ミッドチルダUCAT   作:箱庭廻

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第一回 地上本部攻防戦 その2

 

 

 ミッドチルダUCAT意見陳述会。

 それは年々削られた予算にも関わらず戦力を拡大し、発言力を強めているUCATに対する監査儀式のようなものだったのかもしれない。

 優れた組織力と治安維持に反して、得体の知れない人材や兵器などにミッドチルダ市民の不信感は高まり、抑え付けていた蓋が外れたようにその実情を人々が知りたがるようになった。

 

 彼らは敵なのか?

 

 それとも自分達を護ってくれる存在なのか?

 

 秘密裏に開発が進み、その持続申請が出された新型拠点防衛用兵器アインヘリヤルなどの存在により、人々の注目は極度の高まりを見せていた。

 そして、その会議が終わりかけた時、事態は波乱の展開を迎えた。

 

 ――始まりは突然だった。

 

 爆音が鳴り響き、それと同時に警報が地上本部の室内全てに鳴り響く。

 会議に参加していたものは誰しも目を見張り、戸惑いに声を上げて、窓の外を見た。

 

「な、なんだ!?」

 

 それは無数の敵影だった。

 ガジェット・ドローンと呼ばれる機械兵器、それが雲海のように迫っている。

 誰もが驚きに声を上げた。

 迎撃を! いや、避難を! 地上本部の防衛はどうなっている! 口々に叫び声が上がる、その中で会議に参加していたはやてたちは目を合わせて出撃する覚悟を決め、その横で三人の様子を見ていたカリムは祈るように腕を組んだ。

 

「失礼ながら、私たちはしゅつげ――」

 

「必要ないな」

 

 はやてが立ち上がろうとした瞬間、声が掛かった。

 それはオールバックの髪型に一房の白髪が混じった青年。

 レジアス・ゲイズ中将の横で客分として座っている人物、佐山 御言。

 

「っ、どういう意味ですか!?」

 

「言葉の意味も理解出来ないのかね? 先ほど告げている通りだ。出撃する必要は無い」

 

 佐山がチラリと横のレジアスを見ると、彼もこっくりと頷いた。

 ガタリを椅子から立ち上がると、彼は静かに、されど重々しい口調で告げた。

 

「皆、冷静になってください。それと勝手な判断で移動しないように、あくまでも攻撃対象は私たちUCATのようです」

 

「っ、勝手なことを! 私たちに被害が出たらどう責任を取るのかね!!」

 

 口々に騒ぎ立てる本局幹部達。

 それらに佐山はやれやれと息を吐くと、告げた。

 

「なるほど。責任を取ればいいのだね? よろしい、きみ達にかすり傷一つでも付けばこの男が皺腹を掻っ捌いてくれる!」

 

 自信満々に告げる佐山。

 

「……いや、ワシはそこまで言ってないのだが」

 

「これで満足するのだろう!! なんならばきみ達に介錯をさせてもいいぞ! 分かるかね? ジャパニーズハラキリーだ!」

 

「ぉーぃ」

 

 無視されて少し寂しいレジアスだった。

 白熱する陳述会会場。

 音を上げていく爆音。

 

 そして。

 

「なっ、あれをみろ!」

 

 誰かが叫んだ。

 その瞬間、誰もが窓の外を見た。

 

 大いなる桃色の光線が、空を焼き尽くしたのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……時は少々遡る。

 

 四時間前、ミッドチルダUCAT本部内を歩き回ったなのは、フェイト、はやては疲労困憊だった。

 肉体的には負担はない。

 ただし精神は幾つもの刀傷を負い、出血を起こし、今にも壊死しそうだった。

 だって。

 

「魔王様-! 俺だー! 結婚してくれー!」

 

「フェイトそーん! 俺だー! 踏んでくれー!」

 

「はやてー! 別にいいやー! でも、サインくれー!」

 

 と、喚き散らす陸士たちがワラワラとどこからともなく色紙と使い捨てカメラを持って寄ってきたり。

 

「見てくれよ? これ……どう思う?」

 

「……すごく……大きいです」

 

