公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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ゴブリンを襲ったもの

……………………

 

 ──ゴブリンを襲ったもの

 

 

 俺たちは篠原の依頼でゴブリンの生態調査を行うべく、やつらの巣穴に接近している。もうすぐそこがゴブリンの縄張りだ。

 

「湊。ゴブリンの数は分かるか?」

 

「19体だ。全部が平均的な個体だとAIは言っている」

 

「了解」

 

 湊は既に敵を全て捉えている。

 

 ドローンによって、エンハンサーの技術によって。

 

「篠原。ゴブリンが生きて何をしているのかを確認したいわけじゃないだろう?」

 

『まあ、そういってしまえばその通りなのだがね。だが、できれば生きて行動している様子も見させてほしい。皆殺しにする前に少し見せてもらえばいいんだ』

 

「了解だ。皆殺し前にちょっとばかり偵察しよう」

 

 ゴブリンは前述したように狂暴で攻撃的だ。

 

 しかも、群れで行動する。それが面倒な点。

 

 そして、俺たちは別に猛獣の取り扱いに訓練を受けたレンジャー隊員ではない。なので、最初からゴブリンを皆殺しにすることは確定事項だった。下手に活かしたまま観察しようとして、犠牲者を出してはならない。

 

「湊。敵に警戒しながらドローンを低空飛行させて、ゴブリンどもを映してくれ」

 

「あいよっと」

 

 湊が操作しているドローンを森の中まで降下させ、熱赤外線ではなく、そのままの姿で映すように飛行させる。

 

『ふむふむ。ゴブリンたちが群れているね。群れのように変化は、と』

 

 ドローンの映像をODIN経由で篠原が共有し、やつは考え込むように映像を見ていた。

 

『やはり、やはりだ。オスが多く、メスが少なくなっている』

 

「それは何を意味するんだ?」

 

『ゴブリンは1匹のオスに何匹ものメスが従って生きているライオンのような生態をしている。これは多くの野生動物にある理にかなったことでね。強いオスが子供を多く作り、次世代はより生存性を高めるということに繋がる』

 

「ふうん?」

 

『しかし、男女のバランスが崩壊すれば、そんなことは言ってられない。今のゴブリンたちのように複数のオスを群れに含めなければ危険にさらされる状況なのだろう』

 

「なるほど。つまり、ゴブリンを追い詰めた何かがいる……」

 

 篠原の説明に俺は頷いた。

 

『その何かついて手掛かりがほしい。巣穴まで連れて行ってくれたまえ』

 

「了解だ、先生」

 

 湊と俺は篠原の指示に頷き、ゴブリンの巣穴を目指す。

 

「さて、ここからは射撃自由(ウェポンズ・フリー)か?」

 

「ああ。全て殺してから調査だ。順番は間違わない」

 

 俺たちはゴブリンの掃討を開始。

 

 ゴブリンたちは人間より嗅覚と聴覚に優れると言われている。しかし、軍用犬のそれには及ばず、センサーの感度はそこまでの脅威にはならない。

 

「東から西に殲滅しながら進む」

 

「了解」

 

 俺の指示に湊が頷き、やつは慎重に東から索敵を密にし、殺し損ねることがないように網を張る。湊から逃れられる獲物など存在するはずもないが。

 

 最初の獲物は餌でも探しているのか、それとも斥候なのか分からないが、単独行動しているゴブリンだ。

 

交戦(エンゲージ)

 

 湊は俺に合図して射撃を開始。サプレッサーで抑制された銃声がかすかに聞こえる中で放たれた高初速ライフル弾がゴブリンの頭を弾き飛ばす。

 

「前進」

 

 次の獲物は5体のゴブリン。いずれも石を握っている。あれは殴打武器となり、投擲武器となる。拳サイズの石の投擲というのは、存外馬鹿にならない脅威になるものだ。

 

「俺は北に回る。十字砲火だ」

 

「マオはそっちに?」

 

「いや。お前が見ていてくれ。いざとなれば俺は接近戦に出る」

 

「了解だ」

 

 俺は湊とマオの位置からやや北上し、南の湊と北の俺という位置でゴブリンたちに十字砲火を浴びせる準備を整えた。

 

