ミッドチルダUCAT   作:箱庭廻

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大ボリュームでお届けします


第一回 地上本部攻防戦 その8

 

 

 戦いは続いている。

 

『AHEAD! AHEAD! GO AHEAD!!』

 

 湧き上がる突撃軍歌。

 勇ましき祈りの歌。

 走れ、走れ、戦い抜け。

 

『護りたいもののために頑張ってもいいじゃない!』

 

 戦う、戦う、ぶっ飛ばされる。

 無数の白い四足の魔導兵器、それに抗う五人の陸士たちが居た。

 

「インペリアルクロス!!!」

 

 襲い掛かる敵軍、それに四人の陸士が上下左右に四散し、構える。

 それは十字架の如き陣形だった。

 

「ブルクラッシュ!」

 

「双龍破!」

 

「デットリースピン!」

 

「タイガーブレイク!」

 

「パリィ! パリィ! パリィイイ!!」

 

 切り裂く、貫く、吹き飛ばす、粉砕する、防ぐ。

 先頭一人が必死に攻撃を受け流し、他の四人が次々と敵を粉砕し――

 

「ぬ!? 大物が来たぞ!!」

 

 それは巨大なジュエルビースト。

 おぞましき姿だった。魔力の波動に大気が歪む、世界が震撼する、見つめるだけで体に震えが走る強敵。

 サイズは大型に近い40メートル。

 計測必要も無く発せられる魔力係数はSオーバーだろう。

 

『OooooOOOAAAAAAA!!!』

 

 腕を振り上げた。

 巨大な腕部、それが雲を貫かんばかりに伸び上がり、長大化し、膨れ上がる。

 ジュエルシードの魔力、世界を砕くほどの膨大な魔力が物理法則すらも凌駕し、質量保存の法則が弱者の言い訳だと嘲笑うかのように凌駕する。

 

「っ、退避―!!」

 

 声を上げる暇すらなかった。

 音速を超えて、巨大な鉄槌が大地に打ち込まれる、大地震が概念空間を揺るがし、破砕した地割れと隆起した土煙が五人の陸士たちをぶっ飛ばした。

 

『うわぁああああ!!』

 

 音速突破の衝撃波に、隆起した大地の脈動、世界が終わるかと思えるようなおぞましい光景。

 

『RARARARARARA!!』

 

 歌声が鳴り響く、ジュエルビーストがおぞましく進化する。

 獣の肩から巨大な両腕を誇る石像に、胴体から下部は無く、膨れ上がる腕は鉄槌の如く、その中心部に巨大な眼球を生み出す。

 邪神。

 世界が終わらんとする恐ろしい光景。魔力の波動が震撼させていく、大気に稲妻すら生み出す、誰もが見上げる、誰もが諦め掛ける。

 けれど、それでも――

 

「アマゾンストライク!!」

 

 吹き飛ばされた陸士、その隊長格が叫んだ。

 飛び上がる、重傷を負いながらも陣形を組み替える。

 それは突撃形の陣形。

 隊長格を前にし、大きく広げた翼のように、矢尻のように尖った陣形。

 

「怯むな! 俺たちが敗れればミッドチルダUCATが! そして、ルノーちゃんを護れないと思え!!」

 

『おおおううう!!』

 

 聞こえる歌声。

 

『AHEAD! AHEAD! AHEAD!』

 

『前に進もうよ、誰にだって負けられない』

 

 そうだ。前に進め、負けられないのだから。

 

「うぉおお!!」

 

 叫ぶ、走り出す、五人が走り出す。

 邪神の如きジュエルビーストに向けて。

 

「斬る!」

 

 魔力刃を伸ばし、一人の陸士が切り込んだ。

 しかし、それは弾かれる。

 あまりにも違いすぎる質量差に、AFMに弾かれて、刃が届かない。

 

「払う!!」

 

 命を賭けて魔力を流し込み、横薙ぎに魔力場の刃を生み出す。

 鉄すらも両断する刃が、敵の発するAMFに食い込む。

 

「けさ斬り!!」

 

 その上から一人の陸士が刃を重ねる。

 三人の陸士が刃を重ねる。

 そして、四人目が飛び込もうとした瞬間だった。

 

『GAッ!!』

 

 邪神ジュエルビーストが蠢いた。

 うざったい羽虫を吹き飛ばさんと、両腕を重ねて、空すらも陰させるほどに巨大な鉄槌が産まれる。

 重力場すらも支配し、ベクトル操作の魔法を以って速度を増し、振り下ろされる。

 

 ――最強打という言葉が何故か頭に浮かんだ。

 

 潰される。誰もがそう思った瞬間、隊長が飛んだ。

 両手を前に突き出して、受け止める。

 

「パリィイイイ!!」

 

 手を伸ばし――全体の十分の一すらもない人影が、その巨腕を――弾いた。

 轟音を立てて、隊長が吹き飛ぶ。

 だが、生きている。物理法則をその瞬間凌駕していた。

 

『RU!?』

 

 ジュエルビーストが目の前の現象にAIの演算能力を凌駕したのか、困惑のような咆哮を洩らした瞬間だった。

 最後の陸士が駆け抜けた。

 

「これでトドメだ! ――斬る!!」

 

 刃を重ねる。

 そして、四つの斬撃が重なり、その刃が異様な光に満ちた。

 

 一撃目 斬る。

 二撃目 払う。

 三撃目 けさ斬り。

 四撃目 斬る。

 すなわち斬る+払う+けさ斬り+斬る = 『マルチウェイ!!!』

 

 全員がそう叫んだ瞬間、無数の斬撃が虚空から出現した。

 

