ミッドチルダUCAT 作:箱庭廻
『Tes.!』
咆哮が上がる。
『Tes.!』
叫びが上がる。
『Tes.!』
誓いの言葉が響く。
誰もが手を伸ばした。
砲撃の中でも手を掲げた。
血反吐を吐きながらも手を掲げた。
降り注ぐ光線に耐えながらも手を掲げた。
燃え盛る炎に焦がされながらも手を掲げた。
吼え猛るTes.の叫び声は津波のように戦場に響き渡り、伸ばされた手はまるで命萌える花々のように戦場に咲き誇る。
誇りを今こそ見せろと誰かが叫んだ。
今こそ自分たちの存在意義を押し付けろと叫んだ。
俺たちの待ち望んだ時が来たのだと
「なに、これ?」
魔力弾を撃ち放ちながら、ティアナは振り返る。
陸士たちが圧倒的な不利な状況でありながらも笑っていたから。
「でも、なんでだろう。誰も諦めていないよ!」
ガジェット・ドローンの一機を粉砕し、その爆風を浴びながらもスバルが気付く。
陸士たちの目は、いやミッドチルダUCAT隊員全てが目をぎら付かせていた。
「凄い。なんでだろう、負ける気がしません!」
「誰もが信じてるんです。負けないって、勝つって!」
エリオとキャロが理解する。
聞きなれない言葉、それを叫ぶものたち、だがそれは神聖なものだと分かった。
誓いを新たにする誇りある言葉。
そして、声が轟く。
『対異世界戦闘準備に移行する! 総員、前を見ろぉお!』
翻る。
バッと足並みを揃えて、誰もが前を見た。
絶望的な戦力差。
攻撃は通じない、魔法を防ぐAMF、それらを展開し、質量兵器で身を固めた鋼鉄のアバドンたち。
破壊を撒き散らし、業火を呼び起こし、硬く冷たい錬鉄の津波。
『そして、後ろに振り向け!!』
バッと全員が一斉に振り向いた。
前から後ろへ、背を向ける。
『総員撤収ー!!』
鳴り響く声に、わーと全員が走り出した。
土埃を上げながら、全員逃げ出した。
『――は???』
もう一度言おう
全員逃げ出した。
「戦略的撤退ー!」
「これは逃げるのではない、後ろ向きに前進しているだけだ!」
「尻尾巻いてとんずらー!」
「てやんでいっ!」
などなど、わざわざ使い魔の尻尾を丸めたり、ピッピッピーと笛を吹きながら下がるものなど。
陸士たちは誰一人躊躇わずに逃げ出した。
「え? えぇええ!?」
「お、お前ら逃げるのかよ!!」
スバルの戸惑う声、ナンバーズの紅い髪の少女の怒声。
けれども、誰も止まらなかった。
ついでに言えば、陸士たちが逃げる最中に機動六課のフォワード陣も無数の陸士たちの流れに飲まれて、担ぎ上げられた。
「え!? こ、こらー! 私はまだ戦うー!」
「なにこれー!」
「あわわわわ、足を触らないでー! なんで息荒くしてるんですか!?」
「わー高~い」
惚れ惚れするほどの速度で全員撤収していった。
後に残されたのは行軍するのをしばし忘れたナンバーズとガジェットたちだけだった。
カラカラと何故か枯草がその前を転がっていった(撤収時に陸士の一人が投げ込みました)
「な、舐めやがって……ぶち壊してやる!」
怒声が響く。
ナンバーズの少女――No.9 ノーヴェが怒りの形相に顔を歪めて、手を振り降ろした。
ガジェットたちによる破壊が始まる。
悪夢の如きガジェットたちの襲撃。
しかし、それよりも先に魑魅魍魎の如き襲撃をミッドチルダ本部は受けていた。
『レッツパリィイイイイ!』
入り口から飛び込む無数の陸士たち。
ガラスで出来た入り口を数人掛かりで蹴破られ、傍でエロ本を読んでいた休憩中の白衣の老人にガラス片の雨が突き刺さり、血だるまになった。
「ぎゃー!!」
絞め殺した豚のような悲鳴が上がる真横で、受付嬢の女性二人は慌てる事無く唐傘をバッと広げてガラス片を防いだ。
片方はあら、マニキュアが剥げちゃったと少しだけ文句を呟いた。
「用件はなんでしょうか?」
パラパラと落ちるガラスのシャワーが心地いいほど素敵な音を立てる。
『ちょっとこの街を護るので、全ロッカールームの扉ロックを解除してください!』
手早く用件を告げる陸士沢山。
「分かりました」
のぉおおお! また老人虐待じゃー! などと叫ぶ老人から目を外し、受付嬢の一人が電話をかけて、もう一人が受付下のデスクの隠し引き戸を開いた。
