シャリア・ブルは
エグザベ麾下のギャン部隊は、既になんとか無力化し終えた。後はエグザベ自身をどうにかするだけだ。そして彼もシャリア自身もニュータイプだ。更に初期型の
(な!? これは!? シャリア中佐、あんた何を!!)
(エグザベ君。見えますか。貴方の過去にあった事を)
キラキラと輝く光あふれる宇宙に、エグザベがかつてフラナガン・スクールで受けた、様々なニュータイプ実験や洗脳処置のイメージが流れる。
(エグザベ君。君はフラナガン・スクールで『壊されて』いるんです。ニュータイプとしての敵意察知や索敵能力だけを残し、共感能力や感応能力を封じる。感情の起伏を抑え、不自然に精神の平衡性を強化。感情がある一定の閾値を超えた瞬間、強制的に平静状態に戻す悪辣な精神操作。
どうか『自分』を取り戻してください。『心』を取り戻すんです)
(いえ、僕は『僕』として『自分』はありますが……)
(!?)
困惑するようなエグザベの思念に、シャリア自身も困惑する。シャリアは読心能力に長けたニュータイプだ。だがそう言う意味で、裏表のないエグザベは、思った事がそのまま表に出ることが多いため、心を読む意味がほとんど無い人物でもある。
そしてキラキラ煌くニュータイプ同士の感応空間の中でも、エグザベのギャンはキケロガを撃墜せんと精妙な機動を行っている。シャリアはキケロガを操縦して、ギャンが放ったビームを避けた。
エグザベにはシャリアを殺す意図はある。だが妙な話だが、『殺意』は無い。『殺意』の無い攻撃が、殺す意図を以てしてキケロガを狙う。
(いえ、洗脳されたから何です? 今の状況に、あまり関係は無いでしょう!)
(エグザベ君……。ここまで、ここまで『壊され』ていたんですか!)
シャリアは苦悩する。彼はニュータイプがニュータイプとして生きられる世界を創りたい。ニュータイプが兵器として扱われる未来を阻止したい。だがそのためにエグザベを殺してしまっては、本末転倒だ。それにエグザベは、可愛がっていた部下であった男でもある。情もあるし、殺したくはない。
だがそれでも、殺さなくてはならない。シャリア・ブルは血を吐く想いで、エグザベを殺す事を決意する。
(……すみません。エグザベ君)
(!? やられる!?)
キケロガの4門の有線ビーム砲から、閃光が迸る。エグザベの悲鳴がニュータイプ同士の感応空間に響き渡った。そしてエグザベのギャンは……。
まるで『後ろにも目がついているかの様に』キケロガが放ったビームをぎりぎりで
(!? 馬鹿な!!)
(うおおおぉぉぉっ!!)
シャリアはキケロガの有線ビーム砲ケーブルを巻き取りつつ4門のビームを連射する。しかしエグザベのギャンは最低限の動きでビームを避けつつ、その長大なランス『ハクジ』の狙いをキケロガ中枢部に定め、スラスター全開でほぼ直線で突っ込んで来た。
キケロガのバーニアが噴射し、白いギャンの槍先を躱そうと動く。だがサイコガンダムやハンブラビの射撃を躱したときとは勝手が違う。シャリアが躱そうとしたその先の位置に、槍先から放たれたビームが『置かれ』る。それを躱せば、槍先がキケロガを捉える。槍先を回避すれば、ビームに貫かれる。
詰み、だった。
(……これも、報い、ですか。分不相応な
(……!?)
その瞬間、輝く宇宙に投影されたエグザベの姿に、その額に、稲妻の様な光が走る。
(ニャアン!!)