 と、ベンチに座り込んで、手作りらしい1/10ナンバーズフィギュアを見せ合っている陸士もいたし。

 

「はいはい、ここが有名な陸士108部隊の部隊室だよー」

 

「へえー、ここであのギンガ姉ちゃんが寝顔撮られたりしたんだね!」

 

「すごーい!」

 

「俺もいつかUCATに入って、可愛い部下とラブラブの職場恋愛になりたーい!」

 

「じゃあ、私それに横恋慕して、ドロドロ関係になりた~い!」

 

「じゃあ、僕はそれを最後まで見届けて歯をがたがたするー!」

 

「あらあら、皆さんおませさんですね。でも、不倫とかは事前に正妻と結託しておくと後々楽なのよ☆」

 

 などと告げるバスガイドならぬUCATガイドのお姉さんと小学校低学年の子供たちが集団行動などをしていたり。

 他にも、ほかにも……思い出すだけで吐血しそうな光景を沢山見たなのはたちは記憶にフタをするという賢い大人の選択をした。

 意見陳述会なのにも関わらず、警備網が強まっている気がまったくしなかった。

 というか、ここはテーマパークなのだろうか?

 一応何度かここに来ているらしいはやて曰く「……信じられんかもしれんけどな、ここ申請すれば見学いつでもOKなんや」と武装組織にして治安部隊あるまじき状態らしい。

 本当にどうなっているのだろうか?

 つくづくなのはとフェイトはフォワード陣を内部警備に廻さなくてよかったと思う。

 

「まあええわ。とりあえず大体見て回ったし、上の会場に行こうか」

 

「そうだね……」

 

「同意する」

 

 ガクーと頭を落とし、なのはたちは上の階に上がろうとエレベーターに向かう。

 

 道は迷わない。

 

 別段持ち込み禁止にもなっていないデバイスたちにルートマップは記憶しておいてあるし、そこらへんで急造らしき案内板が用意されているからだ。

 

 まるでお祭り騒ぎのように張られているポスターや立て札に中学時代の文化祭を思い出して微笑ましくなりそうになる三人だったが、それらを用意したのがいい年こいた大人たちだと思うとどこか凹む。

 騒がしく大工道具を持った陸士たちや、エレキギターにドラムなどを持ったパンクな格好をした陸士たち(一名女の子がいたような気がした)などとすれ違い、エレベーター前に辿り着く。

 すると、そこに見覚えのある顔があった。

 

「あ、カリム!」

 

「? はやて! それに皆さんも」

 

 そこには礼服を身に纏い、身だしなみを調えた金髪の女性が立っていた。

 カリム・グラシア。

 聖王教会の騎士にして、時空管理局少将である才女。

 

 そして、機動六課の後見人の一人でもある女性。

 

 彼女は美しい、宗教画に描かれる美の女神の如く整えられた美貌、太陽の光を凝縮し糸に紡ぎ上げたかのような金色の髪を滑らかに伸ばし、神聖を帯びた礼服の下に隠し切れない肢体は妖しく禁忌を踏み越えさせるほどに魅力的な肉体。

 彼女は佇むだけで世界を変えるかもしれない美貌の持ち主だった。

 

 ――ただし、その周りで写真撮影を求められていなければ。

 

「あ、すみません。こっち向いてくださーい」

 

「あ、はい」

 

 振り向き、ニコッと微笑む。

 パシャリ。

 インスタントカメラのフラッシュが瞬き、カメラを撮った人間と一緒に移った無数の陸士たちが喚き散らすように歓喜の声を上げた。

 

「ひゃっほー! カリムさんと写真撮ったどー!」

 

「宝物だー! 家宝にします!」

 

「ありがとう、ありがとう!」

 

 歓喜の舞を踊る陸士たちの暗黒舞踏。

 それらを引きつった顔で見送り、そしてそれらを目撃したはやては困惑しきった顔と引きつった声で尋ねた。

 

「か、カリム? なにやっとんの?」

 

「いえ、写真を求められたので。一緒に写っただけですよ?」

 

