公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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ベヒモス

……………………

 

 ──ベヒモス

 

 

 俺たちは情報部の2名を護衛し、指定された地点にあるもっともも高い丘の上に陣取った。ここからならば監視は容易だ。

 

「オーケー。ここから見張ろう」

 

「監視は何日ぐらい行うんだ?」

 

「3、4日あれば十分な情報が手に入るだろう」

 

「了解。気長に待とう」

 

 二宮の言葉に俺たちはあいつらを護衛するために周囲に陣地を築き、そこに籠って丘に近づく人間がいないかをじっと見張った。

 

 幸いにして丘に近づいてくる怪しい人間はいなかった。しかし、時折近くで戦闘音が響いている。銃声がけたたましく響き、爆発音が数回起きるような音だ。

 

民間軍事会社(PMSC)がやりあっているのかね……」

 

「だろうな」

 

 湊が呟くように言うのに俺は頷く。

 

 それから数日が過ぎたときだ。ことは起きた。

 

「これは……」

 

 周辺の通信を盗み聞きしていた二宮が唸るように声を上げる。

 

「どうした? トラブルか?」

 

「トラブルといえばトラブルだ。例のクリーチャーが近くに出たらしい」

 

「おいおい。本当か?」

 

「ああ。民間軍事会社(PMSC)が蜂の巣をつついたように騒いでいる」

 

 二宮がそう言うのに俺も湊も渋い顔をした。

 

「まだ俺たちは化け物と戦う準備はしてないぞ。それに交戦は避けろって命令だ」

 

「分かっている。交戦する必要はない。ここでじっと盗撮しておくだけだ」

 

「了解。静かに、気づかれないようにやってくれ」

 

 俺たちはそれから例のクリーチャーを観察するために陣地に籠った。

 

 すると、何発もの砲声が聞こえてきて、戦闘が激化したのが分かった。迫撃砲や無反動砲、戦車砲などの重火器が火を噴いている。通常、それらをまともに喰らえばあの世行きだが……。

 

「問題のクリーチャーが接近している。警戒を続けてくれ」

 

 二宮はそう言い、俺たちは陣地のある丘から周囲を監視する。

 

「あれじゃないか……?」

 

 そこで湊が双眼鏡を覗き込んでそう言った。

 

 俺も双眼鏡を覗き込んで同じ方向を見ると、そこには──。

 

「なんだ、あれは……?」

 

 それは2本の角を持った巨大な獣だった。黒い毛皮に覆われた民間軍事会社(PMSC)の主力戦車より巨大な体を持ち、勢いよく民間軍事会社(PMSC)の砲火の中に飛び込むと暴れまわっている。

 

 戦車は踏み砕かれ、装甲車は蹴散らされ、人間は虐殺される。

 

「信じられない化け物だな……」

 

 俺たちはその様子を見て思わず息を飲んだ。

 

「あれを排除するって話になったら大変だな。どう考えても公社でどうこうできる相手には思えん」

 

「そうだな、佐世保。あたしもどうしたものやらだ。可能な限り交戦を避けるって話になることを祈るよ」

 

 俺たちはそんな言葉を交わし、それから情報部の二宮たちの方を向く。

 

「まだ情報収集は必要か?」

 

「いや。これだけあればもう大丈夫だ。撤収しよう」

 

「了解」

 

 俺たちは陣地から立ち去り、静かに偵察を行っていたエリアから脱出。

 

 それから公社の拠点に向けて出発し、特にトラブルもなく帰り着いた。

 

「佐世保。偵察はどうだった? 例のクリーチャーを視認したと聞いてるが」

 

 俺たちは公社拠点に到着すると村瀬がやってきてそう尋ねる。

 

「ああ。まごうことなき化け物だ。撮影した映像を渡す」

 

 俺はODIN経由でARデバイスで撮影していた映像を村瀬に送信した。

 

「こいつは……また恐ろしい化け物だな……」

 

