ミッドチルダUCAT   作:箱庭廻

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一日抜けてました
これにて地上本部の戦いは終わりです


第一回 地上本部攻防戦 その9

 

 

 それは激しい戦いだった。

 一人の女性が大地を脚で噛み締めると、同時にその両腕に構えた武器を上に放り投げて叫ぶ。

 

「トンファーパァァァンチッ!!」

 

 大地が砕ける、大気が渦巻く、魔力を流し込み振り被る拳の周囲を魔力制御し、それら全てを圧縮大気として凝縮。

 トンファーの力を借りた必倒打撃。

 それを繰り出すのはただ一人、聖王教会が誇る鬼神シャッハ・ヌエラ。

 それが真っ直ぐに両腕でクロスした少女――バイザーにも似た額当てを付けたナンバーズ・セッテの腕にめり込む。

 

「っ!!」

 

 吹き飛ぶ。

 しかし、セッテは身体を捻り、旋転しながら衝撃を受け流し、数メートル先の地面で柔らかく着地しながら手を振った。

 転送魔法、その手に握られた二振りのブーメランブレイドが旋回しながらまっしぐらにシャッハに迫るが。

 

「甘い!」

 

 キランとシャッハの目が輝き、その両腕が大きく天に振り被られて――

 

「トンファァアア」

 

 膝と共に大地に叩きつけられる。

 

「土下座!!!」

 

 ドゴンッという爆音と同時に投げ込まれたブーメランブレイドが瞬時に圧壊した。

 土下座のポーズをしただけで何故か二本とも砕け散った。

 如何なる原理だろうか、その動作はもっとも衝撃波を生み出し、あらゆるものを圧壊し、破砕するポーズ。

 第97管理外世界の極東地方で伝わる伝統的なポーズ。

 

「……」

 

 理解不可能。

 そんな目つきでシャッハを見るセッテ。

 その間に、シャッハは立ち上がると、膝の土埃を払って。

 

「キャッチ!」

 

 両手を上に伸ばし、落下してきたヴィンデルシャフトをキャッチして再び装備。

 ジャコンと音を立てて構えながら、シャッハはさらに追撃の手を緩めない。

 スタタンと軽やかに地面を蹴って、身体強化、魔法の暴風を纏いながら大地を蹴り――その瞬間、飛び込んできた凶器に両手を閃かせた。

 ブーメランブレイド。再転送、さらに武器が増えている。

 空中を踊るのは四つの刃、四つの敵意、四つの殺意。

 光刃を纏いし投擲刃。それをヴィンデルシャフトで受け止める、激しい金属音と共に弾くが、クルクルとその刃は自律稼働で旋回。

 

「っ!」

 

 ――加速。

 刀身背部のスラスターを吹かして突貫してくる、軌道上には首、再び弾いてもキリが無い。

 故に。

 

「なんとぉ!」

 

 ヴィンデルシャフトを左右の地面に突き刺して、シャッハは回避を選択。

 右踵でブレーキをかけながら、左足を爪先から上へと蹴り上げるように伸ばす。

 上体を逸らして、シャッハは後ろへと倒れこんだ。

 眼前をブーメランブレイドの刃が通り過ぎていく、それを見送りながら、ぶわりと空気を孕んで舞い上がる腰布の感触が邪魔だと思いながら、両手を後ろの地面に添える。

 

「とぅつ!」

 

 両腕の筋肉がしなやかに伸び、腕の骨格がしっかりと己の体重を受け止めて、遠心力の原理と身体のバネを用いてバック転。

 回転しながら、シャッハは宙へと舞い上がり、もう一つオマケに飛び込んできたブーメランブレイドの刃を。

 

「トンファァアア!!」

 

 身体を捻る、空気を掴んで――“大気を蹴った”。

 ベルカ式魔法の応用、ルフトメッサーに代表される大気の操作原理、一瞬だけ空気中の大気抵抗を跳ね上げて、それを足場にすることなど造作も無い。

 飛行適正はないが、シャッハとて空中戦の手段ぐらい確保済みである。

 

「サマーソルト!」

 

 蹴り上げる、刀身の側面を思いっきり蹴り飛ばした。

 真っ向からの抵抗ならばともかく、真横からの衝撃には予測してなかったのか、ブーメランブレイドの一つが破砕される。

 

「――ダァブルッ!!」

 

 さらにもう一段、大気を蹴って飛び降りたシャッハの靴底。

 その両足に踏み潰されて――地面にめり込んだ。

 ドガシャッとガジェットの装甲すらも粉砕する脚力の前に抵抗は無意味。断末魔の如き火花を散らし、爆炎を上げるも、彼女の足は無傷。

 

「武器がさらに二本減りましたね」

 

 静かに微笑み、シャッハが告げる。

 しかし、その時旋回して戻ってきたブーメランブレイドの片方を受け止めたセッテが静かにシャッハに目を向けた。

 

「――聖王教会所属騎士シャッハ・ヌエラ。あなたは何故デバイスを使わないのですか?」

 

 セッテは無表情に訊ねる。

 しかし、シャッハ首を捻って。

 

「なにをいってるんですか。使ってますよ」

 

 地面からヴィンデルシャフトを引き抜き、構えながら。

 

「ほら、この瞬間にも! あと防御の時とか、ガードする時とかですね」

 

「……理解不能。どうやら私は経験が足りないようです」

 

