ミッドチルダUCAT   作:箱庭廻

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全てはこれから始まる

 

 次元世界ミッドチルダ。

 次元世界の治安と平定を目的とする次元管理局発祥の地である魔法技術の発達した世界。

 その首都クラナガンに設置されたのは次元管理局における地上部隊、陸の本部。

 

 ――地上本部。

 

 だがしかし、その実態を知るものはその存在に頼もしさを感じることはないだろう。

 ミッドチルダにおいて生まれ育ち、魔法素養の高い魔導師たちは次元管理局の本部へと招集され、次元世界を管理する【海】へと優先的に配属される。

 魅力的な給料、より重要度の高い次元世界の任務、拡大を広げる管理世界に対処する海において高ランク魔導師は常に人手不足。

 その結果残ったのは残りかすのような低ランク魔導師、非魔導師たちの部隊。

 陸における高ランク魔導師はAランクが精々。その保有数すらも制限される現状。

 そして、それを実質的に統治するレジアス・ゲイズ中将もまた海の保有存在に対して抗議する強硬派として認知されていた。

 

 そう――されていた。

 

 それは過去形である。

 現在は違う。

 搾りかすのような部隊と陰口を叩くものはもはや存在しない。

 頼りない戦力と大っぴらに認識することは誰も出来ない。

 そして、なによりも。

 ミッドチルダ地上本部という名称は誰も覚えてない。

 今の彼らの名は誰もがこう告げる。

 

 

 

 【ミッドチルダUCAT】 だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の少女が走っていた。

 誰もいない路地裏、それを裸足の少女が駆けていく。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 鮮やかな赤毛をなびかせた幼い少女だった。

 その体にはどこからか引きちぎったのか、カーテンと思しき布を巻きつけ、靴も履かずに駆けている。

 ゴミ屑が落ち、コンクリートの地面に赤く血の付いた足跡がへばりつく。

 足裏に怪我を負い、痛みを耐えるように歯を食いしばりながらも少女は走っていた。

 必死に、追ってくる何かから逃げていた。

 

『王よ』

 

 駆ける少女、その耳にどこか濁った声が落ちた。

 降り落ちるような上から響き渡る声。

 

「――ッ!?」

 

 少女が一瞬減速し、その顔色を蒼白に染め上げる。

 一つの影が落下し、少女の眼前に着地した。

 舞い降りたのは美しい女。

 それはバイザーに顔を隠した人型。

 その手には刃を、研ぎ澄まされた刀身を握り締めた怜悧な人形の如き冷たい気配。

 

『何故逃げるのですか、我らが王よ』

 

 冷ややかな唇から紡がれたのは濁った音声。

 

『我らが王よ、何故逃走をするのです? 我々に求められた目的を、役目を果たしましょう』

 

 背筋が凍りつくような声に、少女は被りを振って叫んだ。

 

「――違う。駄目なの。今の世界はあの世界じゃない! もう私たちは必要ない!!」

 

 少女の声は切なく響いた。

 その目つきには決意と殉じるべき願いがあった。

 

「私たちの時代は終わったの! もう戦争のための戦いなんてない。私たちはいらないの、マリアージュ!」

 

『いえ、必要です。それが私たちの役目――任務です、イクスヴェリア』

 

 マリアージュと呼ばれた存在。

 それが赤毛の少女に手を伸ばし――とっさに下がろうとした少女の動きよりも速く踏み込んだ。

 

「あっ……!」

 

 手を捻り上げられて、少女――イクスヴェリアが苦痛の声をもらした。

 それでもなお力を入れて抜け出そうとするイクスに、無機質にマリアージュは無効化するために手を振り上げようとして。

 

 

「少女の折檻、はぁはぁ」

 

 

 

 という微かな声と、ジーという機械音。

 

『?』

 

 マリアージュがバイザーを上に向ける。

 そして、そこには――ブラーンとワイヤーに腰ベルトを繋がれ、肩に担ぐサイズのロケカメラを構えた男がいた。

 地上本部標準の茶色いジャケット、制服、帽子を被り、何故か音も立てずに壁に足を接着させ、カメラを向け続ける――陸士。

 

