ミッドチルダUCAT   作:箱庭廻

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やつが出ます


第一回 地上本部攻防戦 その5

 

 

 

 あぼーん。

 

 という雰囲気でモニターを見つめている誰もが唖然としていた。

 会場の中が静けさに満ちている。

 平常心なのはレジアスと佐山だけで、新庄は頭が痛そうに手の平と額に当てていた。

 

「……なんやねん、これ」

 

 はやてがポツリと洩らした、その言葉は皆の心を代弁していた。

 モニターの中では羞恥心を持っていれば掻き毟りたくなるような言葉を叫び、無駄にカラフルな剣や、杖、銃、槍、斧、大砲、あとスーツなどを身に纏った陸士たちが所狭しと暴れまわり、ガジェットを撃退していた。

 そして、モニターの中にさらに一際目立つ一団が現れる。

 それはカラフルな色の五人組。

 

『ストロベリーレンジャー!』

 

 イチゴのような色をした全身タイツに、イチゴ型のベルトを嵌めた覆面戦士。

 

『オレンジレンジャー!』

 

 つぶつぶっとしたスーツに身を包み、オレンジ形のベルトを装着した覆面戦士二号。

 

『スイカレンジャー!』 『ブルーベリーレンジャー!』 『パインレンジャー!』

 

 それぞれの名乗りどおりの色の全身タイツに身を包み、それぞれの名乗り通りのベルトを嵌めて、ポーズを決める。

 

『全員揃ってフルーツ+野菜戦隊 スウィートレンジャー! 参上だぜ!!』

 

 チュドーン。

 スウィートレンジャーズの背後で爆炎を上がる。よく見れば傍で控えている陸士の一人が発破スイッチを押し込んでいた。

 

『そして、行くぞ必殺!』

 

 迫り来るガジェットたちに身構えて、五人が即座に組み体操の如くポーズを決める。

 ストロベリーを中心に結成されるポーズ。

 オレンジとスイカがしゃがみこみ、その上にストロベリーが両肩を支えに乗り出し、さらに後ろ足をブルーベリーとパインが固定する。

 言うなればストロベリーが前向きにYのポーズを取っているだけだった。

 しかし、高まる閃光。

 それで、高まる力。

 ゴゴゴゴとモニター画面すら震えて、叫ばれる言葉。

 

『スウィーツ(笑)!!!』

 

 溢れんばかりの極光が全てを消し飛ばした。

 爆音を上げて、カラフルな色彩の光爆がガジェットたちを砕いていく。

 その光景を見た数人の本局幹部がガンッと額を机に打ち付けた。フェイトもなのはも額を打ち付けた。はやては少し遠い目を浮かべた。カリムは現実逃避していた。

 

「ふふふ、実に清々しいまで変態しかいない部隊だね。どうやら頭がやられているようだ。あんな叫び声を上げるとは破廉恥だと思わないかね、新庄君?」

 

「その発案者は僕の目の前にいる人だったと思うんだけど、気のせいかな?」

 

「記憶違いとは、君らしくないね。私があのような名前の技を叫べと告げた記憶は一切無いよ?」

 

 清々しい笑みを浮かべる佐山に、新庄は発言するのを諦めた。

 そして、レジアスは静かに告げた。

 

「どうですかな? ミッドチルダUCATの力は。皆様を安心させられたでしょうか」

 

 背後のモニターで銀髪に染め上げた空士が『Jackpot! HA! 楽しすぎて狂っちまいそうだぜ!』と叫びながら、紅いコートを翻し、二挺拳銃を乱射しているが、レジアスはまったく動じない。

 

「う、うむ……確かにその戦力は認めよう、レジアス・ゲイズ中将」

 

 引きつった顔だったが、直視しなくても押し付けられるような現実を見せられては認めざるを得ない。

 正直に言えば何も知らなかったことにして帰りたいぐらいだったが、その幹部は頑張った。

 

「しかし、初動の遅れの所為でガジェットたちが迫っているのだが、本当に大丈夫なのかね? この本部には敵の攻撃が――」

 

