公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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カーチェイス

……………………

 

 ──カーチェイス

 

 

 俺たちはベヒモスが目撃された地点に向かっている。

 

「いよいよだな」

 

「ああ」

 

 湊が言うのに俺が頷く。

 

 そう、いよいよだ。ベヒモスを誘導してベヒモスの幼体を有している大井にけしかける。それによってベヒモス問題の解決を図る。

 

「そろそろベヒモスが見えてくるはずだ」

 

 必要最小限の装甲だけが備わった車両で向かう先はベヒモスが目撃された場所。すでに空域にはドローンが侵入しており、ベヒモスの様子を俺たちの端末に送信していた。

 

「ベヒモスはまだドローンに気づいていない」

 

 ハンドルを握っている俺に湊が端末に映るベヒモスの情報を報告。

 

「作戦を確認する」

 

 俺は装甲車を走らせながら湊に告げる。

 

「俺たちはあくまでバックアップだ。ドローンをベヒモスが見失うなどして、誘導が途切れたときにベヒモスを攻撃し、誘導を再開する」

 

「分かってる。ドローンによる誘導が順調ならあたしたちの出番はなしだ」

 

 俺たちがベヒモスを引っ張っていくのは万が一の場合だけだ。作戦が上手くいくならば、ドローンだけでベヒモスを大井の拠点まで引っ張っていける。

 

「ベヒモスまでもう少しだ。警戒を、佐世保」

 

「ああ。ぬからずやろう。成功すれば特大の戦果が得られる作戦だ」

 

 ベヒモスの大井への誘導に成功すればベヒモスも大井もダメージを受ける。

 

 公社にとっては大井もダンジョンの不法滞在者に過ぎない。彼らは脅威だが、ダメージを与える機会があるならば与えるべきだ。

 

「さあて、ベヒモスまでまもなく」

 

 ドローンの映像を把握している湊がそう言い、俺は車両の速度をやや落とす。

 

「見えるか? ベヒモスがいるはずだが」

 

「ああ。見えた。あそこだ」

 

 湊が生体電気センサーで目標を捉えるのに俺も有視界で目標を捉えた。

 

 ベヒモスが草を食んでいる。相変わらず恐ろしい巨大な獣の周りには、破壊された装甲車などが転がっていた。どこからの民間軍事会社(PMSC)が喧嘩を売ったのか、ただ巻き込まれたのか。

 

「ドローンがまもなく攻撃を開始。備えろ」

 

 湊がさらにそう報告し、上空を飛行しているドローンから対戦車ミサイルが放たれた。それは地上に向けて突き進み、ベヒモスに命中。

 

「────ッ!」

 

 相変わらずベヒモスに効果はないが、やつを怒らせることには成功した。

 

「ドローンでの誘導を開始! あたしたちも行くぞ!」

 

「了解だ!」

 

 地上を低空飛行するドローンをベヒモスが怒り狂って追いかけ始め、俺たちも大井のキャンプに向けて走行を始める。

 

「いいぞ、いいぞ。ベヒモスはドローンを追いかけている!」

 

「このまま大井のキャンプまで引っ張っていけそうか?」

 

「ああ。いけそうだぞ!」

 

 ベヒモスは猛スピードでドローンを追いかけており、この勢いならば無事に大井のキャンプまで引っ張っていけそうだ。湊はそう判断している。

 

 俺たちはベヒモスを引き続きドローンで誘導し続け、第4階層を駆け抜ける。

 

「不味い」

 

 そこで湊が声を上げた。

 

「どうした?」

 

「ドローンが追いつかれそうだ。ベヒモスが思った以上に速い……!」

 

 ベヒモスの速度はドローンのそれを上回っていたらしく、ドローンは猛追を受けてベヒモスに捕らえられそうになっていた。

 

「高度を上げられないのか?」

 

「今やってる!」

 

 湊はドローンを上昇させてベヒモスが届かない位置まで上げようとするが、ベヒモスがそこで猛烈な加速を見せた。

 

