私のゴーレムアカデミア   作:筋子とふきのとう味噌

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USJ襲撃①

薄暗い空間の中、照らす光源は細かな数値が動き続けるモニターと、怪しく光る巨大な培養槽のみ。

 

足の踏み場も無い程に大小様々な管が走る所に、男はただ静かにソレを眺めていた。

 

緻密に練り、そこに生まれながらの悪意を注ぎ込んで行動する男には本来有り得ないことを今からする。

 

結果がもし間違えば、これまで積み上げて来たものが崩れ落ち、その亀裂は男の首元まで走る危険性も孕んだ一手。

 

因縁深き男との最後の戦い、それ以来見せることがなかった一瞬の衝動より出た行動が、今が後戻り出来る最期だと告げる。

 

 

「黒霧、待たせたね。まだオールマイトは来ていないようだ」

「はい。しかし此方では…」

「陽動はイレイザーヘッドか。…フッ、良いね。打って付けじゃないか。脳無の調整はもう終わった。直ぐに弔の元へ」

 

 

しかし男は迷わない。

 

根拠など初めから要らない。

 

何故なら男自身が、ソレを見逃すべきでないと感じたからだ。

 

わざわざ、見かけも中身も下らないソレがこの男の目に留まった。

 

これ以上の異常を男は知らない、ただそれだけの話だった。

 

 

「黒霧。ソレは僕の命令を守るとは限らない」

「それは…ッ」

「だから、弔は君が“全力”で守り通せ」

「はいっ!!それでは失礼致します」

 

 

黒いモヤが培養槽の中身を連れ、遠い戦場に帰る。

 

男は珍しくため息を吐いた時、ふと空いた培養槽に映る自分を目にする。

 

過去に受けた忌々しく悍ましい古傷に、衰え補助具に囲まれた弱々しい男。

 

そして———

 

 

「笑っている」

 

 

悪の頂点に君臨し、世界を見下ろした彼でさえ、この笑みの出所は考え付かなかった。

 

しかし確かな一手を打った感覚が、男の愉悦感をジワジワと刺激して止まない。

 

結果も成果もまだ聞いていない男には笑う理由など無い。

 

しかしこの笑みを誰にも邪魔されたくはないと、男は静寂の中で独り感じていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新しい教科書のまだ硬い表紙に折り目をつけ、真っ白なノートに記述を繰り返す。

 

入学式から数日、雄英高校での生活に生徒が慣れ始めた頃にそれは起こった。

 

 

「ん? 誰だ今笑った奴は。今は授業に集中しなさい」

 

 

誰かが漏らした笑い声に教壇に立つ教師が注意する。

 

過酷な入試を乗り越えて気が緩む事は何処の高校でも起こり得る故に、今回も注意だけに留まった。

 

 

「またか…何が面白い。その笑い声が授業を真面目に受けている他の人の邪魔になっていることをちゃんと自覚しなさい」

 

 

再びその声が繰り返され、今回は教師も教科書を置いて体が正面を向く。

 

新学期が始まったばかりの授業は大抵真面目に受ける者が多いが、それに当て嵌まらない生徒が教室には居た。

 

中断される授業に生徒達も集中が切れ、次第に誰がその発言者か探す事に注意を回すようになる。

 

 

「貴方、悪ふざけのつもり?」

「…」

「…聞いているの?」

 

 

置いたシャーペンから目を離し向いた先にいる彼女は、何処か体が透けている様に見えた。

 

確かにそこに居るのに、窓から差し込む光が彼女に気付かず通り抜けて、影すらも彼女を映すことを忘れたかの様。

 

それ故に彼女が笑っている事、この授業が始まった最初からノートを一切取っていない事を、隣に座る少女(石榴)以外気付かない。

 

 

「ぁ…くっ…」

 

 

俯き見えないその顔は、彼女の長い髪に隠れて覗くことが出来ない。

 

寝ているのかと上体を傾けその長い髪に手を掛けると、少女はその奥にある顔を()()()()()()

 

 

 

 

——— ガシャン!!