 届かないというのか。

 そう、質問しようとした彼にニヤリと笑うレジアス。

 

「その心配はない。既にこの本部は“無敵”だ」

 

「む。幾らなんでもそれは自信過剰では」

 

「では、見てみてください」

 

 ポチッとモニターの一つを拡大して映し出す。

 それはミッドチルダUCAT本部を戦場部分から映し出した画像のようだった。

 

「あ、ガジェットが!」

 

 ようやく立ち直ったフェイトが声を上げる。

 数機のガジェットが防衛網を潜り抜けて、レーザーを、ミサイルを、本部に発射し――

 

 カーンッ!

 

『え?』

 

 という擬音が聞こえそうなほどに弾かれた。

 建物に着弾した瞬間、レーザーは拡散し、ミサイルも空しく爆破するが砕ける様子は無い。よく見ればガラス窓の部分もあったのに壊れていない。

 

「どういうことだ!?」

 

「この本部も私達の技術で強化されているのです」

 

 レジアスは不敵に微笑んだ。

 そして、この中の三名しか知らない事実。

 現在この本部は戦場となっている2st-Gの概念空間に加えて、本部にのみ作用するように調整された1st-Gの概念が働いている。

 1st-Gの概念、“文字には力を与える能がある”。

 それによりこの本部はこう強化されていた。本部に地下室に用意された看板、ミッドチルダUCATの誰の目にも届かない立て札、その裏にミミズが腸捻転で断末魔の叫びを上げているような文字でこう書かれている。

 

 【むてきようさい】 記載者 出雲 覚と。

 

 とはいえ、それらの事実を知らないものたちは未知の技術に危険性と脅威を感じて眉間に皺を寄せた。

 

「さて、このまま行けば問題なく――」

 

「中将!」

 

 レジアスがそう呟こうとした瞬間、壁をガパッと蹴り開けてオーリスが現れた。

 忍者扉のような隠し扉の存在に何人かが目を剥くが、オーリスは気にせずに駆け寄るとレジアスに小声で報告する。

 

「……今報告が入ったのですが、アインヘリアルに同じようにガジェットとナンバーズによる襲撃があったと」

 

「なに? ……本当か? というか私としては頭の痛いだけの兵器なのに、何が狙いだ?」

 

「さあ? ですが、襲われているらしいです」

 

 深刻そうな顔。

 だがしかし、それは予想されるだろう内容とは違っていた。

 

「しかし……哀れだな、“襲撃者が”」

 

「そうですね……襲撃者が」

 

 少し天を仰ぐ二人。

 そんな二人に新庄が首を捻って訊ねた。

 

「どうしたんですか?」

 

「あ、いえ。ちょっと開発中というか、研究班が暴走して作った欠陥兵器アインへリアルがあるのですが……」

 

 フッとオーリスは疲れ果てた顔で遠くを見て呟いた。

 

 

「そこを護衛しているのがミッドチルダUCAT最凶のゴミタメ共なんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間はしばし巻き戻り。

 アインヘリアルの配備された高台地域。

 そこで二人の少女とアインヘリアル直掩隊との苛烈な戦闘が始まっていた。

 

「舐めんな、オルラァアアア!!」

 

 振り翳される木刀。

 それを受け止めるのは手に掴んだスローイングナイフ・スティンガー。

 

「っ!」

 

 ビリビリと痺れる威力。

 さらに繰り出される蹴りを避けるために、美しき少女チンクは銀髪を靡かせてバックステップをした。

 

「手ごわい!」

 

「あ~? オレらを都市でヌクヌクしている奴らと一緒にすんなよ、おらぁ!!」

 

 木刀を振り抜いたミッドチルダUCAT、その制服を改造し、特攻服風味にしたリーゼント頭の陸士は叫んだ。

 

「俺たちこそミッドチルダUCAT最強! 亞韻経裏唖屡の直掩隊だ、夜露死苦ぅ!」

 

「く、ここにも変態が!」

 

