私のゴーレムアカデミア   作:筋子とふきのとう味噌

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沢山の方に早速読んでいただけているッ!?


校風に惹かれました

あの日から、お母さんは生まれ変わった。

 

いや、死んで蘇ってゾンビになったわけでない。

 

ではない、が……。

 

 

土命(つちみ)ー!起きなさーい!」

 

 

まず最初の変化は呼び名が「あんた」から「土命」、つまり名前で呼んでくれるようになった。

 

初めは誰に話かけているのか分からず、幾度となく無視してしまった。

 

そして、無視した事に気付いて叱られると震えに震えた私だが、もう一つ重大な変化を目の当たりにした。

 

 

「はーい…、二度寝だめかな。お母さん…?」

 

 

手が震える。

 

鼓動も早くなる。

 

お母さんの顔を直視出来ない。

 

きっと、怒るはず、カンカンに、それも火山の如く、厄災の如く。

 

 

「もう…しょうがないわね。後で車で送ってくから30分だけ寝てなさい」

 

 

そう、まさか、そのまさかである。

 

正直に言えば気持ち悪くて反吐が出て来そうな理想的な早朝風景。

 

それが現実に起こって、目の前に今尚映っている。

 

とても怖かった。

 

そして今も私は怖い。

 

なんで急変したのか、その真相を解明するべくジャングルの奥深くに行く度胸が私にあれば、話はもっと簡単だったのかもしれない。

 

 

 

まあ、兎も角、家庭は一般的なものに早変わりした。

 

お父さんも驚いて腰をやっていた。

 

折ったゴルフクラブの謝罪に頭を下げて、これからは自分も働きに出るなんてお母さんに言われた時のお父さんの顔は、真っ青に恐怖で染まっていた程だ。

 

気持ちが痛い程分かる私も何とか状況を説明して、お父さんもドギマギしながらも受け入れてくれた。

 

 

「信じられない…、悪魔が自分から羽を毟るなんて」

 

 

流石にそれは言い過ぎな気がしたが、過去を振り返れば「悪魔」と呼ぶのは的確だ。

 

でも、もう今のお母さんは悪魔ではない。

 

家事もパートもこなして、暴力も罵声も鳴りを収めた。

 

それに、お母さんはよく笑うようになった。

 

不信感が紛いきれなかったお父さんも、次第にお母さんと一緒に笑うようになっていた。

 

悪しき家庭が消え去り、善き平穏なる日常がこの後も末長く続く——あ〜めでたしめでたしぃ〜…て、なれば良かったんですけどね。

 

 

「ゴーレム? すごいな…俺達の“個性”と違うって事は、覚醒遺伝みたいなものか。そんな凄い“個性”なんだ。土命の将来が今から楽しみだな!」

 

 

親バカが発動したのである。

 

元々穏やかで争い方から逃げる性質を持つお父さんは、お母さんから逃げるように家にいる時間を極力減らしていた。

 

浮気に手を染めなかったのは有難い限りだが、止めてくれるのを期待していなかった訳ではないから、私の心境は少々複雑だ。

 

そんな事もあり、離れていた分の時間を取り戻すかのように親の役割を全うしようと奮闘中なのである。

 

そして、お父さんが絶賛名一杯褒めて撫でて称えてくれるのが、私に発現した“個性”だった。

 

 

私——人形土命(ひとかたつちみ)の“個性”は『ゴーレムマスター』。

 

自分でも思うが多分同年代で1番名前の響きが格好良いと自負している。

 

この“個性”は名前のまんま、ゴーレムを作るっていう代物。

 

そしてゴーレムの大きさは手のひらに収まるくらいのミニマムサイズ。

 

形状は特訓の末、マネキンぐらいに人間の形に近づける事ができた。

 

 

 

…ふふっ、そうとも、この個性。

 

 

「だいぶしょぼーい!!」

 

 

しょっぱいよ、痒い所に全然手が届かないよ。

 

