公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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迫る首狩り

……………………

 

 ──迫る首狩り

 

 

 公社の警備が安定してきたところで、話はブラックカイマンの首狩りに戻る。

 

「情報部が今、アレックス・ウィットロックの居場所を捜索中だと」

 

「居場所が分からなければ襲いようがないしな」

 

 俺が言うのに湊が肩をすくめる。

 

 ブラックカイマンの司令官アレックス・ウィットロックの居場所は未だ不明。恐らくは暗殺を警戒して複数の基地を移動しているものと思われた。

 

 ヒトラーやフセインが暗殺を恐れて移動していたのと同じだ。

 

「しかし、居場所が分かったとして、戦力的な問題は大丈夫なのか? ここの警備にも人手がいるし、相手は太平洋保安公司の攻撃を退けるような連中だぞ」

 

「分かってる。だが、無駄に人数を増やせば、もうそれは暗殺じゃなくなる」

 

 あくまで密かに俺たちはウィットロックを殺さなければならないのだ。隠密(ステルス)は必須であり、無駄に人数を増やすのはそれを妨げる結果になってしまう。

 

「だからってあたしたちだけでやれるのか?」

 

「バックアップは付けてもらうつもりだ。しくじった場合でも無事に脱出できるように。それから基地にやつがいるときではなく移動中を狙えれば文句はない」

 

「それは確かにな」

 

 俺の言葉に湊が頷く。

 

 警備の厳重な基地でウィットロックを襲うのはリスクが高いが、移動中ならばやつも隙を晒すはずだ。そこを狙えるのが一番だろう。

 

「情報部頼りになるな」

 

「仕事をしてもらおう」

 

 それから情報部はいろいろと調べ回ったようだ。

 

 通信を傍受し、ドローンを飛ばし、ブラックカイマンのコントラクターを拉致して尋問した。しかしながら、それらで得られた情報と言うのは、断片的で、絶対確実言えるものではない。

 

「情報の確証性が高いとは言えないが」

 

 情報部の指揮官が告げる。

 

「ウィットロックの移動するタイミングというのが分かった。やつは地図のこの地点にある基地から、こちらの基地まで移動する。推定されるルートは地図に示した通りだ」

 

 3階層の地図の上に赤い線でウィットロックが通過すると思われるルートが記された。全長50キロ程度の距離の道のりだ。

 

「敵の罠である可能性は?」

 

「あり得るが、それもまた確実ではない。敵の防諜は高度で、こちらになかなかウィットロックの居場所を掴ませないんだ。その中で辛うじて掴んだのが、この情報になる。だから、襲撃してみないことには何も」

 

 情報部の指揮官は俺の問いにそう首を横に振る。

 

「こいつは不確定要素が大きすぎる。あたしたちはギャンブラーじゃない。もっと情報を集めてくれ」

 

「こっちも遊んでいるわけじゃない。集めた結果がこれなんだ」

 

「クソ。じゃあ、こいつで作戦決行か? 勘弁してくれよ」

 

 俺も湊に同感だ。不確定要素があまりにも多すぎる。

 

 ブラックカイマンは間違いなく首狩りに警戒していて、先手を打ってこっちを攻撃してきた。ならば、囮を使って俺たちをおびき出し公社の戦力を撃破することぐらいは、容易に考え付くことだろう。

 

「ドローンで移動している車列を攻撃するというのは?」

 

「それは既に考えた。だが、相手は旧式ながら自走対空砲も同行させている。かなりの数のドローンを突っ込ませなければ暗殺はできないだろう。できたとしても、ウィットロック本人かどうかの確認が必要だ」

 

「ドローンだけでは難しいな」

 

 俺たちは確実にウィットロックを始末しなければいけない。だから、爆殺して恐らく死んだだろうでは困るのだ。確実にやつの首を刎ねなければ。

 

「敵が俺たちに掴ませたのは囮かもしれない。だが、相手とて俺たちがいつその囮を襲撃するかまでは把握していないだろう。待ち伏せで奇襲し、囮だろうと本命だろうと確実に叩く。それでどうだ?」

 

「やるのは俺たちだ。俺たちに決めさせろ」

 

「分かった。だが、急いで決断してくれ。時間的な猶予はあまりない」

 

 情報部の指揮官はそう言い、俺と湊は話し合うことに。

 

「どう思う? やれると思うか?」

 

「襲撃そのものはやれんことはないだろうがね。無駄足に終わるどころか、こっちに死人が出る恐れもある」

 

「そうだな。だが、情報部がこれ以上情報を手にできない以上、いくら待っても問題を先延ばしにするだけだ」

 

「それはそうだが……」

 

 いずれにせよ危険を冒して暗殺を決行する必要がある。これから先に確かな情報が確実に手に入るという根拠がない以上、ここで躊躇い続けるのは何の解決にもならない。

 

「もちろん俺だって罠に好き好んで飛び込みたくはない。しかし、現状では罠かどうかが分からない状況が続くだろう。ここは一度つついて敵の反応を見ると言うのも大事なんじゃないのか?」

 

「分かった、分かった。やろう。罠かもしれないが、罠だとしてもあたしとお前ならばきっと突破できる。ってことだろ?」

 

「そうだ。お前のことは信頼している」

 

「その期待には応えるよ、相棒」

 

 そして、俺たちは首狩りを決行することを決意した。

 

「実行する。詳しい情報を共有してくれ」

 

「ああ。移動するウィットロックの車列の規模などの情報もある」

 

 俺たちは情報部からウィットロックの移動に関する情報を得る。

 

 それによればウィットロックは重装甲のイスラエル製装甲車で移動し、その車列にはテクニカルの護衛の他に自走対空砲がついている。さらには上空をヘリが警戒して飛行しているそうだ。

 

「狙撃で仕留めるのは無理だな。この手の装甲車は対物ライフルでも止められる」

 

「しかし、接近するとなるとヘリが厄介だな。恐らく赤外線センサーを積んでるから、近づけばすぐに察知される」

 

「まずはヘリを始末する必要があるな。どうせ気づかれるなら少しでも相手に情報を渡したくはない」

 

「オーケー。MANPADSを抱えていこう」

 

 最初にヘリを潰し、相手の目を奪う。

 

「で、装甲車を止める方法はどうする? 中にウィットロックがいると確認する必要もあるが」

 

「対戦車ミサイルだとオーバーキルになる。爆薬か即席爆発装置(IED)を使うか。装甲車を爆破して、それから中身の確認だ」

 

 即席爆発装置(IED)を使った待ち伏せは今も戦術オプションとして有効だ。

 

「目的の装甲車を吹っ飛ばし、護衛(エスコート)を排除してからウィットロックを確実に殺す。以上だ」

 

 こうして俺たちはひとまずウィットロックの車列を襲撃する作戦を立てた。

 

 あとは公社の方からどれだけ人間が出せるかという話になる。

 

「公社の方の戦力は村瀬が調整している」

 

「村瀬が?」

 

「ああ。やつは公社の一般戦力を管轄してるからな」

 

 村瀬は現在公社の一般戦力から出せる兵力を調整していた。3階層の拠点を守りながら、その上でウィットロック殺害に必要な戦力を調整中だ。

 

「では、あたしたちはやつの調整待ちか」

 

「ああ。待ち伏せを行う地形を頭に入れて、準備をしっかりと進めておこう」

 

「了解だ」

 

 こうして俺たちはウィットロックの首狩りに向けて進む。

 

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