「変態じゃねー! ツッパリつってんだろうがぁああああ!!」

 

 雄羅雄羅雄羅! とドスの効いた声で罵声を上げると、リーゼント陸士は木刀を振り翳す。

 しかし、それが振り下ろされるよりもチンクが懐から取り出したスティンガーを投げつけた。

 

「っ!?」

 

 咄嗟に構えた木刀でその刃を次々と受け止めるが。

 

「ISランブルデトネイター!」

 

「!?」

 

 爆散。

 金属の破片が散弾銃の如く周囲を切り裂き、爆風が肉を消し飛ばす。

 黙々と上がる粉塵。しかし、数秒と経たずにその粉塵は切り裂かれた。

 

「おりぁぁああ!!」

 

 血まみれだが、しっかりと四肢を持ったリーゼント陸士が一瞬硬直したチンクを捉えて、その拳を叩き付けた。

 咄嗟に腕で伏せるが、硬く重く強い一撃。

 チンクの小柄な体は数メートル吹き飛ばされて、ザリザリと地面に着地しながら確かに人造の骨身に染みた威力に顔を歪めた。

 

「カッ! 舐めた真似しやがって」

 

 ペッと口の中を切ったのだろう、血の混じった唾を地面に吐き捨てる。

 リーゼントはランブルデトネイターの爆風で乱れ、吹き飛び、ボサボサの獣のような顔つきでありながら、目が刃物のようにギラついていた。

 

「いいぜ、木刀も無くしちまったし、男なら素手ゴロでケリをつけるべきだろう!」

 

「あ、姉は女だ!」

 

「うるせえ! 細かいことをグタグダ抜かすな!!」

 

 ええー!? という表情を浮かべるチンクに、気合声を上げて駆け出す元リーゼント。

 今度は防ぐ得物もない。仕留めきれる、と新たに取り出したスティンガーを構えた瞬間だった。

 

「メンチビーム!」

 

 ――目から、ビームが、出た。

 元リーゼントから。

 

「なっ!?」

 

 目から発せられた極細魔力砲撃に、動揺のあまりに直撃したチンクが吹っ飛ぶ。

 シェルコートを展開する暇もなく、まるで眼光だけで吹っ飛んだかのように飛んだ。人が飛んだ。

 

「ん? 当たったか」

 

「ちょっと待て! お前、さっき素手ゴロだとか言っておいてビームだと!? しかも、なんで目から出るんだ!!」

 

 打撃力とインパクトはともかく、威力はそれほど大したことのなかったらしい。

 すぐさま立ち上がったチンクだったが、すぐさまに突っ込みを入れた。

 

「あ? こんなのはツッパリの基本技だ! ツッパリなら誰でも出来る!!」

 

「嘘つけぇえ!」

 

「嘘じゃない! ほら、見てみろ!!」

 

 バッと横を指差す。

 チンクは前の陸士を警戒しながら、その先を見た。

 

「メンチビームだ、おらぁ!!」

 

「根性焼きしたるわー!」

 

 などなど、叫びながら鉄パイプでガジェットを殴る陸士、素手でガジェットを踏みつけて破砕する陸士、ヨーヨーでセッテと戦っている女陸士、さらに補助するように錨のように分厚い鎖を振り回し、ブーメランブレイドやガジェットを薙ぎ払う大柄な陸士などなど。

 

 ――チンクは現実から離脱しようとする頭を咄嗟に振り、前に向き直った。

 

「と、ともかく! 姉たちは貴様らを排除し、アインへリアルを破壊させてもらう!」

 

「ああん? 俺達の愛車に何する気だ、ワレェ!!」

 

 どこか噛み合わない会話をしながら、チンクと元リーゼントが再び激突しようとした時だった。

 

 

「やめなさい!!!」

 

 

 声が轟いた。

 

「なに?」

 

「?」

 

「あ、あれは!」

 

 アインへリアル指揮所、その屋上、その出っ張りの高い場所に一人の女性が佇んでいた。

 