ゴーレムって呼んで良いのかも怪しいのを操って、それで「私はゴーレムマスターです。よろしくです」なんて言えるかーっ。

 

 

それでもお父さんやお母さん、あとついでにおじいちゃんとおばあちゃんも、皆んな私に期待してくれている。

 

まぁ半分以上はお父さんの熱気に当てられてその気になってるだけですけど。

 

それでも、私は褒められて悪い気はしない。

 

褒められて竹を追い越す勢いで成長する女、それが私なのだ。

 

その期待が大きければ、大きく応えて見せるが世の情け。

 

流石に世界を救うなんて大それた事はできないが、人を救えるなら救っても良いかな、と思った。

 

 

「あなた達もそう思いますよね」

 

 

そして、()()が私の意思を尊重してくれたのが何よりも大きい。

 

彼らがその道を進もうとする私を様々な場面で助けてくれた。

 

彼らは力や物事を考える思考力は私より劣っていても、その分私ができないことを手伝ってくれた。

 

例えお母さんとお父さんの期待が無くとも、彼らが期待するのなら私はこの道を進もうと思う。

 

それほどまでに私にとって彼らの存在が何よりも大きいのだ。

 

 

そして、————時間はあっという間に経った。

 

私も中学の卒業を間近とし、もちろん迎えたのは受験だ。

 

人を救える職を探してみたが、やはりここに落ち着くのだ。

 

そういう時代だからしょうがない。

 

誰が悪いかとしいて言うなら、それは平和の象徴(オールマイト)しか居ないだろう。

 

 

「ここかー。…デカいですね門」

 

 

お母さんに送って貰ったお陰で眠気はない。

 

渋滞するだろうからと今日は皆んな早起きして、皆んな早く家を出た。

 

だからだろう、受験会場にはあまり私以外の人影が見当たらない。

 

というか居ない…?

 

 

(まっまま間違えたっ? いやでもこんな奇抜な校門全国探しても此処(雄英)ぐらいなはずだし…!)

 

 

早く来過ぎただけであってくれ。

 

そう、あらゆる宗派の神様仏様にお祈り奉りながら、私は試験会場である雄英に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

「——あのぉ。つかぬことをお聞きしたいのですが…」

「ん? 何かな」

 

 

第一村人ならぬ、第一学校関係者さんを発見です。

 

しばらく敷地内をウロウロしていたら、大人の人がちょうど通りがかって来た。

 

金髪で細身、顔は肉付きが悪いのか骸骨を私の脳裏に思わせた。

 

チャンスを逃さず話しかけて見るが、どうやらちゃんとここが試験会場で合っていたようだ。

 

それにしてもこの人、何というか体はゴボウみたいに細いのに、眼光がやけに鋭い。

 

なにかスポーツや格闘技をやっていたのだろうか、流石にプロヒーローということはないだろうけど。

 

 

「はははっ。わかるよ。この学校は敷地の広さも売りの一つだからね。迷う人がいても可笑しくはない。 それにしても、君はなんでこんな早くに?早いに越したことはないだろうけど。試験会場に入れるのは後一時間近く掛かる」

 

 

そう言って時間を確認する職員の八木さんは、初めに抱いた印象よりだいぶ気さくな方だった。

 

私がヒーロー科志望の受験者と知ると嬉しそうに応援の言葉を投げかけてくれた。

 

どことなく中学のネイティブの先生を連想させるノリの良さに、受験への緊張も次第に解れていた。

 

 

「あーそれはですね。私のお父さんが一昨日に、昔受験の日に不幸にも(ヴィラン)騒動に出くわして遅刻しかけた話をしたんです。それを聞いたお母さんが心配して、なるべく余裕を持って早めに出るのを勧めてきまして…」

 

 

早起きする(ヴィラン)が居ない訳ではないだろうが、それでもそんな話をされてしまえば、私だって不安になる。

 

遅刻と(ヴィラン)に怯えるくらいなら、早起きなどどうということもない。

 

