小鳥遊ホシノは複製人間にユメを見るか   作:スワンプマン先生

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 一話からだいぶ時間かかってしまった。社会人先生なのであまり連日投稿は出来ませんが週一くらいの投稿目標でがんばります。
くれぐれもエタって観測点が消失しませんように。


それぞれの朝(1)

⬜︎【アビドス高等学校】夏目トウヤ

 

 夏目トウヤの朝は早い。朝四時頃、日の出が始まる前から、わたしの生活は始まる。厳密に言えば、夏目トウヤの朝はまだ始まっていないのかも知れない。

 昨日はシロコから借りたアビドス高等学校の一室を借りて睡眠を取ったが、自宅では無いので昨晩はシャワーを浴びれなかった。砂漠の熱にやられ汗と汚れでベタベタなままの体で寝るのは気が乗らなかったが、あまり贅沢は言っていられない。

 わたしはまず、簡易的なシャワーを用意する事にした。校舎に入ってすぐ、下駄箱付近であれば水に濡れても何ら問題はないだろう。場所はあそこでいい。

 教室のカーテンを拝借し目隠しを作り、高いところにハイドレーションを吊り下げ、簡易的なシャワー代わりに水浴びを済ませる算段だ。片腕だけでは苦労したが、これから水浴びをするとなれば、わざわざ義手を着けるのも面倒だ。何よりあれをつければ、わたしはわたしでは無くなる。

 結局苦労して作ったお手製シャワーブースは、チョロチョロと僅かな水が流れるだけで、体を流すのも一苦労。結局バケツの水を頭からかぶる羽目になり、労力の対価はものの数秒で利便性に流されてしまった。だが、身を清めたためか気分はいい。右腕を腰にあて、全裸のまましばし周囲を眺める。

 大勢の人が通うはずの学校で、これ程珍妙な行動が許されていいのだろうか。否、いいのである。何故なら今はわたししかいないのだから。

 

「あっ」

 

 ふと、ある事を思い出す。

 

「服忘れた……」

 

 もはやタオルすら持って来ていない。わたしは仕方なく、カーテンで体を隠しながら部屋に戻った。

 

 濡らしてしまった校舎内の掃除を済ませて、朝食の準備を始める。メニューはただの軍用レーション、しかし砂漠化の進む学校でのレーションは、中々風情を感じられる。荒廃した世界で、学校と言う拠点で暮らし、加工食品の残りを貪る。持ち合わせの少なさも高ポイントだ。

 わたしはアポカリプスモーニングを噛み締めながら、教室に入り込む風に長い髪をたなびかせた。

 そして軽い身支度を整えると、わたしはある物に目を向ける。

 神経接続式の機械義手。わたしの欠けた左腕には、その接続ジョイントが取り付けてある。付けようと思えば一瞬だが、取り付ける際に幻肢痛に似た感覚があるのだけは今でも慣れない。一息ついて、腕をはめる。こうしてわたしは、私と入れ替わる。

 替えのスーツに着替え、トーンの落とした化粧で素顔をごかます。これなら誰も私が女だとは思うまい、何せ私も、自分をユリカだとは思っていないのだから。己の認識と自認が歪む、一日を始める大事な儀式。自分の思考が別の何かに塗り変わる感覚が全身に広がって行く。クセ、仕草、口調、食の好み、佇まい、全てが違った、もう一人の私。シャーレの先生、夏目トウヤの一日が始まるのだった。

 

 

 

 

⬜︎【アビドス高等学校】小鳥遊ホシノ

 何だか昨夜は、全く寝れなかった。自分の中では理由もはっきりしているが、知らん振りで誤魔化し早々にアビドス高校にやって来ていた。

 どの道後輩たちが居れば、安心して昼寝が出来る。今日も昼寝だよりになりそうだと思いつつ、不健全な昼夜逆転生活に不安を覚える。

 だが、思考を遮るように、ある人物が目に留まった。

 シャーレの先生だ。朝早くから、昨日のヘルメット団襲撃で荒れたバリケードの修繕をしている。私は気を紛らわそうと、声を掛けた。この人に話しかけた所で、気分は晴れないだろうけど。

 

「うへぇ、先生おはよー。朝から元気だね。おじさんは百年経っても先生の勤勉さには勝てなさそうだよ〜」

「おはようホシノ。昨日は遅かったのに今日も早いね」

「まあ、おじさんの仕事はお昼寝だからね。だけどそのせいで夜が寝れなくて寝れなくて、なんかいい安眠策の一つでも無いかな?」

「ホシノも勤勉になればいいさ。真面目に日々を過ごしていれば、多少は自分への慰めになる。今日はちゃんと頑張った、そう思えれば眠れるさ」

 