「あかんー!! というか、カリム! あんたのキャラ変わっとるわ! 普通ああいうのは「あら嬉しいですわ。けどごめんなさい、私は聖王に仕える身。淫らに貴方方と触れ合うわけにはいきません」 とか言って断るんとちがうんか!?」

 

「いえ……一緒に写真を撮ってくれたら、聖王教会に全財産を寄付しに行きますと沢山言われたら、つい」

 

 フッと顔を背けるカリム。

 どうやら信仰のプライドとかを金で売ったらしい。

 

「カリムー!!」

 

 親友の行動に、はやては泣いた。

 真面目に泣いた。

 

「ごめんね、はやて。聖王教会も色々と苦しいの」

 

「知りたくなかった事実やわ」

 

 そんなコント劇場を繰り広げている間に、チンッという音が鳴り響く。

 カリムが押しておいたらしい昇降ボタンが点滅し、エレベーターの重厚な扉が開かれた。

 

「えっと、はやてたちも会場に行くのよね?」

 

「そ、そうや」

 

「乗ろうか、なのは」

 

「そうだね」

 

 四人がぞろぞろとエレベーターに乗り込む。

 見晴らしのいいガラス張りのエレベーター。

 はやてがその白い指を動かして、会場のある階層のボタンを押し込むと、鈍い音を立てながらエレベーターが上昇していく。

 

「ん? そういえばカリム」

 

「なに、はやて?」

 

 ニッコリと聖女のような笑みを浮かべるカリム。

 

「シャッハはどないしたん? いつもなら護衛にいるやろ」

 

「ああ、シャッハね……彼女なら急用で来れなかったの」

 

「急用? カリムの護衛以上に優先することなんか?」

 

 シャッハはカリムに忠誠を誓っている神殿騎士だ。

 その彼女が時空管理局本局の制御を半ば離れた組織――危険極まるミッドチルダUCATに一人で行かせるとは信じられなかった。

 どれほどの用件なのか?

 

「いえね。毎月のことなんだけど、ちょっと布教活動をしているらしいの」

 

「ふ、布教?」

 

「ええ。どうしても悔い改めさせないといけない連中がいると、朝から出かけて行ったわ」

 

『……』

 

 ふぅっと悩ましくため息を吐き出すカリムに、なのはたちは沈黙で答えた。

 深く尋ねると危険だと、幾多の戦場を駆け抜けた彼女達の感が叫んでいた。

 そりゃあもう全開で。

 

 結局、なのはたちは会場に辿り着くまで言葉を発することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ、意見陳述会が終わる頃かなぁ」

 

「そうだね」

 

 ミッドチルダUCAT地上本部の外壁、そこでフォワード陣は定められた警備位置に立っていた。

 フォワード四人組が集まり、さらには周囲にも同じように警備に当てられた陸士たちがいるのだが……どうにもやる気が感じられない。

 ラジオ体操をしたり、他の人間のデバイスを借りてお手玉をしていたり、様々な行動をしている。

 組織としてはふざけているに等しかったが、今まで何度か陸士たちと共同戦線を張ってきたフォワード陣たちはミッドチルダUCATの練度が決して低くないことを知っている。

 

 彼らなりの緊張感のほぐし方なのだろうと、適応力高く納得し始めていた。

 決して空を舞い上がりながら「うらー! 敵はどこだー! ティアナにいいところを見せるぞー!」とか叫んでいる知り合いを見て、諦めたわけではない。断じて違うのだ。

 

「あ、そういえばギンガさんはどうしたんですか?」

 

「ギン姉? そういえばさっきなんか陸士108部隊の人が来て、連れていかれたけど」

 

 くいっと首を捻り、スバルが答える。

 何故か泣きながらいやいやと首を振り、布団に簀巻きにされて「わー!!」といいながら攫っていった陸士たちの姿を思い出していた。

 一瞬誘拐かと勘違いしたが、見覚えのある陸士さんたちにラッドさんが「いつものことだから大丈夫さ」と笑って保障してくれたから大丈夫だろう。

 

