公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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村を守れ

……………………

 

 ──村を守れ

 

 

 村瀬から俺たちが呼ばれたのは偵察を始めてから3、4日経ったときだ。

 

「大井に公社が圧力をかけている」

 

 村瀬は俺たちに告げる。

 

「だが、それでもすぐに大井が密猟をやめるわけじゃない。大井に決定的な圧力を与えるには実弾が必要だ」

 

「俺たちが取り締まりに本気だってことを示すのか」

 

「そういうことだ。俺たちに実際に連中の密猟を妨害できる能力があることを示し、連中に考えさせる。公社という邪魔ものがいてもなお密猟で利益は上げられるか、と」

 

「なるほどな」

 

 公社のやっていることは間違いではないだろう。

 

 大井に多少の金銭や言葉で圧力をかけても効果はない。効果のある圧力をかけるには実弾が放たれている必要がある。そして、それによって人が死ぬことも必要だ。

 

「分かった。それが公社の方針なら異論はない。あたしたちは大井の密猟部隊を襲うってところか?」

 

「まさに。お前たちにはマオの集落を守ってほしい。この6階層で連中が狙っているのはマオたちのようなクリーチャーだ」

 

「あとはシュヴァルティアはどうする?」

 

「ドラゴンは自分の身は自分で守れるだろう」

 

 湊が尋ねるのに村瀬は肩を竦める。

 

「じゃあ、作戦開始だ。マオの村を守るとしよう」

 

 俺たちはマオの村を守るために装備を持って村に向かった。

 

「それにしても」

 

 マオの村に向かう装甲車の中で湊がにやりと笑う。

 

「お前もかなりマオに打ち解けたよな。最初は射殺しようとしていたのに」

 

「ふん。やつらに害がないと分かったからだ。害がないものをいつまでも警戒するのは無駄だろう」

 

「はいはい。そういうことにしておくよ」

 

 湊はにやにや笑いのまま俺の方を見ていた。

 

 それから俺たちはマオの村に到着したのだった。

 

「マオ!」

 

「湊、佐世保!」

 

 マオの村に到着するとマオたちが俺たちを出迎える。

 

「今日はどうしたの?」

 

「なあ、マオの村から人を攫っている連中がいるだろう? あたしたちはそいつからマオたちを守ることになったんだ」

 

「本当? 助かる!」

 

 マオたちも大井の人さらいには悩まされていたらしく湊の言葉にマオたちは笑顔を浮かべていた。

 

「俺たちの他にもあとから公社の人間がやってくる。俺たちが野営をしてもいい場所を教えてくれるか?」

 

「分かった! 案内する!」

 

 マオはそう言って俺たちがテントを張って野営をしてもいい場所を教えてくれた。そこは村にも近い場所だった。

 

「よし。決まりだ。ここを中心に村の警備をやろう」

 

 俺たちは村のはずれに司令部を設置し、そこを中心としてマオの村を警備することにした。俺たちの他にも村瀬たちも移動してきて、村の守りを固めていく。

 

 軍用四輪駆動車や装甲車で街の周りをぐるりと周回して警備を行う日々の始まりだ。

 

 俺たちには空からの目もあった。湊がコントロールしているドローンが無数に空を飛んでいたのだ。

 

 最初に異常に気付いたのは、その湊のドローンだった。

 

「おかしな車両がうろうろしている」

 

 湊はそう報告する。

 

 湊が撮影したドローンの映像には公社のものではない装甲車がマオの村の様子を窺うようにぐるりと周囲を回っているのが見えた。

 

「大井か?」

 

「連中以外にまだ6階層に辿り着いた勢力はいないんだろう」

 

 それは間違いなく大井の、正確には連中が雇った民間軍事会社(PMSC)の装甲車だった。連中は村を襲う前の下調べを行っていたのである。

 

「ということは、連中は近いうちに仕掛けてくるということだ。どの程度の規模で仕掛けてくるかの情報がほしいな」

 

「なら、引きつづき、湊にドローンで見張ってもらおう。それである程度のことは分かるはずだ」

 

「そうだな。よろしく頼むぞ、湊」

 

 村瀬が言って、俺は湊の肩を叩く。

 

 しかし、物事がそこまで簡単にいかないことを俺たちは思い知ることになる。

 

 警備開始から数日後、突然俺たちは拠点にしている天幕で爆発と火災が生じた。

 

「火災だと。何があった?」

 

 俺たちは現場を調べる。

 

 現場に火の気はなく、まして爆発するようなものが置かれていない。よく調べれた爆発は天幕の外で生じていた。

 

「この爆発は誰かが仕掛けたものだ」

 

 俺たちはそう結論した。

 

「テロか? しかし、誰が……」

 

「大井以外に誰がいる? あたしたちが警備しているのを疎ましく思ったんだろうさ」

 

 村瀬が唸り、湊がすぐにそういう。

 

「ああ。間違いなく大井だが、問題は連中はどうやってドローンや湊の生体電気センサーを逃れて接近したかだ」

 

 俺はそう指摘する。

 

 そう周囲にはドローンがぶんぶん飛び回っており、最高の索敵能力を有する湊だっていた。どうやって大井はこれらを潜り抜けて、俺たちの拠点に近づいたんだろうか?

 

「そうだな……。熱光学迷彩でも生体電気センサーからは逃れられないだろうしな」

 

 村瀬も考え込んだ。

 

「まさか連中が生体電気センサーにも気づかれない迷彩システムを作ったって可能性はないのか?」

 

「分からん。ここは篠原に聞いてみるか」

 

 俺たちはこの怪現象に篠原の助言を仰いだ。

 

『湊君の生体電気センサーにも気づかれない迷彩システム?』

 

 篠原は俺たちからODIN経由で通信を受けて首をひねる。

 

「ああ。敵は湊やドローンに気づかれず、俺たちの拠点に忍び寄った。方法を知りたい。そして可能であるならば対策を立てておきたい」

 

『ふむ。私も知らない技術が使われているようだね。残念だが仕組みについては助言できない。だが、対策を立てる方法はある』

 

 篠原はそう言う。

 

『物理的に作動するセンサーを使うこと。それから会敵時にはスモークグレネードを使うといい。それで敵は炙り出せるはずだ』

 

「通常の熱光学迷彩への対処と同じだな」

 

『そう、生体電気センサーに引っかからないが、それだけだ。熱光学迷彩は幽霊を作り出す技術ではないよ』

 

 篠原はそうすました口調で言ってのけた。

 

「分かった。仕組みが分かりそうだったら教えてくれ」

 

『うむ! 君たちがその迷彩システムを鹵獲してくれたら徹夜で解析しよう!』

 

 篠原はそう請け負い、俺たちは再び任務に戻る。

 

「しかし、大井がこんな辺鄙な場所に新型の迷彩システムなんて展開しているとはな。どういうことなんだか……」

 

 村瀬がそう愚痴る。

 

「辺鄙な場所だからこそなんじゃないか? ここなら下手に装備を鹵獲されて、新技術が漏洩する心配もない」

 

「ああ。そういうことか……」

 

 俺が言うのに村瀬が頷く。

 

 この場所には俺たち以外に有力な戦力は存在しない。俺たちがくる以前は大井の独壇場であった。そう考えれば連中がここで新兵器のテストをしていてもおかしくはない。

 

「6階層は大井の新兵器の実験場で、マオたちはそのモルモットか?」

 

「そんなところだろうな」

 

 憤慨する湊に俺はそう言ったのだった。

 

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