小鳥遊ホシノは複製人間にユメを見るか   作:スワンプマン先生

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それぞれの朝(3)

⬜︎【アビドス自治区 コンビニ】黒見セリカ

 

 

「はぁ、朝から最悪……」

 

 とあるコンビニのバックヤードで、私は軟禁(?)されていた。

 安っぽいパイプ椅子と長机の簡素な休憩スペースで待たされ、目の前にはグシャグシャになってしまったパンやおにぎりなどの商品の数々。そしてその中には、私が買おうとしていたソーセージサンドもあった。

 なぜあの時私は、商品をもったま飛び出してしまったんだろう。

 事の始まりは、数十分前の出来事だった。

 学校に行く前、いつも行くコンビニで朝昼用のごはんを買おうと立ち寄ったものの、普段とは違った似つかわしく無い人影があった。

 ヘルメット団の連中が、買い物カゴに乱雑に商品を入れ、何やらコソコソ話している。

 最初は私が狙われているのかと思ったけど、ヘルメット団とは言え悪い事はしてなさそうだし、買い物中に突っ掛かって面倒になるのも御免だから関わらないようにしていたつもり。けれど、私が会計を済ませている時に事件は起きた。

 ヘルメット団の連中が、会計を済ませず商品を持ち逃げしてしまったのだった。

 咄嗟の出来事で店員はヘルメット団を追うのが遅れ、その光景に気に食わなかった私もお店に協力してヘルメット団を追う事にした。

 ただ一つ、手に持ったままの商品の存在を忘れ、飛び出してしまう程には焦っていたんだと思う。

 何とかヘルメット団から商品は取り返せたものの、犯人は逃すわ商品はぐちゃぐちゃになるわ、仕舞いには私も協力者だと勘違いされてしまい、今に至る。

 店員の人も、分かっていてくれた雰囲気ではあった。けれど念のため学校に連絡して人に来てもらう事になり、登校前から学校に迷惑をかけてしまった。

 何より、今のアビドスにはアイツがいる、迎えに来てもらうならみんながよかったのに。

 気に食わない相手の顔を思い出しつつも、扉越しに店員とアイツの声が聞こえる。

 やっぱり、迎えに来たのは先生だった。

 

「いやぁ、わざわざ先生にご足労頂きすみませんね。本人も犯人を捕まえようとしてくれたし、確かに商品も取り返してくれたのですが〜……」

「概要はお電話で伺っております。この度はご迷惑をおかけし大変申し訳ありませんでした」

 

 ……なんで先生が謝るのよ、悪いのはヘルメット団なのに。

 扉の覗き窓から先生が頭を下げているのが見えた。走ってきたのか、やや汗ばみ肩を揺らして息が上がっている。

 概要は聞いてたはずなのに、なぜ息を切らしているのだろうか。おまけにあの胡散臭い帽子もサングラスも手には持っていない。そのせいか、首筋には日に焼かれ火傷らしき跡が見える。

 あの格好にも意味があったのかとようやく理解しつつも、申し訳なさと自分の正当性が心の中でぶつかり合う。

 悪いのは全部ヘルメット団のはずなのに、なんで先生はあんなに頭を下げてるんだろう……。

 先生の横顔を見ていると、ある人物を思い出す。夏目ユリカさん、昨日矯正局のホームページで見た、おそらく先生の血縁者の顔。先生より優しそうで、先生より信用出来そうな大人の人。先生にはいい感情は湧かないけれど、今この瞬間だけは、先生がユリカさんに見えてしまった。

 話を終えたのか、先生がこちらの部屋へ向かって来る。

 私は隠れるようにパイプ椅子に座り直した。

 

「お待たせ、セリカ」

「……別に迎えに来てもらわなくても良かったのに。先生暇なの?」

「暇では無い、けれどこうしてセリカと話す時間くらいは許して欲しいかな」

 

 そっぽを向いた空返事をしていると、先生はぐちゃぐちゃな商品を袋に入れ始める。お店の人が言うには、廃棄するしか無いと言ってたけど……。

 

「ちょっと、何でそんなの入れてるの!」

「弁償させて貰える事になってね、私も朝ごはん食べていないからちょうどいいと思って。セリカも食べる?」

「食べないわよっ!!」

「でもごはん買いに来たんでしょ? まあいいや、とにかく行こうか」

 