 短く切りそろえた髪型、両腕を露出させ、その首から胴体まで体のラインを浮き彫りにする特徴的なバリアジャケット、その両手に握られたのは双剣というよりもトンファーに似たアームドデバイス・ヴィンデルシャフト。

 

 彼女の名はシャッハ・ヌエラ。

 

 聖王教会の騎士カリムに使える補佐役であり、護衛騎士。

 本来ならばどこか幼さを感じさせるあどけない顔は怒りに彩られていた。

 

「……いつものお祈りの時間にも関わらず連絡が取れないと思ったら、こんなところで戦っていたのですね」

 

 ジャコン。

 重々しくデバイスが構えられる。

 

「っ!? 聖王教会のシャッハ・ヌエラ!?」

 

 警戒すべき敵戦力としてデータベースに入力していたチンクは驚愕と共に声を上げるが、横の元リーゼントは違う反応を見せた。

 

「し、死夜覇の姉御!!」

 

「……は?」

 

「こ、コレはあくまでも正義のためで! 俺たちはUCATとして戦っていたんです!」

 

「――その呼び方は止めなさいと何度も言った筈です」

 

 ニッコリと微笑むシャッハ。

 だが、その身に溢れる魔力は溢れんばかりに轟きを上げていた。

 ジャキンとポーズを取り、シャッハは叫んだ。

 

「無礼千万、過去の自分を見ているようでこのシャッハ――怒りが有頂天です!」

 

 トゥッと飛び上がるシャッハ。

 華麗なバレリーナかフィギュアスケート選手のようにアクセルスピンしながら、彼女はガジェットの一つ目掛けて落下すると、その足を閃かせて。

 

「トンファーキィイク!!」

 

 その足でガジェットを一撃粉砕した。

 

「と、トンファー関係ないし!?」

 

「さらにトンファータックル!」

 

 空中で彼女の姿が掻き消える。

 跳躍魔法、転移の亜種。

 空中で姿を掻き消した次の瞬間、その“肩”で複数のガジェットを粉砕。

 

「そして、最後にトンファァアアビィイイイム!!!」

 

 チュドーン。

 ――目からビームが飛び出した。

 ガジェットのAMFを凌駕するほどの高密度収束砲撃がガジェットを貫通し、爆散。

 

「なんだ、それー!! トンファーはどうした!?」

 

 チンクの叫び声に、クルリと目から薄い蒸気を放ちながらシャッハは告げた。

 

「……我が双剣ヴィンデルシャフトは天地と一つ。故にトンファーは無くともよいのです」

 

「デバイス取り出した意味は!? それと、それって双剣じゃないのか!?」

 

「うるさいですね。トンファーレーザー!」

 

 うるさいので、チンクをレーザー(目から発した)でぶっ飛ばすシャッハ。

 シェルコートすらも貫通してチンクは吹っ飛んだ。

 そして、ギラリとポーズを構えると、生き残りのガジェットとセッテに目を向ける。

 

「さあ来なさい。信仰とトンファーの力を魅せてあげましょう」

 

 聖王教会の誇る鬼神シャッハ・ヌエラ。

 彼女の真価が今ここで明かされようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 そして、時刻は元に戻る。

 

「魅せよ、魅せよ、切り裂け! シャイニングドラゴンウェーブ!」

 

 両手を上に開き、まるで何か投げ飛ばすかのように振り抜いた先。

 碧と蒼が混じった竜巻が生み出されて、数名の味方を巻き込みながらガジェットたちのミサイルやレーザーなどを理不尽に吹き飛ばす!

