公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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誘導作戦

……………………

 

 ──誘導作戦

 

 

 大井のキャンプはヘスコ防壁で囲まれ、正面入り口には自動車爆弾による自爆防止のためのバリケードが築かれていた。

 

 俺たちは怪しまれないように慎重にそのバリケードを進み、太平洋保安公司が設置した検問(チェックポイント)に応じる。

 

「IDを」

 

 検問にいた太平洋保安公司のコントラクターはそう求める。

 

「これだ」

 

 俺たちはナイト・ファスト・ロジスティクスのIDを提示。それをARで確認した太平洋保安公司のコントラクターは『行け』というように手を振った。

 

「第一関門は突破だ」

 

「問題はどうやってここでベヒモス幼体を探すかだが」

 

「それはあたしに任せな」

 

 俺が言うのに湊がそう引き受けた。やつの電気センサーがあればベヒモスの位置も特定できるかもしれない。

 

 俺はそう思い、湊に続いて進む。

 

「こっちだ」

 

 湊はキャンプ内を怪しまれないように慎重に進み、先導していく。俺も周囲に警戒しながら確実にベヒモス幼体のいるだろう場所を目指した。

 

 そうやってキャンプの奥へ、奥へと進む俺たち。やがて太平洋保安公司の部隊ががっちりと守っている施設の前まで到達した。

 

「ここか?」

 

「恐らくは。現物を拝んでおきたいが……」

 

無人地上車両(UGV)を使おう」

 

 俺はそう言って太平洋保安公司のコントラクターたちの視線が通らない場所に向かうとそこで超小型の無人地上車両(UGV)をセットして、ひそかにキャンプの施設に向けて送り込んだ。

 

 無人地上車両(UGV)は気づかれることなくキャンプの施設内に潜り込み、そこでの情報を俺たちに向けて送ってくる。

 

「……いたぞ。ベヒモス幼体で間違いない」

 

 そして、俺はケージに入れられた大型犬ほどの大きさがあるクリーチャーを目にしたのであった。その姿は間違いなくベヒモスの幼体であった。

 

「よし。確認は完了だ。ずらかろうぜ」

 

「ああ。長居は無用だ」

 

 湊が言い、俺も頷いて大急ぎで大井のキャンプを出る。

 

 装甲車に乗り込み、俺たちは怪しまれることがないように慎重な速度でキャンプの出口に向けて進んでいく。

 

「おい」

 

 そこで俺たちに太平洋保安公司のコントラクターが声をかけてきた。

 

「IDを確認させてくれ」

 

 どういうわけかそいつはIDの再検査を求めてきた。俺たちは偽装がばれたのかと焦りながらも、コントラクターにIDを提示する。

 

「……ふむ」

 

 コントラクターは何やら考え込む。俺と湊はいつでも発砲できるように準備して、コントラクターの動きを見張る。

 

「問題ない言っていいぞ」

 

 コントラクターはあっさりとそう言い、俺たちを解放した。

 

「焦らせやがって……」

 

「本当にな」

 

 俺たちは安堵の息をつくと、これ以上足止めされないように出口へ急いだ。それからそのまま公社の拠点に向けてキャンプを去っていく。

 

「これで大井がベヒモス幼体を保有しているのは明らかになったが、問題はどうやってあたしたちがそれをベヒモスの親に教えるか、だよな」

 

「単純に引っ張っていけばいいんじゃないか? あそこで暴れれば臭いなり鳴き声なりで子供に気づくだろう」

 

「それならいいんだけどさ」

 

 湊の問い俺はそう答えたが、確証があるわけではなかった。

 

 だが、他のやれることもない。ベヒモスに言葉で告げ口したところで、相手は人語を解さないだろう。ならば、物理的に引っ張っていって、どこにベヒモスの幼体がいるかを教えるしかない。

 

 リスクはある。しかもとても高い。だが、大井やベヒモスと全面戦争するよりはマシなはずだ。

 

 俺たちはそれから公社の拠点に戻ってきた。

 