 そんな問題じゃないぞー! と、遠くで叫び声が聞こえたが。

 うるさい、おら縛り上げろ! 金属が駄目なようだから、縄だ! ガムテープだ!! グルグル巻きにしてやんよ! という無数の叫び声と共に沈黙の蓋が落ちた。

 シャッハとセッテが対峙する。

 背後でムームーと唸り声を上げているチンクがいて、その周りに「とりあえずヤキを入れるか」「よし、舞わそう」「生意気だからマワそう」「コマ紐は?」「うーん、あ、おい。そこの縄もってこい、縄。回すぞ」などと呟いている連中も気にならない。

 

「人の英知はまだ未熟です。故に迷い、悩み、己の力の無さを嘆くのです」

 

 シャッハは告げる。

 修道女としての優しげな笑みで。

 

「そして、それを救うのが信仰です。尊い人を敬い、信じ、自らも憧れて、それに近づこうとする。その研鑽こそが信仰であり、私の力」

 

 セッテに告げる。

 誰かに聞かせる。

 己の道を突き進むために。

 

「さあ来なさい。信仰とトンファーの力を魅せましょう。貴方たちを悔い改めさせるために」

 

「――状況を再開します」

 

 セッテが片手に握ったブーメランブレイドを振り被り、シャッハが緩やかに駆け出す。

 背後で「む~!?」といいながら、クルクルと回転させられているチンクがいて。「いいではないか、いいではないか!」「回れ回れ、メリーゴーランドぉ!」と、愉快に巨大コマ紐を引っ張っている陸士たちの笑い声があった。

 BGMを笑い声に、二人の女が激突する。

 

「Attck」

 

 ブーメランブレイドの背部からスラスターが噴き出す、斬撃補助。

 音速に迫る斬撃が迫り、繰り出されたヴィンデルシャフトと激突。

 空気を引き裂く音と空気を破砕する音が同時に響き渡り、肉が、骨が、血が震え立つ。

 

「トンファー・ラァアアアッシュ!!!!」

 

「――!!」

 

 乱撃、連撃、応酬。

 刃をぶつけ合いながら、殴る、打つ、切る、払う。

 そして。

 

「遅い!」

 

 斬撃の応酬が100合を超えた瞬間、甲高い音を立ててブーメランブレイドが振り抜かれた。

 クルクルと舞い上がるのはヴィンデルシャフトの片方。

 

「っ!」

 

「人体反応の限界です」

 

 セッテの冷たい声と同時に紅い華が咲いた。

 真正面から切り裂かれた胸元、そこから血が吹き出し、苦痛にシャッハが顔を歪める。

 そして、同時に繰り出されたセッテのハイキックがシャッハの薄い乳房の上から叩き込まれて、彼女の体が吹き飛んだ。

 

『死夜覇の姉御!?』

 

 陸士たちの驚愕の声が響き渡り、シャッハの身体が地面に叩きつけられる。

 むー! と声を上げるチンクの顔に喜色が浮かぶ。が、同時にクルクルと回されて悲鳴に戻った。

 

「状況終了。次は貴方たちです」

 

 静かに告げるセッテの横の地面に、ザクリとヴィンデルシャフトの刀身が突き刺さる。

 墓標のように。

 しかし。

 

「……悪いですが、まだです」

 

 セッテが陸士たちに向き直った時、背後から声。

 目を向ければシャッハが残った片方のヴィンデルシャフトを地面に突き刺し、支えにしながら立ち上がろうとしていた。

 

「――無駄です。貴方のダメージは深い、戦闘の続行は無意味です」

 

「さて、それはどうですかね」

 

 ニコリと微笑む。

 そのシャッハの笑みにセッテは疑問を抱いた。

 何故そんな笑みを?

 ――演算。推測結果、戦闘によるアドレナリンの過剰分泌、痛みを陶酔感覚に変えている。マゾだと結論する。クアットロ曰く、雌豚と呼ばれる人種の同類だろうか。

 

「何か失礼なことを考えてませんか?」

 

 シャッハが眉をひそめて呟く。

 

「いえ。激痛による戦闘続行を強く望む人物だと推定しました」

 

「そうですか。意味は判りませんが、まだ勝負は付いていません。さあ来なさい」

 

 バリアジャケットの損傷部分も復元せずに、シャッハがよろめきながら構える。

 セッテは速やかに意識を断ち切り、生命活動を停止させようと戦闘処理演算を開始使用したときだった。

 

「あ。そういえば一つ質問です」

 

「?」

 

「私のヴィンデルシャフト、どこにあるか知りませんか?」

 

 失血による視力低下だろうか。

 しかし、答える必要は無いだろう。

 

「あ、右にありましたね」

 

 自分で気付いたらしい。

 けれど、視力低下ならば都合がいい。投擲で仕留められる。

 そう考えて、セッテが身体を捻りながら、撃ち出そうとした瞬間。

 

「実はそれ――爆薬を仕込んでいるので、危ないんですよ」

 

「っ!?」

 

 その言葉に思わずセッテは右を見た。

 しかし、ヴィンデルシャフトはそこには――無かった。

 

「さようなら……ヴィンデルシャフト37号」

 

 カチッ。

 彼女が握るヴィンデルシャフト、その握り手のカバーが開き、そこから出現した紅いスイッチが押されたと理解するよりも早く。

 

「トンファー・ダイナマイト♪」

 

 彼女の世界を支配したのは爆音と爆炎と光爆だった。

 背後から生み出された爆風で、セッテは空高く舞い上がっていた。

 衝撃が全フレームを震わせ、地面に墜落し、その衝撃でブラックアウトしていく己の思考に理解する。

 それが、意識が遠のくという意味を始めて理解した瞬間であり。

 

「あ、私から見て右でした」

 

 と、当然のように告げる女性の声が聞こえて。

 

「これが信仰の力です!!」

 

