公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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深部偵察

……………………

 

 ──深部偵察

 

 

 俺と湊は翌日、きっちり出勤時間ぴったりに公社に入った。

 

「佐世保、湊。篠原がお前たちを呼んでいたぜ」

 

「篠原が?」

 

 警備主任からそう言われて俺たちは研究室に向かう。

 

 エレベーターで地下2階に降り、篠原の執務室をノック。

 

「待っていたよ、ふたりとも!」

 

 篠原が両手を広げて出迎えるのは、相変わらずの荒れた部屋。掃除の痕跡はなしで、あちこちにお菓子や栄養バーの空袋が放置されている。

 

 そこでマオがタブレットを一生懸命に操作していた。

 

「篠原。俺たちに用事だって?」

 

「そうとも。聞いてほしいことがある。ああ、理事長から深部偵察のことを提案されているのは聞かされているから隠さなくていい」

 

 秋葉から言われたばかりの深部偵察の提案について、篠原はどういうわけか既に知っていた。

 

 この女はエンハンサーの技術のことを知っていることと言い、ただの研究者ではないのだ。恐らくは理事会と何かしらの形で関係している。

 

「マオから話を聞いていたんだ。彼女はずっと深くから来たと言っている。それも最近このダンジョンの上層に繋がった場所から、と」

 

「まさかマオは6階層から……?」

 

「その可能性がある」

 

 篠原の話が事実ならば、マオの存在は深部偵察において重要なものとなる。

 

「私もまだ確証を得ているわけじゃない。マオの話と現状を断片的にくっつけて推測したに過ぎない。というわけで、理事会に深部偵察をやらされる前に君たちに調査を依頼したい」

 

「マオが6階層から登ってきたのならば、6階層への降り方も知っている。そのことを確かめるってところか?」

 

「まさに。ただ私は理事会のようにいきなり6階層に飛び込めとは言わないよ。君たちにはまず1階層をもっと調べてほしい」

 

「1階層の調査? それは腐るほどやってるだろ?」

 

 篠原の言葉に湊が疑問を呈する。

 

「マオは1階層について私たちが知らない情報を持っている可能性がある。それから6階層の出現は、1階層にも影響しているかもしれないということだ」

 

「なるほど……。マオが6階層から上がってきたならば、他のクリーチャーも、と」

 

「そういうことだ。ダンジョンの生態調査、やってくれるかい?」

 

 篠原は目を輝かせてそう提案してきた。

 

「他に任務がなければやるが」

 

「それならば安心したまえ! 村瀬部長に確認しているが君たちの仕事はこれ以外何もないぞ!」

 

「あんたが手をまわしたわけじゃないよな?」

 

「そんなことはしていないとも」

 

 どうにも怪しいが、本当に仕事がこれだけなれば公社から給料をもらっている身として仕事をやる必要がある。

 

「オーケー。一応村瀬に確認してからだ。本当に仕事がなければ引き受ける」

 

「そうしてくれたまえ!」

 

 篠原に見送られて、俺たちはまずは事務所に向かう。

 

「篠原の依頼で動くということになるが、あたしたちの指揮権は一応理事会だぞ」

 

「その点も篠原は織り込み済みなんだろう。気になるならば、理事長に確認しておく」

 

「そうしてくれ。命令違反で軍法会議にかけられちゃ困る」

 

「軍法会議は公社にはない」

 

 俺たちはもう軍人じゃないんだと俺は湊に言った。

 

「それでもやってることは変わりない。戦争だ」

 

 湊は小さく笑ってそう言うと俺とともに事務所に入った。

 

「村瀬。確認したいことがある。いいか?」

 

「篠原博士の件なら問題ないぞ。俺たちからは何もない」

 

 俺たちが何を尋ねるのか、村瀬は把握していた。

 

「そうか。なら、いいんだが……」

 

「ただ、1階層の偵察任務だろう? 今はカルテルどもが殺し合っていて1階層でも物騒な状況だ。援護は必要ないか?」

 

「もちろん。援護してもらえるならば歓迎だ」

 

 村瀬の提案に俺たちは頷いて返す。

 

