公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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誘拐犯

……………………

 

 ──誘拐犯

 

 

「情報が揃った」

 

 それから数日後、二宮から連絡があり俺たちはやつの下へ。

 

「ベヒモスってクリーチャーの幼体を捕獲したのは、大井だ。正確には太平洋保安公司。連中、それを貴重な生体サンプルだって言っている」

 

「クソ。よりによって大井か……」

 

 二宮の報告に俺たちは唸り、表情を険しくした。

 

「その生体サンプルと呼ばれるベヒモスの幼体はまだ生きているのかね?」

 

「ああ。生きているらしい。殺さないように上層階に運べと指示が出ている」

 

「輸送はいつ行われると?」

 

「4日後。まずは3階層に送られるらしい」

 

「ふむ……」

 

 篠原はそこで俺と湊の方を見た。

 

「佐世保君、湊君。ここはひとつ大井を襲ってベヒモスの幼体を奪還しよう」

 

「何だって?」

 

「言ったとおりだよ。ベヒモスの幼体は確保すべきだ。ベヒモス問題を解決するために。大井によって3階層に移送されるのは困る。ずっとこの4階層でベヒモスが暴れ続けることにもつながりかねないのだからね」

 

 俺が思わず尋ねるのに篠原はそう悠々と答えた。

 

「それはそうだが、大井とことを構えるのか……」

 

 これまで俺たちは奇跡的に大井と正面切って戦争を行うのを避けてこれた。地球でも有数のメガコーポであり、強力な軍隊である太平洋保安公司を従わせている大井との戦いは大戦争になるだろうからにして。

 

「それかあのベヒモスを正面から相手して撃破するかだ。どちらがいいかね?」

 

「クソ。選択肢はなさそうだな」

 

 ベヒモスと、あの化け物と正面から戦うのは公社にいくら戦力があっても足りやしないだろう。やはり大井が確保したというベヒモスの幼体をどうにかして奪取し、作戦に役立てなければならない。

 

「しかし、それで大井とことを起こすのか? あまり利口とは思えないが」

 

「こちらの正体を徹底的に隠してやるしかないな。大井のようなメガコーポ相手に取る戦術だ。こちらの正体を知られず、報復を予防する」

 

 俺は取れる限り最良の手段を告げた。

 

 大井に正体を知られることなく、ベヒモスの幼体を確保できれば大井と正面から戦争になることを避けられる。あるいはこの4階層でもめている別の民間軍事会社(PMSC)に偽装するかである。

 

「それしか方法はなさそうだな……。メガコーポ相手にちょっとした戦争だ」

 

「ああ。やってやろう」

 

 俺は湊にそう言い、作戦を立てるために村瀬の下に向かった。

 

「大井を襲撃する? 本気か?」

 

 俺たちから話を聞いた村瀬はそう戸惑う。

 

「本気だ。ベヒモスの幼体がベヒモスを排除するのに必要になる。それがなければまた1階層のドラゴン騒ぎのようなことになる」

 

「それは不味いが、しかし、大井と戦争か……」

 

 村瀬はそう言って慎重に考えこんだ。

 

「こちらの正体を悟られないように動くべきだろう。そうすれば大井との全面衝突は避けられる。違うか?」

 

「そう簡単にはいかないさ。大井の持っている情報網は巨大だ。いくら正体を隠しても、大井は誰が自分たちからベヒモスの子供を盗んだのかを把握できる」

 

「こちらの防諜では大井の追及は防げないと?」

 

「ああ。大井がどれほど高度な通信傍受をやっているか、お前たちは知らないかもしれないが、あそこは国家安全保障局(フォート・ミード)がやっているより高レベルの通信傍受をやっている」

 

 国家安全保障局(フォート・ミード)──アメリカの諜報機関であり、エシュロンなどの通信傍受プログラムを運用していることで知られる機関だ。

 

「あたしたちにとれる対策は本当に何もないのか?」

 