「ターゲットはいたか?」

 

「いた。ベヒモス幼体を確認している。映像もあるから篠原に確認を取ってくれ」

 

「了解だ」

 

 映像は篠原に回され、やつが映像を確認した。

 

「動物としての形容を分析し、マオにも確認を取った。間違いない。ビンゴだ!」

 

 篠原はそう嬉しそうに報告する。

 

「なら、あとはベヒモスをキャンプまで引っ張っていくだけだな」

 

 俺はようやく作戦が次のフェーズに進めるのにそう言う。

 

「うむ。それだけだね。問題はベヒモスの誘導方法といったところか」

 

「高速の車両で挑発して誘導するというのは?」

 

「それだとベヒモスに追いつかれる可能性が高い。ベヒモスはその速度も、不整地踏破能力も通常の車両よりはるかに高いからね」

 

「では、どうする?」

 

「確実なのはドローンを使う方法だろう。ドラゴンを誘引したときのようにドローンを使ってベヒモスを誘導する」

 

「ふむ。確かに状況はドラゴンのときと似ているな」

 

 ドラゴンを誘引したときも俺たちはドローンを使っている。そして、今の状況とドラゴン退治の状況はやや似ている。

 

「しかし、あのとき使ったような高級ドローンは足が付くぜ? 大井の連中だって自分のところまでベヒモスを引っ張ってきたのがあたしたちだって気づくだろう」

 

 そこで湊がそう指摘する。

 

「ああ。だから、ちょっとばかり安物のドローンで誘導する。諸君もドローンの操作だけではなく、誘導に参加してもらうよ」

 

「なんだか嫌な予感がしてきたな……」

 

 篠原がにやりと笑って言うのに俺はどうにも嫌な予感を感じ始めていた。

 

「まあまあ最後まで聞きたまえ。もちろん誘導の主役はドローンだ。それも何機ものドローンを使用するつもりだ。だが、それだけでは万が一ベヒモスがドローンを追わなくなったときに困る。というわけで、必要なのが地上部隊だ」

 

「ベヒモスがドローンを追わなくなったら地上部隊がやつを誘導する?」

 

「そう、ただしドローンと一緒にね。ベヒモスも体はひとつしかない。追うのは地上部隊かドローンかになるだろう。うまくやれば地上部隊が逃げ切る余地はある」

 

「上手くやれば、か」

 

 そういうときには決まってうまくいかなかったりする。失敗する可能性のあるものは失敗するという話だ。

 

「どのみちベヒモスを大井に押し付けられなくちゃ、4階層の問題は解決しないのだよ。さあ、覚悟を決めようじゃないか」

 

「はあ。仕方がない。やるぞ」

 

 ベヒモス問題を解決しなくては5階層は向かえない。何とかしてベヒモスを始末する必要があるのだ。

 

 そして、今のところその手段はベヒモス幼体を利用して、大井にベヒモスをけしかけるというものだけだ。

 

「準備を整えよう。ドローンとなるべく足の速い車両を準備だ」

 

「了解。始めるか」

 

 俺がそう言い、湊が応じる。

 

 俺たちは公社の拠点に運び込まれたドローンを手当たり次第に漁り、使えそうなものは全て持って行った。それから装甲は薄いが不整地踏破能力と速度に優れる装甲車両を確保し、作戦開始に備えた。

 

「準備はいいか、佐世保、湊」

 

 ここで村瀬がやってきて俺たちに確認する。

 

「ああ。装備は準備した。そっちでもドローンを準備してくれてるんだろう?」

 

「ああ。中型のドローンだ。対戦車ミサイル2発を下げている。それでいて所属が明らかになるようなものはつけていない」

 

「ベストだな。大井相手にベヒモスを押し付けたのがばれると不味い」

 

 ドローンの所属が公社であるとばれれば、大井との関係が極めて悪化する。

 

「それでは作戦開始までのカウントダウンだ」

 

 村瀬はそう言い、ベヒモスの誘導という作戦の開始が迫った。

 

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