「ギンガさんって確か元々は108部隊の人なんですよね? やっぱりあちらとのほうが連携とか上手いんでしょうか」

 

 短い間だが、同じ部隊として戦ってきたエリオとしては少し寂しかった。

 そんな彼の頭をポンッとスバルが撫でる。

 

「大丈夫。場所とか所属が違っても、同じ時空管理局で、同じ世界を護ろうとしている仲間だから!」

 

「そうですね」

 

 少しだけ安心したように微笑むエリオ。

 それを見てティアナは肩を竦めて、キャロも嬉しそうに口元に手を当てて微笑んだ。

 

 その時だった。

 

「ん? なんだ、ありゃぁ?」

 

 人間ピラミッドの頂点で片足立ちを行い、両手をYの字にアドレナリン全開のイイ表情をしていた陸士が唐突に何かを捉えた。

 空の果てに浮かんだ黒点。

 陸士の声に気付いて振り返ったフォワード陣は数え切れないほどの数を交戦してきた敵を見間違えることなく、叫んだ。

 

「ガジェット・ドローン!!?」

 

「予言通り、襲撃が来たわね!」

 

 それぞれがデバイスを起動させて、構える。

 そして、ガジェットたちはAMFを展開し、次々とレーザーを放つ。まるで光の雨のよう。

 その爆音と閃光にわーと人間ピラミッドをしていた陸士たちが蜘蛛の子を散らすような速度で散開、一番上の奴は誰も受け止めずにアスファルトに墜落していた。

 遠い黒点から発せられる破壊に誰もが殺気立ち、十分もしないうちにこちらへと辿り着いてくるだろうことが分かる。

 出動要請が掛かるのも時間の問題だ、とティアナたちが考えた瞬間だった。

 

『総員、一時待機! 決して手を出すなよ!!』

 

「え?」

 

 拡声マイクから響く声に誰しも手を止めた。

 ――戦闘放棄!? そう考えたのも無理は無い。

 だがしかし、その次の瞬間発せられた言葉に誰もが耳を疑った。

 

『時空管理局は不利益な弾圧をしない! というわけで、説得要員。彼らに警告をしてあげたまえ!』

 

「は?」

 

 その瞬間だった。

 ガラガラガラという轟音と砂埃を上げてやってくる巨大な影に気が付いたのは。

 

「な、なにあれ?」

 

 ティアナが呆然と呟く。

 それは形容しがたいものだった。

 まずそれは四つの車輪を持っていた――ただし木製。

 それは車体があった――ただし大きな木製。その全身には細長いバーが備え付けられ、それを無数の陸士たち(何故かハッピ姿)が押していた。

 その全身には金箔が貼られていたり、クリスマスツリーのように豆電球がつけられていたり、さらにはチャラッチャッチャー♪ というメロディが甲高く鳴り響いている。

 

 そして、その上は丸い台になっていた。

 

 一言で言うなればステージ、フォワード陣たちは知らないがそれは第97管理外世界においてお立ち台と呼ばれるジュリアナが踊り狂うようなカラフルな台だった。

 そして、そして、その上に……一人の女性が半泣きで立たされていた。

 

 限りなくキワどい水着姿、豊満な胸を惜しげもなく上から突き出し、さらに下乳もむしゃぶりつきたくなるほどにさらされて、そのサクランボウだろう位置だけが伸縮性のある布地で覆われており、さらにヘソだし、股間の食い込みは凄まじいの一言に限るお色気満載の水着に、片手にはビーチパラソルまで持たされている。

 

 はっきり言おう。

 

 ……レースクイーンの格好だった。

 

 さらに残酷なことを告げると、それは透き通る青空のような美しい髪を翻し、見るもの全てが凛々しく引き付けられるだろう美貌を涙で歪めた哀れなる女性――その名を。

 

「ぎ、ギン姉!?」

 

 ギンガ・ナカジマといった。

 実の妹の驚愕の声すらも聞こえないのか、半ばマジ泣きしているギンガ。

 その下で台車を押す連中は凄まじく輝いた笑みでスポーツカーのような速度で駆け抜けると、迫り来るガジェットたちから一番よく見えるまで押し込んでいく。

 運ぶ途中で鼻血を吹き出しながら、ガラガラガラとギンガを連続撮影していた進路上の陸士を一切の躊躇いもなく撥ね飛ばし、彼らはキキーと火花を散らしながら停止した。

 