(えっ)
キラキラのニュータイプ同士の感応空間が、いきなり解除される。シャリアの視界に映ったのは、青い、蒼い、噴射炎。この場をギャンが全速力で去っていく、その背中から噴射されるスラスター炎だった。
『何が……。何があったのです、エグザベ君』
シャリア・ブルはキケロガのスラスターを開放、ギャンの後を追った。
*
ニャアンは追い詰められていた。彼女の
それをやったのは、赤いガンダム。彼女がア・バオア・クーを消し飛ばすほどのゼクノヴァを引き起こしても『還って』来なかった、そしてマチュのジークアクスが『薔薇が泣いている』とか言うよくわからない理由で襲い掛かって来て起こした小規模なゼクノヴァであっさり『還って』来た、シュウジ・イトウの
『
『シュウちゃんの……お母さん?』
『許せないよ……』
恋い慕っていたシュウジが、赤いガンダムが、ビームサーベルを抜き放ち彼女を狙っている。その殺意が、ひしひしと伝わって来る。周囲は暗く、そしてシュウジの周囲だけがキラキラと輝いていた。『キラキラ』、だ。嫌な臭いで満ちている、皮肉な『キラキラ』だった。
そしてニャアンは理解する。『シャロンの薔薇』に乗っている少女、どこかの並行宇宙におけるララア・スン。何処かの並行宇宙における赤い彗星シャア・アズナブルと、どこかの並行宇宙におけるララア・スンとの間に生まれた、どこかの並行宇宙からやって来た、母を求める少年。それが『シュウジ・イトウ』。
その宇宙で生まれる前に父を白い
そのためならば、その願いのためならば、ニャアンを『捨てる』ことも厭わない少年……。いや、最初からそこまで気にもされていなかったのだろう。多少の友誼はあれど、彼にとってはそんなに大事な物では無かった。
視界の片隅で、ジークアクスが戸惑ったような挙動をするのが見える。シュウジの豹変とも思える姿に戸惑っているのだろうか。ニャアンは麻痺した思考の中で、ぼんやりと考える。何をいまさら、と。シュウジの容赦の無さは、かつてクランバトルでシイコ・スガイを抹殺したときに思い知らされているでは無いか。
それでもニャアンの身体は、生きようとする。必死に操縦桿を動かす。だが痛めつけられたジフレドは、
*
蒼い噴射炎が見えた。
*
ぎりぎりの瞬間に突き飛ばされたジフレドの
『エグザベ少尉!!』
『……無事か? ニャアン……。ぐふっ……』
『エグザベ少尉! なんで! なんで!!』
半狂乱のニャアンに、エグザベのギャンからの通信が答える。
『護るって……。約束しただろう?』
『あ……』
優しい声。どこか薄っぺらくて、作り物めいていて、けれどそれ故に裏表なく、『心から』優しいその声。それ故に、心底
『まって! エグザベ少尉!』
必死に絶叫するニャアン。彼女は懇願する。
『行かないで! 逝かないで!! いくらでも、カオマンガイでも! ゲンペッでも! 作ってあげる、作ってあげるから! だから! だから!!』
『そ……か。はは、は。たのしみ、だ、な……』
白いギャンの、そのモノアイから光が消える。機体が崩れ落ちる。ニャアンは絶叫した。
『いやあああぁぁぁ!!』
さっきまで殺意に溢れていた赤いガンダムは、何か戸惑っている様に動きを止めていた。毒気を抜かれたかの様に。
そして、ジフレドの
軋むだけでピクリとも動かなかったジフレドが、幽鬼のごとく立ち上がる。濃密な殺気。赤いガンダムがビームサーベルを構える。ジークアクスがライフルの狙いをつける。
*
疾風の迅さで、ジフレドが動いた。
*
ジフレドの右手刀が、赤いガンダムを襲う。赤いガンダムは、精妙な機動でそれを躱した。いや、シュウジはそのつもりだっただろう。ジフレドが赤い輝きに包まれるその瞬間までは。ゼクノヴァ……その本質は転移現象だ。躱したはずのジフレドは、赤いガンダムが躱した先の場所に出現する。シュウジは叫ぶ。
『くっ!』
シュウジの赤いガンダムは、ぬるりとした様な動きでジフレドの手刀を避けようとする。だがジフレドの手刀は、赤い輝きの空間を突き抜けて、『遠隔で』赤いガンダムの右腕を肩口から抉り取った。
『シュウジ!!』
ジークアクスが、割って入ろうとする。だがそのジークアクスの前に、『もう1体の』ジフレドが現れて蹴り飛ばすと消える。
『うわあああぁぁぁ!!』
『……』
ゼクノヴァは、転移現象だ。ただの転移現象ではない。その移動方向は、時間軸にも及ぶ。別時間のジフレドを呼び寄せ、2体に、いやそれ以上に『分身』する事など容易だ。