『おぉおおおおおお!!!』

 

 四方から斬撃が繰り出されて、ジュエルビーストの全身が破砕する。

 音速を超えた斬撃がAFMを凌駕し、身体機能の限界を超えて陸士が掻き消える。

 加える、加える、叩き込む。

 数えるのも馬鹿らしい斬撃がめり込んだ後、光爆が轟いた。

 単なる剣技、繰り出されるのは斬撃のはずなのに光が生み出されて、ジュエルビーストの全身が砕け散っていく。

 絶叫と共に装甲を、機械油を、配線やパイプなどを撒き散らしていく。

 全長40メートル強の巨体が崩れ落ちていく。

 

「これで、どうだ!!」

 

 ボロボロのデバイスを振り抜き、着地した陸士たちの一人が見上げて叫んだ。

 その後ろで「素早さがアップ!」 「運がアップ!」 「HPがアップ!」 「特になし!」 と叫びながら、虚空に蹴りを突き出し、回転していた。

 勝利の舞だった。

 だがしかし、世界はそんなに甘くはなかった。

 ジュエルビースト、それがおぞましい音を立てて再生を果たさんとしていた。

 

「なにっ!?」

 

 蠢く、吼える、産声を齎す。

 大地を喰らう、大気を吸い込む、世界が鳴動する。

 ジュエルシード、欲望を叶える奇跡の宝玉、あらゆる破滅を招く力。

 それがこのような茶番で終わることを許さない。空気中から新たなる物質を創造し、魔力で生み出された疑似物質が傷口を埋めて、吼え猛る生々しい旋律が恐怖を生み出していく。

 戦場に響き渡る歌声すらも飲み込み、絶望に満たさんとしていた。

 

「ふん。しぶといな」

 

 その時だった。

 

『だ、誰だ!?』

 

 背後から聞こえた声に、陸士たちが振り返る。

 其処には一人の黒いローブを羽織った陸士が一人、すっぽりと被ったローブで顔を隠し、木製の杖を持っている。

 

「あの敵は俺がトドメをさしてやろう」

 

「なっ!? マルチウェイでも倒せなかった奴だぞ!! どうやって」

 

「――アレを使う。全員後ろに下がれ」

 

 そういってローブ陸士は、隊長格の陸士に耳打ちをした。

 ゴニョゴニョと少し呟くと、隊長格の陸士が顔を青ざめて叫んだ。

 

「そ、総員退避ー! 全力で下がれぇえええ!!」

 

 叫びと同時に近くに居た陸士たちが全力で後退を始めた。

 残ったのは黒いローブ陸士が一人と再生を続けるジュエルビーストが一人。

 誰もが理解する、これから放たれる技が凄まじい威力を秘めているのだと。

 そして、それはおぞましくやばいということが分かる。

 

「クックック、合体ガジェットよ。この技に貴様は耐えられるか? いや、無理だ!」

 

 ローブを翻す。

 Sランクオーバーの砲撃魔法を集中砲火で叩き込んでも落とせそうに無いその巨体に、彼は余裕と確信を持って笑みを浮かべた。

 コロコロと口の中で舐めていた喉飴を噛み砕き、杖を振り翳す。

 その予備動作だけで大気が渦巻く。

 これから起こる現象に世界が悲鳴を上げているかのようだった。

 

「さあ見るがいい。世界が恐れた禁呪、三大魔法が一つ!!」

 

 迫り来る拳、大気が急激に温度を下げていき、世界が戦慄した。

 

 

「エターナルフォースブリザード!!!!!」

 

 

 一瞬でジュエルビーストの周囲の大気が凍り付いた。

 そして、相手は死ぬ。

 見るがいい、ジュエルビーストの巨体。その周りの大気すらも固体化し、巨大な氷像と化していた。

 分子運動すらも停止し、振り抜かれていた拳すらもピタリと停止した。

 かつて闇の書を封印するために生み出された氷結魔法すらも凌駕する威力。

 

「あ、あれはまさか!!」

 

「知っているのか、ライデン!?」

 

 その後姿を見た陸士の一人が叫ぶ。

 

「間違いない、あれは永遠力暴風雪(和名)! とある王立魔導学園で研究の末に開発され、誰もが習得を諦めた最強最悪の究極魔法!! まさか中○生以外にもあれを習得していた猛者がいたとは!?」

 

「――短いな説明!?」

 

 陸士の叫びにも関わらず、ローブ陸士は見上げたままボソリと呟いた。

 

「脆いな」

 

 ガラガラと崩れていくジュエルビースト。

 再生すらもままならず、氷像がひび割れ、その分子運動すらも破砕される極大の冷気に砕け散っていく。

 

「残りの二大魔法を使うまでもなかったか」

 

 崩れ去り、冷気の篭った粉塵を巻き上げるジュエルビーストに背を向けてローブ陸士は歩いていった。

 彼の魔法はジュエルシードの活動すらも停止させていた。

 

 エターナルフォースブリザード。

 それに耐えられるものなどこの世にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは他の場所でも続いている。

 機動六課のフォワード陣と追加二名もまた一体のジュエルビーストと死闘を繰り広げていた。

 

「ハッハー!! 欠伸が出そうだぜ!!」

 

 銃撃、剣戟、ステップを踊りながらティーダが踊りながら戦う。

 真紅のコートを翻し、巨体を誇るジュエルビーストの鉄腕を時折同時に繰り出した素手で弾く。

 本人曰く「ジャストブロックだ!」とのことだ。

 2nd-G概念加護は物理法則すらも超越するのか、それともそのコスプレの本人のイメージがそれだけ強いのか、本人以外には分からない。

 