 

 

 

床に椅子が倒れ、その音に教室の人間が一斉に彼女たちに振り向く。

 

笑い声の主を探そうと耳を澄ましていた彼らは驚きつつも、その椅子の持ち主を見る。

 

 

「どうしたの石榴さん…?」

「ヤダ……るな、…でよ…っ」

「おい…どうしたんだよアイツ」

 

 

最後列にいた彼女は、そのまま後ずさりながら教室の扉に背を付く。

 

その途中、震える声を聞いた者は居なくとも、その様子がまるで怯えた子供の様に見えた生徒は多かった。

 

突然の石榴の変容ぶりに近くの席から心配し駆け寄る多くの生徒と教師。

 

彼らはもう、先程の笑う声の主など気にしていなかった。

 

今は様子の可笑しい石榴というクラスを纏めつつある少女を助けるのが先になっている。

 

 

「私の…ゴーレム、子ドもを…」

 

 

よって、ソレは誰の目にも映らない。

 

 

「【傷付けルナ】…っ!!」

 

 

その少女が泣いていることに。 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ」

 

 

雄英高校が全力を持って組まれたカリキュラム『ヒーロー基礎学』、その一環として建設された“USJ”にて事件は起こる。

 

突如現れた(ヴィラン)達は宣戦布告の後に、交戦が始まった。

 

通信の阻害やカリキュラムを知っての犯行、周到に練られた計画的な行動。

 

ソレを成す““死柄木 弔”という男と率いた多数の(ヴィラン)をイレイザーヘッドは相手取る。

 

その後、(ヴィラン)の1人の規格外の移動系の“個性”によって生徒達は分断されるも、事態は雄英側が優位に立っていた。

 

 

「おい黒霧。まだか」

「まだです。その時が来れば直ぐにでも投入可能と聞いています」

「こっちはもう手札が切れかけてんだぞっ」

 

現在プロヒーロー“13号”と生徒たちを相手取りながら、一方でワープゲート越しに黒霧は死柄木の質問に答える。

 

次々とやられていく手下を見て、死柄木の喉を掻く手は止まる事なく暴れだしていた。

 

 

(なんで先生は突然脳無の追加の改造を言い出した? アレが無ければ今頃あのヒーロー教師も生徒も、オールマイトだってっ!!)

 

 

「あああ゛!! ふざけるなよ、ヒーロー!!」

「死柄木 弔、焦ってはいけない!」

 

 

ドームの外に一匹も逃すわけにもいかず、黒霧の停止の声は跳ね除けられる。

 

叫びながらも冷静に、腰を屈めての単独突進に出た死柄木は同じく懐に入ろうとする手下を盾に接近した。

 

 

「本命か」

「24秒…23秒…」

 

 

向かってくる多数の(ヴィラン)に無理のないペースで順調に絞め落とし、気絶させ無力化する。

 

イレイザーヘッドの此処までの削りが有効であったのは死柄木の反応からしても見て取れた。

 

先に転がした手前の(ヴィラン)に重なる様に迫る白髪の(ヴィラン)は、(ヒーロー)の正面に躍り出る。

 

 

「代わりならその分働くんだよな」

「? …そういうことかっ」

 

 

イレイザーヘッドは捕縛布の持ち手を変えると、その行き先を後ろへと変更する。

 

固くそしてしなやかに伸び縮みする特殊繊維は、見えないナニカを掴み離さない。

 

死柄木に向かう体を急停止させると、素早く後ろに足払いし、伸ばした捕縛布を力一杯前方向に振り下ろした。

 

 

「失敗作がっ…」

「そらよっ」

 

 

目に映らぬ背後の敵、それは背が成人男性程で脳が剥き出しの黒肌の男。

 

黒霧と対になるように現れ、そして欠けた分の繋ぎとして渡された代役であった。

 

回り込んで殴ったものの勘でバレた挙句利用されて、死柄木に向かって背負い投げの要領で叩き付けられたのが現状であった。

 

 

「小賢しい真似しやがって」

「なんで避けられてんだよ。お前が盾にはなるとか過大評価も甚だしいって、なぁ!」

「知らねぇよアンタらの事情なんざ」

 

 

簡単に脳無が処理され残るのは死柄木と、ワープゲートである黒霧。

 

各生徒達の所在は分からないものの、(ヴィラン)たちの頭が捉えられれば形勢は一気に雄英側に傾く。

 

つまり———

 

 

「チェックメイト、ってか?」

「そう、だな——ッ」

「やだなイレイザーヘッド、俺は“まだ”コインを持ってる」

 

 

捕縛布がしなりながら死柄木の両腕と胴体を一緒くたに噛み付く。

 

それでも尚、男の足は地にしがみ付き降参の意思を示さず後退し始めていた。

 

そして死柄木の後ろに現れた黒い歪み、それ此処に(ヴィラン)が来た時と同じものであった。

 

 

「死柄木弔」

「黒霧。13号は」

「行動不能ですが、生徒が一名ドームから逃れました…」

「チッ役立たずが。 はぁ…、なら今回はゲームオーバーだ。あーあぁ」

 

 

縛られて身動きを封じていながら呑気に会話する2人は、何処か場違いな程に浮いている。

 