 嘘だ! と、この時強く心に想ったのが、初めての人間的感情だったと数年後の彼女は語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうことがあったんですよ。騎士カリム」

 

「……もういいわ。ちょっと頭痛がするから」

 

 簀巻きにしたナンバーズ二人を引きずり、受付から教えてもらった隠し扉を蹴り開けて、トゥッと天井から現れたシャッハは明るい笑顔でカリムに報告したのだが。

 

「体調でも悪いのでしょうか? 頭痛薬ならばすぐに取りに行きますが?」

 

 カリムはよろよろと机に手を当てて、頭を押さえた。

 他の人物たちは既に遠い目をして、茶でも飲むか。ああ、帰ったら休暇申請して息子と遊びに行こう。などと会話していた。

 三人娘は卒倒したフェイトを除いて、二人共机に倒れこんでいた。

 

「……」

 

 頭痛の原因は貴方よ。とはいえない、カリムは空を仰いだ。

 ――しかし、天井には出番待ちの黒子が張り付いていたので、ちっとも空は見えなかった。というか、見なければよかった。

 

(……私の元を離れた派遣時代何をやっていたのかしら?)

 

 カリムとシャッハは昔からの幼馴染であり護衛役であったが、四年程前にミッドチルダUCATの宗教監査役として派遣されていた。

 そして、一年ほどの出向から帰ってきた時には特に変わった様子もなかったのだが……しっかりと汚染されていたらしい。

 

 

 ――カリムは知らない。派遣されたシャッハが同じように変態の巣窟で心がへし折れたことを。

 ――カリムは知らない。開き直ったシャッハが死夜覇と呼ばれるほどに荒れたことに。

 ――カリムは知らない。荒れていたシャッハがとある理由でミッドチルダUCATに出入りする某提督と一緒についてきた青年に惚れ直し、更正した事を。

 ――カリムは知らない。更正したシャッハがミッドチルダUCATに居た戦う生徒会長と名乗る人物から様々な技を教え込まれたことを。

 ――カリムは知っている。楽しげなシャッハがバレンタインなどのイベント行事には彼女の義弟と一緒に食事などをしていることを。

 ――カリムは知らない。数年後、色々と諦めた顔で彼女の義弟が、ある知っている女性を懐妊させその責任を取って結婚することを知らせにやってくることを。

 

 

 今の彼女は何も知らなかった。

 

「……エリオ、なんでぇ……」

 

 その時だった。

 ぐすぐすと半ば半泣き上体で机にうずくまり、泣いていたフェイトが蚊の鳴くような声で泣き声を洩らした。

 

「な、泣かないでフェイトちゃん! ほら、ティッシュ!」

 

 なのはが慌ててフェイトにポケットティッシュでその顔を拭いてあげる。

 グスグスと涙を流し続けるフェイトが、チーンとティッシュで鼻をかんで。

 

「わたし……育て方を間違えたのかなぁ……」

 

「ほら、泣いたらアカンで!」

 

 はやても慌ててフェイトの背中を摩る。

 他に何故か沢山の人々がフェイトに必死に励ましのオールを贈った。

 それが何故か非常に嬉しい反面辛かった。

 

「ふむ。実に人情に溢れているな、この世界は。美少女限定かもしれないが」

 

「それってどこでも一緒だよね。大城部長が泣いていても誰も慰めないのに」

 

「新庄君。あんな変なオヤジを心配するのは聖人でも不可能なことだ。誰も彼らの度量を責めてはいけない。そう例え新庄君が路傍の石を蹴飛ばしても私が責めないようにね」

 

 などと、暢気に感想を告げている二人を無視して、レジアスはモニターを見ていた。

 グレートクラナガン。

 現在未調整中の三機による各自合体、そして最終形態を除けば現状最高のミッドチルダUCATの誇る戦力である。

 

「……勝てるか?」

 

 ジワリとレジアスの額に汗が浮かぶ。

 ゼスト・グランガイツ。

 彼の実力をよく知る親友であるレジアスは背筋に走る冷たい汗を止めることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 今ここに――合体は完了した。

 

『これが……グレートクラナガン』

 

 エリオは呟く。

 コクピットルーム、その右半面に浮かんだ解析用モニターに浮かび上がる威容に息を飲んだ。

 グレートクラナガン。

 その全長は25メートルにも及ぶほどに巨大化し、それに比例するように装甲が強化された重装甲体。

 その兆候が顕著なのは四肢。脚部はアインへリアルの下部装甲を装着し、脚部裏には無限軌道による履板の環が設置されており、その間のサスペンションにより重装甲での自重にも耐えるための脚となっている。

 腕部はクラナガン本体の装甲を内部装甲とし、追加された装甲は外殻として覆い尽くしていた。

 見よ。あらゆる危険や災厄をも恐れずに握りつぶせるほどの巨腕を。

 両腕の外部装甲には二つに分割された大型ドリルが付いており、それが必要とあれば武器になることをエリオは知っている。

 胸部には如何なる世界でも大いなるものを崇められるドラゴンの紋様が浮かび上がり、その力強さを主張していた。

 グレートクラナガンの頭部はより一層神々しく光輝き、その意思を熱く燃やして煌めく。

 

『リカバリープログラム起動――オートリザレクション』

 

 グレートクラナガンの全身が淡く輝き、同時に再生していく。

 一部のインテリジェンスデバイスが持ち合わせる自動修復機能。

 それがグレートクラナガンにも搭載されており、緩やかにだが傷口を埋めていき、本来の輝きを取り戻していく。

 命が溢れるかのように、太陽が陽光を放ち、命を芽生えさせていくかのような優しい光。

 

『蘇る。蘇るよ、クラナガンは!』

 