『えぐえぐ。やだぁ』

 

 泣き声が拡声器から洩れ出てくるが、誰も聞いていなかった。

 ただ爽やかな顔で。

 

「さあギンガさん! 彼らに説得をするんだ!」

 

「ギンガならやれる!」

 

「頑張って~!」

 

 と告げるだけである。

 まるで優しい顔で地獄の針山に送り込む鬼どもを見るような目でギンガは彼らを見たが、誰も気にしなかった。

 というか、少し興奮しているような気がしたので、目をそらした。

 味方はいないと結論付けて、ギンガは気丈にも立ち直り、前を向いた。

 そこには無数のガジェット、そして遠目だがガジェットの上に乗ってこちらへとやってくる少女達――ナンバーズの姿が見えていた。

 そんな彼女達を見て、少しだけギンガは決意を新たにした。

 

『こちらミッドガルドUCAT、説得要員です! もしもしー聞こえていますかー!』

 

 拡声器の出力をMAXに訴えかける。

 その声にナンバーズの少女達は気付いたようで、ギンガに目を向けた。

 そのまま声を発し、渡されたカンペ通りに説得を開始。

 

『貴方達の行為は犯罪行為です! 都市部における公共物破損、違法魔導機械の操作、及びミッドチルダUCATへの破壊工作、他諸々の容疑で逮捕しますよぉ!』

 

 声を張り上げる。

 その度に揺ら揺らと彼女の一部分が揺れた。

 風は強く、片手に持つビーチパラソルの勢いに堪えるために踏みとどまる彼女の体は深く語らないがバインバインと震える。

 

「うるせー! そんな説得で引き下がれるわけないだろ、ばーか!!」

 

 遠めに見える赤い髪の少女が叫び返す。

 当たり前である。ギンガもこんな説得で引き下がるなんて信じていなかった。

 けれど、けれど!

 それでもギンガはやめて欲しかった――彼女達のために。

 

『やめてー! これ以上進んじゃ駄目ー! 本当に! 本当に戦わなければいけなくなるからー! やめてー!』

 

 それは絶叫だった。

 叫んでいる最中にギンガは涙が止まらなかった、うっと口元を抑える、涙が下に零れ落ちる。

 

『?』

 

 そのギンガの態度にナンバーズの誰もが首を捻った。

 そして、その意味を彼女達は数分後に思い知ることになる。

 

「まあいい。ガジェット共、タイプゼロを死なない程度にぶっ飛ばせ!」

 

 紅い髪の少女が叫びを上げて、腕を振り下ろす。

 それと同時にガジェットⅡ型がミサイルを、筒状のⅠ型がレーザーを吐き散らし、ギンガの台車へと集中砲火が叩き込まれる。

 

「ギン姉!」

 

「ギンガさん!!」

 

 呆気に取られていたフォワード陣が慌てて反応するが、時は既に遅し。

 攻撃は次々と撃ち込まれて――炎爆が生み出される。

 ガジェットの攻撃は止む事無く叩き込まれて、その攻撃力の高さをよく知るフォワード陣は顔を青ざめて、スバルは絶叫を上げた。

 

「ギンね――え?」

 

 その悲鳴は、途中で途絶えた。

 爆炎が吹き荒れた後、そこにいたのは無数の陸士たち。

 台車には傷一つなく、ハッピと団扇と看板を持った陸士たちがフォーメーションを組んで障壁を張り、胸も張っていた。

 

「はーははは! 我らがギンガ親衛隊!」

 

「魂の篭らぬ機械の攻撃など通じん!」

 

「やらせはせん! やらせはせんぞぉおおお!!」

 

「ま、また変態かー!?」

 