「ああ。畜生!」

 

 ベヒモスはドローンを捕らえて、破壊してしまった。ドローンからのシグナルが途切れて湊が悪態をつく。

 

「次のドローンを準備するか」

 

「次のドローンも追いかけてくれるといいんだが……」

 

 俺たちは懸念を抱きながらも、次のドローンを展開させてた。

 

 ドローンは空に解き放たれ、ベヒモスのいる方向に飛んでいく。

 

「どうだ?」

 

「ダメだ。反応がない」

 

 ベヒモスは新しく放たれたドローンを無視している。それが攻撃を加えてくる存在ではないと気づいたのか……。

 

「じゃあ、プランBだな」

 

「クソ。マジかよ」

 

「他に方法がない」

 

 プランBは俺たちが囮になってベヒモスを誘導するというもの。当初の予定にあったようにドローンが頼りにならなくなった場合には、俺たちは誘導を継続するのだ。

 

「分かってる。覚悟を決めないとな」

 

「ああ。準備はいいか?」

 

「オーケー。やってやろう」

 

 俺が確認するのに湊が頷き、俺たちは装甲車をベヒモスに向けて走らせる。

 

「さあ、ちゃんと食いついてくれよ……」

 

 湊は装甲車の無人銃座(RWS)に設置された50口径の重機関銃の狙いを調整しながら、ベヒモスとの接敵(コンタクト)に備える。

 

 俺たちは着実にベヒモスの下に向かい、そして──。

 

「ベヒモスを目視」

 

 俺たちは再度ベヒモスを視認した。ベヒモスはドローンを追うのをやめて俺たちに背を向けて立ち去ろうとしているところであった。

 

「ぶちかますぞ。撃て!」

 

「了解だ!」

 

 湊が操る50口径の重機関銃が発砲し、ベヒモスに銃弾が吸い込まれるように命中していく。その攻撃にベヒモスはすぐに気づき、俺たちの方を睨み殺さん勢いで見てきた。

 

「佐世保! 出せ、出せ!」

 

「分かってる!」

 

 俺は装甲車を急発進させる。タイヤが地面を蹴って加速し、背後からはベヒモスの咆哮が響いてきた。

 

「追ってきたか!?」

 

「追ってきている! 急げ、急げ!」

 

 俺たち自身を餌にした釣りは成功した。ベヒモスは怒りに満ちた表情で俺たちを追いかけ始めたのだ。

 

「クソ。無事に大井のキャンプまで引きずって行けるかね!?」

 

「どうにかするしかない!」

 

 俺は装甲車を猛スピードで走らせ、ベヒモスはそれを追う。

 

 後方からずうんずうんと巨大な足音が響き、それが聞こえるたびに俺の心臓が早鐘を打つ。緊張で汗がにじみ、口が乾く。

 

 追いつかれれば一巻の終わりだ。流石の俺たちもあんな化け物を相手にしてどうにかできるような技術はない。

 

「大井のキャンプまでどれくらいだ!?」

 

「残り5キロだ!」

 

「なら、ぶっ飛ばすぞ!」

 

 俺はアクセルを全開に踏み込み、装甲車をさらに加速させる。

 

 装甲車は大井のキャンプまでの道のりを駆け抜けていき、そして──。

 

「見えた!」

 

 大井のキャンプが見えてきた。

 

「で、俺たちはどうするんだ、ここから!?」

 

「車を降りて隠れるしかない!」

 

 俺と湊は爆走する装甲車から飛び降りて熱光学迷彩を起動。衝撃とともに地面に打ち付けられたが、俺たちは痛みに耐え、ベヒモスが無人の装甲車を追いかけるのを確認した。それからベヒモスはそのまま大井のキャンプに侵入していく。

 

 激しい銃声が響き、ベヒモスと太平洋保安公司が戦闘を開始した。

 

「上手くいったよな……?」

 

「そう願いたい」

 

 こうやってベヒモスがこのまま幼体の場所までたどり着けば、この状況も変化するかもしれないのだ。

 

……………………

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