公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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岩石に宿る魂

……………………

 

 ──岩石に宿る魂

 

 

「ケイ素生命体? なんだ、それ?」

 

 湊がそう尋ねる。

 

「人間や他の地球上の生命は炭素をベースに構築されている。この炭素がケイ素に置き換わったものをケイ素生命体と呼ぶのだよ。炭素とケイ素には一部似たところがあるので、生命が生まれる可能性はある、と昔言われていた」

 

「へえ。ゴーレムはそのケイ素生命だと?」

 

「まだ分からないよ。ダンジョンというのはこれまでの科学知識の常識が通用しない場所だからね」

 

「ふん。仮にケイ素生命体だとしたら、どういうことになる?」

 

「我々は全く新しい生命と接触したことになる。これは私が考えているある可能性を示すことになる。このダンジョンが全く異なる惑星、または宇宙とつながっていて、そこに存在している種を保存しているという可能性だ」

 

 篠原は少し興奮した様子でそういう。

 

「それはメイズトロジー教会みたいな言い分だな」

 

「彼らとは違うよ。ここが人類に約束された場所だなどとは私は思っていない。むしろ人類は招かれざる客だろうと思っているからね」

 

 俺は皮肉るように言うが篠原は気にした様子はない。

 

「このダンジョンというのは不思議だと思わないか。階層ごとに環境が全く変わり、そこに生息しているクリーチャーも異なる。まるで動物園の様だろう?」

 

 篠原はそう語る。

 

「ダンジョンは自然現象でできたというには、あまりにも人工的すぎる。私は誰かがこれを作り、そこには何かしらの目的があったのではないかと思っているのだよ」

 

「このダンジョンは壮大な動物園だと?」

 

「可能性として、だよ。もしかしたら牢獄かもしれない。ただ、これが完全な自然現象で発生したとは私は思えない。君たちだってそう思うだろう?」

 

「……確かにな」

 

 ダンジョンに暮らすクリーチャーは自然的だが、ダンジョンの環境というのはどうにも不自然だ。階層ごとに脈絡もなく激変する環境、ポータルという移動手段。

 

「もし、このダンジョンを生じさせている目的や理由が分かれば、ダンジョンを閉じることも可能になるかもしれない。戦争を始めた理由が分かれば、終わらせるための条件が分かるように」

 

「それはいい知らせだな」

 

 ダンジョンが誰に作られたにせよ、このクソッタレな場所は閉じるべきだ。

 

「あたしはあんたがただダンジョンに興味があるだけのマッドサイエンティストじゃないって分かって安心したよ」

 

「はははっ! 失礼だね、湊君。しかし、私は科学には目標は必要だが、目的は必要ないと思っているがね。探求することに理由はいらないとね」

 

 湊が言うのに篠原はそう語った。

 

「そいつは結構なことだ。あとは公社に戻ってからにしよう

 

 俺たちは装甲車に乗り込むと、そのまま3階層の公社施設に向かう。

 

「ゴーレムがケイ素生命体だとして、そのサンプルを見れば分かるのか?」

 

「断言はできないが、普通のケイ素とは異なる反応がでるはずだ」

 

「ふむ。この調査が無駄にならなければいいんだが」

 

 危険を冒して手に入れたサンプルが何の意味もなかったら、俺たちは何のためにわざわざあんなところまで行ったのだという話になる。

 

「科学に無駄はつきものだよ。正解にたどり着くまではトライ&エラーの繰り返しだ。一見して無駄だと思うようなことが、正解にたどり着くための方法であったりすることもあるのだから」

 

「俺たちはあいにく科学者ではなく、軍人なんでな」

 

 理解できんよと俺は篠原に言った。

 

「科学とは科学者だけのものではないよ、佐世保君。科学とは万人に開かれているものだ。軍人であっても科学にかかわることはあるだろう? 高度な軍事とはまさに科学の分野であるからにして」

 

「はいはい。そうかもな」

 

 俺は篠原に生返事で返し、装甲車は公社の拠点に到着。

 

「これで調査は終了。続きは──」

 

「引き続きブラックカイマンの相手だ」

 

