公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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ブラックマーケット

……………………

 

 ──ブラックマーケット

 

 

 それから迎えのパワード・リフト機がカルトであるメイズトロジー教会のテリトリー内に侵入した。

 

 事前に地対空ミサイル(SAM)を排除しておいたので問題なくパワード・リフト機は俺たちを拾って脱出させてくれるはずだ。

 

 問題は送り狼がいるということである。

 

「カラシニコフで武装した集団が30名。こちらに向かっている」

 

「不味いな」

 

 カルトの縄張りからの脱出を目指す俺たちは、現在襲撃に気づいた敵部隊の追撃を受けているところだった。

 

「迎え撃つか?」

 

「それは絶対に弾が足りない。しかし、かといってリムジンとのランデブー地点まで追撃されると、脱出が困難になるな……」

 

 このまま追撃されるのは脱出が困難になる。が、敵を排除するには銃弾が足りない。

 

「こうなれば鬼ごっこをするしかないな。敵を撒くことに務めながら、可能な限り敵を排除する。それだけだ」

 

「了解。地雷をセットしていこう」

 

「やってくれ」

 

 湊は指向性対人地雷を退路にセットし、俺は周囲を警戒しながら密林の中に身をひそめる。俺にも敵が近づく足音が聞こえていた。

 

 対人地雷は条約で規制される兵器となっているが、このダンジョンには法もなければ条約の効力も及ばない。ここは無法地帯なのだ。

 

「セット完了」

 

 湊は対人地雷を敷設し終え、俺に合図。

 

「オーケー。このまま撤退だ」

 

 俺たちは密林の道なき道を進み、撤退を急ぐ。

 

本部(HQ)よりハングドマン・ワン。リムジンの到着予定時刻(ETA)0245(マルニイヨンゴ)だ。脱出地点までは向かえそうか?』

 

「敵の大部隊に追われている。それを撒くまで多少時間がかかる」

 

『了解。いざとなれば航空支援も可能だ』

 

「助かる」

 

 ODIN経由の本部(HQ)からの連絡に俺はそう返す。

 

 そこで地雷が炸裂した音が後方から聞こえてきた。

 

「不味いな。かなり迫られている」

 

「ああ。しかし、敵の数は減ったぞ。さっきの爆発で6名が死んだ。どうにかなるかもしれない」

 

 湊は生体電気センサーで敵の数を正確に把握している。先ほどの地雷の爆発による影響も捉えていた。

 

「だが、もう地雷は品切れだ。このまま追われると不味い」

 

「そうだな。敵はどうも犬を使っているらしい。振り切るのは難しいかもしれん」

 

 俺が危機感を示すのに湊は生体電気センサーに犬の反応を捉えていた。犬はこの耳朶においても攻撃にも、索敵にも使える軍用動物であり、面倒な敵だ。

 

「最悪、航空支援に頼って交戦するしかない」

 

 本部(HQ)は航空支援が可能だと言っている。ならば、それを頼るしかない。

 

「この人数で大乱闘か。ぞっとするな」

 

「仕方ないだろう。覚悟を決めろ、湊」

 

 湊が呻き、俺はそう言う。

 

 それからもカルトによる追撃は続き、俺たちは道なき道を進むが、追手は確実に俺たちの方に迫っていた。

 

 犬の吠える鳴き声と草木をかき分けて敵が進む音が背後から聞こえる。

 

「脱出地点までに撒けそうにない。こうなればやるぞ」

 

「了解だ。本部(HQ)に航空支援を要請しよう」

 

 俺たちは密林の中で遮蔽物を探して、そこに潜むと敵を迎え撃つことに。

 

本部(HQ)本部(HQ)。こちらハングドマン・ワン。航空支援を要請」

 

『了解。航空支援はいつでも可能。レーザーか発煙弾で目標を指示せよ』

 

「レーザーを使う。照準した目標を爆撃してくれ」

 

 俺は本部(HQ)に向けてそう連絡し、目標指示のためにレーザー照準器を取り出すとこちらに迫っているカルトの武装勢力に向けてレーザーを浴びせる。

 

『ウォーバード・ワンよりハングドマン・ワン。目標を確認した。爆撃を実行する』

 

 ここで武装したパワード・リフト機が上空に飛来し、ロケット弾で地上を爆撃。カルトたちが吹き飛ばされて行く。

 

「ハングドマン・ワンよりウォーバード・ワン。支援に感謝する!」

 