「調子に乗らないでよ、兄さん!」

 

 色々と納得出来ないものはあるけれど、ティアナも同じように銃撃を繰り返し、ジュエルビーストの手足にダメージを叩き込んでいく。

 兄妹が踊るように戦う。

 美しく、スタイリッシュに、閃光のように、狂ったかのように、穿つ、穿つ、穿つ。

 銃撃のマズルフラッシュが瞬き、まるで弾丸は嵐のように射ち込まれて、その巨体を削り上げていく。ランスターの魔法、それには貫けないものなどないのだから。

 貫通補助、その概念加護が二人の銃撃には宿っている。

 さらに。

 

「フリード!! ブラストフレア!!」

 

「GIIIiiAAAAAAAAA!!」

 

 竜魂解放、本来の姿を取り戻したフリードリヒが灼熱の炎を撃ち出す。その熱は文字通りの太陽から噴出するフレアの如く、ジュエルビーストを焼き尽くす。

 元よりそこらへんの陸士よりも魔力素養も高く、地力も高い彼らは決してジュエルビーストには押し負けない、むしろ凌駕してみせる。

 それこそが彼女たちのポテンシャル、その為に結成された予言を崩すための正義の剣。

 並大抵の魔導師ならば瞬殺されそうな連続攻撃、だが相手は並大抵の魔導師ではなく、人間ですらない。

 巨体を誇るジュエルビースト、装甲を打ち砕かれながらも赤いガジェットの複眼を光らせた。

 

「っ! ティアナ!!」

 

「まずい! キャロ!!」

 

 ティーダが飛び下がり、ティアナがキャロを抱えて後方に走った。

 そこをジュエルビーストの目から放たれた光の柱の如きレーザーが焼き尽くす。

 ジュエルシードによる膨大な出力加護を受け、数え切れないほどのガジェットの動力部を連結し、そのレーザーは従来の比ではない。

 当たれば即死。炭も残らないだろう。

 だけど、誰も怯まない。

 

『AHEAD! AHEAD! GO AHEAD!!』

 

『貫き通せ 己の信念!』

 

 先ほどから響き始めた歌声が勇気をくれる。

 誰も諦めていない仲間たちの姿が、立ち向かい続ける陸士たちの姿が、誰の心にも不屈の闘志を宿らせ、燃え上がらせる。

 

「負けない! 私たちはお前らなんかには負けないんだから!!」

 

「そうだよ!」

 

「私たちは決して負けない!」

 

 その時、聞こえないはずの声が轟いた。

 

「スバル、ギンガさん!? 大丈夫なんですか!?」

 

 先ほどダメージを受けて、後ろに下げたはずのスバルとギンガ、その二人がボロボロのバリアジャケットのまま舞い戻っていた。

 所々の裾が千切れ、頑丈さを誇るバリアジャケットが伝線でも起こしたかのように破け、見るからに痛々しい格好。

 

「大丈夫! 頑丈なのが私たちの取り得だから!」

 

「寝ていられないわよ」

 

 ニコリと微笑み、ギンガが手を差し出す。

 

「スバル! 相手はダメージを受けてるわ、さっき打ち合わせた通りに行くわよ!」

 

「はい、おねえさま!」

 

 は?

 ティアナが首を傾げた瞬間、二人が走り出す。

 加速、互いのキャリバーがフルドライブを開始、光の翼を生やす。

 

「お姉さま、あれを使うわ」

 

「ええ、よくってよ」

 

 会話をしながら加速。

 

「うわぁあああああああ!!」

 

 咆哮を上げながら、スバルが跳ねた。

 ギンガも続いて跳び上がる。

 ウイングロードを滑走路に、どこまでも跳び上がる二人の影はまるで流星の如く上空へ達し――ジュエルビーストの遥か高みへと辿り付く。

 

「ど、どこまで!?」

 

「!! 来るぞ、衝撃に備えろ!!」

 

 ティアナが戸惑い、ティーダが捉えた。

 キャロが指差す。

 

「二人が落ちてきます!」

 

 加速、加速、落下加速。

 重力落下の速度を超えて、二人の少女が足裏から魔力の粒子を迸らせ、電流の如く紫電を纏い落下する。

 

「スーパー!」

 

 スバルの咆哮。

 

「イナズマ!」

 

 ギンガのやけっぱちな絶叫。

 

『キィィィィック!!!』

 

 二人のユニゾンキックがジュエルビーストの頭部にめり込む、そして衝撃波が撒き散らされた。

 爆音、轟音、破砕音。

 ジュエルビーストの巨体、表面装甲が波打ち、メリメリと剥がれ落ちていく。

 一トンにも満たない、百キロも怪しい二人の少女の体重が数百トン近い巨体を震わせ――貫いていく。

 砕く、砕く、砕く。

 装甲を破砕し、骨格となるガジェットの集合部を容易く貫き、機械油を噴出させて、火花を散らせて燃え上がらせながらも二人は咆哮を上げて――貫通した。

 

『GAAAA!!』

 

 ジュエルビーストの絶叫を背後に、その巨体を貫いた二人が地面に着地し、同時に叫んだ。

 

『――爆!!』

 

 ポーズを取る二人の少女、その背後で爆炎が上がる。

 火花が機械油に引火し、ジュエルビーストの全身が炎に包まれた。

 

「い、色々突っ込みたいけど、やった!!」

 

「よし、後はジュエルシードを封印すれば!」

 

 そう叫んだ瞬間、ミチミチと奇音を立ててジュエルビーストが体を震わせる。

 何度も見た光景、再生を開始しようとしているのだ。

 