 先生はそう言いながら、扉を開いたまま私に促した。

 私はバッグを持ち上げ、先生の横を顔も合わせず通り抜ける。

 ただ、店員にはちょっとだけ会釈をして店を出る。

 一時間足らずの拘束だったけど、やけに外が懐かしく感じた。

 

「それでは、我々はこれで」

「いえいえ、ご苦労様です。君も、ごめんね! 良かったらまた来てね」

「うん」

 

 素っ気無い態度しか取れないまま、一人でに学校へ歩き出す。先生は何も言わずに私の横を並んで歩き、戦利品のつもりか弁償した商品を見比べていた。

 

「おっ、ラッキー。このサンドイッチ好きなんだよね。セリカはどれ買おうとしてたんだっけ?」

「別にいらないわよ。今日お昼食べる気無いし」

「そう言う訳にもいかないでしょ。ほら、これも供養だと思って、フードロス削減に協力してくれないかな?」

「いらないって言ってるの! もうほっといて!!」

 

 お昼ならバイトの時間まで我慢出来る。朝ごはんを食べないのも、たまに寝過ごした時にはよくある事。

 ただ、怒りもしない先生と並んで歩く事が辛くて、私は抱える不満から逃げ出すように、走って学校へ向かった。

 

 

 

 

⬜︎【アビドス廃校対策委員会室】砂狼シロコ

 

「みんなおはよー」

「セリカちゃんおはよ〜。重役出勤だねぇ」

 

 セリカがやって来たのは、登校時間から一時間遅れた頃。ホシノ先輩が茶化しつつも、セリカが会計の席に着く。

 

「朝から災難だったね、セリカ」

「ほんっともう最悪よ。ヘルメット団の連中、今度会ったらタダじゃおかないんだから!!」

「でもセリカちゃんに怪我が無くて良かったです⭐︎」

「怪我ならむしろアヤネちゃんの方がしててもおかしく無いかもね〜」

「ん、確かに。ノノミが電話してる時、アヤネ万引きって聞いて血相変えて飛び出してたもんね」

「それは言わないでください! 自分でも恥ずかしいんですから……」

「アヤネちゃんは友だち思いですから、いい子にはヨシヨシしてあげないとですね♪」

「私、そんなちっちゃい子じゃありませんっ!」

 

 ノノミがアヤネを撫でながら、勝手にクシで髪を解かして遊び始める。見慣れた光景を眺めながらも、私は浮かんだ疑問をセリカに聞いた。

 

「セリカ、先生は?」

「んー……、後で来るんじゃない? 歩くの遅いから先に来た」

 

 顔を逸らしながら答えるセリカ。きっとこれは何か隠してる。けれど、あんな事があった後だし、今ちょっかいかけるのはやめておこう。

 スマホを取り出し、先生に連絡を入れる。するとすぐに返信が返って来た。

 

「先生、日用品の買い出しとかして来るからお昼過ぎるって」

「あらら、でしたら今日の午前中はあまり出来る事なさそうですね」

「ん〜、今のうちに掃除でもしとく?」

「ホシノ先輩が率先して掃除!?」

「だって一応今は先生がいる訳だしさ、おじさんたちだけで勝手に動くってのも何だかね」

「その件ですが、……一度ちゃんと話し合いませんか?」

「先生についてですか? アヤネちゃん」

「はい。昨日は私が一方的に決めてしまいましたが、これを気に先生について決議を取りたいと思いまして」

「ん、セリカはどう思う?」

「何で私に聞くのよ……。決議って、今後も先生を頼るかどうかって事でしょ? 私は反対! 今更大人の言いなりになるなんて考えられない」

「アヤネはどう?」

「私は、先生には協力してもらうべきだと思います。ですが、あくまで協力していただくのは助言にとどめておくべきかと」

「ありゃ? アヤネちゃんもやけに慎重だね」

「当然です! 先生は頼りに出来る大人なのかもしれませんが、大人だけで全てが解決出来る訳ではありません。それが大人の無茶で無理矢理解決しようとするなら尚更です。今の私たちには、一歩引いた場所で見て頂ける人物が必要ですが、ここはアビドス、私たちの学校です。先生を頼るのでは無く、助言を頂き私たちが解決すべきだと私は思います!」

