ミッドチルダUCAT   作:箱庭廻

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今回はボリュームたっぷりです


第一回 地上本部攻防戦 その6

 

 

 その光景を見たとき、機動六課部隊長八神 はやてはこう告げた。

 

「……なんや普通やないか」

 

 そう告げた次の瞬間、ハッとはやては顔を強張らせて頭を振った。

 UCAT関係者以外の全員が彼女を見ていた。

 ……ああ、この子も手遅れになったのかと。

 

「いや、違う! あかん! 毒されて、なんか普通に感じとる! カムバック、カムバック私の常識! 戻ってきて! 昨日までの私!」

 

 はやては常識人として、そこらへんにいる普通の魔法少女としての誇りを保つために叫んだ。

 それを咄嗟に慰める女性が二人。

 

「落ちついて、はやて! 必殺技を放ちまくる陸士たちよりはきっとマトモだよ! ……たぶん」

 

「そ、そうだよ! 精々勇者ロボの一つや二つ……ごめん、普通じゃなかった」

 

 しかし、自滅した。

 ズガーンと落ち込む三人娘の様子に、レジアスは気にした様子もなく、オーリスがいれてくれた茶を啜る。

 オーリスがはやてたちを憐れんだ目で見ているが、彼女は冷徹な顔の裏腹に情が深い女性だった。

 レジアスはコキリと肩を鳴らすと、モニターを見つめた。

 様々な戦況が映し出された無数のモニターにはクラナガンを投入したとはいえ、膨大な出力を誇る新型魔導兵器と合体ガジェットに苦戦する陸士たちが見られる。

 最後の一手を打つ必要がある。

 

「レジアス。何を躊躇っているのかね?」

 

 レジアスの思考を読み取ったかのように、佐山が横にいる新庄に肩を揉んでもらいながら告げた。

 

「うちの連中を折角貸し出したんだ。存分に使い倒すのが彼らへの礼儀ではないのかね?」

 

「そうですよ。もうなんていうか、ここまできたらどこまでもやっちゃっていいかと」

 

 先ほどまで勇者ロボの発進に全力全開でツッコミいれまくり、疲れ果てた新庄がこくりと頷く。

 

「疲れたのならば私にもたれかかってもいいが?」

 

「佐山くんだとセクハラするから、いや」

 

 というバカップル会話をしている二人から目線を外し、レジアスはここにきて初めて酷く楽しげに口元を歪めた。

 

「ふむ。それもそうか」

 

 初老の差し掛かる年齢だというのに、レジアスの瞳は悪戯好きな少年のように輝いていた。

 状況は十分、動機も十分。

 いいぜやっちまえと悪魔が囁き、天使がふれーふれーと手を上げていたような気がした。

 

「では、オペレーションAHEADを開始する」

 

 状況開始、そう告げて他の幹部達には目に見えない位置でスイッチを入れた。

 

 それがこの戦いの作戦最終段階を意味するものだと、この時誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大地は熱気に満ちていた。

 

 空は嘆き悲しむように雲を渦巻いていた。

 

 世界は破壊を撒き散らすものたちによって震撼し、それに対抗するように誇りあるものたちが咆哮を上げていた。

 世界は分割されている。

 二つの正義、けれども相容れることのない正義によって打ち別れた。

 今こそが歴史の分岐点、一つの新しい物語が歴史に刻みいれられる時だと誰もが気付いていた。

 大いなる時のうねり、始まるは破滅か再生か、それとも新たなる創造かそれとも全てを終わらせる終末か。

 分からない、分からない、だけどそれはそこに立っていた。

 

 それは偉大なる魂。

 鋼鉄の巨人、命宿せし鋼の人形、魂持ちし巨兵。

 

 見よ。その勇ましき鉄腕を。如何なる巨悪にだろうが決して折れず、怯まず、打ち込むことが出来るだろう強大なるガントレットを身に付けた腕部。

 

 見よ。父なる大地を踏み締める脚を。如何なる苦難に遭おうともそれは決して膝を着く事無く、ただ歩み続けるための地上を突き進む脚部。

 

 見よ。その装甲を。太陽の光を受け、熱気に燃える劫火に炙られ、それでもなお煌めき輝く純白の甲冑を。如何なる災禍に遭おうとも、受け止め、弾き散らすための勇猛なる鎧。かつて素手で如何なるものをも打ち倒すことが出来なかった獅子、それを打ち倒した闘士が勝ち取った毛皮の如くそれは分厚く、気高く、強固。

 

 その肩アーマーには己が背負いし組織の印章を旗印のように刻み込み、自分が誇りと勇気に輝かせる。

 そして、その額に輝くのは地上を蝕む劫火よりも熱く、命流れし血潮よりも紅く、空に燃え盛る太陽の如く眩い兜。

 人間を模した口を震わせ、その碧鉱石色に輝かせた瞳に石の光をたぎらせ、それは吼えた。

 

『我が名を知れ! 我こそはこの地上を護るもの! 勇装魔神クラナガンだと!!!』

 

