公益財団法人日本迷宮公社   作:第616特別情報大隊

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救出任務

……………………

 

 ──救出任務

 

 

 確認が終わり、俺たちは再び篠原の研究室を訪れた。

 

「篠原。偵察の件、ついでだが引き受ける」

 

「おお! それは何よりだ!」

 

「で、具体的に何を調べてきてほしいんだ?」

 

 俺たちはそう喜びに両手を上げる篠原に尋ねた。

 

「全体的な生態系の再把握が行いたい。これまで1階層については十分なレポートが上がっているが、それがどう変化したかを知りたいのだよ。だから、とにかく1階層を調べ回って、見つけたクリーチャーを全て記録する!」

 

「おいおい。それに何年かかるか分かるのか、博士」

 

「まあ、4、5年というところかね」

 

「却下だ、却下。もっと局所的な調査にしてくれ」

 

 あっさりと年単位の調査を持ち出す篠原に湊が首を横に振った。

 

「むむむむ。ならば、そうだね。君たちは今回ついでで調査すると言っていたが、どこら辺まで向かうつもりかね?」

 

「南西部だ。だが、そこでの調査は無理だぞ。カルテルが戦争をやっている」

 

 篠原は唸りながら尋ね、俺がそう答えた。

 

「では、南部にはいくのだね?」

 

「そうなる」

 

「では、これを調べてきてくれるかね?」

 

 篠原はそう言い、俺たちのARデバイスに情報を送信。

 

「ゴブリンの調査、か」

 

 ゴブリン。醜い小人。極めて攻撃的で危険。

 

「これまでの調査で彼らは環境の変化の影響を受けやすいと判明している。企業が道路を作るために彼らの生息域を蹂躙したときのことは覚えているだろう?」

 

「ああ。他の地域に大移動して大混乱が起きたな」

 

 篠原の言葉に湊が思い出しながら答えた。

 

 ダンジョンに企業が進出してから1年ぐらいのときに企業側で1階層に大規模な道路整備を行う計画が立ち上がり、その建設に先だって民間軍事会社(PMSC)による大規模なクリーチャーへの攻撃が実行された。

 

 猛烈な砲爆撃/一部化学兵器の使用/ハンティング気分のコントラクター/によってダンジョン1階層でクリーチャーたちが大量に死んだ。

 

 しかし、クリーチャーはそれで絶滅してくれるほど殊勝ではない。

 

 連中は企業の攻撃に押し出される形になり、他の場所に押し寄せた。その中でもっとも大規模な移動を行ったのがゴブリンだ。

 

 やつらは他のクリーチャーどをも集団で殺し、その居場所を奪ったのである。

 

 醜いダンジョンのクリーチャーらしい行動だ。

 

「今回も何か変化が起きていれば、彼らに異常があるかもしれない。それを見てきてもらいたい。いいかい?」

 

「了解だ。様子を見てこよう」

 

「しっかりとした記録をお願いしたいので、詳細は現地で指示するよ」

 

「ああ」

 

 篠原からの指示も受けたところでマオが駆け寄ってきた。

 

「させぼ、みなと、狩り?」

 

「ああ。狩りだ、マオ」

 

「マオ、ついていく!」

 

 そうマオが言うのに湊も困った顔をした。

 

「彼女も連れていきたまえ。彼女は君たちのような武装なしで、6階層から1階層まで到達しているんだ。頼りになるだろう?」

 

「冗談だろう?」

 

「それに彼女はダンジョンの変化について何かを知っている。そのことが知りたい」

 

 俺はマオが死んでも別にどうも思わないだろうが、湊が心配だ。やつからの昨日子供兵を殺したことを悔やんでいると聞いたばかりだから。

 

「分かった。面倒を見る。行こうか、マオ?」

 

「うん!」

 

 湊は優しくマオに言い、マオは笑顔を浮かべた。

 

 さて、子守をしながら友軍の撤退支援と調査を行うのか。ハードな任務だな。

 