 

「行くぜ、衝撃のファーストブリットぉおおお!!」

 

 ナックル型のアームドデバイスに、旋回しながら加速した陸士――コスプレ済みは荒れぶる勢いのままにガジェットの装甲に拳をめり込ませ、食い千切る。

 最初投入された装備変更型陸士に加えて、その格好を大きく変えたものたちが戦場に姿を現していた。

 

 2nd-Gにおける概念条文【名は力を持つ】

 

 それは文字の意味、名前に宿る意味、それに加えてそれに対する不特定多数のイメージが大きく作用する。

 例えばメラ! と叫んでも意味の判らないものがいればそれはまったく効果をなさないが、メラという名称が炎を操るものだということを知られており、信じていればそれは炎と化す。

 

 疑ってはいけないのだ。

 

 故に彼らは愛用する空想の存在の姿に身を固め、さらに本格派はBGMを流すイヤホンを耳に装着し、酔いしれている。

 シャーマニズムにおける獣憑き、或いは神降ろしに近いもの。

 彼らは真似るではなく、それそのものになりきり、信じ込むではなく当然だと考えていた。

 

 オリジナルの必殺技ならばその無駄に意味と言葉が難しい名称で威力を上げて、既存のものならばそれを再現する。

 世界を狂わせるほどに、世界を震撼させるほどに彼らの妄想力は逞しかった。

 

「行ける、行けるぞ! 俺たち、最強!!!」

 

 熱気。

 熱狂。

 必殺技を放つたびに代償として体力を使っていたが、興奮に有頂天な彼らの勢いは止まらない。

 

 もはや暴徒と化していたUCATの隊員たち。

 

 だがしかし、その前に不意に空中が歪んだ。

 無数のガジェットが次々と現れる。

 彼らは知らなかったが、それは遠隔で憎々しげに彼らを見つめているクアットロが生み出した幻影だった。

 

「ち、まだ増援か!」

 

 うざったそうに呟く。

 だが、それだけだと思えた瞬間――違う何かが現れた。

 

「なにっ!?」

 

 それは四つ足の魔導機械。

 後にガジェット・ドローンⅣと呼ばれる強力な魔導兵器たち。

 それが百を超える数で転送される。

 そして、それぞれ周囲の空間を歪ませるほどの高出力の魔力を放つ――内部に内蔵されたレリックの出力だった。

 

「どんだけの数で転送してやがる!?」

 

 しかもそれだけではなかった。

 続いて転送されたのはガジェット・ドローンⅢと呼ばれる巨大なガジェット。

 それが次の瞬間、他のガジェットにアームを伸ばし、接続、接続、合体。

 

「なっ!?」

 

 巨大な一機となって、目に見えるほど濃密度のAFMを展開し、咆哮を上げた。

 

「っ! スピアライトニング!」

 

 叫ぶ、槍状の閃光が飛び込み、直撃するが――傷はあるが、瞬く間に修復されていく。

 

「なん、だと!?」

 

 おぞましき魔力を発し、大地を喰らい、それは産声を上げた。

 同じように作られていく無数の合体ガジェット。

 

 それは内部から紅い魔力光を迸らせ――大地を震撼させた。

 

 撃ち出される必殺技すらも蹴散らし、その一踏みで地脈を刺激、局所的な大地震を巻き起こす。

 隆起した大地が陸士たちを吹き飛ばす。

 

「推定魔力ランク――Sオーバーだと!?」

 

「S級ロストロギア級が複数!?」

 

『はははは! 足掻いたようだけど、これでお終いね!』

 

 笑い声が轟く。

 それは遠隔操作しているクアットロの声だと分かる者は少なかったが、その声に怒りを覚えたのは沢山居た。

 

「舐めるな! 俺たちは負けねえ!」

 

「そうだ! 決して負けない!」

 

「かかってこいよ、化物共が!!」

 

 決してUCATは怯まない、怯えない、負けない。

 威勢よく彼らが進もうとした瞬間だった。

 

 

 ――それは姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニターに映る巨大ガジェット。

 その威容に誰もが息を飲んだ。

 

「あれは、いや、あの魔力光は!」

 

「間違いないよ! じゅ、ジュエルシード!!」

 

 なのはとフェイトが顔を見合わせて叫ぶ。

 ジュエルシード。

 かつてなのはとフェイトが出会い、戦うきっかけになったロストロギア。

 それはたった一個の何万分の一の出力で小規模次元震を起こし、複数集めれば出来ぬものはないとされる超エネルギーの塊。

 この世界が吹っ飛んでもおかしくない存在。

 