 ビリビリと大気が震え立つ。

 アスファルトの地面に散らばる残骸が、アスファルトの石屑が、その勇気ある咆哮に奮い立つかのように震動した。

 大地が揺れたかと誰もが錯覚する。

 だがしかし、彼は大地を揺らしたりなどしない。

 ただこの大地を、この空を、そしてありとあらゆる手が届く、そして届かなくても届かしてみせる、世界を護るために生み出された勇者なのだから。

 

『OOOOOOOO!!』

 

 その咆哮に、その存在に、脅威と認識したのか、もっと近くに存在する合体ガジェット――欲望の化身、願いを叶える宝玉、ジュエルシードを孕んだ機械の獣。

 

 無線コール――命名ジュエルビースト。

 

 それが幾つもの丸みを帯びた鉄塊、茨のように絡みつかせた配線、アームベルトに覆われた四肢を動かし、突進してくる。

 サイズにして50メートルを超える巨大怪獣。大地を分解し、その膨大な魔力と精密極まるプログラムで魔法による再構築を果たしたそれは模造金属に覆われた合金の巨獣。

 

 強敵である。

 

 後の世の検証では、L級艦船からの艦砲射撃を浴びせなければ有効打を与えられなかったとされる怪物。

 だがしかし、決して膝を屈すことを知らない不屈の魂を持つクラナガンは怯まない。

 その腰に佩いた巨剣の柄を握り締める。

 

『トラボシブレェェエエドッ!!』

 

 叫び抜刀、碧色の閃光を浴び、光の粒子を螺旋と変えて滾らせる烈光の太刀。

 Ex-st-Blade/トラボシブレード。虎星の二つ名を背負いし鋼刃。

 Low-Gにて開発された概念兵装、機殻杖Ex-stのレプリカを大型化し、大剣と変えた武装。

 それは持ち主の気合によって威力を変え、さらには刀身すらも増幅させる斬魔巨剣である。

 

『X-wi-ng!!』

 

 ・――光は力である

 

 概念条文の言葉を鳴り響かせ、クラナガンは装備を起動させた。

 ガパリと背部から伸びる羽無き翼、背部に伸びる巨大なウイングブロックを上下に分割し、その内部から魔力炉から供給された光の粒子を噴出させる。

 X-wi-ng。

 元の装備こそ全竜交渉部隊の一人が装備していた飛行用の概念兵器。

 光の羽根を生み出し、ありとあらゆる光に力を与える概念を持つ光翼。

 そう、ありとあらゆる光に力を与えるのだ。全身から放つ魔力の光粒子にも、トラボシブレードから放たれる光刃にも。

 

『おぉおお!』

 

 咆哮疾駆。

 バンッと光の翼が大気を打ちつけ、鋼鉄の脚部が大地を蹴り飛ばした瞬間、その巨躯が掻き消える。

 同時に響き渡るのは雷鳴の如き破裂音。

 常人には認識外の速度で駆け抜けるそれは如何なる悪夢か。鋼の巨人が音速を超えた機動を見せるなど通常の物理学を嗜む物理学者が見れば目を剥き、泡を吹くだろう現象。

 バリアジャケットの技術を利用した大気抵抗キャンセル、同時並行で作動するベクトル操作、さらにX-wi-ngの膨大な出力、武神が持つ重力制御技術、その全てを一点に兼ね備えた超絶技術の賜物。

 

『GA!?』

 

 ジュエルビーストは咆哮を上げ、瞬時に全身から魔力場を発した。

 指向性を定めないただの放出、だがしかしSランクオーバーの魔力の圧力はただそれだけ地面を陥没させる衝撃波。

 ――その衝撃波に一太刀の閃光が食い込んだ。

 

『チェストォオオ!!』

 

 一閃両断。

 残像を残し、クラナガンがジュエルビーストの傍を駆け抜ける。

 ガリガリとアスファルトの床をブルドーザーで掘り起こしたような土砂を撒き散らしながら、彼はトラボシブレードを振り抜いていた。

 

『GA!?』

 

 ズルリ。

 ジュエルビーストの巨腕が次の瞬間、歪んだ。付け根から緩やかにズレはじめ、数秒と経たず落下する。

 巨大な質量が大地にめり込み、破砕音を鳴り響かせるよりも早くクラナガンは動いていた。

 旋転、切り返し、薙ぎ払い。

 金属のフレームが恍惚の絶叫を響かせ、マニピュレーターが咆哮を上げながら軋んだ。

 息を吸い込むように刀身を短くし、地面を切り裂かぬように下から振り上げて、インパクトの瞬間気合を篭める。

 

『秘剣 雷槌墜とし!!』

 

 1セコンドにも満たぬ僅かな瞬間のみ、息吹を発するように刀身を伸ばし、相手を両断する。

 バガンと音を立ててジュエルビーストの顎から脳天までが裂かれた。絶叫すらも許さずに、脳漿代わりの配線と血肉と機械油をぶちまける。

 

 壮絶極まる一刀。

 

 大地から空へと舞い上がるように、天から打ち下ろされし大いなる主神の奇跡。稲妻。それを切り裂いたのは第97管理外世界、世界でもっとも多くの勇者を生み出せし国で語られし雷切りの逸話か。