 俺たちが3階層に来た目的は3階層の調査だけではなく、6階層の存在の有無を確認するためでもある。そのためにばブラックカイマンには消えてもらわなければならない。

 

「情報部がブラックカイマンについて調査してくれているはずだ。次に狙うべき目標について、な。散々相手をかき乱して、ウィットロックの警備を薄くする」

 

「そして、ウィットロックの首を刎ねる」

 

「そうだ」

 

 湊と俺はそう言葉を交わすと情報部にブラックカイマンについての新しい情報が入ったかを確かめに、村瀬の下に向かった。

 

「村瀬。次の襲撃計画は決まりそうか?」

 

「ああ。情報部がちょうどいい目標を探し出した」

 

 俺が尋ねると村瀬がそう言ってODIN経由で情報を送ってきた。

 

「ブラックカイマンが運営している鉱山だ。ここを破壊する」

 

 3階層に存在するレアメタル鉱山。それが次の目標だと村瀬は言った。

 

「ブラックカイマンは鉱山を運営することによって少なくない利益を得ている。だが、情報部によれば鉱山の警備はそこまで厳重じゃない。俺たちが襲撃して、鉱山を吹っ飛ばし、連中に損害を与えるのには問題なしだそうだ」

 

「それはよさそうだ。ウィットロックの周りのものを破壊していき、やつの求心力を削げば暗殺は容易になる」

 

 時間はかかるし、作戦の度にリスクは上昇するが、ウィットロックをいきなり狙わずにその資金源となっているものを叩いていくのは有効だろう。

 

 ウィットロックは自身の暗殺を高度に警戒している。だが、やつ自身で自分を守っているわけではない。やつの金で雇われた部下がウィットロックを警備しているのだ。

 

 そのため資金源が危うくなれば部下が離反する可能性は十分にあった。金の切れ目が縁の切れ目というわけである。

 

 そうやってウィットロック暗殺を容易にしていき、ブラックカイマンを分裂させ、無力化する。それが俺たちの仕事だ。

 

「鉱山襲撃の具体的な計画を立てよう」

 

「了解だ。早速立案に入る」

 

 こうして俺たちは次に鉱山を襲撃することになった。

 

「目標となるのは、このリチウム鉱山だ」

 

 それからODIN経由で村瀬から情報が送られてくる。

 

 目標はリチウム鉱山。露天掘りされた大規模な鉱山であり、ここで地球の産業に欠かせないリチウムが大量に採掘されているそうだ。

 

「元は大井の運営していた鉱山だったが、3階層の不安定化で大井はこれを放棄し、以降はブラックカイマンが乗っ取っている」

 

「そいつを俺たちがぶち壊すわけだ」

 

「ああ。目標は採掘に使われている機械。鉱山そのものは吹っ飛ばすには頑丈すぎる」

 

 鉱山採掘に使われている巨大な重機。それが攻撃目標だ。

 

「この鉱山にはいくつかの地対空ミサイル(SAM)サイトと対空火器(AAA)が存在している。それらを無力化できれば、ドローンによる爆撃で重機を吹っ飛ばせる。というわけで、お前たにはそれらの無力化を頼みたい」

 

「了解だ。詳しい情報くれ」

 

「警備状況などについての情報を今ODIN経由で送った」

 

 俺たちは送られてきた情報を確認する。

 

 配備されている警備は1個中隊程度。それにロシア製の旧式地対空ミサイル(SAM)対空火器(AAA)が存在している。

 

「大規模な戦力の動員は必要なさそうだな」

 

「実働はお前たちに任せる。一応こっちで緊急即応部隊(QRF)は準備しておくが」

 

「分かった。悪党どもを吹っ飛ばして来よう」

 

 作戦は決定し、俺たちは行動することに。

 

 俺たちは敵に探知されない範囲でパワード・リフト機で接近し、そこからは徒歩で目的地まで移動する。それから真夜中になるのを待ち、確認されている地対空ミサイル(SAM)対空火器(AAA)を撃破する。

 

 残りはドローンは爆撃して片付けてくれるわけだ。

 

「オーケー。始めようぜ、佐世保」

 

「ああ。やろう」

 

 俺たちは早速動き出す。

 

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