「じゃあ、装備を整えて出発だ」

 

 俺たちは武装し、装備を整えてから公社のガレージに向かう。

 

「よう、佐世保、湊。車両は準備しておいたぜ」

 

「ありがとよ」

 

 俺たちのために村瀬の部下が車両を準備してくれていた。

 

 兵員が最大6名登場可能な南アフリカ製の装甲車だ。地雷や即席爆破装置(IED)対策が施された車両である。武装としては口径12.7ミリ重機関銃がマウントされていた。

 

「マオ。おいで」

 

 湊はマオを後部座席に乗せ、自分は助手席に座り無人銃座(RWS)の操作に当たる。俺は運転席に座り、ハンドルを握る。

 

「出すぞ」

 

 俺は車をガレージから出し、そのまま目的地である南西部に向けて走る。

 

 企業が整備した道路は自由に使える。

 

 別に企業が使用を許可しているわけではないが、ここが無法地帯である以上、勝手に使ったところで罰則は生じない。それだけだ。

 

「目的地まで5時間ってところか」

 

「結構かかるな」

 

 俺たちは大まかな到着予定時刻(ETA)を算出し、作戦を練る。

 

 ダンジョンには今は太陽の輝きはない。ダンジョンは地球が昼のときは夜なのである。今は地球は朝であるからにして、ダンジョンでは丁度太陽が沈んだところだ。

 

「当初は俺たちだけで救出に向かう予定だったから、マオはどうする?」

 

「車両にカモフラージュを施して、中にいてもらおう。流石に戦場に連れていくわけにはいかない。だろ、佐世保?」

 

「そうだな」

 

 湊はやはりマオのことを気にしている。どこが安全かずっと考えていたのだろう。

 

「友軍と接触して、詳しい状況を聞き、必要に応じて行動する。陽動が必要ならば俺が担当する。それでいいか?」

 

「あんたに任せるよ。あんたが指揮官だ」

 

 まだ撤退が困難になっている友軍の状況が分からない。まずは友軍の状況を知ることから始めなければ。

 

 俺たちは孤立した友軍との接触を目指し、企業やカルテルが整備した道路を走り、南西部へと向かう。

 

 それから5時間後────。

 

「佐世保。ドローンからの映像だ。カルテルのパロトールを捕捉した」

 

「なら、そろそろ車両を降りよう」

 

 どうやらカルテルの縄張りに近づいたようだ。

 

 俺は林の中に車両を止め、それからカモフラージュネットを車両にかぶせた。

 

「マオ。少し留守番しておいてくれ。いいか?」

 

「わかった」

 

 マオを車両に残し、俺たちはまずはカルテルのパトロールに対処することに。

 

「パトロールは排除する。ここら辺をうろうろされているとあとで迷惑だ」

 

「そうだな。賛成だ」

 

 カルテルのパトロールをここに残すのは、いろいろとリスクがある。

 

 仮に撤退の際に隠密(ステルス)を選択したとしても、あとあとで交戦することになる可能性があり、その際に負傷した友軍などを連れていたら最悪だ。

 

「湊。いつも通り敵の位置の把握を頼む」

 

「任せろ」

 

 湊がそのエンハンサーとしての技術で敵を把握し、俺たちは慎重に前進。

 

 カルテルのパトロールはドローンで見た限り、そこまでの規模ではなく、4名の標準的な小規模なパトロールだった。

 

 敵に車両の類はなく、いい獲物だ。

 

「前に2名は俺がやる。後ろの2名をやれ」

 

「了解」

 

 俺は湊に指示を出し、湊もアサルトライフルを握り不敵に笑った。

 

 カルテルのような悪党を狩るのは愉快なことだ。連中が悪党であればあるほど俺たちの殺しのハードルは下がる。

 

 俺たちは茂みと闇を利用してカルテルのパロトールに接近。

 

 すぐ向こうにカルテルの兵士たちが見える位置まで来た。

 

 さあ、パーティ開始だ。

 

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