 クラナガンのAIに、データベースに刻み込まれた数々のデータは先人たちの伝説を尊び、それに追いつかんと仮想空間で修練を続けてきたのだ。

 日本刀の妙技はそのデータに叩き込まれており、彼が繰り出す剣技はあらゆる武術者たちの血肉の証、命を賭けて伝え残してきた剣の教え、その心と血肉の咆哮。

 ジュエルビーストが頭部を裂かれてもなおその身に宿した魔力を用いて復元――ならず。

 クラナガンの手首が閃く、命を持ちし金属は硬くありながらも人体のようにしなやか、故に繰り出せる音速の剣技。

 通常サイズに戻したトラボシブレード、その軌跡を見れた者は何名居たか。

 

 唸った斬撃音は一つ。

 

 だがしかし、ジュエルビーストに刻まれたのはX字の二撃。

 鉄よりも硬く、鋼よりもしなやかで、ダイヤモンドの如く頑強なそれをクラナガンは切り裂いてみせる。

 

 斬鉄の技巧、見ればその刃は片手に握り、もう片方の指は刀身に添えて、足首を曲げ、ジョイントを軋ませ、マニピュレーターを稼働限界まで動かし、翼を用いて大気を打ち、その自重の全てを一瞬の二撃に叩き込んでいた。

 

 火花散る散る、玉散る斬撃二刀。

 例え2nd-Gの概念加護がなくとも実現したであろう技巧の数々。

 振り抜いたトラボシブレード、流れるような動作で血払いならぬ油払いをする。

 

『未熟!』

 

 僅かに刀身にこびり付いた金属かすに、ガジェットのものだろう機械油がこびりついた刀身を見たクラナガンは己の未熟さを思い知る。

 真に稲妻を切り裂ける一刀ならばこの程度の敵に機械油などこびり付く余地は無く、振り切れるはず。

 後に繰り出した二撃に僅かな違和感を覚えたのはそのためか。

 

 修練が足りぬ、まだ未熟だ。

 

 クラナガンは心から己の未熟さに嘆き、怒りすら覚えた。

 

『許せ。苦しませずに逝かせることが出来ぬ己の未熟!』

 

 血払いを終わらせ、クラナガンはトラボシブレードを地面に突き刺すと、その空いた手から魔力の迸りを滾らせる。

 狙うは一つ、ジュエルビーストのジュエルシード。

 

 魔力噴出用の外部ノズルを剥き出しに、クラナガンはデータベースに登録された術式プログラムを起動。

 高速処理で演算をしながら、燃え盛る右手をジュエルビーストの切り裂いた断面に突き刺し――

 

『コンバイン!』

 

 裂く、裂く、砕き散らす。

 鉄の肉を砕き、配線の神経を千切り、機械油の血を浴びながらクラナガンはその手をめり込ませて――叫んだ。

 

『ブレイク・インパクトォオッ!』

 

 食い込んだクラナガンの手すらも貪ろうとするジュエルビーストの全細胞。

 その血肉の固有周波数を計算し、集積し、破壊する震動波で弾き散らす。

 ブレイクインパルスと呼ばれる魔法の術式をアレンジした兵装。ある元執務官が態々プログラミングを行い、快く術式を提供してくれた武装の一つ。

 そして、握り締めたその拳に秘められたのは確かな宝玉、唸りを上げる力の塊。

 

『リリカルマジカル! ジュエルシード――シリアル13・封印!』

 

 データベースに登録された封印術式、さらにそれとセットで着いていた封印詠唱を叫び、クラナガンはジュエルシードを封印する。

 どこかで哀れな女性が顔を真っ赤に突っ伏したような気がするが、おそらくそれは幻影。

 封印と同時に転送プログラムを呼び出し、ジュエルシードを地上本部の隔離エリアへと転送した。

 

『よし、一つは倒した――っ!?』

 

 僅かに安堵した瞬間、亜音速の速度で突っ込んできた物体がクラナガンに直撃した。

 爆音にも似た激突音。

 ぶつかったもの、それは先ほどのものよりも少し小柄な40メートルほどのジュエルビースト。

 だがしかし、その巨体はクラナガンの全長を遥かに超えている圧倒的な質量。音速に迫る速度で、数百トンを超える物体の激突は計り知れないほどの威力。

 

 しかも、そのジュエルビーストは先ほどのものと比べて形状を変えていた。

 

 よりおぞましい獣の形に、しなやかに動くための獣型として進化。おそるべきはジュエルビーストの願望の発現能力。内部に搭載された小型獣(ちなみにぬこ)のタビングAI、それと連結されたジュエルビーストが野生の本能に従い強化を望んでいた。

 2nd-G、名前を持たないものが弱体化する空間でなければクラナガンが一撃で中破してもおかしくなかっただろう。

 全身のフレームに絶叫の大合唱を鳴り響かせながら、クラナガンはそれを受け止め、ブレーキを掛けていた。

 

 不味いと理解していた。

 

 彼の背後には護るべき陸士たちがおり、吹き飛ばされる方角には地上本部がある。

 幾ら概念防護があろうとも決して無敵というわけではないのだ。この質量の二つが激突すれば破砕の可能性がある。

 そこを巻き込むわけにはいかない!