 自分への慰め、ね。確かに先生にはそんな雰囲気を感じる。努力や苦労を盾にして、自分を正当化する自衛手段。何も悪く無いし、責められる事は無いのだけど、きっと先生のちぐはぐさはそれが原因なんだと思う。私も人の事を言えないけれど。

 

「んじゃあ、おじさんもちょっぴり頑張っちゃおうかなぁ。手伝うよ」

「ありがとう。じゃあ、あそこのバリケードの事なんだけど……」

 

 こうして、私は朝から先生と汗を流した。程よい疲労になったのだろうか、その後のお昼寝は、ぐっすりだった。

 

 

 

 

 

 

⬜︎【アビドス高等学校】奥空アヤネ

 登校して一番に、私は先生の泊まっている教室をノックしました。時刻はまだ七時頃、先生はまだお休みになっているかも知れませんが、ゆっくり話したくてこんなに早く学校に来てしまいました。

 しかし、私の予想とは裏腹に、教室の中からは声が返って来ました。

 

「どうぞー」

「し、失礼します」

 

 いつぶりでしょうか。先生のいる教室に緊張して入るのは。扉を開けて教室に入ると、先生は待っていたかのように机を二つ並べて座っていました。まるで二者面談です。私の鼓動が再び速度を増して、緊張を仰ぎました。

 ですが先生は私に優しく微笑むと、先生の向かいの席に手をかざします。覚悟を決めて、向かいの席に座りました。

 

「おはようアヤネ」

「おはようございます、先生。その……、昨日はすみませんでした」

「ストップ、謝るのは無し。昨日も電話で聞いたし、何より謝罪をしなければならないのは私の方だよ。私は君たちを使って、私の目的の為に動いてしまった。双方利益のある事とは言え、一方的だ。悪かったね、アヤネ」

「いえ、先生の立場からすれば、当然の行動だと思います。ですが……」

 

 また、言葉が詰まってしまいました。昨日は電話越しだったので、あまり意識をしていませんでしたが、先生の顔を見ていると昨日の光景をどうしても思い出してしまいます。ダメだと思い、先生の顔を見つめ直すと、ある事に気付いてしまいました。

 

「先生、顔のお怪我はもう大丈夫何ですか……? それなりに切れていたと思いますが……」

 

 言葉を続けている最中、まじまじと先生の顔を見ているとその不自然さに気付きます。先生もそれに気付いたのか、何やら困った様子。

 結論を言えば、先生の顔の傷はさっぱり無くなっていました。正確に言えば、綺麗に誤魔化していると言った方が正しいのかも知れません。

 僅かなギズ口の凹凸の上に、不自然に乗っている肌の色。まるで怪我を感じさせない色合いと、全く同じ怪我のない綺麗な反対の頬。私は自然と、純粋な疑問をを言葉にします。

 

「先生。お化粧……、されてるんですか?」

「……まぁ?」

 

 先生の視線が右往左往と泳ぎます。昨日も見ましたが、先生の誤魔化す時のクセなのでしょうか。近頃は男性もメイクをすると聞いた事があります。アビドスでもあれば、日焼け対策としてしていても不自然ではありません。特に先生のように、色素の薄い方だと、その問題も顕著に現れるはずです。

 ですが、今の先生からはそのような言葉が返ってくる訳でもなく、ただ戸惑っているご様子。

 私の中で、疑問が確信に変わりつつありました。私の視線が机の上の先生の左腕に向かいます。もちろん、今日も手袋を付けたままです。

 そして先生は……、苦し紛れの話題を振って来ました。

 

「まぁ、昨日はお互い事故みたいなものだし? 何でも一つだけ聞いてよ。私に答えられる範囲であれば、自己開示はするか……らさ」

 

 その言葉に、私は何と答えればいいのでしょうか。誤魔化そうとして自白してしまったようにしか聞こえませんが……、これは聞けと言う事でしょうか?