 エリオが叫ぶ。

 同時に燐粉の如き、或いは羽毛のように舞っていたX-Wi-ngの翼がはためく。

 X、その字通りにウイングブロックを上下に分割し生み出された四枚の翼は上下左右に展開し、神話に語られる天使の如き光輝を背負う。

 

『オォオオオオオオ!!!』

 

 風が生まれる。

 大気が荒ぶり、赤子の産声のように荒々しくも鮮烈なる音を鳴り響かせる。

 風が、空が、大地が、命が、吼え猛っていた。

 風が渦巻き、パラパラと装甲周辺にまとわりついた金属のカサブタを吹き払い、光の羽毛が、粒子の燐粉がバッと散った。

 見よ、今ここに蘇った勇者の威容を。

 息吹を持ち、魂を燃やし、力を発する閃光の如き輝きを見よ。

 それは鮮烈なる希望の証。

 鋼鉄の巨人から錬鉄の巨神と呼ぶに相応しい闘士。

 

『ゼスト! ゼスト・グランガイツ!!!』

 

 エリオは叫ぶ。

 

『我らは!!』

 

 グレートクラナガンが叫ぶ。

 

『決して朽ちず、折れず、負けぬ地上の剣! 退きはしないっ!!!』

 

 大地の重みを噛み締めて、空の広さを感じ取り、グレートクラナガンとエリオは意思を高めて吼えた。

 大気が震える、空が渦巻き、許容量を超えて湧き上がる出力に紫電すら舞い上がる。

 そして、それを見て――ゼストは笑った。

 

「面白い」

 

 歯を剥き出しに、その手に槍を構えて、笑ったのだ。

 虚空から魔法の制御を断ち切り、重力落下のままに大地に着地する。

 ひび割れた大地を、砕けたアスファルトの上を、ふわりと体重を感じさせないかのように降り立った。

 

「だ、旦那。アタシもユニゾンしようか?」

 

「いや、まだ必要ない。どこまで力を付けたのか、試したい」

 

 肩に降り立つアギトの頭を撫でて、ゼストは薄く微笑む。

 ポッと顔を赤くし、パタパタと翼を動かして立ち去るアギトを見送った後、ゼストはゆっくりと槍を振るって、手首の調子を確かめる。

 

「機械の魂。若き闘士。どこまで俺に匹敵できるか、試してやろう」

 

 告げる、告げる、告げる。

 傲慢とさえ思える発言。

 だがしかし、彼は一片たりとも侮ってなどいない。

 どこまでも本気。

 誰が知ろう、誰もが知っている。

 彼の最強たる由縁を。

 誰もが語る。

 彼は闘争に見入られ、闘争を食い殺し、己が選ぶ者たちに振るわれる最強無比の暴力だと。

 闘神 ゼスト・グランガイツ。

 彼に相応しき称号があるとしたらただそれだけだ。

 槍だけに生きるには無骨であり、軍に所属して生きるには身勝手すぎる、ただの闘争の化身。

 だが、それ故に、それなのに、望むもののためにだけ牙を剥く獣。

 

『トラボシブレレェエエエド!!!』

 

『刃よ! 僕らに力を!!』

 

 グレートクラナガンがトラボシブレードを構える。

 巨剣とさえ思えたそれが、グレートクラナガンの四肢の前にはロングソードも当然だった。

 無骨な指先に包まれ、それはただ1人の神を討つ為の刃と化す。

 

「こい! その気合、どこまで持つか!!」

 

 ゼストが槍を構える。

 無銘、だがしかし、己が愛する者たちの祝福を帯びた唯一無双の長槍。

 

『――打ち倒す!!』

 

「――試してやろう!」

 

 勇者たちと闘神が再び激突する。

 

 

 

 

 

 戦いは続いていた。

 そして、ここでもある意味戦いは続いている。

 音楽は鳴り響く。

 歌は終わっていない。

 世界を鼓舞する祈歌は続いていた。

 

「信じようよ、自分の世界を」

 

 ラグナは歌っていた。

 千里も歌っていた。

 曲は再び折り返し、けれどもまったく違う顔を見せていた。

 誰もが戦いを終えて、帰り支度をするかのように。

 

「護ろうよ、大切な誰かを」

 

 痛くて苦しいときに想いが込み上げるように。

 竜司がギターを鳴らす、優しく、そして愛する女性に触れるかのように丁寧に。

 

「突き進もうよ、友達が倒れても」

 

 出雲が汗を吹き出しながらも、ドラムを叩き続ける。

 激しいリズムが勇気を湧き立たせて、それをサポートするようにダンのリズムが全体の活気を整えていく。

 

「歩き出そうよ、どんなに辛くても」

 

 ヒオが、美影が美しい旋律を重ねていく。

 幾つも、幾つでも、天へと届くことを祈りながら。

 

「私の前には誰かがいる」

 

 ラグナが手を伸ばす。

 会場の誰もが手を掲げた。

 

「私の後ろには誰かがいる」

 

 千里もまた手を伸ばして、握り締める。

 誰もが息を飲み、手を握り締める。

 

「仲間が、友達が、好きな人がまっているから」

 

 想いが世界を生み出していく。

 聞き惚れるものたちの心に形が生み出されていく。

 仲間、友達、恋人、妻、夫、父親、母親、家族。

 

「私たちは突き進む」

 

 それに辿り付くために。

 突き進む。

 

「私たちは武器を取る」

 

 戦わないと護れないから。

 誰もが人生と、命を護るために戦っているから。

 

「私たちは信じあう」

 

 ラグナが、千里が言葉を紡ぐ。

 出雲が、竜司が、美影が、ダンが、ヒオが、祈りの旋律を重ねていく。

 手を絡めあっていくかのように。

 