 咆哮じみた絶叫。

 同時にガジェットからさらにレーザーが放たれるか、バシンと煌めき輝く手甲を付けた陸士の一人に叩き落され、さらに打ち出されるミサイルは強化合金製団扇と【ギンガ☆ラブ】とかかれた立て札の前に悉く弾き返される。

 なんか真面目にやるのがアホらしくなるほどの鉄壁の防御。

 笑い声を上げているギンガ親衛隊陸士たちの頭上で、シクシクと泣いているギンガが異彩を放っていた。

 そんな時だった。

 

『……ギンガ。どうやら彼女達は悲しいことに説得は受け入れられないようだ。下がりたまえ』

 

「ラッドさんの声?」

 

 聞き覚えのある声が放送マイクから聞こえてきて、スバルたちが首を捻った。

 それと同時にギンガは泣き崩れた。

 

『ごめんなさい、ごめんなさい、彼らを止められない私の無力を許して……!』

 

『撤収~!!』

 

 泣きながら謝るギンガを乗せて、台車と陸士たちは凄まじい速度で後退していった。

 そして、その代わりといってはなんだが地上本部の路上道路の地面がギギギと音を立てて開いていく。

 

『え?』

 

 誰かが声を洩らした、誰もが声を洩らした。

 そこから出てきたのはキュラキュラと音を立てて出てくる鋼鉄の獣。

 キャタピラがあった、台座があった、砲台があった、砲身があった。

 ――それは十数台にも及ぶ戦車だった。

 しかも、その装甲にはこうペイントされている【全力☆全壊】と。

 

『全NANOHA-3、展開せよ!』

 

 放送マイクから声が轟く。

 どこか楽しげなラッドの声。

 

 そして、轟くのだ。

 

 こう。

 

 

『ディバイィイイイン・バスター!!!』

 

 

 “十数にも渡る桃色の砲撃が大気を貫いた”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その砲撃の圧倒的火力を見つめているものたちがいた。

 意見陳述会会場、そこにモニターで映し出された戦線。

 そして、その戦車型魔導砲から飛び出した桃色の砲撃に、フェイトは横の親友に振り向いて。

 

「……なのは、いつから分身魔法覚えたの?」

 

「ちがうー! 私じゃないのー!!」

 

 なのはが否定の叫び声を上げた瞬間、モニターからゾットするような声が聞こえた。

 

『……少し頭を冷やそうか――もう一度ディバイン・バスター!』

 

 ちゅどーんという砲撃音と共に聞こえる無数の“女性の声”。

 ジロリとなのはを見つめる視線が増えた。

 

「私じゃないよ! 本当だよ!? なんで、皆見るの!?!」

 

「なのは……」

 

「なのはちゃん……」

 

「タカマチさん……」

 

 誰も信じていなかった。

 

「はにゃー!!」

 

 猫のような叫び声が上がった。

 

 

 

 

 

 二度に渡る一斉砲撃。

 桃色の破壊砲撃はAMFを展開するガジェットたちを蹴散らし、破壊し、汚い花火と成り果てていた。

 

「ふはははは、圧倒的じゃないか。我が軍は!!」

 

 それは陸が極秘裏に製作した魔導砲台戦車。

 正式名称【Napalm・Atomic・Now・Out-range・Hyperthermia・Attack-kanon】3式。

 略してNANOHA-3。

 通称なのはさん部隊の指揮官はただ一人腕組みをして、純白と蒼と赤のトリコロールに塗られたNANOHA-3の上で佇んでいた。

 

「ふざけんなー!!」

 

 その時声が聞こえた。

 すると、爆炎の煙の中から動きの素早いガジェットⅡにしがみ付いたナンバーズたちが罵声を上げている。

 

「む? まだ生き残っているか。各自再度砲撃準備を開始!!」

 

『ラジャー!』

 

 砲台に光が宿り、戦車内部から声が上がる。

 

「照準、構え!」

 

 砲塔がゆっくりと動き出し、照準を合わせる。

 

「メインバレル冷却開始!」

 

 砲身から蒸気が噴き出す。

 

「次弾……装填!」

 

 巨大な砲弾の薬莢がおもむろに弾き出される、戦車内部で糾弾手が巨大な砲撃型カートリッジを交換する。

 