「……ジュエルシードとは何かね?」

 

 佐山が淡々と訊ねる。

 オーリスが答えた。

 

「そうですね。別に概念を封じているものでは無いですが、意味合い的にはそちらの概念核のようなものかと」

 

「つまり、一言で言えば超やばい代物だと?」

 

「……その通りです」

 

 ふむと、佐山は腕を組んで、レジアスに目を向けた。

 

「レジアス。対抗手段はもちろんあるんだろうね?」

 

「ふっ、ワシを誰だと思っている。ロストロギアテロにも対策は講じておるわ」

 

「ならばよろしい。私たちが手を出す理由を与えないでくれたまえ」

 

「レジアス中将、頑張ってください!」

 

「うむ」

 

 最近可愛げの少ないオーリスと違って、純真無垢な新庄に孫を見るような目で頷くと、レジアスは手を伸ばした。

 ポチッとある場所への通信を繋げる。

 

「あー私だ。出撃準備を頼む」

 

『――舞ってましたぁああ!』

 

 本当に舞ってそうな叫び声が帰ってくる。

 それに痛む耳を塞ぎながら告げた。

 

「では、初のお披露目だ。くれぐれもミスのないようにな」

 

『Tes.!!』

 

 同時に通信が切れた。

 そして、これ以上何が飛び出すんだこの野郎という目で見ている全員ににこやかに微笑み。

 

「では、ミッドチルダUCAT最高の守護者を紹介しましょう」

 

 レジアスはポチッとモニターを操作した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダカダカダカ! 足音が鳴り響く。

 それは暗く、深く、広い世界。

 そこで声が上がった。

 

「――出撃要請がきたぞぉ!」

 

「な、なんだってー!?」

 

 ミッドチルダUCAT、三番地下格納庫。

 そこでカップラーメンを啜っていた整備員達がぶびーと鼻と口からメンを吐き出した。

 

「マジでか!?」「嘘だろ! 一生封印指定だと思ってたのに!」「やったぜ、俺らの出番だぁああ!」

 

 わーと喜び勇む整備員達。

 そして、そんな彼らに扉を蹴破り、白衣を来た男が飛び込み前転からの宙返りでテーブルの上に立った。

 ――怪鳥のポーズ!

 

「うらあー! 私のマシンの出番だ! さあ、出撃準備をしろ!!!」

 

『ラジャー!!』

 

 全員が慌しく走り出し、近くのコンソールに向かう。

 鳴り響く警報、パトランプが紅く輝き、いやおうにも緊張感を沸きたてる。

 そして、全員がコンソールにつき、白衣の人物が中央の座席に座ると、まるでピアノでも掻き鳴らすかのようにパネルの上に指を走らせていく。

 するとどうだろう。

 

 真っ暗に遮光フィルターのかけられた硬質ガラスの靄が段々晴れていく。

 

 中に何かが見える。

 そう、そこには何かがいた。偉大で、気高く、逞しい何かが存在した。

 全長二十メートルには達する何か。

 鋼鉄の四肢、背には巨大な羽無き翼、黒ずんだ手甲はまるで鉄槌の如く雄雄しい。

 だが、それは各坐し、息すらしていない死人のような気配を放っていた。

 

「概念条文展開します! 一番概念空間――“文字は力を持つ”!」

 

 文字に命が宿る。

 ガラスの向こうで佇むそれが全身に描かれた記号を輝かせ、内部から全てにおいて埋め込まれたプログラム文が意味を持つ、力を宿す。

 

「概念条文を追加! 賢石の出力を上昇! 概念条文――“名は力を与える”

 

 それは名を持つ存在。

 ドクンと格納庫が震えた、誰もが震えた、燃え上がるように吼え猛る命の鼓動を感じた。

 光が宿る、命を持つ、その内部に宿された三つの魔導炉が出力を上昇させ、その中央に置かれたジュエルシード 改名【G(ガッツ)ストーン】が篭められた名前のままに淡い光を放ち始める。