「あ、僕のことは気にしないでください。勝手に録画してるので」

 

 ニコッと微笑むカメラ陸士。

 爽やかな笑み。

 

『――左腕武装化……形態・戦刀』

 

 チャキッとブレードを出現させるマリアージュ。

 冷たい表情。

 

「交渉は決裂ですかー!?」

 

『排除します』

 

 イクスを一端手放し、マリアージュが上空のカメラ陸士を排除しようとした。

 その瞬間だった。

 ――高速で飛来した一筋の網が、少女の肢体に絡みついたのは。

 

「ふぇーっ!?」

 

 旋風のような一閃。

 マリアージュが振り返った瞬間には、赤毛の少女の姿はなかった。

 

『なに!?』

 

 瞬時に周囲を捜索――斜め上へと向けた視線の先には、二メートルはあるだろう長い棒状の先端に付いた網――巨大な虫取り網を担いだ陸士の姿。

 左手には小さな盾、右腰に西洋風の長剣を携えて、さらに腰に複数のビンを持っていた。

 

「幼女、ゲットだぜ!」

 

 キラーンと虫取り網ならぬ幼女取り網でイクスヴェリアを攫い上げた陸士が素敵な笑みを浮かべて、サムズアップ。

 さらには「ひゃっはー!! お持ち帰りだぜー!!」 と踊る虫取り網陸士と 「あ、こら、やめろよぉ!! 大切なょぅじょだぞ!! 一緒に愛でさせてくれよぉ!」とばたばた暴れるカメラ陸士。

 

「ふぇ? ふぇ? な、なんなんです?」

 

 虫取り網で捕獲――ぶらぶらと網の中でハンモックの如く揺さぶられながら、赤毛の少女は首を傾げる。

 だが、その数秒後彼女は絶叫を上げた。

 次々と新たに現れた存在に。

 

『……増援。だが、その程度では――』

 

 マリアージュが呟くと同時に「ばかめ、それはフラグだ!」 と虫取り網陸士が指を鳴らす。

 乾いた音が鳴り響く。

 そして、彼らは現れた。

 

 

 

 

「とぉおおおお!!!!」

 

 怪鳥音を叫びながら、一筋の影がマリアージュの前に着地する。

 それは何故か真っ白なマントに、白い覆面を被り、腰にベルトを付けた陸士。

 

「科学忍法万歳! 幼女と聞いて見参!」

 

 シャキーンとポーズを取る忍法陸士。

 

 

 

「幼女と聞いて飛んできました!!」

 

 続いてバンっとマンホールの蓋が吹き飛び、その中からにょきっと伸びた足が折曲がった地面を叩き、躍り出た。

 そして、クルクルと縦回転しながら変わった形のローラーブーツを履いて、うざったいどや顔をしたドクロマークの刺繍付き陸士ジャケットを着た陸士が着地する。

 

「俺、参上だぜ!」

 

 両手を鳥の様に大きく羽ばたかせ、どや顔を浮かべるローラー陸士。

 

 

 

 

「幼女はいねえがー!!」

 

 轟音。

 華麗な決めポーズを取っていたローラー陸士の真横、路地ビルのひび割れた壁を粉砕し、現れた影がローラー陸士をぶっ飛ばした。

 トラックに轢かれたように錐揉みする陸士の代わりに現れたのは――眼を疑うような巨漢。

 全長三メートル。

 全身を覆うのは紅く染まった装甲、西洋甲冑にも似て、宇宙服にも似て、だがしかし全て異なる装甲服。

 手には象すらも殴り殺せそうなほどの巨大なガントレット、肘には武器すら応用が利きそうな盾に、その背からはワキワキと何故か蟹の足っぽいのが動いていた。

 

「そこにいるかにかー!?」

 

 甲冑陸士――訂正、蟹陸士がギランと口から蒸気を吐き出し、イクスを捕捉。

 