 

(それにしても受験の日に暴れるなんて、数いる(ヴィラン)の中でも相当な悪辣外道野郎ですね…)

 

 

その際に早期解決してくれたヒーローに、私は静かに感謝の念を送った。

 

 

「まーそんな所です。小中で5分前行動を義務付けられた私ですが、たった5分ではいざという時には全然足りませんから」

「たしかに、その通りだ。ヒーローたるもの、事件には迅速な対応が求められる。だが、予め備えられることは可能な限りしておくべきだろう。その心構えは大切にしなさい」

 

 

八木さんは私の話を聞いてから、そう語った。

 

私の瞳を見つめるその瞳は、教員から生徒に向けるものと言うより、もっと壮大な——師と弟子のような熱を感じる。

 

 

「八木さんは、プロヒーロー…なんですか?」

 

 

私はつい気になって考えるよりも先に口に出していた。

 

雄英には多くのプロヒーローが教員として勤務している。

 

そのプロヒーロー達は戦闘に長けた者、医療に精通した者など広い分野の技術を納めている。

 

もしかしたら八木さんはそのゴボウボディにも関わらず、サポートアイテムや特別な個性で活動をしている可能性もあり得る。

 

ヒーロー科の試験は筆記と実技の2つで行われる以上、努力では補えない精神性なども評価に入るのかもしれない。

 

それを現場で働くプロヒーローに聞けたのなら、きっとそれは試験に、更には今後私が目指すヒーローの在り方を考えるのに役立つと思う。

 

そんな期待を込めて、前のめりに若干なりつつも、私は八木さんに訪ねた。

 

しかし……

 

 

「えっ?あ、違うさ。…私はしがない事務員だよ。プロヒーローはやってない。…すまない。勘違いさせてしまった」

「いっいえ別に、謝る必要はありません!私の思い違いでした。すみません!」

 

 

私の問いに驚いた表情と焦るようなしぐさで八木さんは否定した。

 

唐突にこんな質問をした私が10割悪いのに謝まらせてしまい、急いで私も謝罪を返した。

 

互いに頭を下げてしまったことで先ほどまでの空気がかなり息苦しく思える。

 

耐えられないと思いさっさと会場の入り口に向かおうと私が別れの言葉を切り出そうとしたとき、八木さん「最後に」と言った。

 

 

「もし、足が動かない。身体に力が入らない。そんな絶望的な状況が君に降りかかったとする。」

「それでも、目の前の誰かの為に立ち上がることが出来たら、その時君はヒーローになる。是非その事を胸に刻んでおいて欲しい」

 

 

自分はヒーローではないと言ったのに、私は彼が誰よりもヒーローに見えてしまう。

 

それは枯れ木の様な肉体が変わった訳でもないのに、何処となくその体が高い壁の様に感じた。

 

精神が違う、心の在り方が私とは、いや常人のそれを超越している。

 

体でなく心で、私は彼がただ者ではないことを分からされた。

 

 

「おっと。少し話し過ぎたようだ。大事な受験生の時間を私のつまらない話で奪う訳にはいないな。じゃあ試験、頑張って!入学楽しみにしてるぞ、人形少女」

 

 

そこで八木さんとの会話は終わった。

 

彼と別れた後も、私は彼の言葉を何度も頭の中を繰り返して再生した。

 

私は本当にヒーローになれるのか、今更ながら不安が込み上げてくる。

 

この受験に受かるかどうかではない。

 

彼の様なヒーロー精神を持たない自分にヒーローという役割がこなせるとは、今の私にはとても想像出来なかった。

 

“誰かの為に立ち上がる”がどういう意味を指すのか、言葉通りではないだろうそれが私には分からない。

 

なら何の為にヒーローを私は目指すのか?

 

この原点(オリジン)を私は持っていない以上、私は彼の言葉を受け止める事はできないだろう。

 

 

 

生半可な想いでこの受験に来た事を、この時私は酷く後悔したのだった。

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