公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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醜悪な小人

……………………

 

 ──醜悪な小人

 

 

 俺たち偵察を行っていたレイヴン・ユニットを回収して、それから南部に合流地点に向けて進んだ。

 

「しかし、大変な目に遭ったみたいだな?」

 

 湊がレイヴン・ユニットの職員に暇つぶしとでも言うように話しかける。

 

 合流地点はカルテルの防空コンプレックスの射程圏外に位置しているが、その防空コンプレックスがなかなか広大なのだ。

 

 旧式のロシア製地対空ミサイル(SAM)サイトが確認されただけでも8か所ほどあり、さらに歩兵が携行するMANPADSの類も確認されている。

 

「ああ。パワード・リフト機が迎えに来れないと聞いたときはぞっとしたよ」

 

 レイヴン・ユニットの職員はそういってカモフラージュの黒いドーランを塗った顔に疲れた表情を浮かべた。

 

「実際のところ、カルテルの抗争は激しいのか?」

 

「かなりな。だが、これは公社の作戦が成果を上げている証拠だ。連中は少なくなったパイの奪い合いに必死なのさ」

 

 俺が尋ねるのにそう答えるレイヴン・ユニット。

 

 これまでドラッグ対策は公社の存在意義の大きな割合を占めていた。

 

 ダンジョンで栽培される違法薬物は、日本の治安の悪化に直結する。そうであるが故に公社はドラッグカルテルへの攻撃を集中していた。

 

 ドラッグカルテルの構成員を殺害し、原料の植物に枯葉剤を撒き、ドラッグを処理する。それを公社は設立された当初からずっと行っていた。

 

「オーケー。そろそろ合流地点だ」

 

 湊がそういうと装甲車が速度を落とし始めた。

 

 合流地点には目立ったランドマークはないが、パワード・リフト機が問題なく離着陸できる広い平原が位置している。

 

「こちらハングドマン・ワンより本部(HQ)。レイヴン・ユニットを合流地点まで連れてきた。迎えのリムジンを頼む」

 

本部(HQ)、了解。リムジンをそちらに向かわせている』

 

 これで俺たちの任務は完了だ。

 

「じゃあ、レイヴン。俺たちは引き続き仕事がある」

 

「ああ。頑張ってくれ、ハングドマン」

 

 俺たちは合流地点でレイヴン・ユニットを降ろし、篠原から依頼されていたゴブリンの調査へと向かうことに。

 

「しかし、ゴブリンの何を調査すればいいんだろうな?」

 

「さあ? 篠原が言っていたのは、やつらが環境の変化を示すということだから、また大移動する兆候がないが調査するとかそこら辺じゃないか?」

 

 俺たちがそんな会話をしていたときだ。

 

『はははっ! そんなこともあろうかと!』

 

 不意に車内に篠原の大声がしたかと思うと、マオの下げていた鞄から何かが這い出てきた。

 

「わあ!」

 

 マオがびっくりする中、姿を見せたのは八脚の超小型無人地上車両(UGV)だ。

 

『こんなこともあろうかと私も君たちの映像をリアルタイムで見れるように、このスパイダー君を忍ばせておいたのだ!』

 

 かさこそと動くそれから篠原の声がする。

 

「へえ。随分と面白い装備だな?」

 

『そうだろう? 公社がとある企業と開発したものだ。前々から私もフィールドワークに出たかったのだが、理事会の許可が降りなくてね。そこでこの無人地上車両(UGV)を派遣することにしたのだよ』

 

 篠原からスパイダーと紹介された無人地上車両(UGV)は興味を示す湊にちょいと足を上げて見せた。

 

「どれくらい稼働時間があるんだ?」

 

『省エネモードを挟めば76時間は行動可能だ』

 

 湊はこういうギミックが好きで、とりあえず弄りたがる癖がある。

 

「くも! くも!」

 

「そうだな、マオ。クモだな」

 

 マオは不安そうにちょいちょいと自分の隣の座席に鎮座したスパイダーをつつく。

 