 俺は航空支援に例を述べ、残敵に警戒した。

 

「佐世保。敵は撤退を開始。逃げている」

 

「オーケー。このまま合流地点に向かおう」

 

 湊が生体電気センサーで敵を捉え、敵は撤退を始めたことを把握。俺たちは追撃がないことを確認してから素早くパワード・リフト機との合流地点に向かった。

 

 それから合流地点に到着し、合図のスモークを展開させるとパワード・リフト機が降下してきた。エンジンがかすかに響き、地上に向けて降下する。

 

「よう。任務は達成できたか?」

 

 パワード・リフト機の開かれた後部ランプからは、自衛用の重機関銃を操作するガンナーが俺たちを出迎えた。

 

「ばっちりだ。悪党は死んだ」

 

「流石だな、ブギーマン。さあ、乗れよ。撤退だ」

 

「ブギーマンはやめろ」

 

 俺たちはそれからパワード・リフト機に乗り込み、公社の拠点へと向かった。

 

 地上からの攻撃はなく、俺たちは何事もなく拠点に到着。

 

「佐世保、湊。任務は達成できたみたいだな」

 

「村瀬。2階層に降りてきたのか?」

 

「ああ。どうやたこれからの問題は2階層みたいだからな。情報によれば面倒な問題が持ち上がっているらしい」

 

 2階層に姿を見せた村瀬がそう言う。

 

「面倒な問題? それがホワイトを尋問した件に関係あるのか?」

 

「ああ。おおありだ。こっちで話そう」

 

 村瀬はそう言って公社の施設内に俺たちを招き入れる。

 

「問題となっているのは、ブラックマーケットって件だ」

 

「ブラックマーケット、か。また随分な話が出てきたが、このダンジョンでは珍しくもないだろう。ここでは武器から人間までこれまで何度も扱われているのを見ただろ?」

 

 ブラックマーケット。この無法地帯であるダンジョンでは珍しくもない代物だ。

 

「それがな。厄介なことに今回のブラックマーケットで扱われているのは、ダンジョン産のクリーチャーの標本らしい」

 

 村瀬はそう告げる。

 

「クリーチャーの標本?」

 

「ああ。ダンジョン内でクリーチャーを捕獲し、それを地上に向けて売買しているらしい。これが犯罪組織の連中の大きな財源になっているらしいんだよ」

 

「なるほど。ダンジョンのクリーチャーが地上にやたらと出回ると、問題になりそうだな。生物学的汚染ってやつは警戒されているんだろう?」

 

「ああ。それもある。それに純粋に今回のカルトのような連中の資金源になっているが問題だ。生物学的汚染ってやつよりも、そっちがメインだな。政府も国連も生物学的汚染ってやつは諦めちまっているから」

 

 確かにそうなのだ。ダンジョンが最初からダンジョン内に収まっているならばまだしも、ダンジョンは一度地上に溢れ、あちこちにクリーチャーが広がった。

 

 ダンジョンによる生物学的汚染は既に生じており、今さら僅かなクリーチャーが地上に漏れても気にするものはいない。そういうことだ。

 

「じゃあ、次はブラックマーケットを叩くのか?」

 

「そうしたいが、まだ情報が少ない。今、カルトや企業の通信を傍受して実態を掴もうとしてるが、連中も平文でぺらぺら喋るほど無警戒じゃないからな」

 

「なら、また偵察か」

 

 湊は村瀬の言葉にそう答える。

 

「全くのゼロから情報を探す必要はないんだ。実を言うと手掛かりはある」

 

「というと?」

 

「マオだ」

 

 ここでどういうわけかマオの名前が出た。

 

「ん? どうしてマオが出てくる?」

 

「マオはブラックマーケットで売られそうになっていたということを、篠原が聞き出した。マオはブラックマーケットの場所を知っているかもしれない」

 

「本当か?」

 

 驚きの事実だった。マオは自力で1階層まで登ってきたかと思われていたが、どうやらブラックマーケットに連れてこられていたらしい。

 

「クソ。それが事実なら……」

 

「ブラックマーケットではマオと同じような知性あるクリーチャーが売買されているかもしれないというわけだ」

 

「下衆どもめ」

 

 湊はそう吐き捨てる。

 

「何はともあれ調べる必要がある。頼むぞ」

 

「ああ」

 

 かくして俺たちの次の任務は決まった。

 

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