 

『うぉおおおお!!』

 

 X-wi-ngの出力を上げて、大地に鋼鉄の脚を突きたて、火花と瓦礫を撒き散らしながらブレーキ、ブレーキ、急制動。

 その身に背負う幾多の命の重みに賭けて、クラナガンは抗い続けた。

 背後でどわー! とか、うひょー! という悲鳴が聞こえる、飛び込んでくるクラナガンとジュエルビーストの攻防に逃げ惑う陸士たちの声にクラナガンは涙を流すことが出来れば流しただろう痛みを覚えた。

 だがしかし、止まらない。

 じりじりと、がりがりと、軽自動車ほどの速度でクラナガンとジュエルビーストが進んでいく。

 

『くっ!』

 

 止まれないのか。一瞬クラナガンが絶望しかけた瞬間、声が響いた。

 

「ルフトメッサー!!」

 

 大気破断。

 背後から打ち出された衝撃波が、ジュエルビーストの真紅に燃える瞳に打ち込まれた。

 

『GRU!?』

 

 それはあくまでも急増で作り出された外部センサーの一つでしかなかったが、内部に搭載されたダビングAIにとっては片目を潰されたかのような衝撃だったのだろう。

 動きが鈍る、脚が止まる。

 その隙をクラナガンは見逃さなかった。

 

『ブレイズキック!』

 

 脚部裏の放熱ノズルから勢いよく蒸気を噴出し、加速された膝でジュエルビーストの顎を打ち抜く。

 たわむ顎、配線とベルトで編まれた急増の巨体が震動を響かせて、全身を薄気味悪い金属音に満たしていく。

 

 流れるような動きでクラナガンは手に持っていたトラボシブレードを振り抜くが、ベクトル制御魔法でも使っているのか、しなやかにジュエルビーストがひらりとかわし、飛び退る。

 

 ズシン、地面が揺れる、その自重と震動音だけが巨体であり、膨大な質量を秘めた存在だと知らせてくる。

 間合いが開く。グルルルと合成の唸り声を洩らし、ジュエルビーストが警告音を発す。

 前方への警戒を緩めぬまま、クラナガンは先ほどの衝撃波が放たれた方角を見た。

 

「大丈夫ですか、クラナガン!」

 

 そこには紅い燃えるような髪をなびかせ、クラナガンを見上げる少年がいた。その周りには怯えるように……というか呆れたようにクラナガンを見上げる三人の少女。

 彼はアームドデバイスらしき槍を構えていた、おそらく先ほどの衝撃波を放ったのは彼だろう。クラナガンのデータベースに登録されたルフトメッサーは近代ベルカ式の斬撃魔法だから。

 いつのまにか、地上本部の直ぐそこまで迫っていたらしい。もしも彼が手助けしてくれなかったら、クラナガンは護るべきものを護れなかったのだ。

 

『ありがとう。少年よ、名前を聞かせてくれないか』

 

 こんなにも幼い少年が戦線に加わっているという事実、クラナガンはそのことに心を痛めながらも、その勇気に感嘆していた。

 少年は目を輝かせながらも、決意を秘めた言葉で告げる。

 

「エリオ。エリオ・モンディアルです! クラナガン、僕も一緒に戦います!」

 

「ええ!? エリオ、ちょっと!」

 

「正気!? いや、でも、気持ちはちょこっとだけ分かるけど!」

 

「エリオくん!?」

 

 少年の決意に、三人の少女が驚いていたが、クラナガンの心には少年の心が深く染み渡っていた。

 勇者として分かる。

 彼は勇気ある存在だと。

 

『私と共に戦うのは危険だ。それを承知かね、エリオ君』

 

「はい!」

 

 一瞬もエリオは迷わなかった。即答だった。

 クラナガンは通信を開始、高速圧縮言語でミッドチルダUCATの管制室に問い合わせる。

 

『彼を私の操者にしてもいいか?』 『構わん、やれ』

 

 即答だった。

 クランナガンのAIにはサムズアップする管制室の皆の姿が、頼もしい開発班の人たちの笑顔が見えていた。

 

『分かった。エリオくん、いや、エリオ! 私に乗れ!!』

 

 前のジュエルビースト、それに警戒しながらクラナガンは膝を着き、背部のウイングブロックの付け根を左右に押し広げ、コクピットブロックを露出させる。

 

「え? まさか」

 

『さあ!』

 

 クラナガンの声、それに引かれてエリオは目に意思の光を宿し頷いた。

 

「行ってきます、皆!」

 

 エリオはスバル、ティアナ、そしてキャロに微笑んで駆け上がる。

 ソニックムーブ、電光のような速度でコクピットブロックに辿り付く。

 内部にエリオが入ったことを確認すると、クラナガンはコクピットブロックを閉じ、ウイングブロックを元の位置に移動させると、叫んだ。

 

『エリオ! 操縦システムをベルカ式操者に切り替える!』

 

「え?」

 