「どうする? 民間軍事会社(PMSC)の連中は手も足も出ていなかった。俺たちもこいつが殺せるとは思えんのだが……」

 

「しかし、こいつが4階層のトラブルになっているならば排除しなければならん」

 

 村瀬は俺が言うのにそう言って考え込む。

 

「とりあえず篠原の意見を聞いてみよう。やつなら何かアイディアがあるかもしれない。どうだ?」

 

「そうだな。餅は餅屋ってことだ」

 

 俺たちはそういうわけで篠原に映像を見せに向かった。

 

「篠原。4階層の化け物についての情報が手に入ったぞ。これだ」

 

「ほうほう! 見せてくれたまえ!」

 

 俺が言うのに篠原は予想していた通りのリアクションを取った。

 

 それから俺はODIN経由で篠原の端末に映像を送信する。篠原は送られてきた映像を再生し始め、食い入るように見つめていた。

 

「なるほど。これは確かに強力なクリーチャーだ。しかし、ドラゴンとは違ってデフレクターシールドのような超常現象を使うわけではないのだね」

 

「ああ。そういうものは確認されていないが」

 

「ならば、勝ち目はあるというものだよ」

 

 篠原はそう言って不敵ににやりと笑う。

 

 確かに今回のクリーチャーは1階層で猛威を振るったドラゴンのようにデフレクターシールドのようなものは展開していない。その肉体で攻撃を受け止めて、そのうえで耐えていたようなのだ。

 

「しかし、どうするつもりなのか具体案を教えてくれるか? どうせ今回もあたしらが対処することになるんだろう?」

 

 そういって湊が篠原に問う。

 

「なあに単純に火力でごり押しするだけだよ。しかし、まずはもっと詳細な情報がほしいね。私とマオをこのクリーチャーのところまで連れて行ってくれるかい?」

 

「おい。本気で言っているのか?」

 

「至って本気だとも。私たちにはこのクリーチャーを調べる必要性があり、私とマオはその手の専門家だ。別におかしな点はないだろう?」

 

「それはそうだが」

 

 篠原がこういい始めるとこいつは必ずついてくる。正直、篠原とマオを連れて交戦地帯をうろうろするのはぞっとするが、そうしないとあの化け物の弱点が分からないというのも事実であった。

 

「分かった。次の偵察作戦に同行してくれ」

 

「うむ。よろしく頼むよ!」

 

 こうして俺たちは篠原とマオを連れてクリーチャーを偵察することに。

 

「その前にあのクリーチャーの名前は分かっているのか?」

 

「いいや。あれはここで初めて確認されたものだ。名前を付けなくてはいけないね」

 

 そういって篠原が考え込む。

 

「ベヒモス。これでどうだね? なかなかに勇ましい名前だろう?」

 

「それだと分かりさえすればどうでもいい」

 

「ロマンというものがないね」

 

「ロマンで戦争はできないからな」

 

 篠原が呆れたようにいうのに俺はそう言い返した。

 

「では、ベヒモスの生態調査の準備を進めるぞ。まずはあれをまた探し出さないとな」

 

「あれだけ派手に暴れているなら、ドローンで上空から掴めるだろう」

 

「ドローンが安全に飛ばせるならだが」

 

 この4階層は有象無象の民間軍事会社(PMSC)が争っている。そんな中でドローンを悠長に飛ばしていられるだろうかという疑問が生じている。

 

「ドローンなしで最近の戦争は戦えない。どうにかして飛ばすしかない。あんな化け物と地上で不意に遭遇したら確実に殺される」

 

「そうだな。あたしの生体電気センサーがあっても、あの速度では」

 

 俺が言い、湊が頷く。

 

「私の方は準備はできているからいつでも呼んでくれたまえ!」

 

「ああ。こっちの準備ができたら知らせる」

 

 俺は篠原にそう言って一度作戦を立てることにした。

 

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