そこには紅く丸いボタンで【緊急時以外は押しては駄目よ♪】と書かれた防護フィルターがあった。
しかし、一切気にせずに彼女は厚手の革手袋を嵌めると、拳を固めて、にこやかな笑顔で真下に正拳突きを叩き込んだ。
一撃粉砕。
ボタンが腰の入った一撃の前にめり込み、UCAT本部の至る所から何かが解除される金属音が鳴り響いた。
「どうぞ、いってくださいませ」
『サンキュ!』
全員サムズアップ、素敵な笑顔を浮かべた。
わーと叫び声を上げて散らばっていく数百人の陸士たちの津波、それらが去った後に残されたのは呆然とした表情を浮かべるフォワード陣とにこやか笑顔の受付嬢とまだ痛い、痛いのぉ、新たな領域が開いてしまうぞい! と転がる老人だけだった。
「あら? 何かご用件はおありでしょうか」
営業スマイルでフォワード陣に告げる受付嬢。
呆然としたままのティアナはようやく再起動して。
「あ、あの彼らは一体何しに?」
「そうですね。ちょっと本気を出すための準備に行ったのだと思いますわ」
「本気?」
「ええ。対異世界戦闘準備ですから」
ニッコリと受付嬢が優しく微笑むと、もう一人の受付嬢がよっこらせっと受付奥に積んであったダンボール箱を開けた。
中から四つの蒼い石の付けられたペンダントを取り出し、彼女たちは落ち着いた態度で差し出した。
「では、皆様。これを身に付けてください」
バタン、バタン、バタン!
扉が開く、扉が開く、うっかり女子更衣室の扉も開く。
きゃー! という悲鳴と死ねやおらー! という怒声が鳴り響かせながらも、陸士たちはそれぞれ自分に割り当てられたロッカーの扉を開いた。
中から取り出すのは衣装であり、青い石の付いたペンダントであり、デバイスの追加パーツであり、インストール用ディスクだったり、さらにはまったく違うデバイスだったり、フィギュアだったり、音楽プレーヤーだったりした。
「ふふふ、この時を楽しみに俺はUCATに入ったんだ!」
「俺なんか5年と1ヶ月と32時間待ち望んでいたぜ!」
「俺は前世から待っていたぁ!」
などと楽しく早口で雑談しながら、陸士たちが着替える、装備する、交換する。
全員が賢石装備を身に纏う。
概念空間の展開、時空管理局ではまだミッドチルダUCAT以外に浸透していない概念技術。
それに飲み込まれないための必須装備。
そして、一人で握ったデバイスを起動させると。
『いっきまーす!』
軽やかな少女の声が響いた。
『ようやく出番ね。頑張るわよ』
艶やかな女の声がした。
『全力全壊、なの!』
どこかで聞いた覚えのあるような声がした。
彼らが装備するのはストレージデバイス、だがしかし音声サンプルにロリ声声優だったり、人気アイドルだったり、機動六課の誇る美少女及び美女及び美少年の声などを使っていたりした。
そして、彼らはそれぞれデバイスに己なりの名称を刻み込んでいる。
それが彼らに力を与える。
着替え途中の面々は準備に時間は掛かるが、武装と賢石装備だけの面々は素早く準備を整え、廊下を走り出す。
『装備変更型班、早急に出撃せよ!』
放送が鳴り響く。
『概念空間を開くぞぉ!』
瞬間、聞こえた。
・――名は力を与える。
反撃を知らせる概念条文の声が。
時間は数分前に遡る。
ミッドチルダUCAT地下管制室。
そこで一つの戦いが行われていた。
「ハッキング進行速度、遅延にまで追い込みましたが――止まりません!」
「ちっ! どんな能力使ってやがる! 一応ミッドチルダ最高のスパコンなんだぞ!」
白衣と制服を身に付けた管制員たちが罵倒の声を上げる。
忙しくなく指を走らせ、ありとあらゆる対抗プログラムを入力していくがどれも駆逐され、破壊され、蹴散らされていく。
背後に鎮座する大型のスーパーコンピューターが処理速度に悲鳴を上げるようにガタガタと揺れていた。
十数人にも及ぶオペレーターが、カウンターハッカーたちが端末を動かし、カウンタープログラムを作動させて、戦いを挑む。
だがしかし、強い、侵食が止まらない、まるで津波のように人の手では止められない。
そう思えた。