「反動ブレーキ、再度固定!」

 

 ガシンと巨大なバンカーが左右に地面に突き刺さる。

 グングングンとどこか掃除機が空気を吸い込むような音を立てて、桃色の光が砲身に宿る。

 

『行くぞ、我らが全力全壊!』

 

『――少し頭冷やそうか?』

 

 声が響く、無数に響く。

 それはNANOHA-3に搭載された砲撃魔法のオリジナル砲撃魔導師に敬意を称しての音声ボイス(なお、本人に承諾なし)

 さらにいえばオリジナルに敬意を払って態々魔力光の輝きを着色したもの。

 偉大なる人物に敬意を払う兵器とも言える装備。

 だからこそ、皆はこう叫ぶのだ。

 

『ディバイィイイイン・バスタァアアアー!!』

 

 桃色の閃光が大空を蹂躙する。

 誰も防げない、誰も逆らえない、魔王の如き光景。

 ゴミクズのようにガジェットたちが蹴散らされた。

 そして、中にいる操縦者も、外にいる指揮官も全員が敬礼して。

 

 

「――なのはさんのおかげです!」

 

 

 と叫んだ。

 その光景に加えて迂闊にも音声を拾ったせいで、スカートにも関わらず会場でなのはがひっくり返ったことなど彼らは知る由もなかった。

 ちなみに魔法術式及びボイスは本局の教導隊部隊長から快く譲渡されたものである。

 後日、それらの事実を知ったなのはがレイジングハート片手に本局に乗り込んできた時、教導隊部隊長はこう告げた。

 

「あ? お前、術式プログラムに著作権なんてあるわけないだろ。特許出してねえんだし」

 

 という現実溢れる言葉だったという。

 

 

 

 







今日だってUCAT


 1.バイク乗りと一人の少女


 特車部隊に一人の青年が居た。
 彼は何時ものように慣れた足で本部内を歩いていた。
 特車部隊は機動戦と追跡などに長ける部隊だが、その反面警備任務などには向いておらず、意見陳述会における間本部で待機命令が出ていた。
 とはいえ、待機命令などはこのUCATにおいては直ちに出撃できて、連絡が取れる状態であればどんな形でもいい。
 というのが暗黙のルールだったので、彼はバイク乗りから新しく手に入れたライディングボードの適正を認められて以来着用している装甲スーツにすっぽりとしたフルフェイスヘルメット。
 そして、手には菓子折りを持っていた。
 こんな格好でコンビニ入るだけでも通報されるようなものだが、頭には特車部隊【甲】という張り紙を額に張っているので誰も気にしない。
 というか、この程度の格好で気にする細い神経を持っているのはUCATにはいない。
 そのまま彼はテクテクと歩き、エレベーターに乗り、地下から階段で下った。
 彼が向かうのは留置所だ。
 地上本部で拘束した犯罪者を一時的に置いておき、然るべき裁判などの工程を踏んだ後、別世界の刑務所に入れるか、それとも別の処分を判定するまでの待機所。
 本来ならば普通の陸士が近寄る必要もない場所なのだが――彼は例外だった。

「ん? お前か」

 留置所の前でエロゲーをやっていた監視員は彼の存在に気付いて、軽く手を上げる。

「ああ」

「何時もの子かい? と、こういうとまるでキャバクラの指定みたいだな。やーい、変態」

「その発想が変態じゃねえか」

 ゲラゲラと笑うと、金の亡者なだけでどこかストイックな彼に赤く平べったいカードを渡した。
 番号が書かれている。
 そこに辿り着くためのカード、それ以外には使えないカード。