「手の平を突き出して、掴み取る」

 

 誰もが手を握ることから始まる。

 母親が、父親が、世界が、誰かが握り締めて。

 世界を、母親を、父親を、誰かを握り締める。

 

「ただそれだけは間違ってないから!」

 

 咆哮だった。

 想いが世界を貫くシャウト。

 

 その言葉がどこまでも響いていく。

 

 全ての終わりにして始まりのクロニクルとして。

 

 命の年代記はこうして紡がれるのだから。

 

 

 

 

 

 誇りを、命を、魂を賭けた戦いは続いていた。

 

『オォオオオオオオ!』

 

『ハアアアアアア!!』

 

「ヌォオオオオオ!!」

 

 三つの怒号が上がり、二つの武器が激突する。

 互いの間合いは五十メートル程度。

 一刀一速には遠すぎる、だがしかし、それすらも刀圏内。

 誰が信じようか。

 その刃、巨神が振るう太刀にして巨剣。刃渡りは十数メートルではきかぬ、長大なる斬魔巨剣。

 その一太刀は山をも引き裂き、大地を抉り、空を切り裂き、魔を断つ刃。

 それが、ただ1人の人間すら断てずにいる。

 風を切り裂く鋭い唸り声を纏い上げながら、振るい抜く一閃の先を見よ。

 荒らぶる神々の怒りでもこれほど激しくは無い。大いなる自然が自然破壊の代価として生み出す土砂崩れよりも重い一刀の刃、それをただの一本の槍で受け止める人がいる。

 機神が大地を踏み締め、振り下ろされる一太刀。

 それを見上げながら、音よりも早く踏み込み、腰を捻り、肩を伝い、腕と手首を回して力を篭めて、魔力を持って人知を超える威力と変える闘神の一突き。

 その顔には笑み。

 誰もが驚愕するだろう、笑顔。目元は厳しく、口元は硬く結ばれているもその感情は喜色。

 恐れていないのだ。この戦士は、如何なる危機さえも笑い飛ばし、機神が繰り出す粉砕確実の刃さえも恐怖と感じない。

 故に放てる、震えることなき己の一撃を。

 空より舞い落ちる巨神の一太刀と地より噴き出す一突きが正面から激突し――弾き合う。

 爆音。

 互いに激突する衝撃波が互いに口付けを交わし、息絶えたかのようにその内部に秘めた破壊を音風として世界に帰還した音。

 

『ぐっ!?』

 

『これでも!? 押される!?』

 

 その音を聞きながら、一人の勇者が、一人の少年が、戸惑いの声を上げる。

 

「中々にパワーは上がったが!!」

 

 ゼストが吼える。

 魔力を生成、放出、力場と変える。

 見よ、この刃を。空間の空気中物質を核に、疑似物質を製造、製造、製造――構築連結癒着固定。

 古代ベルカの術式が一つ。

 鉄槌の騎士が使うギガントフォルムと同じ変成魔法の一つ。

 無駄に取り回しが面倒なためにゼストは好まないが――打ち合うには丁度いい。

 

「技巧が甘いっ!!」

 

 巨大にして長大にして馬鹿げた速度のその巨槍。

 巨人が握るが如きそれを両手で握り締め、咆哮を上げながらゼストが大地を踏み締め、周囲の人間全てが知覚出来るほどの地響きを奏でながら、振るう。

 如何なる超常現象か。

 その先端は霞み、輝き、蒸気が舞う。

 

「なんだあれは?!」

 

 見ていた陸士がその光景に声を上げた時、シュタッとその傍に降りたタキシード服にマイクを持った解説役の陸士が叫んだ。

 

「おお! あれこそは物体の高速移動による水蒸気爆発!! 見てください、彼らの剣戟は空気中の水分すらも爆散させるのです!!」

 

 激突、激突、激突。

 斬撃、刺突、薙ぎ払い。

 常人ならば百回受けては百回爆散し、千回受けては万回死に果てるだろう斬殺必殺の機神と闘神の攻防。

 見よ、彼らが奏でる刃の応酬。

 響き渡る金属音の旋律を。

 火花散る散る、玉散る破壊に、蒸気が砕けて、赤熱化する。

 亜音速を凌駕し、音速を超えて、超音速から神域へと突入する。

 

『ォオオオオ!!!』

 

『ァアアアアア!!!』

 

 機神と少年の絶叫が吼え渡り、大地を踏み締め、大気を怒涛の如き踏み込みで爆散させながらトラボシブレードの超巨大刀身が大地を砕いて振り上げられた。

 生み出されるのは大気を爆薬に変えて吐き出される衝撃波、付随する瓦礫の巨大散弾。

 だがしかし、ゼストは。

 

「ぬるいわっっ!!」

 

 吼えた。

 獅子の如く、あらぶる獣の唸り声が如き、最強に君臨する王者としての威厳と怒りを蓄えて息吹を発し、世界に告げる。

 この程度では、障害にならんと。

 手首を返し、両腕を旋回させて、全身の細胞に命じ、筋繊維を伸縮させながら稼働、力の流れに円運動を用い、見上げんばかりの巨槍を天へと伸ばしあげる。

 震えるがいい。

 如何なる鬼人、魔人、悪魔でさえも驚き、戦き、悲鳴を甲高く響かせるだろう恐ろしき光景。

 其処から生み出される破壊力に戦慄し、それを振るう闘神の地力を知って悲鳴を上げろ。

 

「断!!!」

 