 中に入ったエリオは驚いた。

 複雑な機器があるかと思っていたコクピットだが、内部は丸い円形だった。

 そして、中心部にはなにやら差し込むような鍵穴がある。

 

『君のデータを私に入力するんだ! デバイスを突き刺せ!!』

 

「分かった!」

 

 起動状態のストラーダを構えて、エリオは迷う事無く鍵穴に突き刺す。

 突き刺した瞬間、ストラーダを周囲から飛び出した無数のケーブルが覆っていく。

 

『Strat.!!』

 

 ストラーダが電子音声を響かせ、その全身にエネルギーを満たし、自動的に第三形態へと移行する。

 蒸気を噴出し、次の瞬間、周りのコクピットの壁面に景色が映し出された。

 

『エリオ・モンディアル――魔力変換資質:電気を保有。君の生体電流をこちらの操縦システムとリンクさせる。エリオ、君はストラーダを握っているだけでいい! 後は自分の体を動かす要領でサポートしてくれ!』

 

「分かりました!」

 

『普段は私に任せろ!』

 

 クラナガンの声が響く。

 ここに一人の勇気ある少年と共にあり、真なる目覚めを迎えようとする勇者が剣を掲げた。

 

『さあ来い! 勇気と気合、その力を重ね持つ私は簡単には敗れんぞ!!』

 

 トラボシブレード。

 その巨剣を振り翳し、クラナガンは突き進む。

 世界を護るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……エリオくん、いっちゃった」

 

 ポカーンと寂しそうに呟くのはキャロだった。

 凄まじい速度でジュエルビーストと戦い始めるクラナガンを見送ったスバルとティアナはなんというか息を吐くと、ぐっと立ち直るように腕を折り曲げた。

 

「よし、キャロ! エリオに負けてられないわよ! 私たちは私たちにやれることをするのよ!」

 

「そうだよ! 私たちだって時空管理局の部隊であり、機動六課なんだから!」

 

「そうよ!」

 

 ティアナとスバルが気合を入れるために叫んだ瞬間、それに答える声があった。

 ダダダと足音を立ててミッドチルダUCAT本部から飛び出してきたギンガだった。

 

「ギン姉! あれ? さっきのみず――」

 

「言わないで」

 

 ガシッと己の妹の口を神速で塞ぎながら、ギンガは通常のバリアジャケット衣装で涙に少し紅くなった目元を拭った。

 どうやらしばし泣いていたらしい。

 ティアナには気持ちが分かった。自分も同じ目にあったら間違いなくするだろうし。

 

「もごもご~!」

 

「ああ、ごめんなさいね」

 

 パッと妹の口を塞いでいた手を離すギンガ。

 しかし、その肩にぐわしと恐ろしいほどの握力で握り締め。

 

「さっきまでの光景は一切口にしないこと。い~い?」

 

「え、でも……」

 

「い い わ ね?」

 

 めぎり、と音を立てそうなほどにスバルの肩に指が食い込む。

 ギンガは微笑んでいたが、目とこめかみだけが笑ってなかった。

 コクコクと必死にスバルが頷くと、ようやく手を離す。

 

「じゃ、行くわよ。この概念空間内ではまず自分の出す魔法や技のイメージをしっかりと持つの」

 

「イメージ?」

 

「そう。スバル、コレに目を通しておいて!」

 

 ギンガがスバルに一枚の紙切れを渡す。

 そこにはなにやら複数行の文章が書かれていた。

 

「へ? こ、これこの通りにするの?」

 

「そう……私だってしたくないんだけどね、って大物が来たわ!」

 

 ギンガが目を向けた先には遅れて合体を開始しているジュエルビースト、20メートルサイズが迫る姿。

 その足元には無数のガジェットⅣ型がいたら、ギンガは構わずに構えて、走り出す。

 

「そして、さらに己が名前をイメージする! 私の名前はギンガ・ナカジマ!!」

 

 ギンガが加速。

 脚部に嵌めたブリッツキャリバー――意味、電撃の如く進撃。

 速度が急激に膨れ上がる、電光のような速度。

 

「手にし拳は銀河すらも打ち砕く絶倒流星!」

 

 繰り出す一撃、それはガジェットⅣの認識速度を超えて打ち込まれる。

 スバルは見た、ティアナもキャロも見た。

 それはまるで星々が流れる様の如く。

 

「名付けて、ギャラクシースターダスト!」

 

 ギンガの意味に授かりし銀河。

 さらに星々の流れる姿を表現せし技名、二重の意味、イメージを増幅させた概念武術。

 ギンガ・ナカジマ、彼女も立派なUCAT隊員だった。

 バラバラに粉砕したガジェットⅣが不自然に放物線を描いて真上に飛んで、螺旋を描きながら地面に墜落。破片を撒き散らした。

 

「凄い! ティアナ、キャロ、私たちも続こうよ!」

 

「そ、そうね!」

 

「私はサポートします! ブーストアップ、ストライクパワー!」

 

 出力上昇のブースト。

 意味は直撃すべき力。

 スバルが加速する、マッハキャリバー、音速の意味を冠せし相棒はその力を増幅させていた。

 