「爆装したドローンを飛ばしておく。それからいざってときの緊急即応部隊(QRF)も1個小隊待機させておく」

 

「至れり尽くせりだな。本当にあたしたちにそれだけしてくれるのか?」

 

「ついでにお願いがある」

 

「やっぱり、か」

 

 ただでこれだけの支援が貰えるわけじゃないのは湊も俺も予想していた。

 

「カルテルの様子を偵察している連中がいる。そいつらの撤退支援に当たってくれ。カルテルの連中、防空コンプレックスを構築してやがってヘリが出せない」

 

「分かった。お安い御用だ。あとでブリーフィングを頼む」

 

「ありがとな」

 

 作戦の詳細を聞かなければ、これだけふわっとした話では動けない。

 

「理事会に確認取ったら、村瀬からブリーフィングを受けて、それから篠原から改めて偵察内容について説明してもらう。いいな?」

 

「オーケー。やろうぜ、相棒」

 

 湊は俺の肩を叩いてそう言い、俺は自分の端末から理事会に篠原の件について確認のメッセージを送る。

 

 メッセージはすぐに返信が来て『篠原博士の指示に従え』ということだった。

 

「理事会は問題なしだと」

 

「次は村瀬だな」

 

 俺たちは村瀬が待つブリーフィングルームに向かう。

 

 ブリーフィングルームはすぐに出撃できるように1階に設置されている。

 

 ブリーフィングルームと言っても防音仕様の壁、プロジェクター、パイプ椅子が置かれているだけの場所に過ぎない。

 

「来たな。じゃあ、任務を説明する」

 

「ああ」

 

 村瀬はそう言ってブリーフィングを開始。

 

「俺たちは1階層のこの南西部でコロンビア系ドラッグカルテル“サント・フシール”とチャイニーズマフィア“夢蛇(モンシャー)”が戦闘中なのを確認し、状況がどう動くかを知るために偵察要員2名を派遣した」

 

 プロジェクターに1階層の地図が表示される。

 

 1階層には南北に階層を分断する森があり、その周囲に平原や林、湖に河川が広がっている。高い山などはあまりなく、丘がある程度だ。

 

 この1階層に企業はあまり興味を示しておらず、カルテルがドラッグを精製するための植物を巡って支配を強めようとしているぐらいである。

 

 ただ2階層以降で活動する企業も、カルテルの抗争に巻き込まれてはかなわないとカルテルと交渉して地上へのルートを確保するか、民間軍事会社(PMSC)を雇用して護衛に当たらせていた。

 

 企業とカルテルは争うつもりはなく、両者は半ば協力状態にあった。

 

「こいつらは当初パワード・リフト機で脱出させるはずだったんだが、さっき言ったようにカルテルどもが防空コンプレックスを構築して、航空機を片っ端から撃墜し始めた。そのせいで撤退できずにいる」

 

「ふん。俺たちは徒歩でこいつらを脱出させるのか?」

 

「いいや。車両を手配してある。使ってくれ。偵察要員を南東部の、防空コンプレックスの射程圏外まで脱出させれば、あとはこっちで回収する」

 

「了解した。偵察要員は差し迫って不味い状態にあるのか?」

 

「負傷などはしていないと報告しているが、周囲にカルテルの部隊が展開していて、そう遠くないうちに捕捉される恐れがあると」

 

「急いだ方がよさそうだな」

 

 あまり長く待たせると2名の偵察要員がカルテルに捕まりかねない。

 

「急いでほしいと言えばほしいが、準備はしっかりしてくれ」

 

「ああ。もちろんだ。この手の仕事はそれなり以上に経験している」

 

 必要な装備を整えてから、救出作戦に当たると俺は言った。

 

「頼むぞ。お前たちはうちの虎の子だからな」

 

 村瀬からの信頼は得ている。俺と湊はこれまでも難しい任務を成功させてきた。そのことは誇れるはずだ。

 

 俺たちはそれからブリーフィングルームを出た。

 

「さて、あとは篠原から詳細を聞くか」

 

「そうだな。あたしたちに何を調べてほしいのか」

 

 俺の言葉に湊がそう言って頷いた。

 

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