 オペレーターが指を動かし、声を張り上げて、荒れ狂う出力を制御していく。

 パラメータが急激に上昇し、それら全てが3番と描かれたラインを超えた瞬間、白衣の男が叫んだ。

 

「さあ目覚めろ! 三番、3rd-Gの概念空間を展開! ――“鉱物は命を持つ”!!」

 

 ドクン、ドクン、ドクン。

 心臓が高鳴る、誰もが心臓を鳴らして息を飲んでガラスの向こうのそれを見た。

 それは偉大なる鋼鉄。

 それは輝ける希望。

 それは誰もが願い念じた存在。

 

『起動せよ! 我らが最高傑作、世界の守護者!! 勇気を纏い、産声を上げろ!』

 

 叫び声が輪唱する。

 祈るのだ。希望を抱くのだ。

 

 そして、それは震え出した。

 

 それは1st-Gの文字で機体を構成し、

 

 それは2nd-Gの名前で存在を構成し、

 

 それは3rd-Gの鉱物で命を構成した存在。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それは訪れる。

 

 始まりは水を切り裂く音だった。

 ミッドチルダUCAT、付近に存在する市民プール。

 非常事態故に避難勧告が出され、誰もいないはずのそのプールの水は渦巻いていた。

 グルグルと、グルグルと、螺旋を描いていた。

 

「オーライ! オーライ!」

 

 プールの縁にキャップ帽を被った陸士が紅白の旗を振っている。

 そして、水がざばーという唸り声を上げ――二つに割れる。津波でも起こったかのごとく、滝でも産み出されるかのごとく水が割れていく。

 

 そして、そこから何かがせり上がって来た。

 

 まず見えたのは太陽の光に輝く灼熱の兜。

 蒼い深海のような眼光が世界を見渡すように輝き、その眼差しを柔らかく包むように兜がもう一つの太陽を産み出し陽光を放つ。

 鋼鉄の四肢は優しく大気を掴み、背の翼はまるで産み出されたことを喜ぶかのごとくガキィインと金属音を響かせて開かれた。

 

 それは巨大な鋼鉄の巨人。

 

 それは見つめるもの誰もが憧れ抱く力の証。

 

 もっと古い歴史を持ち、もっとも新しい歴史の幕開け。

 

『おぉおおおおお!!』

 

 吼え猛る。

 荒々しくも、気高い産声が上がった。

 誰が吼えた、其れが吼えた、世界に存在を示す。

 魅せよ、この輝きを!

 翔けよ、世界の果てまで!

 

『俺は来た』

 

 手を伸ばす。

 悲しみに震える人々を嘆くかのごとく。

 助けを求める人々を掴み取るかのごとく。

 大気を唸らせ、海を響かせ、空を見つめて。

 

『おぉ!!』

 

 感嘆の咆哮。

 拳を叩きつける。

 電流を迸らせ、燃え盛るバーニアを光の翼に変えて、魔力の粒子を撒き散らしながら、叫んだ。

 

『あまねく存在する大空よ! 広がる無限の大地よ! 永久無限に轟く次元の海よ! 俺は来たぁ!』

 

 周囲の大地が陥没するほどの衝撃破と絶叫。

 錬鉄の巨人は腰に佩いた剣を手に取ると、大空へと向けて鞘を抜き払う。

 

『トラボシブレェエエエド!』

 

 蒼い粒子を撒き散らし、清純なる螺旋の輝きを迸らせながら刀身が空へと突き出される。

 

『伸びよ。我が気合!!』

 

 伸びる、伸びる、伸びる。

 剣が伸張する、その咆哮に応えるように。

 そして、産み出されたのは全長数百メートルの超弩級大剣。

 これこそ悪を切り裂く剣、魔を断つ刃、Ex-Stの名を冠せし斬魔巨剣。

 

『チェストオオオ!!』

 