「おーい、中将から指示が来たぞー!」
その時、壁際の受話器で連絡を取っていた男が暢気な声を上げた。
「あ? なんだって!?」
「どんな手段使ってでもいいから早急に食い止めて、概念空間開けだってさ」
「対異世界戦闘準備? ……あと、本当にどんな手段使ってもいいのか?」
ギラリとメガネをかけた白衣の主任らしき人物が期待するかのように唇を歪める。
「――ははは、何を言ってるんだ」
答えるように連絡員の男が笑う。
「当たり前だろう、JK」
『オォオオケエエエエ!!』
何故か一斉に誰もがガッツポーズを取った。
「おい、アイツを呼べ! バトルプログラマーだ!! あと、キーボードを六個ほどもってこい! 銅線とペンチも忘れずにな!」
「了解、了解!」
「ちょっと蹴り起こしてくる!!」
数人の管制員が慌しく傍にあった仮眠室の扉を蹴り破り、中にいるであろう人物を捕縛しに行った。
ガラガラと近くの棚から台車に乗せて【BPs専用使い捨てキーボード】と書かれたダンボールが運ばれてくる。
「ははは! この可愛くも無いスーパーコンピューターよ、さようならだ! バックアップは既に取ってあるのでな!」
ゲタゲタと笑い転げる主任。
その時だった。仮眠室から両腕をグレイの如く捕まれて、一人の男が現れたのは。
だらしのない白衣、目には生気がなく、伸ばし放題の髪が女の如く長く、背筋もまがり、やる気もない男。
だがしかし、皆が知っていた。彼はやれば出来る子だと!
「仕事だぞ! バトルプログラマー!」
「あ~、仕事ですか? 私、まだ昼寝してたいんですが」
「うるせえ、黙れ! テメエに拒否権は無い! 栄養ドリンク、コンバイン!!」
口を広げられて、一本数万円と同じ価格の栄養ドリンクを無理やり飲まされる。
鼻もつままれているので飲むしか彼に生きる余地はない。
さらに、飲み干したと確認したと同時にネコ耳を緊急装着した女性管制員(ロリ)が「にゃ~!」といいながら、猫パンチを叩き込んだ。
「ごふっ!」
特に痛くも無いはずなのに、その男が吹き飛び――次の瞬間、鼻から流れる紅い血潮を拭い去り、顔を上げた。
「――さて、敵はどこですか?」
キラーンと輝く瞳、光る歯、美化された顔つきで彼は告げた。
「今ハッキングを受けている。それらをなんとしてでも食い止めて、さらに概念空間――2nt-Gを展開しろ。頼むぞ、バトルプログラマー。スパコンの負担は一切考えるな」
「了解、というかTes.」
カツカツカツと彼は歩み寄り、渡されたペンチを手に取る。
そして、キーボードのケーブルを即座にペンチで切り落とし、それらを銅線で繋ぎ、ガムテープで補強し、六個のキーボードを並行直結させた。
「やります」
瞬間、それを見た者は奇跡を見た。
指が音速を超え、光速に走らんとばかりにキーボードに指を叩きつけていく。
それはピアノでも演奏するかのように優雅、女性に触れるかのように優しく、されど弾丸のように荒々しい指の乱舞。
モニターに無数の記号と数字と文字が並べられていき、プログラムが一瞬単位で生成、改竄、修復していく。
「――敵ハッキング、停滞。いえ、後退していきます!」
次々と生まれ変わるかのようにモニター画面が改竄されていき、同時に背後のスパコンがガタガタと痙攣を起こし、悲鳴を上げるかのように蒸気を噴出していく。
あまりにも激しい攻防。
あまりにも凄まじい処理を強いられたコンピュータが耐えられないのだ。
「後二十秒ぐらいで駆逐出来ますね。ついでに概念空間の処理演算プログラムを組んでおきますから」
まるで速度を変えずに告げるバトルプログラマーと呼ばれた男。
彼の勇姿を見ながら、今にも大往生を遂げそうなスパコンに振り返り、白衣を着た男たちは告げた。
「とりあえずこれ壊れたら開発中の美少女型パソコンに切り替えるか」
「そうだな。ようやくデザインも決まったし、萌えボイスも登録したし、性能あっちのほうが上だしなぁ」
ハッハッハと笑い声を上げる面子だった。
「あのー、駆逐終わっちゃったんですけど?」
画面がオールグリーン。
完全に駆除完了。
彼らは知らないが、人間を超えるために改造された戦闘機人の能力をただの人間が凌駕した瞬間だった。