そして赤いガンダムに対峙しているジフレドは、抉り取った赤いガンダムの右腕を拾い上げ、その手に握られていたビームサーベルを、汚い物でも捨てるかの様に放り捨て、踏みつぶす。ジフレドは次に、赤いガンダムの右腕を自身の千切られた左肩に押し付けた。
赤い光が走り、赤いガンダムの右腕はジフレドの左腕へと姿を変える。まるで生物的な動きで。
『く……』
ふらふらと立ち上がった赤いガンダムに、ジフレドのビットが躍る様な動きで襲い掛かる。シュウジは赤いガンダムに、それを躱させた。だが躱した先に、ジフレドが出現している。赤い輝きを通り抜けて。
無数の手刀が、赤いガンダムを襲う。赤いガンダムの左腕が宙を舞う。右脚が吹き飛ぶ。左脚が消し飛ぶ。ジフレドのビットがビームを放ち、赤いガンダムの首が飛んだ。その胴体が、無重力の空間を漂っていた。
『ぐっ……』
『シュウジ!!』
ジークアクスが必死でバーニアやスラスターを吹かして寄って来ようとするが、その都度空間から別のジフレドが出現して、殴り飛ばし、蹴り飛ばす。ジフレドの右手に赤い光が集約し、先にジークアクスとの戦いで喪失していたビームライフルが出現した。ジフレドは、赤いガンダムの胴体、
『シュウジイイイィィィ!!』
『……』
永劫とも一瞬とも思える時間が過ぎる。ジフレドはビームライフルを下ろした。そして宙を漂う赤いガンダムの胴体を捕まえると、ジークアクスに投げつける。
『ぐう!』
『シュウジ! 大丈夫!?』
『マチュ、『ソレ』をわたしの見えないところに連れてって。はやく』
『え……。にゃ、あん?』
『やっぱり気付いてなかったんだ。やっぱり、その程度だった、んだ』
ニャアンの声は、ひたすらに平板で、ひたすらに冷たい。
『『ソレ』のお大事の
『ニャアン……』
『キシリア様の声も、聞こえない。もう、わたしには何もない。誰もいない』
ジフレドは踵を返すと、白いギャンが
……いや、進めようとした。
*
爆発。
*
一条のビームが、ジフレドを吹き飛ばす。吹き飛ばされたジフレドは、床面に叩きつけられた。
『ぐあぅ!!』
『な! ど、何処から!』
ジークアクスの首を巡らせたマチュは、今の今までその気配を隠しきっていた、宙に浮く大型
『ジ……オング?』
『ほう? 『読み取れ』るのか。かなりのニュータイプのようだな』
『え……。赤い……彗星?』
『凄いな、そこまで『聴こえる』とは』
ジオングは、シャアは、シャロンの薔薇へと降りて行く。先頃までジフレドがはまり込んでいた、その制御パーツへと、向かって行く。
『な、何をするの!』
『わたしはニュータイプが、ニュータイプとして生きられる世界を創りたいだけさ。だが今の世では、ニュータイプは利用され、搾取され、排撃されるだけだ。
……力を、示す必要があるのだよ。圧倒的な。心配しなくていい。キシリアが企んでいた様な、地球壊滅などするつもりは無いさ。だが地球連邦も、ジオン公国も、徹底的に力を削いでおく必要は、あるな』
『そのために! そのためにシャロンの薔薇を! これ以上泣かせようっていうの! これ以上苦しめようと言うの!』
マチュは、アマテ・ユズリハは叫ぶ。絶叫する。そしてシュウジも声を上げる。
『『とうさん』! やめてくれよ! 『かあさん』にひどいこと、しないで!』
『君は、誰だ? わたしには、妻も子もいない』
『そんな!』
『あんたは、ララアの待ってた赤い将校さんじゃ、ないのかあああぁぁぁっ!!』
『ララアとは誰だ』
アマテとシュウジは、思い知らされる。これはララアが待っていた赤い将校さんでは無い、シュウジのとうさんではあり得ない。そして天空より、キケロガが舞い降りる。
『大佐!! おやめなさい!!』
『シャリア・ブルか。ひさしぶりだな』
『貴方はニュータイプがニュータイプとして生きられる世を、と言った! その貴方がニュータイプを苦しめてどうなさるんです!』
『生みの苦しみ、は何時の世にもあるさ』
『それを他人に押し付けるのは、間違いです! わたしの言えた義理ではないでしょう! けれど、そのやり口が、あまりにも汚い!』
キケロガが変形し、
『馬鹿な! いや、違う! ゼロサイコミュが!?』
『ジオングに積まれているインフィニティサイコミュは、他のサイコミュを押さえ込む力がある。だからこそ、ジフレドもジークアクスも、動けないでいる』
