公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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ダンジョンの存在理由

……………………

 

 ──ダンジョンの存在理由

 

 

「意地悪な神?」

 

 湊がシュヴァルティアの言葉に首をかしげる。

 

「そう、神とは皆が皆揃って慈悲深いわけではない。中には我々を玩具にして楽しむような意地悪な神もいる」

 

「ふうむ? 神というからには君たちの信仰対象だったわけかね?」

 

「いいや。我々の崇めている神ではないよ」

 

 篠原の問いにシュヴァルティアはそう答えた。

 

「その意地悪な神は我々を助けることを申し出たが、その代わりに我々はこの小さな世界に閉じ込められてしまった。迫害からは逃れられたものの、ここから出ることはかないそうにない」

 

「そいつは意地悪な神様だな」

 

 湊はシュヴァルティアの言葉に素直に納得していた。

 

「待ちたまえ。ということは、ダンジョンを作ったのはその神とやらなのかね?」

 

 篠原はそう慌てた様子で尋ねる。

 

「恐らくは。我々の世界にはこのような空間が出現することはなかったので、憶測を述べるしかない」

 

「なんと。もしや……」

 

 シュヴァルティアはそう言い篠原は考え込むとやつの推測を述べ始めた。

 

「やはりダンジョンとは動物園なのかもしれない。神というものがどのようなものかがはっきりしないが、もしかすると我々とは全く異なる高度な技術を持った知的生命体である可能性もある」

 

「おいおい。神様がエイリアンだっていうのか?」

 

「我々にとっては神というものをそっくりそのまま受け入れるより、受け入れやすくなっていると思うがね?」

 

「それは……まあ、確かに……」

 

 篠原の指摘は確かだった。俺たちには神様と聞くとどうしても胡散臭く感じる。だが、そう悪意ある高度な技術を持った知的生命体と言われた方がある程度はマシだ。

 

「まあ、私のそれは完全な憶測だがね。だが、これまでの様々なダンジョンの環境を見ていると、私はそうなのではないかと思わざる得ない」

 

 篠原は自分の言っていることに確かな根拠がないことを認めた。

 

「もし、これが動物園だとすればあたしたちはこれを作った連中にとって不味い存在じゃないのか……?」

 

 湊がそう恐る恐る質問した。

 

「確かにな。動物園に入って動物を殺しまわり、動物園の中に基地まで作った。俺たちはそのうちこれだけのものを作った連中を敵に回すかもしれない」

 

 これが人工物だとすれば、創造主は篠原が予想しているように高度な技術を持っている。俺たちを蹴散らすのなんて朝飯前かもしれない。

 

「しかしながら、我々にはそれに抗議できる理由がある。ダンジョン戦役のことを忘れたわけではないだろう。攻撃はダンジョンの方から始まったのだ」

 

 篠原が俺たちの懸念にそう言った。

 

「もし、これが動物園だとしてもそこから猛獣を脱走させた管理不行き届きなものであれば、我々がこうしてダンジョンで活動していることは正当化できる」

 

 それにと篠原は続ける。

 

「これだけのものを作り出せる技術のある存在ならば、最初から立ち入りを制限したければそれは簡単にできたはずだ。そうしなかったのには意図的なものを感じるのだよ」

 

「それもそうだな。だが、そうなると侵入をあえて許した理由が謎だ」

 

「彼らにとってもうこの動物園は必要ないのか、それとも管理していた彼らに何かしらの問題が生じたのか」

 

 俺の疑問に篠原はそのような憶測を述べた。

 

「なあ、これ以上議論しても証拠がないから憶測の域を出ないぞ。それより大井について聞いておいた方がいいんじゃないか?」

 

 湊がここでそう指摘する。

 

「ああ。シュヴァルティア、ここで大井──俺たち以外の人間が活動しているのは知っているか?」

 

「君たち以外の人間か……。確かに民から聞いていることがある。ドラゴンに従う民を攫って行くものたち。それが君たちと同じ種族だということは」

 

 俺の問いにシュヴァルティアはそう答えた。

 

「やはりか。驚くことではないね。ブラックマーケットにはマオと同じ種族がいた。そして、6階層にも大井は進出している。そのことから導き出される答えは、動物園仮説と違って確たる証拠があるものだ」

 

 篠原が言うように驚くべきことではない。

 

 大井は6階層に進出している数少ない存在で、6階層にしかいないはずのマオの同胞たちが拉致されていた。そこから導きだされる答えは、篠原が言うとおりだ。

 

「じゃあ、俺たちはこれからどうする?」

 

「さてね。公社の上層部が決めることだ。大井と全面戦争して6階層から蹴りだすのか、それとも現状維持か」

 

「大井との全面戦争はぞっとするな」

 

 俺たちの立場は単なる自治ごっこをしている保安官気取りに過ぎない。

 

 犯罪組織の資金源になっているならばそれを叩くが、メガコーポたる大井が相手となるとしり込みしてしまうのは仕方ないだろう。

 

「一度公社の拠点に戻って指示を待たないとな。今日は情報提供に感謝するシュヴァルティア」

 

「また来たまえ。歓迎するよ」

 

 シュヴァルティアは俺たちにそう言い、俺たちは公社の拠点へと舞い戻った。

 

「湊、佐世保。篠原先生の護衛は終わったか?」

 

「村瀬。まあ、一応は終わったぞ。しかし、ダンジョンについていろいろと考えさせられる話を聞いた」

 

「へえ。どんな話だ?」

 

 そう尋ねる村瀬に俺たちは動物園仮説の話を聞かせた。

 

「そいつは……ちょっと怖くなるな」

 

「だが、篠原の推測が正しいなら今日明日にいきなり俺たちが不法侵入者として攻撃されることはなさそうだ」

 

「そうだといいんだが……」

 

 村瀬は考え込んでいる様子だった。

 

「村瀬。この階層であたしたちが具体的にどう活動するんだ?」

 

 ここで湊が村瀬にそう尋ねる。

 

「お前たちの報告が正しいなら、大井はここで密猟をしている。人身売買と言うべきか。公社としてそれを阻止するかどうかって話だろうな」

 

「実際にマオと同種のクリーチャーが市場に流れて何が困るのかって話だろう」

 

「そう。ブラックマーケットを見た通り、あれは犯罪組織の資金源になっている。そういうことであればその商品の提供元も潰す必要がある」

 

「つまり大井と全面戦争するのか?」

 

「それも視野に入れる。だが、大井が相手であれば政治的決着もあるはずだ」

 

 公社は日本政府の代理人であり、上には日本政府がいる。

 

 大井がいくらメガコーポでも日本政府を敵に回したいとは思わないだろう。その可能性にかけるしかないのだ。

 

「というわけだから、お前たちはしばらく情報収集のためにぶらぶらしていてくれ。まずは6階層の確かな情報が必要だ」

 

「了解だ」

 

 村瀬からそう言われ、俺たちはこの6階層を偵察して回ることになった。

 

 その結果、分かったのはこの6階層にある集落はマオが暮らしていた場所に集中しているということ。他の場所には集落らしきものはなかった。

 

 それから6階層には危険そうなクリーチャーの数は少ない。つまり、まだよく分からない大井を除けばこの6階層はかなり平和だ。

 

「ここがダンジョンだとは思えないな……」

 

 俺は思わずそう呟いたぐらいだ。

 

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