「では、やりたまえ! ミッドチルダUCATの全力を見せるために!」
遠い空で眼鏡を付けた女が喚き声を上げていることなど知らぬまま、主任は眼鏡を輝かせて叫んだ。
「ういーっす」
エンターキーが押し込まれる。
そして、響き渡ったのだ。
・――名は力を与える。
世界の法則を書き換える、美しき女性の声が響いた。
・――名は力を与える。
その声は彼女たちの耳にも届いた。
「なんだ?」
地上に降り立ったノーヴェが首を傾げる。
『油断するな、ノーヴェ。奴らはUCATだ、何も策をしないわけがない』
無線通信でトーレからの声が届く。
凛々しく、落ち着いた声。
姉妹たちの戦闘教官でもある彼女の声はノーヴェには頼もしく聞こえるが、それでも納得出来ないものがある。
「心配ねえよ! あの変態共をぶっ飛ばして、皆を救うだけだ! 何も、問題はねえ!」
ガンナックルを固く握り締めて、ノーヴェは誓う。
譲れないものがある。
卑劣にも罠に落ち、捕らえられた姉妹たちがいるのだ。
絶対に助け出してみせる! そのために――
「木偶共! さっさとあの不愉快な建物をぶっ飛ばせ!」
周囲の施設を破壊していたガジェットに無線での通信を飛ばし、制御する。
如何なる罠があろうとも負けない。
今までよりも短期間の運用に縮めることを条件に出力を増したAMFを展開するガジェットたちに陸士如きの魔法では絶対に通じない。
勝てる。勝つ!
そう決意した瞬間だった。
「悪いが、そうはさせないぜ!」
空から声が掛かる。
一台のライディングボードに乗る二人の陸士――見覚えのあるメカ、ノーヴェは気付く。
「テメエ、それはぁああああ!!」
ウェンディのマシン。
どこまでこちらを馬鹿にすれば、誇りを汚せば気が済むのだ。
怒りを露にエアライナーを起動、空への線路を築く、ジェットエッジで空中を駆け巡る。
「っ! ウイングロード!?」
ウイングロード。
タイプゼロが使う魔法。違う、違う、違う!
「ちげええよ!! 私は、ブレイクライナーだ!」
叫んだ瞬間、何故か速度が上がったような気がした。
「まずい、先にいけ!」
フルフェイスの陸士がもう一人の陸士――山吹色の胴衣を来た男を蹴り落とし、ノーヴェに立ち向かう。
「了解!」
「おぉおお!!」
空中での機動戦。
一人の少女と一人の男がマシンと性能を持って戦い合う。
その最中に一人の男が地面に着地する。
「ふふふ、待たせたな!」
ビシッとポーズ。
ワックスで固めた髪を撫でると、彼は両手を広げた。息を大きく吸い込む。
「? 何をする気だ?」
遠目で観察するトーレが気付いた。
彼はデバイスを手に持っていない、魔力の作動は感じられない。
だがしかし、腰を落とし、広げた手を腰元に持っていき、まるでボールを抱えるような体勢で何かを呟いている。
唇を読んでみた。
「か……め……は?」
ゆっくりと、ゆっくりと手が前にもっていかれて、同時にその手に閃光が宿る。
それは光の太陽。
まるで燃え盛る太陽がその手に宿ったかのような輝き――魔力反応はないというのに。
「なっ!」
「――波ぁあああああああああ!!!」
光の奔流。
巨大なエネルギー波と呼ぶしかない何かが撃ち放たれた。
大地を蹂躙し、大空を貫き、無数のガジェットを消滅させる、Sランクオーバーな砲撃魔法の如き威力だった。
「なんだと!?」
その光景にトーレが驚愕した瞬間だった。
「烈光! 斬心撃!!」
「ライトニングクラッシュ!」
「燃え盛れ、俺のソウルブラスト!!」
ぶぉおおんとバイクに乗って、奇妙なポーズと明らかに意味のない動作を取った陸士連中が珍妙な名前を叫ぶと同時に破壊が吹き荒れた。
光の刃が、稲妻の如き閃光が、大気を震わせる超衝撃破が撃ち出される。
Cランクどころか、Aランク、下手するとAAAにも届くかもしれない威力だった。
さらにゾクゾクと他の陸士たちも砂糖に群がる蟻の如く舞い戻り、「北斗レールガンサタン玄武脚ぅ!」「真・水断スパァアアアアク!!」「断錬虚獣剣!」などと叫び声と共に足と拳と剣を突き出し、同時に炸裂する怪現象。
魔法なのか?
