
『ほう?見せてくれよ』
『ふっふっふ、とくとご覧になってそして驚いてください!』
あの元気な子は、確か……百鬼夜行のイズナちゃんだったかしら。
何度か話すことはあったけど、元気で人懐っこいいい子だったわね。
先生に絡んで何をする気なのかしら……?
『忍法 分身の術!そしてそして……ドロン!変化の術!……ささっ!主殿お酌致します!』
イズナちゃんがもう一人増えたかと思えば、そのイズナちゃんが小さなおちょこと酒瓶に変化する。
『……ユウカには悪ぃが……相伴に与るとするかね』
「いいなぁ……」
ふと私の口から零れた嫉妬の言葉。
誰に対して?
そんなの言わずもがな……イズナちゃんに対してだ。
私にはあんな風にグイグイ行けるほどの勇気は無い。
映像で見る先生は、楽しそうにイズナちゃんとお酒を飲んでいる。
私の心の中にモヤモヤとした曇り空が溢れていく。
イズナちゃんに恨みがある訳では無い。
ただただ、羨ましいのだ。
私だって先生にお酌したいし、先生がお酒を飲んでいる姿を見守りたい。
でも、それと同じくらい先生には長生きして欲しいから。
だから、つい厳しいことを言ってしまう。
私には、セミナーの会計としての矜恃がある。
それが今はこんなにも邪魔に感じてしまう。
「先生……」
画面の中の先生に手を触れる。
あぁ、浅ましくも弱い私。
何処で私はこうなってしまったのだろうか。
……きっと、最初に先生にあったあの日からなのかもしれない。
先生に抱きとめられたあの瞬間から、早瀬ユウカという女が生まれたのかもしれない。
「…………」
明日は私の当番の日。
先生は、私の事を見てくれるかしら……
そうだ、先生が私のことしか見れないように……
ふふっ、これならきっと上手くいくはず。
ドアの鍵が閉められ、先生が私のことを見下ろす。
「ユウカ……てめぇどこに仕掛けやがった」
あぁ、先生が私を見てくれている。
「ユウカ? お前さんなんで笑ってるんだ?」
「ふふっ、いえ、何でもないですよ。あのそれよりも……」
やっぱり、先生は私を見てくれた。
計算通り、完璧〜☆
アロナ、なんでお前さん教えてくれなかったんだよ。
発信元が、先生のお気に入りの生徒さんだったので、大丈夫かなって