 断たれたのは大気か、それとも常識か。

 どこまでも美しく、されど壮絶なまでの螺旋を描いて、巨槍が振り下ろされる。

 大気という大海を、水面から深海の水底までも叩き切るかの如き一太刀。

 巨大な槍の柄がたわみ、矛先が白熱化したのは音響の壁を破砕して、鋭き研磨剤の雪崩となった空気抵抗が故か。

 振り下ろされるダイナマイトの爆撃よりも恐ろしい破壊に、迫っていた衝撃波が砕け散り、迫っていた礫が悉く粉砕する。

 その威容はまさしくかつて神話に語られた光景、一人の預言者が杖を振り翳すと海が割れた絶景にも勝るとも劣らんほどに凄まじい。

 バサバサとゼストの纏うコートが、防ぎきれない風圧によってたなびき、彼は静かに嗤う。

 

「これは礼だ」

 

 大地に叩き付けた槍が、まるで羽毛のように軽々と舞い上がる。

 後ろへと引き戻すように巨槍が側面後方へと伸ばされて――その矛先がゼストの手によって旋回を始める。

 風車のようにクルクルと。

 回る、廻る、マワル。

 森羅万象の理の如く、大気を噛み砕き、風を飲み込み、世界に満ちるあらゆる分子の集合体を引き込みながら、不可視の粒子を紡ぎ上げていく。

 

『エリオ!』

 

『――ラウンド!!』

 

 グレートクラナガンがその左手を突き出す。

 手首の外部装甲に亀裂が走る、火花を散らしながら外部装甲が展開し、花弁が開くかのように旋回しながら出力アンテナを形成。

 手の平中心にある放出ノズルが開閉し、生み出される碧き粒子が一瞬と掛からずに障壁を作り出して行く。

 前方空間に描かれるのはミッド式魔法陣。堅固を約束する守りの紋様。

 

『プロテクタァァァアア!!!』

 

 絶対防御障壁。

 大気を歪ませ、大気中に混じる瓦礫や石礫を核に疑似物質を瞬間製造、同時に魔力保護を用いて生み出された円形の障壁。

 次元世界を滅ぼせる奇跡の宝玉ジュエルシード、それを宿し変異し生み出されたジュエルビーストの放ったニードルミサイルすらも完全無欠に防ぎ切った強固なる楯。

 だがしかし。

 

「ルフト!」

 

 舞い上げる、舞い上げる、舞い踊る。

 タイフーン級の暴風を生み出し、あらゆる災苦をも穿ち通るこの闘神を受け止めるには非力だったのか。

 

「メッサァアアア!!!」

 

 この瞬間、ミッドチルダ中のあらゆる人間が聞いたと告げる。

 ――風の悲鳴を聞いたと。

 繰り出された膨大極まる暴風の一突きに、誰もが震撼した。

 

『ぐぉおおおおお!!?』

 

 叩きつけられる、全長25メートルの錬鉄の巨神をも薙ぎ払わんとする質量の塊を。

 ラウンドプロテクターを展開するグレートクラナガンの脚がズリズリと地面を破砕しながら後ろに下がっていく。

 吹き付ける瓦礫と砂礫の混じった烈風が、眩く輝くグレートクラナガンの装甲を削り上げ、嬲るように笑い声を上げて吹き抜けていく。

 ――押し込まれている。

 まるで世界中の風が集まり、この機神を排除しているかのように乱暴で強力で傲慢なる質量の暴流。

 押される、押される、ひび割れていく。

 絶対防御障壁が砕けていく。

 防ぎきれない。グレートクラナガンの頭脳素子が演算と処理を終了し、そう結論した瞬間だった。

 

『X-Wi-ng、フルウイング!!』

 

 エリオが叫び、その背に輝く四枚の翼が大きく羽ばたいた。

 

「ぬ!?」

 

 ラウンドプロテクターが砕け散ると同時にグレートクラナガンの脚部背面の排熱ノズルから蒸気が噴出し、飛び上がった。

 大きく開かれたX-Wi-ngの翼が吹き荒ぶ狂風を受け止め、大きくグレートクラナガンの巨躯が空を舞う。

 だが、それだけだ。

 防ぎきれない打撃を受けたとき、抵抗せずに大きく吹き飛ぶことでダメージを和らげるように、グレートクランガンの装甲にはダメージを与えない。

 遥か後方で屋台を開こうとしていた陸士たちが「あー!!」といいながら、飛ばされていくヤキソバやフランクフルト、ヤキモロコシに絶叫を上げている程度。

 バサバサと翼をはためかせて、再びグレートクラナガンの巨体が大地に着地する。

 

『助かった、エリオ』

 

『礼は良いよ。この程度出来ないと、僕が居る意味が無い』

 

 コクピットの中でエリオは静かに呟きながらも、額にじわりと浮かんだ大量の汗を拭った。

 息が荒い。

 生体電流を流し込み、操縦する度にエリオは肉体と精神両方にガクンとした重みと疲労を感じる。

 体力的には激しい運動を行うクラナガンのGに耐えるだけなのだが、それ以上に相対したジュエルビーストたちとの緊張と恐ろしさに心を痩せさせて、相対するゼストの威圧感と対峙するだけで死を意識し続ける魂を削る恐怖と戦い続けていた。

 息をしろ、呼吸をしろ、戦え。

 護るものを意識しなければエリオは膝を付き、とっくの昔に諦めていただろう。

 けれど、エリオは今戦っている。

 

『負けられない。僕らは負けられないんだ』

 