「あるにはある。考えたんだが俺たちではなく、ベヒモスに子供を取り戻してもらうってのはどうだ?」

 

 湊がいら立って尋ねるのに村瀬はニッと笑ってそう言った。

 

「なるほど! ベヒモスを子供がいるところまで誘導するのだね!」

 

「そうだ、篠原先生。あとはベヒモスに暴れてもらって、運がよければ大井とベヒモスの共倒れだ」

 

 村瀬はなかなかあくどいことを考えていた。

 

 だが、確かに有効そうな方法だ。ベヒモスを誘導し、やつに子供を取り返させれば俺たちの関与は最低限になる。そのうえベヒモスと大井が攻撃しあえば、俺たちはどちらにも喧嘩を売らずに済む。

 

「それで行こう。まずやるべきは大井がどこにベヒモスの幼体を隠しているのか、それを特定することだろう」

 

「オーケー。作戦を立てておく。少しばかり待ってくれ」

 

 村瀬はそう引き受け、俺たちは村瀬が作戦を立案するまでの間待機した。

 

 それから半日後、ODIN経由で連絡があり、俺たちはブリーフィングルームへ。

 

「ベヒモス幼体の確認作戦ができた」

 

 村瀬はそう言って俺たちに情報を送信してくる。

 

「ベヒモス幼体は大井のキャンプ内にいると推定される。それを確認してくるのが、お前たちに任せる仕事になる」

 

 4階層における大井のキャンプについてAR上に情報が広がる。

 

 結構な広さのキャンプであることに加えて、守りは万全のようだ。かなりの規模の太平洋保安公司の部隊が駐留しているとなっていた。

 

「ここに無策に突っ込めばミンチだな」

 

「ああ。そこで策を考えている。俺たちはキャンプに出入りできる大井の下請けに偽装してキャンプ内に侵入するんだ」

 

 村瀬はそう言い、新しい情報を送ってくる。

 

「俺たちは大井と取引している運送会社ナイト・ファスト・ロジスティクスの社員に偽装してキャンプ内に侵入する。そして、ベヒモス幼体の位置を確認。その後は速やかに撤退する」

 

「ふうむ。偽装がばれなければ完璧な作戦だが……」

 

「手は尽くしてある。安心しろ」

 

 俺の懸念に村瀬はそう言って苦笑する。

 

「分かった。では、決まりだ。俺たちは大井の施設に侵入し、ベヒモス幼体がそこに存在するかを確実に確かめる」

 

「で、その後はベヒモスをこのキャンプに誘導して暴れさせるか」

 

「ああ。作戦は決まりだな」

 

 俺たちは作戦を決定し、それから早速ナイト・ファスト・ロジスティクスの社員に偽装して大井のキャンプに向かうことに。

 

 ベヒモス幼体が3階層に輸送されてからでは遅い。そして、輸送はすでにあと3日程度で実行されてしまう。そういうことから俺たちは大急ぎで作戦を進めなければならなかったのだ。

 

「ナイト・ファスト・ロジスティクスの制服だ。IDはODIN経由で送る」

 

 村瀬が準備したナイト・ファスト・ロジスティクスの制服を身に着け、偽装されたIDをODIN経由で受け取るといつでも提示できるようにする。

 

「オーケー。では、行ってくる」

 

 俺と湊はそれからナイト・ファスト・ロジスティクスのロゴが入った装甲車で大井のキャンプを目指す。武装は怪しまれないように最小限。個人防衛火器(PDW)と拳銃の身である。

 

「上手くいくと思うか?」

 

「いかなきゃ俺たちはキャンプでハチの巣だ」

 

「それは最悪だな」

 

 湊はそう愚痴りながらも助手席で武器の点検を行い、戦いに備えていた。

 

「そろそろ到着するぞ。備えろ」

 

「了解」

 

 俺たちの眼前に大井のキャンプが見えてきた。

 

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