公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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未確認の階段

……………………

 

 ──未確認の階段

 

 

 俺たちは準備を整え、いつでも2階層に向かえるように待機した。

 

 そして、理事会からゴーサインが出ると、早速動き出す。

 

「まずはマオが通ってきた道を使って2階層を目指す」

 

 俺は作戦を再確認する。

 

「2階層に降りたのを確認したら、2階層の公社基地まで移動。そこで次の偵察の準備を整える。まずはこれだけだ」

 

「オーケー。早速始めようぜ」

 

 俺の言葉に湊が頷き、俺たちはまずはマオを迎えに行った。

 

「マオ。ついて来てくれるか?」

 

「うん!」

 

 マオも準備を整えており、子供サイズの装備を身に着けていた。ヘルメットや目立たず頑丈な衣類に身を包み、怪我をしないようにしている。

 

「待ちたまえ、佐世保君。これも持っていくのだ!」

 

 篠原がそう言って差し出すのは、無人地上車両(UGV)のスパイダーだ。

 

「俺たちはまだ2階層に向かうだけだぞ」

 

「それでもだよ。ダンジョンには変化が起きている。それを逃さず見届けたい!」

 

「はあ。分かった、分かった。これも持っていく。それでいいんだろう」

 

「もちろんだ!」

 

 俺たちは篠原のスパイダーを預かると、それを持ってガレージに向かった。

 

「車両の準備はできてるぞ」

 

 ガレージには装甲車が準備されていた。

 

「よし。出発だ。マオ、道案内を頼む」

 

「まかせて」

 

 湊がハンドルを握り、俺たちはマオが使った通路を探すために出発。

 

 装甲車は公社の施設を出て、まずは俺たちがマオと遭遇した場所を目指す。

 

「カルテルの動きは低調なものになっている。作戦前の偵察の結果じゃ、俺たちが枯葉剤を撒いた花畑付近にはもうカルテルの動きはないようだ」

 

「いい知らせだな。可能な限り想定外の交戦は避けたい」

 

 マオと俺たちが出会ったのは、カルテルがドラッグの原材料になる植物を栽培していた場所の近くで、カルテルの勢力圏のはずだった。

 

 だが、先の俺たちの作戦とドラゴンの出没が、そこを権力の空白地帯にしたようだ。

 

 俺たちは一応交戦に備えながらも、装甲車で進み続ける。すると、枯れた花畑が見えてきて、俺たちが枯葉剤を撒いた効果が顕著に表れているのが分かった。

 

「この近くだな」

 

「敵は?」

 

「この付近にはクリーチャーも人間もなしだ」

 

「いい知らせだな」

 

 カルテルがいたら少しばかり面倒なことになっていた。

 

 俺たちの今回の任務はあくまで調査であり、戦闘ではない。一応戦闘に備えていると言っても自衛目的の武装であり、こちらから積極的に敵との交戦を求めるものではないのである。

 

 そうであるからにして、カルテルを排除しないでいいことは幸運であった。

 

「マオ。ここであたしたちは君に出会った。ここに来る前はどこにいたんだ?」

 

「こっち!」

 

 マオが指さす先に向けて俺たちは車両を進める。

 

 装甲車は枯れた花畑を出て、草原に入り、そこからさらに進む。マオは港の横で進路を確かめており、俺は敵との遭遇に警戒していた。

 

「この先には何があった?」

 

「特にこれと言ったものはなかったと思うが」

 

 俺は進んでいる先に何があったのか気になって港に尋ねるが、湊も状況を把握してはいなかった。

 

『その先には企業が1階層を攻略していたときに作られた物資集積基地の跡地があるね。それ以外に目立ったものはないよ』

 

 ここでスパイダーから篠原がそう知らせてきた。

 

「物資集積基地の跡地か……。あまり調査していない場所だな」

 

「脅威になりそうなものはないって分析だったからだろ?」

 

 公社は犯罪組織や企業の動向を常に調べていたが、全てを網羅しているわけではない。特に1階層より下になると偵察作戦すらも困難になってしまう。

 

 だから、今回の深部偵察は大ごとなのだ。

 

『そろそろその物資集積基地が見えてくるはずだよ。マオにその近くなのか聞いてみてくれるかね?』

 

 篠原が知らせるのに俺たちはマオの方を向く。

 

「マオ。この近くなのか?」

 

「うん。このちかく」

 

 マオが指さして示すのに企業が作った物資集積基地が見えてくる。

 

 それはちょっとした軍事基地で、有刺鉄線の巻かれたフェンスにとヘスコ防壁に覆われた場所であった。

 

「あのなかから、きたよ」

 

「物資集積基地の中か?」

 

「あのなか!」

 

 マオは確実に物資集積基地を指さしている。

 

「車を止めて、ここから徒歩で移動しよう。企業が置き土産に地雷を仕掛けていった可能性もある」

 

「了解。調べておく」

 

 湊のセンサーは地雷にも反応させることができ、それによってブービートラップの有無を確認することもできた。

 

「地雷はないようだ。ついで言えば人間もクリーチャーも存在しない」

 

「ふむ。完全な無人か……」

 

 俺たちはマオを連れて物資集積基地のゲートに近づく。

 

 物資集積基地の入り口にはこれが企業の保有するものであり、立ち入れば武力行使で排除するという旨の注意書きがあった。

 

「カギはかかってない」

 

「トラップに警戒しろ」

 

「了解」

 

 湊がゲートのカギを確認し、ブービートラップの類がないかを確認したのちに、俺たちは物資集積基地内に踏み込んだ。

 

「何もないな」

 

「ああ。せいぜい放棄されたコンテナがあるぐらいだが」

 

 俺たちは素早くクリアリングしてから、内部を確認した。そこには敵もいなければ、何かの役立ちそうなものもなかった。

 

「マオ。ここのどこから来たんだ?」

 

「こっち」

 

 マオが進むのに俺と湊が周囲を警戒しながら援護する。

 

「ここ!」

 

 マオが指さした先には────。

 

「こんなところに地下への入り口だと…………」

 

 放棄されたコンテナの間に地下に向けて穿たれた穴を見つけた。それは人ひとりが余裕をもって潜れるもので、穴からはかすかに光が輝いている。

 

『なんと。未発見の階段だ! やはりダンジョンは変化している!』

 

 篠原はその様子を見て喜んでいたが、俺たちには疑問がある。

 

「これは誰かが作ったものなのか? それとも自然に生まれたものなのか?」

 

「作れるとしたら、これまでのダンジョンの常識が崩れるな……」

 

 ダンジョンの1階層から2階層に至るまでの道のりは固定されている。

 

 というのも異常空間であるダンジョンにおいて1階層から2階層に至るまでの方法は、単なる上から下への移動ではないからだ。

 

『そうだね。そもそもこれが2階層に繋がっているという保証もないわけだが。まずは無人地上車両(UGV)を送り込んで調べなければね』

 

「ああ。それから2階層に繋がっているとして、2階層のどこに繋がっているかも」

 

『もしかすると2階層を飛び越して6階層に繋がっている可能性もあるからね』

 

 湊が言い、篠原がスパイダーの足を振って同意する。

 

 そう、単純な上から下への移動ではない。これは一種のテレポーテーションだと認識されている。ポータルと呼ばれる場所が出入り口になって、そこは空間が歪んでおり、一瞬で俺たちは未知の空間へと移動するのだ。

 

 だから、ただ1階層の地面を掘っても永遠に2階層には到達できない。

 

「マオ。間違いなくここを通ったんだな?」

 

「うん。ここからここに来た」

 

「そうか……」

 

 このポータルはどこに繋がっているのか…………。

 

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