そう、ジフレドは先ほどビームを受けて吹き飛んだ姿勢から、ぴくりとも動けないでいた。ニャアンは手動で機体を動かそうとしていたが、カッパサイコミュからの入力が優先され、どうにもならない。
アマテもジークアクスを動かそうとしていたが、ジークアクスはぴくりとも動かない。アマテは叫んだ。
『動いてよ! ジークアクス! 今動かなきゃどうにもならないの! 動け、動け、動け動け動け動けえええぇぇぇっ!!』
『ぐおおおっ!!』
キケロガが、操縦不能状態で床面に落着する。破片が散り、転がる。シャアは優しい口調で語った。
『シャリア・ブル。もう一度、わたしの同志になれ。そうしてくれれば、わたしも嬉しい』
『ぐふっ……。お断りします、シャア大佐。よくわかった。わたしと貴方は似て非なる存在だ。そして相容れるものでは、ない』
『……残念だ』
ジオングは、ビーム砲になっている指先を、ゆっくりとジフレドに向ける。
『わたしの他に、イオマグヌッソを制御できる存在に、居てもらっては困るのでな』
『死んで、死んでたまるもんか。エグザベ少尉が助けてくれたんだ。それを無駄になんか、させない……!』
ジオングの指先から、5条のビームが迸った。
*
ビームは、ジフレドから大きく外れる。ジオングの右胸から、白い槍先が突き出ていた。背後から突き込まれた
シャアの焦った声が聞こえる。
『な!?』
『ぐ……カハッ……。ニャアンを殺させは、しない』
『エグザベ少尉!?』
『エグザベ君!?』
ニャアンの声が、シャリアの声が、歓喜の叫びが響き渡る。エグザベのギャンは槍を引き抜き、また突き入れ、また引き抜き、また突き入れる。ジオングはもはや大破し、その機能を果たせない。
『馬鹿な! サイコミュ機体がジオングの周囲で動けるわけがない!』
『ギャンにはサイコミュなんて、積まれちゃいない!』
『!? 馬鹿な!?』
シャアは必死でジオングの頭部、脱出カプセルを機体から分離させ、離脱を図る。だがエグザベはそれを許さない。
エグザベのギャンは、床面に両足を踏ん張り、右手に持った『ハクジ』を上空に突き上げる。狙いは天頂方向に逃走する、ジオングヘッドだ。『ハクジ』の切っ先から、Iフィールドさえ無ければあのビグザムをも破壊できる強烈なビームが打ち上げられる。ジオングヘッドから、苦し紛れのビームが撃たれる。
そして『ハクジ』のビームがジオングヘッドを貫く。ジオングヘッドのビームが、ギャンの右腕と右脚を融解させる。
『馬鹿な! わたしが! こんなところで!』
シャアの最期の叫びが、その場の全員の脳裏に響いた。しかしニャアンはそれに目もくれず、脱いでいたヘルメットを着用するとジフレドの
ギャンの胸元へたどり着くと、緊急用メンテナンスハッチを開けて外部から
『エグザベ少尉、大丈夫?』
『っはは、は。大丈夫、と言いたいところだけど。ちょっと重傷かな。今の今まで意識失ってたし』
『もう。そういうところです』
それを見遣りつつ、アマテは呟く。
『白い
『マチュ……。とうさんが、とうさんじゃ、なかった。かあさんも、かあさんじゃ、ないのかな。ガンダムの声、
シュウジの声には、感情が乗っていない。アマテは、彼のことを何もわかっていなかった事を、改めて思い知らされる。
『……何も、できなかったですね』
『ヒゲマン……』
ニュータイプの力が無くても、シャリア・ブルの深い悔恨は感じ取れる。アマテには、シャリアにもシュウジにも、かけられる言葉が無い。彼女は勉学と人付き合いをおろそかにしていた事を、強く悔やむ。
ジフレドの
『ありがとう、コンチ』
嬉し気に聞こえる電子音が響く。ここは空気無いから、通信に乗せて電子音を送っているのかと思うと、器用な真似をするものだ。
『エグザベ少尉、ノーマルスーツの注入口出して。鎮痛剤』
『ああ、ありがとう。だけど、これからどうしたものかな。たぶん、キシリア様ももう……』
『わからない、でも』
『ん?』
ニャアンは意を決して、口を開く。
『たとえどうなろうと。これからも、ずっと一緒に居てください』
『そう、か……。うん、僕もよろしく頼むよ』
エグザベのヘルメットの奥で、涙が光る。
『僕にはまだ、帰れる場所があるんだな。こんなに嬉しいことは無いよ』
というわけで、11話直前妄想100%のジークアクス捏造話です。エグザベ君が、GQ世界のアムロそのものではないにせよ、アムロの位置にいる人間では? という考察動画とか観まして。