 呟く。

 意識を載せて、忍び寄る恐怖を蹴り飛ばし、勇気を振り絞り、気合いを篭める。

 それがクラナガンに内蔵されたGストーンと連結稼働し、願いを叶えるジュエルシードとしての性質が働き、その願いに応えんと力を発した。

 希望とは望みだ、望みとは欲望だ。

 ジュエルシードを動かすための介入方法が一つ。

 だがそれでは私利私欲のために動かすものだけが扱えるものになってしまう。

 故にこのミッドチルダに落下してきた二つのジュエルシード、失われたはずのロストナンバーの秘石はあらゆる書類上からも名称を改竄され、Gストーンとして存在する。

 Gとはガッツであり、Gとはグレートであり、Gとはガードの頭文字である。

 根性で護る偉大なる勇者。

 その力の原動力としての願い、すなわち願望が篭められている。

 願いを束ね、根性を魅せて、気合を篭めて、希望を結ぶ。

 人々が願いの為に戦う。

 それこそが勇者の存在意義。

 

『そうだ。エリオ。希望は折れない、願いは朽ちない、私たちには支えてくれる沢山の人たちがいるのだから!!』

 

 グレートクラナガンがエリオの願いに応えるために、瞳を輝かせる。

 ミシミシと悲鳴を上げている全身フレームに鞭を打ち、全身の排熱口から蒸気を噴出する。

 揺ら揺らと陽炎が生み出されて、グレートクラナガンの巨体そのものが炎となったかのように揺らめいた。

 

「……一皮剥けたか」

 

 ボツリとゼストが呟く。

 虚空に解け霞む程度の小さな言葉。

 

「旦那?」

 

 だが、それを見つめる小さな乙女は気付いた。

 ゼストの口元に浮かぶ戦いの愉悦ではない、喜び故の綻びに。

 

「アギト。来い、全力で行く」

 

「分かった!!」

 

 闘神の呼び声に、烈火の剣精は応えた。

 紅蓮を纏い、ゼストの肩に降りる。

 乙女の口付けでも交わすかのようにアギトはゼストを抱きしめると、光輝に変わり、姿を掻き消した、

 否、消えたのではない。

 

 ――融合した。

 

 魅せられる。

 誰が判らぬか、誰もが判る、その圧倒的な差を。

 ゼストの周囲、踏み締める大地がひび割れる、破砕する、空気を歪めて見せるほどの熱量を纏い、それは不可視の領域たる熱圏と化した。

 本来ならば黒ずみ、無骨な顔に相応しい地味な頭髪。

 その色が黄金色に輝き、地獄の溶鉱のように燃え盛る焔のように揺らめき、目に焼きつく。

 

「な、ゼストが金髪に!!」

 

「不良!? いや、違う!!! あ、あれはまさか!」

 

「間違いない! ゼストがスーパーミッドチルダ人になったぞ!!」

 

 なにやらほざいている野次馬たちを、ゼストは軽く振り抜いた衝撃波でぶっ飛ばした。

 ゴクゥウウウ! と満足そうに吹っ飛ぶ陸士たちに、誰かが「汚い花火だな」と呟いていた。

 

『っ、貴方はぁ!!』

 

 傷つけられた――でも満足げだが、の陸士たちの惨状にエリオは怒声を響かせて、トラボシブレードを横薙ぎに払う。

 大地を四散させ、大海原を飲み干す津波の如きその一太刀。

 薙ぎ払うために刀身を縦に構えて殴りつける暴力的な一刀。

 だが、ゼストは巨槍を片手に移すと、迫るそれに片手を突き立てた。

 

「おぉおおおお!!!」

 

 破砕する音が鳴り響く、ガガガガガという爆音を吐き上げながらもゼストは倒れない、怯まない、足を動かさない。

 そして。

 そして――止めた。

 ただの片手で、トラボシブレードのあらゆるものを薙ぎ倒す一刀を受け止める。

 

「――本気で来い」

 

 その分厚い刀身に指をめり込ませ、ゼストはグレートクラナガンを見上げたままに告げた。

 

「本気で来い。クラナガン!!」

 

『え?』

 

「俺も開発に携わった。だから知っているぞ、貴様の全力。本当の太刀を隠していると! ――そうだろう、レジアァァァァスッ!!!」

 

 叫びを上げながらゼストがトラボシブレードの刀身を殴り飛ばし、その長大な太刀が弾き上げられた。

 

『くっ!』

 

 グレートクラナガンが弾かれた太刀をしなやかに持ち直し、すかさず構えようとした時だった。

 

『久しいな、ゼスト!』

 

『――レジアス指令!?』

 

 放送スピーカーから轟いた声にグレートクラナガンが振り返る。

 ゼストは地面を軽く蹴り飛ばし、間合いを開くと――その手に握った長大な巨槍を構えながら叫ぶ。

 

「レジアス! 無事にやっているなら問題ない。出し惜しみは無しだ、さっさと本気を出させろ!!」

 

『ゼスト。貴様が何故UCATに牙を剥くのかは大体想像がつく。事情もあるだろう、だがしかし今は敵だ! 手加減はせんぞ!!』

 

「構わん。貴様の作った人造の魂、この地上を護る騎士に相応しいか試しさせてもらう」

 

 ゼストが微笑みながら告げる。

 ダンッとその身に掛かる槍の自重を示すように靴底をめり込ませながら、構えた。

 

(旦那……いいの? あいつら挑発しちまって)

 

(構わん。本気の奴を打ち倒すことこそ奴らの希望をへし折ることに繋がる。そうでなければ意味が無い)

 

 ゼストはあくまでも冷酷に計算し、アギトに返事を返した。

 けれど、彼女は思う。

 

(……嬉しそうなのは何でなんだろう、旦那ぁ)

 

 ゼストの瞳に浮かぶ期待の光に、アギトは気付いていた。

 