「位置に着いた。3カウント」

 

『オーケー。3カウント』

 

 俺がODIN経由で湊に指示を出し、3秒のカウントが始まる。

 

 3、2、1、0。

 

 俺と湊は同時に発砲し、当然の十字砲火に襲われたゴブリンがミンチになる。数回の射撃で5体のゴブリンは反撃することもできず、完全にひき肉と化した。

 

「前進再開だ」

 

 俺は湊の下に合流し、再び東から西に向けて前進。

 

 ゴブリンたちはまだ以上に気づいておらず、俺たちは静かに獲物を片付けていく。

 

 俺は仕事をしながら、ほの暗い嗜虐心を満たしていた。

 

 ショットガンから放たれたペレットがゴブリンを粉砕したときはやはり快楽を感じる。俺の知っていた日常に入り込んだ異物どもが、醜く死んでいくのは何よりも楽しく、嬉しいものだ。

 

「あと4体か。他に増える様子は?」

 

「……! 待て。何かが近づいてきている。ゴブリンじゃない。空からだ」

 

 湊がそう警告するのに俺はまずマオを伏せさせ、次に自分が伏せた。湊もすぐに伏せて上空に飛ばしたドローンを操って近づく敵の正体を探る。

 

「ギャッギャッ!」

 

 ゴブリンたちもこれには気づいたのか騒ぎ始めたときだ。

 

 森の草木を貫いて何かが落下してきた。いや、降下だ。鳥が水の中の獲物を捕らえるときのような急降下してきたのは────。

 

「ドラゴン……」

 

 そう、赤い鱗をしたドラゴンが降下してきて、ゴブリンたちを襲った。

 

 ドラゴンは巨大な腕で逃げようとするゴブリンを捕え、また逃げおおせようとしたものには火炎放射を浴びせる。

 

「くっ……!」

 

 その火炎放射を見た湊の表情が険しくなった。

 

 やつはこの手の火炎放射によって自分の皮膚と目を失ったのだ。

 

 それからしばらくドラゴンはゴブリンたちを貪ると、満足したのか飛び去った。

 

『なるほど、なるほど。ゴブリンたちを追い詰めたものの正体が分かったね』

 

「ああ。空飛ぶトカゲには小人も勝てない」

 

 知的欲求が満たされたのか、篠原は満足そうであった。

 

「クソ。あの忌々しいドラゴンが2階層以降のクリーチャーじゃなかったか?」

 

「これまでは。どうやらダンジョン内の環境変化というやつらしい」

 

「最悪だな」

 

 湊はやはりあの手のクリーチャーに不快感が大きいようだ。

 

『マオ。君はあれを知っているか?』

 

「しってる。あか、きけん。ひと、たべる。だけど、くろ、かみさま。えらい」

 

『神様?』

 

「かみさま」

 

 マオはそう繰り返し、篠原は遠隔操作先でも首を傾げているのか、スパイダーが姿勢を傾けさせる。

 

『ふむふむ。信仰があるというわけか。今のところ公社では黒いドラゴンは確認していない。やはり、マオは私たちがまだ知らない階層から来た可能性がある』

 

 今のマオの話で篠原はそう推測したのだった。

 

「先生。巣穴はやはり調べるのか?」

 

『もちろんだ。当初の目的は忘れていないよ』

 

「じゃあ、とりかかろう。ゴブリンはいなくなった。1匹もな」

 

 篠原にそう言われて俺たちは篠原が操るスパイダーを巣穴まで運んだ。

 

「巣の中にもゴブリンはいない」

 

「オーケー。あとは好きなだけ調べてくれ、篠原」

 

 俺たちは篠原のスパイダーを巣穴に送り出した。

 

 スパイダーはかさこそと巣穴の中に入っていき、30分程度調査を行ったのちに、俺たちのいもとに戻ってきた。

 

『やはりドラゴンの脅威は明白だったようだ。中には火傷が原因で死んだゴブリンの死体がわんさかとあった。それから黒焦げの他のクリーチャーたち。間違いなくドラゴンはこの1階層に生態系を掻きまわしている』

 

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