「はは、凄いね、マッハキャリバー!」

 

『Yes』

 

 音速と電光、認識外の速度へと辿り付く二人のシューティングアーツ使い。

 砕く、砕く、打ち込む。

 リボルバーナックル、弾丸の如き拳打、音速超過の打撃を打ち込まれてガジェットが吹き飛ぶ、吹き飛ぶ、吹き飛ぶ。

 名前を持たない彼らでは概念による強化されたシューティングアーツの使い手たちを止めることは出来ない。

 そして、迫る。

 ティアナの援護射撃を受けながら、姉妹は巨大なジュエルビーストの眼前へと迫っていた。

 

「見えた! どうする!」

 

「体勢を崩す。そしたら、例の奴を!!」

 

 姉妹が意思を交換し、頷く。

 バッと左右に別れた瞬間、その間をジュエルビーストの巨腕が粉砕した。

 早い、概念空間による補助がなければ捉えられたほどの速度。

 だがしかし、音速に迫るほどではなく、電光を捉え切れるには反応が遅すぎる。

 

「リボルバー!」

 

「ナックル!」

 

 二人が回る。

 クルクルと回転しながら、飛び上がり、振り下ろされた巨腕に左右から。

 

「キャノン!!」/「バンカー!!!」

 

 障壁を纏った二人の打撃、豪腕粉砕。

 左右から同じ着弾点に叩き込まれた衝撃波は逃げ場なくその血肉を蝕み、瓦解させる。

 腕が砕ける、ミチミチと骨が砕け、血肉が裂け、神経代わりの配線が飛び出し、血の代わりとなるどす黒い機械油が噴出する。

 さらに脚を翻す。

 

「ブリッツ!」/「マッハ!」

 

 電光の速度、音速の速度、日本刀の斬撃が如き鋭い足刀。

 それが窪んだ巨腕を畳み込み、叩き折る。

 言葉にするまでもなく、二人は同時に叫んだ。

 

『キャリバーズ・コンビネーション!』

 

 体育会系のノリか、それとも元々これらに対して素養があったのか、二人のナカジマ少女は蹴りの反動で飛び下がり、華麗に着地しながらポーズを決めた。

 次の瞬間、スバルはにやっと笑い、ギンガは自己嫌悪に膝を屈しかけた。

 

「っ、まだよ! 動いて、二人共!!」

 

『え!?』

 

 ティアナの警告に、スバルとギンガは腕を見上げた。

 腕を叩き折られたジュエルビースト、その断面が不気味に蠢いていた。

 びゅらびゅらと配線が動き出し、機械油が渦を巻き、紅いガジェットのものだろう幾つもの眼光が彼女達を睨む。

 びゅる、びゅるるとおぞましい音が響き、次の刹那、無数の配線が触手のように伸びた。

 それは音速であり、電光でもあるスバルとギンガと捉えるほどの速度と膨大な量。

 

「なっ!」

 

「っ!!」

 

 即座に離脱したはずの二人の足首に配線が絡みつく、カツオの一本釣りのような速度で上に持ち上げられて、二人の肢体が上空に跳ね上がる。

 高度三十メートルの高みへと数秒で持ち上がり、見上げるティアナでさえも首が痛くなるほどの位置へと運ばれた。

 

「スバル! ギンガさん!!」

 

「この、リボルバー!」

 

「ディバイイン!」

 

 ティアナの叫びに答えるように、ギンガが大気の螺旋を左手のリボルバーナックルに這わせ、スバルが左手に魔力スフィアを構築し、反撃を試みるが。

 ジュエルシードの我欲が許さない。

 伸びる、伸びる、伸びる、無数の配線が彼女達の肢体に絡みつく。

 口に猿轡のように噛まし、詠唱を許さない。足首に絡まる配線が勢いを増し、戦闘機人である彼女達の四肢を引き抜こうとする。

 淫猥に胸部の周りに絡みついた配線が彼女たちの体を千切らんと強まり、ブルリと年頃にも関わらず大きくはみ出た乳房を揺らし、ギンガとスバルは痛みの悲鳴を上げた。

 

「このぉ! ファントム・ブレイザー!!」

 

 地上のティアナたちにも聞こえるほどの絶叫、それにティアナが咆哮を上げる。

 カートリッジを三連続で排出、暴発寸前まで高めた銃身を向けて、ティアナは引き金を引いた。

 異なる世界で彼女と同じ術式で武神すらも貫いた魔力砲撃がジュエルビーストの中枢に直撃するが――深く穿たれた傷口は瞬く間に再生する。

 

「嘘!」

 

「ブーストかけたのに!」

 

 キャロが顔を蒼白に染めて、ティアナが悲痛な顔に歪めた。

 聞こえる、聞こえるのは友の悲鳴、大切な知り合いの絶叫。助けられないのか、才能の差なのか、ティアナが絶望的に怒りを覚えた瞬間だった。

 

「HAHAHAー!」

 

 銃撃の雨が降り注いだ。

 無数の魔力弾が遥か上空からジュエルビーストを穿つ、穿つ、穿つ、驚異的な速射。

 レインストームと名付けられた技はまさしく雨の如く、嵐の如く弾丸を叩き込む。

 