「まあ暇だろうから適当に相手してやりな」

「まあ俺も暇だからな」

 ガリガリとヘルメット越しに頭を掻くという意味のない工程を果たして、陸士の彼は歩き出した。
 その背を見送る監視員の男は呟いた。

「これ、なんてエロゲ?」





 歩く、歩く、冷たい床。
 響く、響く、硬質な音。
 呼吸すらも漏れでないヘルメットの外には何も届かない。
 拒絶されているような錯覚すら覚える。
 けれども、淡々と歩き続ける。
 そして、目当ての留置室の前に辿り着くと、彼は受け取っていたカードキーを差し込んだ。
 扉が開くと同時に扉の横で小さな扉が開いた。
 そこに菓子折りを入れる。パタンと閉じる。
 そして、彼も扉の中を潜り、背後で扉が閉まった。
 同時に閃光が全身を潜り抜けて、ピーという音が鳴り響く。
 スキャン。刃物などを持っていないかどうか、通信機の類は許可が降りているものであり、ICチップを入れているために問題は無い。
 五秒もせずに前の扉が開く。
 その横でぽとんと菓子折りが出てくる。こちらもスキャン完了。
 扉を潜ると――そこには一人の少女がガラス越しに座っていた。
 紅い髪を短いポニーテールにまとめ、薄青いワンピースを質素に着込んだ姿だった。

「ひさしぶりッス」

「よう」

 手を上げる。
 すると、手を上げ返した。
 彼女の名はウィンディ。
 色々在って彼と知り合った少女――戦闘機人である。

「ほれ、菓子折り」

「おーう、サンキュウッス」

 嬉しそうに菓子折りを受け取るウェンディ。
 彼とウェンディは適当に雑談を開始した。
 五分だろうか、三十分だろうか、一時間ぐらいだろうか。
 話しをして、話しをして、沢山話をして――不意に言葉が途切れた。

「……んで、今日は何の用件ッス?」

「ん? 用件ってお前がいつも言って来るようにただの挨拶――」

「じゃないっすよねぇ?」

「……普段はアホなくせに妙に鋭いよなぁ」

 ため息を吐く彼。
 そして、とんとんと手袋を嵌めた指でデスクを叩くと、言った。

「とりあえずお前らの判決というか処分内容が一ヵ月後には出ることになったから」

「……そうっすか」

「何故か俺が伝えろってさ。まったく、暇じゃねえのによ。特車部隊っていえば結構なエリートなんだぜ? 地上ならな」

 けれど、彼は所詮Cランク以下の魔導師だった。
 このミッドチルダUCAT以外では見向きもされない程度の素養しかない。
 だからこそ彼は金を求めた。
 素質が無くても、金さえあればなんだって出来るから。
 権力だって金を積めば買えることだってある。
 命すらも時には買える、蘇らせることが出来ないだけでだ。
 だけど、そんな彼だがたまには打算抜きで行動だってするのだ。

「ま、安心しろよ」

「え?」

「協力的だからよ、お前ら。ウチの部隊も、どいつもこいつもお前らの助命嘆願を書いて出してるしさ。大したことにはならねえよ」

「……ありがとうッス。他の姉妹の分もお礼を言っておくッスね」

「気にすんな。ただの伝言だからよ」

 そう告げると彼は立ち上がった。
 用件は終わりとばかりに椅子から立つ。

「じゃあな」

「あ」

 手を振って立ち去ろうとする彼に、ウェンディは声を上げた。

「ひ、一つ聞いていいッスか!」

「あ?」

「お、お前も助命嘆願書いてくれたッスかね!?」

 ウェンディはそれだけが知りたかった。
 ただそれだけが気になって、声を張り上げた。
 断じて彼を引き止めたかったわけじゃない。そう、思った。

「……書いてねえよ」

 ガリっと、彼はヘルメットを被っているにも関わらず頭を掻いた。
 それは彼の癖なのだろう。
 ある行為を隠す時にするときに行う無意識の癖だった。
 ウェンディは微笑む。少しだけはにかんだ。

「じゃ、また来るわ」

「おうっす! 今度はフルーツ山盛りで来るッスよ!」

「高けえよ。せめて、パイナップル一個で我慢しろ」

 そう告げて彼は立ち去った。
 静かに、背後で笑う少女の笑みも見ずに彼は立ち去った。



 そして、それを見ていた監視員の男は呟いた。

「……死亡フラグ立てやがった」

 乙 と合掌したのは彼だけの秘密である。
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