「ちぃい、しぶとい!」

 

 ティーダが両手の拳銃からカートリッジロードし、砲撃魔法を叩き込もうとした瞬間――真横から轟いた斬撃がジュエルビーストを一刀両断にした。

 

「え?」

 

『大丈夫ですか! みんな』

 

 それを成したのは鋼鉄の巨人、トラボシブレードを振り抜いた勇装魔神クラナガン。

 そして、響き渡ったのはそれに乗り込んだエリオの声だった。

 

「エリオ!」

 

「エリオ君!」

 

『っ、来るぞ。エリオ!』

 

『分かりました! 皆そのジュエルシードの封印を頼みます! そしたら下がって!』

 

 え? とエリオの声に振り返ると、クラナガンの前方。

 そこに二体のジュエルビーストがいた。いずれも巨体、50メートルに達しようとする巨獣たちである。

 しかも、その姿はどうだ。

 一体はまるでサーベルタイガーの如く牙を長くし、しかもそれを刀剣として生やし、爪はジュエルシードの魔力を使っているのか火炎放射のように噴出した魔力力場。動きは素早く、まさしく獣の如く。

 そして、もう片方はまるで猪だった。雄雄しく伸ばした角は鋭く、直撃すればクラナガンの装甲すらも容易く粉砕するに違いない。さらには全身がハリネズミのように鋭い針に覆われ、いずれもドリルのように回転している。

 攻撃と防御、その両方を追及した進化とでもいうのか。

 だがしかし、クラナガンは決して怯まない。

 

『行くぞ、エリオ! あの二体で巨大ガジェットは終わりだ!!!』

 

『分かってる! 行くよ、トラボシブレェェェェド!!!』

 

 手首を返し、抜き放たれるのは斬魔巨剣。

 その刀身の根元には不死鳥のようの如く雄雄しい翼を象った鍔があり、エリオの咆哮と共にガキンと音を立てて展開する。

 三つの魔導炉から、そしてGストーンから供給された魔力が刀身を包み込み、発せられる気合と共に伸び上がる。

 それを右後ろに伸ばし、体を前に押し出し、刀身を体で隠す――タイ斜流と呼ばれる剣術に伝わる独自の構え。

 

『参る!!』

 

 クラナガンが脚を踏み出す。雄雄しいその地響きは体重を乗せた中国武術における震脚。

 それに誘き寄せられるようにサーベルタイガー型のジュエルビーストが跳ねた。爪で地面を深く穿ち、自重の重さを掻き消し、内部にプログラムされたベクトル操作を用いて弾丸のように己を弾き飛ばす。

 音速に迫る巨体の突撃。牙を剥き出しに、クラナガンを噛み砕かんと迫る悪意の塊。

 並みの戦士には反応出来まい。だがしかし、エリオは、そしてクラナガンは反応した。

 

 ――斬光が閃く。

 

 袈裟上がりに一刀が振り抜かれたと気付けたのは何名居ただろうか。

 

『一刀 燕飛断ち』

 

 ジュエルビースト、その頭部が空を舞い上がったまま、クラナガンの傍を空しく飛び抜けた。

 彼は気付いただろうか、己の首が無いことに。

 クラナガン、彼が繰り出す一撃は空を舞う燕の翼すらも断ち切るのか。

 切り上げた一刀、その刃を緩やかに落とし、駆動部の間接を軋ませながら手元に戻す。

 

『無駄だ。お前は既に死んでいる』

 

 飛び抜いて、失速したジュエルビーストの巨体が大地に落下する。

 ズズンと巨体が地面を削り上げながら動きを止めて、さらに空を舞っていた頭部がゆっくりとその傍に落ちる。

 クラナガンの目は見抜いていた。

 その頭部にジュエルシードが納められていることに。首から切り離した胴体は動けない。

 ジュエルシードの封印は他のものに任せればいい。

 

『すごい』

 

 エリオは内部で感嘆していた。

 クラナガン、巨体でありながらも人間以上にしなやかで鋭い技巧を繰り出せる彼に憧れていた。

 

『君もいずれ出来るさ』

 

『そうかな?』

 

『ああ。だから、私に力を貸してくれ』

 

 うんとエリオが頷き、ストラーダを握り締める。

 勇気を沸き上げる、気合を入れる。

 

『BoOOOOOOOOOO!!!』

 

 瞬く間に片方のジュエルビーストをやられた猪型のジュエルビーストが咆哮を上げた。

 全身を震わせて、鳴動。

 全身の針の回転速度が高まり、紫電を発し始める。

 

『なんだ?』

 

『まさか!? ――ラウンドプロテクター!!』

 

 エリオの咆哮が轟いた瞬間、クラナガンはトラボシブレードとは逆の手を突き出し、その手の平の魔力放出ノズルを解放し、全身を覆わんばかりの巨大な前方障壁を作り出す。

 絶対防御障壁・ラウンドプロテクター。

 現在提督である高位魔導師の青年が提供してくれた防御術式、クラナガンの魔力炉から組み出す魔力を基幹に、周囲の埃や破片、さらには残留魔力すらも利用し作り出す強力無比な物理・魔力障壁だった。

 そして、次の瞬間、ジュエルビーストが破裂した。いや、全身から針を射出した。

 

『ぬぉおおお!!』

 

『あぁあああ!!』

 

 二人の叫び声と共に障壁を突き破らんとする針を防ぐ、防ぐ、耐え凌ぐ。

 地面が串刺しにされ、周囲の大地が音速を超えたニードルミサイルの威力で爆砕、粉砕、大喝采の如く音を奏で立てる。

 粉塵が舞い上がる、周囲の光が届かないほどに濃密な粉塵が。

 