そんな雰囲気に違和感を感じつつも、イレイザーヘッドの分析と観察は続いていた。

 

 

今回の襲撃時に感じた違和感の一つは、その犯行が計画的奇襲であり目的が有ったこと。

 

外野が出来る下調べなど着任する雄英の全プロヒーローと、有する土地やそのスポンサー程度。

 

しかし、彼が到着直後に放った言葉は

 

 

()()()()居ないのかよオールマイト』

 

 

ここにオールマイトが来ることを知っていた。

 

更に彼が急遽来れない事にも気付いている。

 

情報が漏れたのも、予想外の出来事すら把握され尽くされた気色悪さが奴等にはある。

 

そして、ここでオールマイトの名を出す以上、彼に対抗する用意を少なからず準備していて可笑しくない。

 

しかしこの現状は余りにもお粗末が過ぎた。

 

侵入経路と統率力は目を見張るものの、戦力については彼に匹敵する者は未だ姿を見せない。

 

伏せるにしては奥手過ぎ、初めから居なかったとしてもこれまでの行動とのチグハグさが際立ってくる。

 

 

(何か隠している)

 

 

縛ったのならワープで何処ぞの隠れ家に引き込まれる前に意識を刈り取る。

 

本来ならそうしたいのに、イレイザーヘッドとしての経験が『ここで踏み込むな』と騒ぎ立てる。

 

その悪寒がまだ知らぬ死柄木の“個性”なのか、それとも彼等の企みがまだ終わっていないのか。

 

 

「死柄木」

「ああ。わかった」

「やっぱりかっ!」

 

 

ほんの僅かな言葉の裏の意味など読んでなんぼのプロヒーロー。

 

次の(ヴィラン)の一手、それが打たれればこちらの勝機が絶たれる。

 

その前に倒す、それが此処での最適解。

 

 

「イレイザーヘッドも人間。ずっと我慢するのは無理だよなぁ」

「…ッ そういう“個性”か」

 

 

絡んだ捕縛布が死柄木の手と重なった部分だけ砂となって崩れ出す。

 

途中で切れた事で自由を得た死柄木の肉体は地面を滑るように加速、黒霧との距離を一気に稼ぐ。

 

 

(悩むな俺! 厄介なのはワープだ。ここで引っかかる訳には…)

 

 

イレイザーヘッドとの開いた距離が縮まり、その視界から逃れ———。

 

 

「はっ。選べると思うなよヒーロー」

「狙いは生徒か…ッ!!」

 

 

加速した死柄木の姿が途端に横へとブレ、水難ゾーンに方向が変わる。

 

そこに居たのはA組の緑谷、峯田、蛙吹の3人。

 

敵のワープゲートで飛ばされたのを知って、戦闘の中でそうなる可能性も勿論考えていた。

 

しかし“追い詰めた”という無意識の緩みと、連戦による疲労がここに来て祟った結果だった。

 

 

「ちゃんと見とけよ、ヒーロー(偽善者)

 

 

 

 

 

 

 

蛙吹梅雨は見る。

 

相澤先生の足元にあのワープゲートが出現する瞬間を。

 

 

峯田実は青ざめる。

 

そこから飛び出したナニカによって相澤先生の両足が捻じ潰れる瞬間を。

 

 

緑谷出久は想起した。

 

そのスピードが、憧れの彼(オールマイト)以上であることを。

 

 

 

「あ、いざわ、せんせ…ッ」

 

 

跳躍した黒いナニカに連れられ浮上してから、重力に引かれて地面に激突するまでの間も死柄木は“個性”が使えない感触に苛立った。

 

しかしそれよりも爽快感が上回り、首の痒みも大して気にならなかった。

 

その姿の滑稽さが、廉れた心に染み渡るように響く感覚が笑いを誘発させた。

 

 

ア…アァウ…ァ

 

 

腕を掲げて降り立った新たな敵。

 

黒い肌と剥き出しの脳、焦点の合わない瞳。

 

醜悪ながらもその姿態は何故かまぶしく、そして独り悦んでいた。

 

 

「仮初の平和を壊せ———“脳無”」

 

 

USJの襲撃はこれからが始まりだった。











・今回のオリキャラ紹介
相澤先生に投げられたのはUSJ脳無のプロトタイプ・試作品の子。
あのオールマイト専用に調整された記念すべき初脳無、その前の子なので性能はイマイチ…。でも“超再生”と筋力増強系はちゃんと持ってるのと、頑丈さは光るものがあるので生徒からすれば正しく『出来る限り対面したくない敵』ではあります。それでも試作品なので他の脳無よりはパッとしないし弱い、そんな「失敗作」扱いな子です。
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