「とっても素敵な考え方ですね⭐︎」

「ん、落とし所としても充分だと思う」

「確かに言いなりにはならないって事だもんね〜。おじさんもそれでいいと思うよ」

「みんな正気!? あんな胡散臭そうな今でもここの会話を盗聴してそうな人を信じろって言うの?」

「それを私たちで見定めるんだよ、セリカ。もし先生が厄介ごと持って来たら、私が何とかする」

「でもちょっと盗聴してそうってのは言い過ぎじゃないですか? 確かに先生はあまり信用を得られるタイプには見えませんが……」

「もし盗聴なんかしてたら、先生は変態さんだね〜」

「ん、マフィアには必要な事なのかも知れない」

「シロコちゃん、まだ先生をマフィアだと思ってるんですね……」

「先生は只者じゃない。お金の匂いがするって私の勘が言ってる。万が一があっても、私が先生をお金に変える」

「やっぱりシロコちゃんは頼りになるね〜。じゃ、今後の先生は悪い事したら換金作戦でけってーい」

「最初の話からはだいぶ趣旨がズレている気もしますが……、今後も先生の助力を頂くと言う事でいいのでしょうか?」

「いいと思います⭐︎」

「何だか締まらないわねぇ〜……、まあ、確かにそれがアビドスっぽいけど」

 

 

 

 

 

⬜︎【アビドス自治区某所】夏目トウヤ

 

 

 廃墟の日陰で休みながらも、イヤホン越しに生徒達の会話を聴いていた。聴いていたと言うより、盗み聞きが正しいのだが。

「ふむ……」

 アビドスに潜り込む事は成功したが、幾つかの懸念点が私の中に浮かぶ。

 一つは生徒達との蟠りがある事。現状少しずつ減らせているとは思うが、全面的に信用が得られた訳ではない。協力関係を取り付けたとは言え、こちらの目的に支障が出ないとは限らない。

 そして二つ目は、小鳥遊ホシノ自身の問題。この短期間で、彼女が私に見せた言動は異常と言わざるを得ない。彼女が私に重ねているものは、彼女自身か梔子ユメの存在か。はたまた私の正体を知っているが故の牽制か。そう言えば、昨今のネットスラングに、端的な言葉があった気がする。

 

「私、一体いつホシノの脳を焼いたんだ……?」

 

 まったく自覚のない状態でいると、脳内に言葉が思い浮かぶ。

 

『あんな思わせぶりな態度取ってるんだから当然でしょ』

 

 どうやら我が姫は御乱心らしい。この数日で、彼女の言う“お兄ちゃんポイント”とやらは減少傾向にある。今朝のセリカに対する対応は満点だったが、それ以外がまるでダメらしい。

 いっその事彼女に、ユリカに任せてしまおうか。私よりはアビドスの生徒と仲良くなるのは早いだろう。だが、ユリカに任せては懸念点もある。

 ユリカなら、“アレ”をホシノと会わせかねない。もし“アレ”をホシノに会わせてしまえば、“アレ”はプロトコルを完遂し消滅してしまう。

 目的が一つしかない擬似人格を、決して個人としては認める事は出来ない。我々は、言わば死人の遺言のような物だ。決して変わる事なく、この世に縋り続けるプログラム。人の理から外れた被造物が、人の迷惑になってはならない。それを理解しない彼女たちに、行く末を任せる事は出来ない。

 私は左腕の義手を眺めながらも、ため息を吐く。彼女らのように能天気に生きられればどれ程楽か、否、生きてなどいないのだから荒唐無稽な話ではあるのだが。

 ただ、短時間だけであるのなら……、ユリカに任せてみてもいいのかも知れない。

 私は義手を力強く掴み、神経接続式の機械義手を取り外す。その瞬間、私はわたしと入れ替わった。

 

「全く……、頭が硬いのも考えものだね」

 




ようやくタイトル回収要素を出して来ます。
先生の正体ですが、とある組織(カイザーコーポレーション)によって作られたクローン人間です。が、人格についてはアビドス砂漠で出土した擬似人格生成プログラムを使用しているので、元々プログラムに入ってた外の世界の先生がアビドスに爆誕したって流れですね。
ちょくちょくユメ先輩っぽい情報が出て来てますが、とある組織と黒い服の人が実験で作ったのがユメクローンです。オリジナルは1話で言及ある通り死亡後ホシノが火葬してます。
ちなみに先生の肉体にトウヤとユリカがいますが、人格的には別のプログラムなのでれっきとした別人です。
自分を兄だ妹だと思い込む精神異常者ではありません。
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