 一閃。

 振り抜かれた刃は世界を切り裂いた。

 爆散。

 空を舞うガジェットが一気に砕け散る。

 刃を払うと、同時に元の形状に戻る。

 

『む! 今行くぞ!!』

 

 そして、それは翼を広げて飛び上がる。

 

・――光は力である

 

『X-Wi-ng!!!』

 

 光を力に変える閃光の翼を撒き散らし、魔法技術によるベクトル変換と武神による重力制御、その三つを使い巨体が飛んだ。

 鋼鉄の巨人が空を舞う。

 軽やかに、鋭く、砲弾のように飛び、翼を広げて――数秒と掛からずに彼は降り立つ。

 

 陸士たちの前に。

 

 護るべき存在たちの前に。

 

 その身に刻まれた存在意義と魂に誓って。

 

『リリカルマジカルブレイブ! 勇気を纏いし魔導の神――勇装魔神クラナガン! 世界を救う魔法をプレゼントにやってきた!』

 

 今ここにもっとも新しい勇者は咆哮を轟かせた。

 

 

 

 

 

 

 






2.知らないんですか!? 彼女こそ時空世界の果てから――




「ん? ティアナー、何見てるの?」

 プライベート時間。
 ティアナの部屋に遊びに来たスバルはヘッドホンを耳にして、何かの雑誌を読んでいるティアナに話しかけた。

「ちょっと気になる記事を見つけてね。ほら、これ」

 ティアナが渡したそれは芸能雑誌だった。
 スバルはそれを受け取ると、読み上げる。

「なになに? ……ミッドチルダUCAT、陸士108部隊のギンガ・ナカジマとラッド・カルタス氏が婚約間近? 嘘だ~、まだ私何も教えてもらってないもん」

「身内の危機だからこそ教えてもらってないんじゃないの? いや、それよりもこっちよ」

 ピシピシとティアナがページの記事の一つを指差した。
 そこには帽子を被り、目元を隠した少女らしき人物が映っている。

「なに? えっと、伝説の歌姫ルノーがミッドチルダに六年ぶりに帰郷? 近日新シングルを発表? だ、誰だっけ?」

「呆れた。スバル、ルノーの事知らないの?」

「……誰だっけ?」

 ? とクエスチョンマークを頭に浮かべるスバルに、はぁっとため息を付いてティアナはヘッドホンを外した。

「ほら、これで分かるでしょ」

 パコッとヘッドホンをスバルの耳に装着。
 そして、そこから流れるメロディと歌声にピーンとスバルの背筋が伸びた。

「あーこれって! あれだよね! 確か、あの昔大ヒットした歌手の!」

「そう。一時期ミッドチルダを熱狂の嵐に叩き込んだ伝説的歌手よ。彼女の歌った【二人の翼】とかもう忘れられないわ」

 少しだけうっとりとティアナが呟く。
 こっそりと自分のテーマソングにしている、とはティアナはさすがに口に出す勇気は無かった。

「えー。でも、確か六年前に病気か何かで引退したんじゃなかったっけ?」

「でも、なんか戻ってきたらしいわよ? まあゴシップ雑誌だから当てにはならないけど」

 スバルから雑誌を取り上げると、ティアナはヘッドホンを取り上げた。

「じゃ、スバル。私これ聞くので忙しいからじゃあね」

「えー。ティアー。ルノーのCD貸してくれない? なんか久しぶりに聞きたくなったから」

「アンタ、自分で買ってないの?」

「実は集めてるけど、全部家に……テヘへ」

 しょうがない相棒だった。
 ティアナはため息を吐くと、適当にお気に入りのルノーのサウンドアルバムを一つ手渡す。

「壊さないでね。そしたら、ケツからファントムブレイザー叩きこむから」

「し、しないよ!」

 ありがとう、ティアー!
 と暢気に呟いて、スバルは去っていった。

 そして、ティアナは心地いい歌声に飲み込まれながら呟いた。

「もし、ルノーが活動再会するなら。ライブとか見に行きたいわね」


 彼女は知らない。
 その夢が思いがけない形で叶うことを。

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