『PI』

 

 全身の針を飛ばし尽くしたジュエルビーストが赤いアイカメラを輝かせて、粉塵内部の魔力反応を調べようとした瞬間だった。

 

『ルォオオ!!!』

 

 粉塵を突き破り、飛び出す巨体が一つ。

 クラナガンがX-Wi-ngを展開し、トラボシブレードを腰に差して空いた右の豪腕を突き出していた。

 

『キャノン』

 

 右腕部のギミックが作動する。

 作動音を鳴り響かせて、手首ガントレットが腕部を覆う。

 さらにアームガードが前方にスライドし、剣戟補助用のロケットスラスターが後方に移動し、そのノズルを完全に後ろへと向けた。

 背面部のカバーが露出し、ガキンと金属の重なる歯音を立てて飛び出すのは内蔵されていたナックルダスター。

 唸りを上げて回転し、大気を飲み込み、その荒々しい咆哮は聞く者全てを震撼させる破壊の祝福。

 紫電を生み出し、補助翼がまるでブレードのように鋭く飛び出し、クラナガンの腰が旋転、力強く踏み出された脚部が大地を踏み締める。

 

『ダスタァアアアア!!』

 

 音響の壁を叩き壊し、それは撃ち出される。

 砲撃の如き勢いで飛び出したクラナガンの腕部は目にも止まらぬ速度でジュエルビーストの顔面を殴り飛ばした。

 ジュエルビーストの巨体が吹き飛ぶ、二倍近くの巨体でありながらクラナガンのナックルダスターに脚が地面から殴り上げられた。

 

『ぬぅん!』

 

 それに体勢を崩したと見たクラナガンが背部の翼を激しく吹き出し、その肘から無くした腕から赤く煌めくワイヤーを宙に飛ばす。

 そしてそれはスラスターを吹き出しながら放物線を描き、舞い戻るナックルダスターと接続した。

 

『行くぞ、エリオ!』

 

『うん! リリカル!』

 

 クラナガンが飛ぶ。

 重力制御、ベクトル操作を用いて巨体に掛かる自重と重力を上へと傾け、背部の翼が荒々しく大気を捉えて弾き飛ばした。

 舞い上がる。

 

『マジカル!』

 

 足裏の排熱ノズルから蒸気を噴出し、美しい二本の線を縦に描きながらクラナガンが空を舞う。

 ガシンと激しい接続音を響かせ、左手で引き抜いたトラボシブレードを両手で握った。

 

『ブレェエエイブ!!』

 

 天へと捧げる一刀。

 どこまでも伸びる、作り上げられていく刀身、それはどこまでも肉厚であり、どこまでも鋭い巨剣。

 魔を断ち、悪を断ち、闇を切り払う聖剣。

 伸び上がる刀身は雲を引き裂き、太陽の輝きを帯び、命を祝福するかのように清浄な碧の煌めきを纏った。

 

『必殺!!』

 

『エインフェリア! スラァァァァシュッ!!!!』

 

 真っ向両断。

 振り抜かれた一撃はジュエルビーストを誰も認識することも出来ずにすり抜けた。

 ダンッとトラボシブレードを振り抜いたクラナガンが大地に着地する。

 

『斬撃』

 

 ピシリとジュエルビーストの中心部に線が走る。

 

『絶断』

 

 煌めき輝く線は光を溢れさせながら輝きを増し。

 

『我らが勇気に倒せぬものなし!!』

 

 ズルリとズレ落ちて、崩れ去る。

 爆散。

 内部に注ぎ込まれた膨大なエネルギー、それが内部を焼き尽くし、粉砕する。

 刀身を縮めて、クラナガンは剣を横薙ぎに振るう。

 残心、それを忘れずに見届けて、血払いを終えたトラボシブレードを腰に納めた。

 

『撃破完了』

 

『やった! これで地上本部は護れたよ!!』

 

「やったー!」「やったぞー!!」

 

 轟くのは喝采。

 喜びに満ち満ちた声が見守っていた陸士たちから上がっていく。

 

『うむ。これも全ては君のおかげだ、エリ――』

 

 エリオの喜びの声を上げて、クラナガンが感謝の言葉を告げようとした瞬間だった。

 

 

 

 

「メガーヌの怒りぃいいいいい!!!!」

 

 

 

 

 大地を震撼させる衝撃波が全てを薙ぎ払った。

 陸士が、本部が、クラナガンが、吹き飛ばされ、たわみ、打ち震えるほどの凄まじい衝撃波。

 上空から打ち下ろされた膨大なエネルギー。

 それが大地に叩き込まれ、衝撃の津波となって襲い掛かってきたのだ。

 

『なっ!!?』

 

『え!?』

 

『うわー!!』

 

 吹っ飛ぶ、陸士たち。まるで強力な台風に吹き飛ばされるかのごとく陸士たちがぶっ飛んだ。

 

「なに!?」

 

「あ、あれは!!」

 

 フォワード陣が指差す。

 誰もが見上げた其処には、一人の男と一人の少女が浮かび上がっていた。

 

「悪いが、乱入させてもらうぞ」

 

 それは茶色いコートを纏った男。左腕には覆わんばかりの巨大なガントレットを纏い、その左手には鈍い光を放つ槍型のアームドデバイス。

 鋭い双眸には意思の光を感じ、ざんばらに風を孕んで揺れる髪はまるで闘志の如く揺らめき、彫りの深い顔には隠し切れない強者としての顔があった。

 全身から発せられるプレッシャーは大気を震撼させる、見上げる誰もが背筋に恐怖を覚えるほどの闘気。

 

「させてもらうぞー!」

 

 傍で浮かび上がる紅い少女はそれを頼もしげに見つめ、パタパタと愛らしく翼を震わせて、艶やかな衣装でアピールする。

 彼女の名はアギト。

 そして、男の名は――

 

『ゼスト!? ゼスト・グランガイツ!』

 

 クラナガンが叫んだ。

 

『あ、あれが――ミッドチルダUCAT、最強の武人!』

 

 エリオがコクピット内部で目を見開く。

 シグナムからは聞いていた。彼の教えとなるべき人物だと。

 ミッドチルダUCATにおいて最強を誇る戦士だと。

 何故彼が? 僕らの邪魔をする?