「え?」

 

 クルクルとライフル弾のように旋回しながら遥か上空から降りてきた影は配線の嵐を撃ち抜き、砕き、引き裂き、そして背後の剣を振り翳した。

 

「クールに行こうぜ!!」

 

 両断。

 一太刀にてスバルとギンガの配線を切り裂き、その人影は紅いコートを翻しながら二人を掴んで跳ねた。

 迫る配線を笑いながら避けて、落下。

 派手なバック転を見せながら、高度30メートル以上の位置から無事に地上に着地する。

 

「ふぅ、大丈夫かい。嬢ちゃんたち」

 

 紅いコートが孕んだ空気を吐き出し、ゆっくりと地面に落ちる。

 銀髪を煌めかせて、背後に身に付けた異彩な趣向の施された魔剣がガチリと音を立てた。

 

「え?」

 

 その後姿に見覚えがあった。

 ティアナは叫ぶ。その名前を。

 

「に、兄さん!?」

 

「よう」

 

 それはティーダ・ランスターだった。

 自慢の赤毛を銀髪に染めて、目に痛いほどに真っ赤なコートを翻し、特注品らしき刀剣(命名リ○リオン)を背負っているというコスプレ済みだった。

 最悪な再会だった。

 

「なんで、そんな格好に?」

 

「あ。まあ概念補正が掛かるからな。あとなんていうか……」

 

 くいっと首を捻り、ティーダは告げた。

 

「どこか遠くの魂の親友って感じ?」

 

「なんでよ!!」

 

 ツッコミを入れた。

 ティアナの兄貴像がさらに砕けた瞬間だった。

 

「ま、とにかく」

 

 ティーダが手を閃かせる。

 迫り来るジュエルビースト、その顔面に目にも止まらぬ速射を撃ち込んだ。

 その一撃は先ほどまでティアナが叩き込んでいたよりも遥かに強力で、装甲を削っていくのが分かる。

 何故? とティアナは思った。魔力量の違い? いや、それだけじゃない。制御精度も違うけれど、それだけなんかじゃない。

 

「ティアナ、前に言ったはずだぜ?」

 

「え?」

 

「ランスターの魔法に貫けないものはないと」

 

 そう、それは幼き頃の約束。

 ティーダが彼女の遺した言葉。

 けれど、それを本当はティアナは信じていなかったのはないのか?

 

「信じろ。ランスターの姓、それが放つ魔法に貫けないものはないのだと」

 

「……」

 

「俺が信じられないか? ティアナ」

 

 信じられない理由なんて沢山あった。

 コスプレしてたり、死んでなかったり、元気だったり、笑っていたり、護ってくれたり、けれど、けれど。

 何もかも放棄する。

 そして、まっさらに考えてティアナは微笑んだ。

 

「いえ、信じてるわ。兄貴」

 

「兄さんといって欲しいがね、不思議とそれが心地いいな」

 

 構える。

 兄妹が同じ構えを取り、銃口を一点に向けた。

 息を飲む、意思を向ける、信じる心を銃弾に篭める。

 

「信じろ、最強の己を」

 

「うん」

 

 魔力を高め、威力を高め、心を高める。

 

「こういう時はどう言えばいいか分かるか?」

 

「知ってるわ」

 

 さすれば貫けないものはないのだと信じられる。

 

 そして、引き金を――

 

『Jackpot.!』

 

 引いた。

 

 

 

 

 

 

 ジュエルビーストがその一発の銃弾で揺らぐ、吹き飛ぶ、怯む。

 ずずぅんと地響きを響かせるそれを眺めながら、ミッドチルダ地上本部、その近くの特設ステージ裏で慌しく動くものたちが居た。

 

「カメラ準備出来たかー!」

 

「スピーカ、音響班全員チェック終了済みだろうな! ここでしくじったら裸一丁でクラナガン走らせるぞ!!」

 

 タオルを頭に巻いた陸士たちが慌しく走り回り、次々と準備を済ませていく。

 そして、その傍には椅子に座り、それぞれある楽器を持った少年少女たちがいた。

 

「うー、緊張するなぁ」

 

 鉢巻を巻いた少年が手に持ったエレキギターを音も立てずに弾いた。

 

「大丈夫だよ」

 

 長く滑らかに伸ばした黒髪、その中に一房のみ金髪を交えた美しい少女が少年の手の上に、手を重ねた。

 きゅっと息を詰まったような声が鉢巻少年の喉から洩れる。このややエロめと蔑まれた言葉が吐かれたのに彼は気がついただろうか?

