公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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2階層に向けて

……………………

 

 ──2階層に向けて

 

 

 俺の検査はいくつかの段階に分けて行われた。

 

 まずは組織片を採取して、それに対して実験を行う段階。

 

 それから得られた情報を元にコンピューター上でシミュレーションを行う段階。

 

 最後は俺自身への実験を行う段階。

 

 俺は篠原に協力し、実験を進めていった。

 

「分かったことは」

 

 篠原が告げる。

 

「何も分からないということだ!」

 

「なんだ、それは」

 

 篠原の言葉に俺はそう突っ込む。

 

「分からないものは分からないのだ。君の細胞は別に変質してなどいない。だが、どういうわけか外部からの強い刺激に対して強固になっている。仮に炎を浴びても細胞は変質せず、君は火傷すら負わない」

 

「ふむ。健康に被害はあるのか? 仕事に支障は?」

 

「ないだろうね。ただ、君はますます人間から離れたというだけだ」

 

 俺の問いに篠原はそう答え、お手上げだと言うように去った。

 

 それから俺は公社の仕事に復帰。

 

「よう、佐世保。ようやくモルモットから解放か?」

 

「ああ、湊。仕事をやろう」

 

 俺はそう言い、事務所に椅子に座る。

 

「今、問題になっているのは2階層の偵察だ。1階層はお前がモルモットにされている間に概ね把握できた。ドラゴンの出現によって生じていた混乱は、今はもう急速に鎮静化しつつある」

 

 湊はそう説明。

 

「となると、問題はドラゴンはどこから来たのか。そして、再び出現する可能性があるかだ。それを調査するためにも2階層を目指すことになっている」

 

「把握した。2階層にはいつ?」

 

「それが未定だ。ここ最近、1階層での仕事ばっかりだろう? そのせいで村瀬が2階層の調査に慎重になっているところがある」

 

「ふむ。まずは俺たちを放り込んで大雑把に状況を把握するというのは?」

 

「どうだろうな。理事会が何か言ってくるかもしれない」

 

 あたしたちのボスは村瀬じゃなくて、理事会だぜと湊。

 

「今は待つしかなさそうだな……」

 

 俺はそう言い、椅子の背もたれに寄り掛かった。

 

「他に仕事は?」

 

「特にない。カルテルの連中も今は行動が低調だ。活発なのはドラゴン襲撃事件で受けた損害を取り戻そうとしている企業ぐらいだ」

 

「それはある意味いい知らせだな」

 

 1階層で問題になってるほとんどの案件はカルテル絡みだ。連中が静かということは、1階層にはさほど問題はないということを意味する。

 

「篠原はマオを連れていくことを考えているらしい」

 

「マオが辿った道を通って2階層へ?」

 

「ああ。そういうことだ。これまであたしたちが利用してきた2階層への出入り口以外の出入り口があるかもしれないと」

 

「ふむ……」

 

 それは確かに把握しておきたいことだ。もし、公社が把握していない抜け道のようなものがあるならば、いろいろと問題になってくる。

 

「それにマオを故郷に帰してやりたいってこともある。マオもいつまでもここにいるのは不安だろうしな」

 

「お前は本当に優しいやつだよ、湊」

 

 俺には赤の他人を心配するという気持ちは今やほとんどない。人々はダンジョンの出現とともに同じように滅茶苦茶になってしまったのだ。

 

「それはどうも。ちょっとマオの様子を見に行ってくる。お前はどうする?」

 

「他にやることもない。付き合おう」

 

「お前もおおむね優しいやつだな」

 

「そうかもな」

 

 俺たちはそう言葉を交わして、地下にある研究室に向かう。

 

「篠原。マオは?」

 

 湊が研究室を見渡し、マオの姿がないのに気付いて尋ねる。

 

「今、検査中だ。彼女がここ数日で必要な栄養素を取れているか、それを確かめるためにね。やはり地球外生命体と我々では必要な栄養素は異なるだろうから」

 

「そうか。大丈夫そうなのか……?」

 

「それが分からないから検査しているんじゃないか! 何とも言えないよ!」

 

 湊の問いに篠原はシリアルバーを食べながらそう返す。

 

「とは言え、今のところ検査結果は良好だ。問題ないようだよ。しかし、これが意味するのはダンジョン内の生命もまた地球起源の生命と似たような進化をしてきたということになるのだが……」

 

 科学者らしい懸念。俺たちには理解も及ばない。

 

「篠原。公社は近々2階層の探索に出る。もし、マオが6階層から来たのだとすれば、あいつが辿った道を辿りたい。協力してくれるように頼めるか?」

 

「それは彼女次第だね。私としても興味のある話ではあるが」

 

 篠原も興味はあるだろうと思っていた。

 

 6階層の存在は重大な懸念だ。それはダンジョンが拡大しているという不気味な事実であるからにして。

 

「みなと、させぼ!」

 

 ここでマオが戻ってきた。

 

「おお。マオ、元気にしていたか?」

 

「うん。みなとは?」

 

「元気だよ」

 

 相変わらず湊はマオに親しくている。

 

「マオ。お前は自分がどこから来たか、分かるか?」

 

 俺は屈んでマオと視線を合わせてそう尋ねた。

 

「マオ、ずっとずっと、したからきた。にげてきた」

 

「逃げた?」

 

 マオの言葉に俺たちは眉を歪める。

 

「マオのむら、おそわれた。だから、みんな、にげた……」

 

「襲ってきたのはドラゴンのような存在かね?」

 

「ちがう。もっとあぶないおばけたち」

 

「おばけ……?」

 

 マオの言葉に篠原が考え込む。

 

「マオ。お前は自分の故郷に戻りたいか?」

 

 ここで湊がそう尋ねた。

 

「……もどりたい。けど、ここもすき!」

 

「そうか。じゃあ、焦らずゆっくり進めていこう。ここにはいくらでもいていいからな。誰もマオを嫌ったりしていない」

 

 相変わらずのお人よしだな。だが、そこが湊が人間らしい点だ。俺とは違って。

 

「マオ。お前は下から来たのだろう。そのときに通った道は覚えているか?」

 

「おぼえてる。させぼたちも、下、いく?」

 

「ああ。下に行きたいんだ。案内を頼めるか?」

 

「うん。まかせて」

 

 マオはそう言って引き受けてくれた。

 

「同行してもらうなら、マオのための装備がいるな」

 

「ああ。戦闘も考慮する必要がある。2階層はクリーチャーも人間の敵性勢力も無視できない規模で存在しているからな」

 

「分かってる。あとであたしが申請しておく」

 

 2階層はクリーチャ-の脅威が高まり、さらには犯罪者たちも大きな脅威となる場所だ。十分な準備をしておく必要があるだろう。

 

「では、またあとでな、マオ」

 

「うん。またね、みなと、させぼ!」

 

 湊がマオに別れを告げ、俺たちは2階層の探査に向けた準備を進める。

 

 長期の偵察任務になることに備えることは決定しており、武器弾薬はもちろん医薬品や食料、水についても入念に準備することになった。

 

 そして、理事会から2階層の偵察作戦にゴーサインが出たのは、準備を始めてから3日後のことであった。

 

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