 

『ゼスト・グランガイツ! 何故貴方が!?』

 

 エリオの叫び。

 見知らぬ声にゼストは僅かに顔を歪めたが、すぐに冷たい顔となってその手の槍を突き出した。

 

「許せとは言わん。だが、破壊させてもらうぞ」

 

 信念に基づいた強い言葉。

 それと同時にゼストが脚を踏み出した。虚空を蹴り出す――次の瞬間、クラナガンの眼前に現れていた。

 

『なっ!?』

 

 数百メートルの距離を一瞬にしてゼロに変えた。

 跳躍魔法か、それとも超高速移動か。衝撃波はなく、まるで其処にいるのが当たり前のように佇んでいて――繰り出された蹴りをクラナガンは防ぐことすらも出来なかった。

 

「ぬぅん!!!」

 

 ドンッと巨体が一人の男の蹴りに吹き飛ぶ。

 誰が信じるのか、全長20メートルに到る巨人がたった一人の蹴りで吹き飛ぶなど。

 

『うわぁあああ!』

 

 エリオの悲鳴が響き渡り、クラナガンがすぐさまに体勢を立て直して脚部背面ノズルから蒸気を噴射する。

 衝撃を緩和し、クラナガンが着地すると膝を曲げて、大地を蹴り飛ばした。

 

『秘剣!』

 

 しなやかに手首が翻る、X-Wi-ngの翼が羽ばたき、速度を増す。

 トラボシブレードの刃が短く軽く、地面を衝撃で削り上げながら振り上げられる。

 

『――雷槌墜とし!!』

 

 それは音速を超えた一刀。

 クラナガンが保有する雷すらも切り裂くだろう一閃。

 それをただ1人の人間を断つ為に使われる、過剰な殺戮武芸。

 だがしかし、ゼストは静かにそれを見つめて――

 

「ふんっ!!」

 

 金属音が響き渡った。

 

『ば、馬鹿な!?』

 

 切り上げた一刀、トラボシブレードの巨大な刀身が――真下に突き出されたゼストの槍の先端で受け止められていた。

 質量差など考える必要も無い馬鹿げた差、常識的に考えればゼストの槍どころかその持ち手すらも両断、粉砕してもおかしくない一撃。

 なのに、微動だにしない。

 空中に浮かぶゼスト一人動かせない、ギチギチと音を立てる手首が、微細するトラボシブレードがそこに掛かる力の大きさを示していた。

 

「馬鹿な? だと」

 

 ゼストが告げる。

 軽やかにその左手が――信じられないことに押さえ込む槍を持つ手は片手だった――槍を上から叩いた。

 次の瞬間、クラナガンの両手が大地に叩きつけられる。

 ゼストが押した反動だけで。

 

『そんな!?』

 

「俺から言わせて貰えば――」

 

 両腕が叩きつけられたクラナガン、それにゼストが歩み寄る。

 その槍がまるでバットのように振り被られて――打ち付けられた。

 

「その程度で俺の槍が折れるか!!!」

 

 轟音打撃。

 クラナガンの巨体がぶっ飛ぶ、まるで風船のように弾き飛ばされた。

 

『グワァアアアアア』

 

 舞い上がる、まるで巨兵を超える巨神に殴り飛ばされたかのような勢いで。

 数百メートルは後方に吹き飛び、大地に全身を叩きつけ、その巨体がめり込み、地響きを奏で立てた。

 

『う、うぅ!』

 

『エリオ! 無事か!』

 

 コクピットから聞こえるエリオの声に、クラナガンが懸命に声を上げる。

 

『うん! く、クラナガンは!?』

 

『私は、平気だ!』

 

 嘘だった。

 今の一撃で全身のフレームが悲鳴を上げていた。

 喰らった一撃の重さ、クラナガンのAIが計算したところ質量にして500トンを超えるほどだった。

 魔力強化にしても重すぎる、人間には不可能な一撃。

 

『ゼスト――グランガイツ! 私が護るべきUCATの、そして共に戦うはずの貴方が何故! 何故敵に手を貸すのです!! このミッドチルダUCATが落ちれば、この世界が!』

 

 クラナガンの咆哮。

 全身の駆動系に悲鳴を上げさせながらも起き上がるクラナガンに、ゼストは冷たく告げた。

 

「――理由はただ一つ」

 

 槍を構える。

 莫大な魔力が迸る、Sランクオーバー魔導師にして最強を誇る武人であるゼストは吼えた。

 

「世界よりも俺の家族、その重みが圧倒的に上なだけだ!!!」

 

 大気が震動した。

 その咆哮だけで爆風が生まれたかのようだった。

 ビリビリと胃にまで染み渡るほどの魂の、気迫の篭った咆哮。

 一瞬クラナガンが圧倒されかける、だがしかし。

 

『負けないで、クラナガン!!』

 

『エリオ?』

 

『僕らにも大切なものがある! 譲れないものがある!!』

 

