公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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市場強襲計画

……………………

 

 ──市場強襲計画

 

 

「オーケー。一定の情報は得られた」

 

 情報部の二宮がそう言い、通信傍受は一段落ついた。

 

「じゃあ、撤収だ」

 

 俺たちはそこで公社の拠点に引き上げることに。

 

 装甲車に乗り込み、俺たちは撤退していく。

 

「で? 大井のテリトリー内にブラックマーケットはありそうなのか?」

 

「ああ。ビンゴだ。間違いなく大井のテリトリー内に存在する」

 

「ってことは、太平洋保安公司との交戦は決定か……」

 

 二宮の言葉に湊が唸る。

 

「あまりよくない知らせだな。太平洋保安公司とやり合うなら、それなりの準備と覚悟が必要になってくる」

 

 俺にしても太平洋保安公司と好んで交戦したくはない。連中はダンジョンにおける最大戦力に等しいのだ。

 

「しかし、ブラックマーケットを排除すると言うのは公社の今の方針だ。どうあれやるしかなくなるだろう。あんたらには同情するがね」

 

「はん」

 

 情報を集めるのが仕事の二宮が言うのに、実際に荒事に狩りだされる俺たちは不満げに鼻を鳴らした。

 

 それから俺たちは無事に公社の拠点まで帰還し、二宮たちは報告に向かった。

 

「太平洋保安公司相手にどんぱちか。連中は戦車だって持ってるってのにな」

 

「そうだな。しかし、ブラックマーケットを潰すだけなら太平洋保安公司の主力とどんぱちする必要はないかもしれないだろ?」

 

「そうかねえ」

 

「低いが可能性としてはあり得る。大井が自分の庭でブラックマーケットをやって、ダンジョン内の不穏分子の資金源にすることに本当に前向きなのかという話だ。ダンジョン内のカルトや犯罪組織は大井にとっても鬱陶しい存在だろう。違うか?」

 

「それは確かに」

 

 大井にとってもダンジョン内で悪事を企む不穏分子は厄介な存在のはずだった。連中は大井の事業を妨害することだってあるからだ。

 

「それを考えればブラックマーケットを大井が真剣に防衛するとも思えない。もちろんブラックマーケットが大井にとって大きな利益になっていて、多少の不利益は見逃している可能性も皆無ではないが」

 

「まだ何の確証もない、というわけか」

 

「そういうことだ」

 

 俺が語ったのはあくまで憶測。今のところ大井がどれほど真剣にブラックマーケットを守るつもりなのかはさっぱり分からない。

 

「佐世保、湊。待たせたな。来てくれ」

 

 そこで村瀬がやってきてそう告げる。

 

 俺たちは村瀬とともに会議室に移動。

 

 会議室には篠原や情報部の二宮などがいた。他にも公社の有する戦闘要員が複数名列席している。

 

「さて、情報部がブラックマーケットの位置を突き止めた。それは地図のこの地点だ」

 

 そう言って村瀬が指さすのは、やはりマオが通った1階層への出口に繋がる場所。

 

「ここにブラックマーケットが存在するのは、ほぼ間違いない。その上で俺たちはどうするのかという話だが……」

 

 村瀬が続ける。

 

「理事会はブラックマーケットを叩き潰すことを望んでいる。どのような手段を使っても潰せと。犯罪組織に指揮源になっており、さらには有害なダンジョン由来の物質が地上に持ち込まれる可能性を阻止するためにだ」

 

「どのような手段を使っても、ね。実際、どうするつもりだ? 現地は大井のテリトリーだろう?」

 

「それが問題だが、いい情報も入手できている」

 

 俺が問うのに村瀬は続けた。

 

「ブラックマーケットがあると思われる場所には、太平洋保安公司の部隊は一切展開していない。現地の警備は別の小規模な民間軍事会社(PMSC)によって行われている。ブラックマーケットを強襲したからと言って大井と交戦するとは限らない」

 

「ふむ。つまり大井は土地を貸しているだけだと」

 

「恐らくはな」

 

 大井は自分たちの土地をブラックマーケットに貸しているだけ。だから、ブラックマーケットを俺たちが強襲しても、東アジア最大の民間軍事会社(PMSC)を敵に回すことはない。そう村瀬は言っている。

 

「どうにも受け入れがたいものがあるね……」

 

 そういうのは湊でやつは村瀬の話に懐疑的だった。

 

「現場に出る人間からすれば『敵はいないかもしれない』なんて話が嘘くさいのは分かっている。だが、理事会はこの情報を元にリスクを計算した。そして、ゴーサインを出している」

 

「理事会の都合か」

 

「上は上なりに悩みもある。ブラックマーケットの存在は受け入れがたく、早急な排除が求められているんだ。そして、上はもろもろの情報からリスクは低いと判断した。なのに、実行しないとさらに上から文句が出る」

 

 俺が呟くのに村瀬がそう説得するように言う。

 

 公社の理事会のさらに上と言うのは日本政府のことだ。政府もブラックマーケットの排除を求めているらしい。

 

「分かった。やろう。ただし、戦力はそれなりに準備してくれ。あといざという場合の大井との交渉チャンネルもほしい」

 

「準備しよう。大井とはドラゴンの件で協力した。そのときの伝手がある」

 

「頼むぞ」

 

 俺は村瀬にそう頼み込み、作戦の準備を進めることにした。

 

「これがブラックマーケットの航空偵察映像だが……」

 

「建物が邪魔になって見えないな」

 

「ああ。どうもブラックマーケットは屋内にあるらしい」

 

 大井が設置したのか、ブラックマーケットの運営者が設置したのか、ブラックマーケットのある場所には巨大な倉庫らしき建物があって中はうかがえない。

 

「可能な限り偵察は済ませておきたい。室内戦となると準備も必要だからな」

 

「ああ。こちらで情報を集めておく。ブラックマーケットに出入りしている人間から話が聞けるのが一番なんだが……」

 

「難しいのか?」

 

「大抵は企業や犯罪組織の所属だ。そっちを拘束するだけで大騒ぎになる」

 

 俺が尋ねるのに村瀬は肩をすくめた。

 

「分かった。ただ突入するなら正面からってのは無理だ。どうみても警備が固い。突入するならば──」

 

 俺はそう言ってドローンが撮影した映像を指さす。

 

「屋上から突入だ」

 

 人間の本能的に高い場所が死角になる。ブラックマーケットを運営している連中も、まさか頭上から俺たちが突入してくるとは思わないだろう。

 

「分かった。その方向で準備を進めよう。パワード・リフト機と無人攻撃ヘリを準備させておく」

 

「ああ。屋上から突っ込んで、一気に制圧だ」

 

 それから俺たちは可能な限りブラックマーケットの情報を集めた。

 

 しかし、場所以上に分かっているのは、ときおりダンジョンのクリーチャーを乗せたであろうケージが運ばれることや他の貴重品が運ばれるのが目撃された程度。

 

 ブラックマーケットに出入りする人間などが出るときは、防空システムが厳重になり、ドローンは飛行できなかった。

 

「情報が不足しすぎてないか?」

 

 現状を湊がそう評価する。

 

「確かに情報が少なすぎるが……」

 

「理事会はやるつもりか」

 

 村瀬が言葉を濁すのに俺がため息交じりにそういう。

 

「ああ。ここにブラックマーケットがあるということだけは確かなんだ。だから、理事会はやるつもりだ」

 

「分かった。なら、やろう。後回しにしてもどうせいつかやることになるんだ」

 

 俺たちはそう覚悟を決めた。

 

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