 

「あーいいねえ、この後輩共は。よし、ちさ――」

 

「はいはい、後でね後で」

 

 何か呟こうとした大柄な青年の顔面に拳と流れるように肘のフックを叩き込んだ活発な少女が息を吐く。

 

「わくわくしますねー」

 

「これを見てワクワク出来るならお前の神経はどうやら配線がずれているんだろうな」

 

 子供のように目を輝かせるブロンドの少女に、赤く焼けた赤銅色の肌をした青年がため息を吐く。

 

「しかし、いいわよねー。佐山と新庄は~」

 

 ぶーと唇を突き出す活発そうな少女。

 

「いいじゃねえか。俺たちはここで暢気に演奏してればいいんだし」

 

 それに相槌を打つのは相棒らしき大柄な青年。

 

「じゃなくて、どうせならこうバリバリ戦って、蹴散らしてやりたいんだけど……非常事態にでもならないと許可が降りないのよね」

 

「だからといって、こんなことをやることになった意味が分からないがな」

 

 などと、暢気な会話をしていたときだった。

 

「みなさーん。そろそろ時間ですよー!」

 

 彼らの前に一人の少女が現れる。

 それは美しき着飾った少女。

 碧く流れるような新緑のドレスはまるで命の芽吹きを感じさせるほどに柔らかく、その手首に付けたブレスレットは自己主張こそ強くないけれども持ち主を確かに輝かせる金剛石の光を帯び、その靴は妖艶に蕩けた魔女の唇のように真っ赤であり、深々と被った麦藁帽子から洩れる髪は大地の温かさを感じさせる柔らかでしなやかな茶髪。

 美しい声だった。

 鈴が鳴るかのように、声のみで大気が喜びに踊りだし、美の祝福を与えられたかのごとく清純と満ちる。

 それは決して天性のものだけではなく、修練と努力、そして人の想いが満ち満ちたからこそ発せられる声だった。

 

「分かったわ、ルノーちゃん」

 

 ルノー、そう呼ばれた少女が帽子の内側で微笑む。

 返事を返した活発な女性もニコリと微笑み、何度やっても慣れていない鉢巻き少年に蹴りを入れてから、全員が立ち上がる。

 ドラムが二人、ベースにしてサブボーカルが一人、エレキギターが一人、電子ピアノが二人、メインボーカルが一人。

 それが彼女たちのチームだった。

 

「さあ行きましょう、私たちの戦場に!」

 

『Tes.!!』

 

 

 そして、全員がステージに出ると、そこは喝采の嵐だった。

 

 

「ルノーちゃーん!」

 

「待ってたぜー!」

 

 喝采、喝采、喝采、絶叫、咆哮、感涙の涙。

 熱気が篭る、熱意に溢れる、まるで地獄、まるで天国。

 沢山の陸士がいた、沢山の人々がいた、一般市民も陸士も他にも他にも沢山の人がいた。

 その中で一人一人が前に出る。

 

『皆―! UCATしてるー!?』

 

 ルノー、そう呼ばれた少女がマイクを手に叫んだ。

 そして、会場が割れんばかりに声が轟いた。

 すぐ傍は戦場だというのに誰も気にしていなかった。いや、気にする必要が無かった。

 

『今このUCATが大変なのー! でもねー、私が力になれるって聞いてやってきちゃったー!』

 

 叫ぶ、声を上げる、心まで蕩かし、魂を震え上げるような声が轟いた。

 

『そして、私は一人じゃない。心強い人たちが沢山います! それはファンのみんなだし、この人たちです!』

 

 ベースを手にした少女が手を掲げる。

 

『風見 千里さん!』

 

 大柄な青年がドラムの椅子に座り、にやっと哂う。

 

『出雲 覚さん!』

 

 そして、もう一人赤銅色の肌をした青年がサングラスを外し、ドラムの前で前方を見た。

 

『ダン・ノースウィンドさん!』

 

 わたわたとした手つきで電子ピアノの前に佇む少女が二人。

 

『ヒオ・サンダーソンさんと御影さんー!』

 

 そして、最後に鉢巻きを巻いた少年が唾を飲んで前を見つめて――

 

『えっとひば……ややエロさん?』

 

 ずるっとこけた。

 ぐわんぐわんとその拍子にエレキギターがやかましい音を立てる、笑い声が轟く。

 

「違いますー!! 飛場 竜司です!!」

 

『じゃ、飛場 竜司さんってことでー!』

 

「ことですか!!?」

 

 全員の名乗りが終わる。

 

『皆さんは全竜交渉部隊っていうすっごい部隊の人だったんですよー! 皆、驚いてねー!』

 

 わーという声が轟く。

 喝采が、喝采が、世界に名乗りを上げていく。

 

 そして、最後にルノーと名乗った少女が帽子に手をかけた。

 

『そして。私も名前を名乗るね』

 

『おぉおお!??』

 

 ぱさりと麦藁帽子が空に飛ぶ。

 そこにいたのは一人の少女。

 左目に光を失いながらもにっこりと微笑む少女。

 

『ルノーことラグナ・グランセニック!! 一生懸命に歌うからー』

 

 叫ぶ。

 ラグナが叫ぶ。

 世界に響き渡るように。

 

 

 

『私の歌を聞けぇええええええええええええええええ!!』

 

 

 演奏が始まった。

 世界を救うための演奏が。

 戦いを始めよう。

 武芸とは舞いである。

 舞いとは音楽がなければならない。

 

 物語は色と舞いと歌によって彩られていく。

 

 

 

 さあ歌を聞け。

 

 オペレーションAHEADの開始である。

 

 

 

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