 エリオは思う。

 後ろにある地上本部、その中にはフェイトがいた。隊長たちもいた。

 戦場にはスバルが、ティアナが、ギンガが、そして――キャロがいた。

 護りたい、護りたいのだ、この手で。

 決して傷つけさせない、死なせたくない、その願いがあるから。

 

『僕は負けません!! 絶対に!!!』

 

 咆哮が轟く。

 勇気ある少年の声が戦場に響き渡る。

 誰もが見た。

 誰もが讃えた。

 その誓いを、その願いを。

 

『その為にならば今ここで貴方を打ち倒す!! 契約を結ぶ!!』

 

 トラボシブレード、それがエリオの意思で構えられる。

 天へと捧げるように。

 大地に祈るように。

 腰溜めに構えて、吼え猛った。

 

『我ここに契約す――Tes.!!』

 

 テスタメント!

 その叫びが上がる。

 

 この瞬間だったのだろう。

 

 エリオ・モンディアル。彼がUCATの闘士として己の運命を選択したのは。

 

『エリオ――分かった。私もここに誓おう、君に勝利を齎すと!』

 

 クラナガンが吼える。

 その瞳に力を宿し、背部の光の翼を輝かせた。

 

『Tes.!!』

 

 それに輪唱するように声が上がる、上がる。

 

「Tes.!」

 

「Tes.!」

 

「Tes.!」

 

 契約の言葉が津波のように上がる。

 

『AHEAD! AHEAD! GO AHEAD!!』

 

 歌声が響く。

 進むべき道のための歌が。

 

『前に進もうよ、誰にだって負けられない』

 

 祈りの歌が響き渡る。

 力が湧いてくる。

 

『AHEAD! AHEAD! GO AHEAD!!』

 

 だから踏み出す。突き進む。

 勇気を持って、けれど躊躇わずに。

 

『だって大切なものが ここにあるから!』

 

 だって大切なものが、ここにあるから。

 

『うぉおおおおおお!!!』

 

「いいぞ、来い!」

 

 クラナガンが、エリオが、ゼストが咆哮を上げた。

 一機一人合心一体、一人の武人に挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――トラボシブレードが唸りを上げた。

 音速を超える斬撃が袈裟切りに放たれて、それをゼストが受け止める。

 火花を散らし、クラナガンの斬撃は止まらない。

 手首を返し、腰を旋転し、舞い上がり、打ち降ろし、振り抜き、叩きつけ、斬り出し、打ち抜く。

 その全ての斬撃は音速を超えて衝撃波を撒き散らしながら、全フレームが上げる悲鳴すら無視して繰り出していく。

 

『オォオオオオ!!』

 

 だが、ゼストは弾く、防ぐ、凌ぐ、躱す、打ち払う、斬り捌く。

 暴風を纏った己よりも巨大な刀身、それを受け止めると、鼓膜が破れそうな轟音を上げて弾いて逸らす。

 巨人と小人の如き戦い。

 如何なる悪夢か、鋼鉄の巨人が全身全霊を篭めて攻め抜いても彼は崩れない、押されない、むしろ襲い掛かってくる。

 

「いい動きだ! だがしかし!!」

 

 燕羽断ち!

 そう叫ばれた超高速の斬撃を、縦に構えた己の槍で受け止めながらゼストは静かに告げた。

 

「俺の槍は砕けない」

 

『っ! あの槍は一体!?』

 

『概念加護があるというのか! しかし、貴方の槍は無銘のはず!!』

 

 そう、ゼストは槍に名前を付けていない。

 2nd-Gの概念下では脆く弱いはずなのに。

 

「名はない、だが俺の槍は何よりも強い!」

 

 ガキンッと火花を散らしながら押し込んでいたトラボシブレードを弾き払うと、ゼストは叫んだ。

 槍を掲げて、吼える。

 

「俺の槍は家族の想いが篭められているのだから!」

 

 クラナガンのアイカメラが捉えた。

 拡大し、その槍の持ち手に刻まれた文字が見える。

 

 ――メガーヌ。

 ――ルーテシア。

 ――アギト。

 ――ガ。

 

 三つの名前となにやら意味の判らない文字。

 それが彫り込まれていた。

 

「想いやりの篭ったなによりも重い槍。貴様に防げるか!!」

 

 ゼストが吼える。

 その超弩級の想いの篭った槍の質量は本人以外には数百トンの凶器も同然だった。

 理由は分かった。

 だが、エリオは思わず叫んだ。

 

『オヤジギャグー!!』

 

「何が悪い!!」

 

 開き直られた。

 そして、ゼストが脚を踏み出す、虚空から疾走。

 それにクラナガンが応える、間接部の悲鳴を無視して一閃。

 二つの武具が激突。

 世界が震撼する、エネルギーの粒子が爆風のように広がった。

 

『グゥウウウ!!!』

 

『ァアアアアアア!!』

 

 二人の勇者が叫ぶ。

 だがしかし、ゼストは目の眼光を強めながら――呟いた。

 

「終わりだ」

 

 その時電子音声が響き渡った。

 

『Grenzpunkt freilassen.』

 

 トラボシブレード。

 そのエネルギー刃が砕け散る。

 

『なっ!!』

 

「終われ、クラナガン!!」

 

 エネルギー刃によって伸び上がった刀身を粉砕し、振り抜かれたゼストの槍。

 それが生み出した巨大な衝撃波がクラナガンの胴体に直撃し――破砕した。

 

『ウワァアアアアアア!!』

 

 勇者が吹き飛ぶ。

 勇者が倒れる。

 偉大なる戦士がここに――敗れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それをモニターしていたものがいた。