「うほ、いい幼女!」

 

 その声と台詞にイクスがぞぞぞっと背筋に寒気を覚えて、全身から鳥肌――かにアレルギーにでもなったようなさぶいぼが噴き出す。

 

 

 

「へ、変態だぁああああああああ!!」

 

 

 

 絶叫だった。

 どばどばと涙と悲鳴が口からこぼれて、イクスが全身全霊で叫ぶ。

 だがしかし、その叫びに陸士たちは一斉にこう返した。

 

「違います! 例え変態だとしても、俺たちは陸士という名の変態です!!」

 

「結局変態じゃないですかぁ!!」

 

 絶叫だった。

 変質者にあった小学生幼女の対応そのままに悲鳴。

 

『……この時代の戦士は変わったのだな』

 

 マリアージュもまたどこか遠い目で呟いた。

 が。

 

『!? ――上か』

 

 マリアージュが飛び退った瞬間、パリーンと路地ビル四階にあった窓ガラスを粉砕した。

 きらきらと舞い散るガラス片、それを纏いながら十字ポーズのままに飛び出してきた影が大きな地響きと共に着地する。

 

「華麗に着地!」

 

 スタッと着地、同時に背中から鳩が飛び立つ。ばさりと舞い散る白い羽毛。

 何故かタキシード服に、胸に蝶ネクタイ、そして右手にはバラの花束。

 そして、顔には何故か目元を隠す紅いマスク。

 

「ょぅじょの危機に即参上! そして、そこの美しいお嬢さん、私と共にハネムーンにいきませんか?!」

 

 真っ白い歯を手に持った懐中電灯で輝かせながら、そのタキシード陸士はマリアージュに向かってバラの花束を突き出した。

 

『……』

 

 が、次の瞬間振り下ろされた斬撃にバラの花束が散り、「マトリックス!」と叫びながら仰け反ってタキシード陸士は回避。

 同時にバック転で跳び退り、土煙を上げながら靴底でブレーキ。

 

「フッ、ツンデレか……だがそれもいい!」

 

 クワッと眼を見開き、タキシード陸士が頷く。

 

「うんうん、時代はツンデレだよな」

 

「馬鹿言え、素直クール最高だろ」

 

「ヤンデレ萌え~、病んだ子に求婚して、幸せな専業主婦やらせたい」

 

「チッチッチ、世の中には素直ヒートというジャンルもあってだな」

 

 などとそれぞれに主張をアピールする陸士たち。

 

「あ、貴方たちは一体誰なんですか!?」

 

 彼らのマイペースぶりに戸惑いながらも、イクスが尋ねる。

 引きつった顔と理解不能な現状に対する問いかけとして。

 

『お前たちは――何者だ?』

 

 マリアージュが問う。

 警告と理解不能な精神構造と格好をした人物たちへの警戒として。

 

『良くぞ聞いてくれた!』

 

 その質問に陸士たちが飛び散り、狭い路地の中で手を伸ばす、足を伸ばす。

 

「ふぁいやー!」

 

 その瞬間、陸士たちの背後が爆発した。

 持ち込んでいたカラフルな花火の爆発。

 

「さんだー!」

 

 手に持っていたスタンバトンを無駄にバチバチ。

 効果音を鳴り響かせながら、意思統一された無駄なき動きで。

 

 

『美女とあらば即参上、ミッドチルダU(ゆー)CA~T(きゃ~と)ッ!!』

 

 

 全員一斉にポーズと共に叫んだ。

 地上を護る治安維持組織――ミッドチルダUCATの名を。

 

 

 

「おおー、いいカメラワークだぜ」

 

 そして、それを相変わらずワイヤーで釣り下がっているカメラ陸士が撮影していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物語はこれより三年前に巻き戻る。

 

 ミッドチルダUCATの存在が知れ渡るJS事件。

 

 

 全てはこれから始まる。

 

 

 






俺たちの青春の1000ページが帰ってきた!!
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