「くも、どく、だいじょうぶ? かまない?」

 

「大丈夫だ。これは篠原のペットだからな」

 

「しのはらの……」

 

 そして湊が安心させるようにそう言い、マオはじっとスパイダーを見つめた。

 

『さて、何を調査していいか困っていると言っていたね。そこで私が支援しようじゃないか。とりえあずゴブリンの生息地まで向かおう。君たちのODINにアクセスさせてくれれば、ナビをするよ』

 

「了解。アクセスを許可」

 

 俺は篠原からリクエストされていたアクセス要求を許可する。

 

『オーケー! では、この地点まで向かいたまえ!』

 

 篠原がそう言い、俺たちは車両をゴブリンの生息地に向けて進める。

 

 ゴブリンたちには人間ほどの知能はないが、部分的に道具を利用するなど全く知能がないというわけではない。暮らしている場所も自然にできた洞窟やカルテルや企業が放棄した車両などと隠れられる場所を選んでいる。

 

 だからこそ、厄介なのだ。

 

『そろそろだね。ドローンを飛ばしてみたまえ』

 

「あいよ、先生」

 

 篠原から指示を受け、湊がドローンを上空に放つ。

 

 ドローンからの映像が湊を経由して俺たちに共有される。ドローンは南部に広がる山林地帯を赤外線センサーで見渡す。

 

「熱源を確認。AIの分析によればゴブリンだ」

 

 森の中にいるゴブリンをドローンが捉え、湊がマークする様子を見た。

 

 ゴブリンは体長1メートル程度で、小人のようだ。しかし、おとぎ話の小人と違って敵対的かつ攻撃的である。

 

『さて! では、その地点まで向かってゴブリンの巣を探そう。巣の中は私が調べてくるので、君たちは私を護衛してくれたまえ』

 

「それ、ゴブリンに壊されないか?」

 

『はーはっはっはっは! このスパイダーは口径14.5ミリ大口径ライフル弾にだって耐えられる設計だ。ゴブリンごときには壊せないよ』

 

「それならいいが。壊されたらもったいないからな」

 

 湊は篠原の言葉に頷き、それから俺たちは車両を降りて、ゴブリンの生息している森の中へと向かった。

 

『おっと。マオも連れて行ってくれ。彼女の意見が聞きたい』

 

「マオを? 危険だぞ」

 

『君たち、どうして私がマオを同行させたのか忘れたのかね? 彼女は6階層から1階層まで突破してきたサバイバーかもしれないのだよ。それを確かめたいのだ』

 

「クソ。佐世保、協力してくれるか?」

 

 湊が悪態をつき、俺の方を見る。

 

「ああ。マオの面倒は俺も見る。行こう」

 

「オーケー」

 

 俺はマオを常に視界に入れるように心がけ、マオをまずは車両から降ろした。篠原が野外での活動を考慮していたのは間違いないようで、マオは厚手のシャツとズボンでしっかりと肌を守っている。

 

「前進開始」

 

 いつも通り湊が斥候(ポイントマン)を務め、マオが続き、俺が最後尾を守る。

 

 篠原が遠隔操作しているスパイダーはマオの頭の上だ。

 

『周囲にあるものをスキャンしたい。少し止まってくれ』

 

 ときどき篠原がそう言い、立ち止まって周囲のものを調査。

 

 篠原が興味を示してるのは、木々に付けられた独特の傷跡や積み上げられた石だ。

 

『これはゴブリンが縄張りを主張するために設置するオブジェだと思われている。マオ、君はこれに見覚えがないかな?』

 

「これ、きらい。ひとくいおにたち、いっぱいいる……」

 

『ふむ』

 

 マオが険しい顔をするのに篠原はそう言ってオブジェとやらを記録していく。

 

「そろそろゴブリンと接触する。篠原、以後の会話はODINを通せ」

 

『了解だ』

 

 俺が湊から送られてくる索敵情報を見て指示を出すのにスパイダーが足を上げて了解の合図を送ってきた。

 

 さて、醜悪な小人の縄張りに突入だ。

 

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