 ミッドチルダUCAT、三番地下格納庫のスタッフたちである。

 

「く、クラナガンが破れただと!?」

 

「なんてこったー!!」

 

 驚天動地の事態に慌てふためくものたち。

 だが、その中で飛び込んできたものがいた。

 主任研究者の男だ。

 

「刃閃鬼鎧エルセア!! それか翼輪光馬アルトセイム!!! いや、聖轟武凱ベルカを出せるか!?」

 

「駄目です! 三機体共にまだ調整中で――完成していてもこのタイミングでは間に合いません!!」

 

「く、くそっ!!」

 

 手の打ちようが無いのか。

 誰もが机を叩き、うちしがれた時だった。

 

「ま、待ってください!」

 

「なんだ!?」

 

「この反応は――まさか!?」

 

 レーダーに映る光点。

 それが最後の希望だった。

 

 

 

 

 

 

「すまないが、トドメを刺させてもらうぞ」

 

『ぐ、ぐぅうう!』

 

 ゼストが倒れ付したクラナガンに槍を向けていた。

 全身から火花を発したクラナガンにはもはや抵抗することする余力すらなかった。

 

『クラナガン! 動いて! 僕らは負けられないんだ!!』

 

『しかし! く、動け! 私の体よ!!』

 

 全身の駆動系は断末魔の音を奏で立てていた。

 だがしかし、クラナガンは諦めない。

 エリオに、そして誰もが為に彼に敗北は許されないのだ。

 勝つ。

 そして、護るのだ!

 

『――クラナガン!!』

 

 その瞬間だった。

 無線通信が入ったのは。

 

『今援軍が来た! 魔砲合体の体勢に移れ!!』

 

『!? 了解!!!』

 

「む?」

 

 ゼストがいきなり叫んだクラナガンに、眉を潜めた瞬間だった。

 背後から魔力の砲撃が撃ち込まれたのは。

 

「っ!?」

 

 気配に気付き、躱す。

 だがコートの裾が千切れ飛ぶ。

 

「誰だ!?」

 

 

「――私です!!」

 

 

 それはガリガリと音を立てて爆走する一台の魔導砲台――で戦車だった。

 観よ、この威容。

 丸みを帯びた車体は巨大であり、強固なメタリックカラー。

 全身には様々な文字が描かれて、それがまるで紋様のようだった。

 そして、その真上に嵌めこまれているのが直径十数メートルを超える巨大砲台であり、その前方車体から突き出ているのは――ドリル。

 巨大なドリルが付いており、その先端に一人の女性が仁王立ちで立っていた。

 

「聖王教会が一人、シャッハ・ヌエラ! 義理立ち故に只今参上!!」

 

『魔砲尖車アインへリアル!!』

 

 クラナガンの咆哮で名称が分かった。

 かの砲台の名前はアインへリアルであり、その先端に立つのは聖王教会の鬼神!

 どこかでカリムがひっくり返るような音がしたような気がするが、錯覚だったろう。

 

『ありがたい! いくぞ、エリオ!!』

 

『うん! 魔砲合体だね!!』

 

 クラナガンが背部のX-Wi-ngを吹き出し、地上を抉りながら上昇する。

 さらに爆音を立てて突き進むアインヘリヤルの先頭からトゥッとシャッハが脱出した。

 操縦していた陸士たちも脱出し、最後に天井の隠しハッチを空けて、レバーを引く。

 キャラピラ下に隠されていたバーニアが噴出し、アインへリアルが飛んだ。

 

『ブレーイクアップ!!』

 

 クラナガンが全身から魔力の粒子を吹き出し、上空にて光に包まれたフィールドを生み出す。

 

 ・――光とは力である

 

 X-Wi-ngの概念が働き、アインヘリヤルが全身から光を迸らせながら――分割した。

 二つに割れる、さらに四つに割れる。

 キャタピラの付いた下部は左右に展開したクラナガンの両足首の真ん中に収まったと同時に、概念空間から排出された接合ボトルが二十。

 鉄槌で叩き込むかのように結合、結合、接続、合体!

 さらにクラナガンのアームガードが前にスライドし、そして上下に展開。

 マニピュレーター部分が回転し、腕内部に納められると同時に誘導されてきたアインヘリヤルの先頭部分二つと結合――概念空間から排出された接続ボトルに、様々なパーツで両腕を覆っていく。

 腕が変形し、脚が変形し、さらにアインへリアルに付属されていた概念空間から巨大なプレートアーマーが飛び出す。

 それはクラナガンの胸部に結合し、さらに心臓を揺り動かすように巨大な結合ボトルが四本、四方に打ち込まれる。

 

『グッ、ググウウ!!』

 

 激痛に耐えながら吼え猛るクラナガン。

 そして、最後に残った砲台が舞い上がりながら折り畳まれて、その背部に接続された。

 轟々と回転しながら、クラナガンの胸部ながら光の粒子を帯びて、胸のシンボルから勇者の勇ましさを現る竜の象が刻まれる!

 

『うぉおおおおおおおおお!!!』

 

 四つに分かれた光の翼、それはまるで鳥の如く、天使の如く神々しい。

 

『我は来た!』

 

 手を突き出す、ガシンと音を立てて、ドリルが変形したアームガードから手首が飛び出す。

 

『友よ我は応える!!』

 

 脚を突き出す。

 唸りを上げて大気を蹴り上げ、キャタピラが回転する。

 

 

『魔砲合体! グレートクラナガン!! 勇気と気合、そして砲撃を持って悪を討つ!!』

 

 

 

 新たなる勇者の誕生だった。

 

 

 

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