 口を開くでもなく、私は先生の左腕を掴みます。昨日も掴み損ねた分、今日は逃しません。私が両手でがっしりと硬い腕を掴むと、私は言葉を続けました。

 

「自己開示、して下さるんですよね? 先生」

「……はい」

 

 そこから先生は、正直に話してくれました。自分が本当は夏目トウヤでは無く夏目ユリカである事。過去に一度アビドスに訪れ、以来融資を送って来てくれていた事。

 正体を隠す事にしたきっかけは矯正局からの大脱走からだったそうです。今まで矯正局で指導していた教職員が、無防備なまま目の前に現れ、自分が武器を持っていたとしたら。暴動の最中、正体を隠すのは必然な事だったのでしょう。現に、そのおかげで命拾いしたとも仰っていました。

 それを聞いて、妙な納得感がありました。先生の独特な雰囲気と、その正体が分かったようで、ちょっとした愉悦感が、私の背中を押してくれました。

 

「色々教えていただきありがとうございます。ですが、何で昨日、銃撃戦の最中にも笑ってらっしゃったんですか?」

「それはこう、反抗的な子でも自分の意思がしっかりあるのが分かると嬉しいでしょ? はじめに撃っちゃった子は命令されてやったけど、それでもこう、盛り上がっちゃって……」

「約束して下さい。アビドスでは、もう二度とあんな真似はしないと」

「はい……」

 

 あまりに正直にペラペラと喋るので、まるでこっちがお説教してるみたいです。なんで私はさっきまでこの人に怯えていたのでしょう……。

 先生ははっきり言って色々ズレてます。自分が正しいと思ったら一直線に進んで周りを顧みない人です。そのくせに人の事を考えようとして、空回りしているんです。

 ノノミ先輩には、後でお礼を言わないといけないですね。話してみたら、先生の事がよく分かりました。

 カッコつけたがりで、一度ボロを出すとタジタジになる所とか特に。

 ただ、私の中で一つ新たな疑問が浮かびました。

 

「あの、先生。先生の事はよく分かったんですけれど、先日の矯正局の件でお怪我をされた方とは一体?」

「ああ、あの瓦礫に躓いて腕の骨折ったあれ?」

 

 普段の先生に戻ったと思ったら、とんでもない答えが返って来ました。

 

「骨折ですか!? ですがニュースには重傷って、私はてっきり命に関わるのかと……」

「多分それ重体と勘違いしてない? 一般的に重傷は1ヶ月以上治療がかかる怪我や損傷の事。同僚は命に別状はないよ」

「それは……、良かったでいいのでしょうか?」

「いいんじゃない? むしろ自業自得。危ないから着いてくんなよって言ったのに、勝手に着いて来て攻撃も無い場所で瓦礫にすっ転んで怪我したんだからさ。一応私にも、防衛装置的な物は支給されてるけど、それは心配だから同僚に渡してある。そして昨日はその防衛装置がない事を忘れてたと」

 

 最後の言葉に、私の中で何かが切れた気がしました。

 教室の外まで響くくらいに、先生を叱ってしまいました。

 シャーレの方たちって、本当に大丈夫なんでしょうか? 危機感の無さは部署共通なのでしょうか。

 私の悩みとモヤモヤが、こんな人が引き起こしてたなんて許せません。だから、このモヤモヤ分はしっかり働いて貰います。

 シャーレの方々には、アビドスに協力して貰うと、私はこの時心に決めたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

⬜︎【アビドス高等学校】十六夜ノノミ

 先生がアビドスにやって来た翌日。昨日は微妙な雰囲気で終わっちゃったけど、アヤネちゃんはしっかり仲直りできたのかな?

 それが気になって、今日はいつもより早く学校に来てしまったのだけど、何やら校舎の入り口が濡れている。

 バリケードの補強はいいとして、先生はここで一体何を?

 まさかこんな開けた場所で水浴びをするような愉快な人には見えないし、きっと作業で汚れた道具か何かを洗っていたのだと思う事にした。

 けれど、もしもの時のためにシャワー室くらいは教えてあげよう。あと、シロコちゃんに後で教えたか聞いてみよう。

 

「ノノミ、おはよう」

「おはようございます、シロコちゃん」

「校庭のバリケード、ホシノ先輩と先生が直してくれたんだって。後でお礼しないと」

「朝から偉いですね。後でいっぱいヨシヨシしてあげます⭐︎ ところでシロコちゃん?」

「どうしたの? ノノミ」

「昨日の事ですが、先生にプールの更衣室についたシャワーが使える事って、教えてあげました?」

「ん、忘れた……」

「あらら……、でしたら後で先生に教えてあげましょう」

 

 まさかとは思うけど、あれがシャワーの後では無いと信じたい。けれど男の人だったらそんなに気にしないのかも……。

 その時、先生の泊まる教室からアヤネちゃんの怒号が聞こえた。それはもうおっきな声。あれは相当怒っている証拠。

 

「先生、アヤネに何言ったんだろう」

「すっかり仲良しさんになれたんですね⭐︎」

 

 アヤネちゃんの声のおかげで、今日は特別楽しそうな一日になる気がした。

 

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