いや、魔法よりもおぞましい何かだとトーレは感じた。
「ど、どういうことだ! ウーノ!!」
『わ、分からないわ!? 魔力反応は一切無いのに! ISでもない』
トーレが通信を繋げるが、現場をモニターしているウーノにも分からないようだった。
「ふははは! 教えてやろう!」
「なんだと!?」
「今この空間は概念空間で、この中では“名前が意味どおりの力を持つ”! ゆえに、俺たちの繰り出す必殺技は――」
「奥義! 炎海昇踏の突き!!」
炎の海となった業火の上を踏み踊り、刀型アームドデバイスを手に取った陸士が華麗なる突きでガジェットを一撃粉砕する。
「神魔破断! 魔を超え、神すらも切り裂く一刀! 究極光還剣!!」
手に持つ閃光溢れる剣を手に取り、陸士が地面を駆け抜けながら、旋転。
空へと切り上げた一撃は光の柱となり、そのライン上のガジェット全てを一刀両断に引き裂き、さらに何故かキラキラと光に還元された。
「――このように現実となるのだ!!」
「なんだそれはー!」
『信じられないわよー!』
二人の女性の悲鳴が上がる。
だが、陸士たちは凄く爽やかな笑みを浮かべると、それぞれ煌めき輝く武装、手を、四肢を滾らせて告げた。
「さあ野郎共! はっちゃけるぞ!」
「今日は無礼講だー! 幾ら妄想ほざいても怒られないぞー!」
「ぐぅう、収まれ俺の邪鬼眼! 第三の解放はまだ早すぎる!!!」
「俺が正義だ! ジャスティス・ジェノサーイド!」
恐るべき戦いの幕が開いた。
今日もUCAT日和
1.近日発売予定です
機動六課宿舎。
訓練を終えてフリーな時間。
休憩室に備え付けてある小さなモニター画面に、一人の少年が熱中していた。
「かっこいいですね!」
「おおー、やっぱり好きか」
エリオが嬉しそうに声を上げて、その後ろでソファーに座るヴァイスが微笑ましく笑っていた。
「あれ? エリオ、それにヴァイス陸曹もここにいたんですか?」
その時、たまたま休憩室を通りかかったフェイトがひょっこりと顔を出した。
「あ。フェイトさん」
「フェイト隊長、入浴は終わったんですか?」
「セクハラで訴えますよ? でも、正解です」
湯上りらしくホカホカした玉の肌に、少し湿った髪を靡かせるフェイト。
艶やかなその表情にはマトモな性欲を持った人間ならば釘付けになりそうなほど色香に満ちていたが、片方は思春期も迎えていない少年、もう片方は正常では無い男。
二人共モニターに目を向ける。
「? 何見てるんですか?」
他の部屋に洩れない程度のボリュームに上げられたモニターからは爆発音や叫び声、さらにびしゃーという砲撃音が轟いていた。
モニターの中では『トラボシブレエエエエエド!!!』という叫び声と共に、手にした剣で巨大で悪そうなメカを両断するロボットの姿があった。
「あ、これミッドチルダUCATがスポンサーやっているローカルアニメなんですよ。エリオを誘ってやったんですが……」
「僕、こういうの初めて見たんですがかっこいいですね!」
キラキラと目を輝かせて、いつもは子供らしくないエリオが拳を握り締めて、わーと声を上げていた。
この調子で。と、ヴァイスは苦笑した。
一喜一憂、コロコロと表情が変わるエリオ。
そんな彼に保護者として彼女は喜びと少しの悔しさを覚えた。
「なんてアニメなんですか?」
「えっと――あ、タイトルロゴでますよ」
ヴァイスが指差すと、画面の中で先ほど剣を振りましていたロボットがポーズを決める。
『リリカルマジカルブレイブ! 勇気を纏いし魔導の神――勇装魔神クラナガン! 世界を救う魔法をプレゼントにやってきた!』
ジャキーン。
真っ赤なロゴと共にクラナガンと名乗ったロボットが派手に映し出された。
そして、エリオは楽しそうにそれを見終えて、フェイトとヴァイスはその後姿を微笑ましく見ていた。
しかし、彼女は知らない。
この三日後、その本物が自分たちの前に出てくることに。
しかし、少年は知らなかった。
この三日後、その勇者と熱い友情を結ぶことになるなんて。
そして、この場の誰もが知らなかった。
この四日後、勇装魔神クラナガンのDVDがミッドチルダUCATのロゴ入りで発売されて、大人気商品になるなんて。