『ならば、その目にしかと刻み込め! ――クラナガン! 受け取るがいい。荒々しき願いの剣を!!』

 

 レジアスの叫びが轟いた次の瞬間、どこからか光の柱が吹き上がった。

 

 

 

 

 

 ミッドチルダUCAT、三番格納庫。

 其処では慌しく作業員たちが、科学者スタッフたちが走り回っていた。

 

「エネルギー出力を上げろ!! 機殻刃鉄の強度確認、それにクラナガンのフィードバックデータとの調整は出来たか!!」

 

 主任技術者が額から流れ込む汗に染みる目も、眼鏡も拭う暇なく指示の叫び声を上げていた。

 

「機殻刃鉄の強度確認は問題ありません! しかし、クラナガンの腕部フレームの強度が! それに、まだ未調整部分があり、このまま投入しても使いこなせるかどうか……」

 

「――馬鹿野郎!!」

 

 嘆きを上げるスタッフの背中を、主任はドロップキックで蹴り飛ばした。

 醜い悲鳴を上げてぶっ飛ぶスタッフの首元を引っつかみ、主任は叫んだ。

 

「クラナガンは私たちの造り上げた命だ! いわば子供だ! それを信じてやらないでどうする!!」

 

「ぅ……」

 

「使いこなせるかじゃない! 使いこなす! それが出来るのだと信じ抜け!!」

 

 ガクガクと頷くスタッフを投げ捨てて、主任は顔に掛けていた眼鏡を取り外すと、その汗に濡れた手で髪を撫で上げて、即席のオールバックにする。

 

「――レジアス中将! こちらの準備は出来ました、承認を!!」

 

 

 

 

 

 

 

『――レジアス中将! こちらの準備は出来ました、承認を!!』

 

 通信機から聞こえる声、それにレジアスは頷き返す。

 戦々恐々ともう勘弁してくれと見つめてくる参加者たちの視線を気にせずに、レジアスは指を鳴らした。

 

「準備を」

 

『只今ここに!』

 

 シュタッと出番待ちだった黒子たちが飛び降りてくる。

 すかさずレジアスの座る机の前を片付け、恭しく置かれたのは四方にして五十センチほどの正方形の機材。

 その上には手形型の紋様があり、【ミッドチルダUCAT司令官専用、触るな吹っ飛ぶぞ】という注意書きがあった。

 

「よし」

 

 レジアスが右手の手袋を外し、はぁーとため息を付いているオーリスが頭痛を堪えるような姿勢のままそれを受け取る。

 ギュンギュンとレジアスが年甲斐も無く楽しげに腕を回転させると――

 

「――承認!!」

 

 バンッとそれが叩き割れそうな勢いで張り手を打ち込んだ。

 その瞬間、機材の四方の側面ブロックがガシャガシャと展開し、強い光を放った。

 

「ま、眩しい! というか、これなんの意味があるの!?」

 

 というツッコミがあったのは蛇足である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が舞い上がる。

 キラキラと粒子が回転しながら踊り狂い、まるでそれは妖精たちの祝福のようだった。

 ミッドチルダ市民プール、展開したままのその地下500メートルの深層の奥からスポットライトのように輝くそれは新たなる剣のレール。

 獣の如き聴覚があれば聞こえただろう。

 その奥から鎖を引き千切り、吼え猛る鋼の牙の唸り声が。

 地下五百メートルから時速1000キロ、音速とほぼ等しい射出速度を生み出すのは何十にも更正された重力制御による重力レンズに、重力の方角性を変える魔法が故に。

 それは荒々しい風の翼を纏いて、飛翔した。

 

『来たぞ!』

 

『あ、あれは!?』

 

 それは初めて見るエリオの目には剣で出来た鳥のように思えた。

 刃金鳥とでも呼ぶべきか。

 光の尾となるスラスターを吹き出し、上空で方角を変えたそれはまっしぐらにこちらへと飛んでくる。

 

『捕まえる! エリオ、意識を合わせるんだ!』

 

『うん!』

 

 一瞬チラリとゼストがこちらに襲い掛かってこないことを確認した後、エリオは生体電流を流し込み、グレートクラナガンの脚部、無限軌道を稼働させた。

 稼働音を鳴り響かせながら、加速、疾走、激進。

 重々しく走り出しながら、飛び込んでくるその刃金鳥に速度を合わせて。

 

『オオォオオオオオ!!』

 

 飛翔した。

 X-Wi-ngの翼を翻し、空に舞い上がりながら、背中を下に、前面を上に翻り、その頭上に刃金鳥を捕らえた。

 そして、その腹部にトラボシブレードを握った拳を叩き込む。

 

『――コンバイン!!』

 

 手の指を広げて叩き付けた部分から刃金鳥の胴体部が展開し、内部に納まっていたクッション材で癒着し、内部から飛び出した金属ボルトが押し込まれたトラボシブレードを格納した。。

 僅か数十ミリのズレもなく、収まったそれはまるで雛形から象ったかのようにピッタリと収まり、その刀身と柄を納めていく。

 

『カウリング!』

 

 X-Wi-ngの翼が一瞬掻き消えて、刃金鳥――否、新たなる剣の機殻はスラスターを吹き出し、その使い手を旋転させる。

 上下がひっくり返り、グレートクラナガンの巨体がその刃金鳥の上に乗った。

 重力制御と膨大な出力は巨神すらも上に載せてもなお、高度を落とさずに飛翔し、さらには上昇を開始する。

 飛翔しながらも機構内部で無数の回転が開始される、キリキリと世界に百と残らない時計調律師が組み立てる歯車仕掛けの時計のように内部の部品が噛み上がっていく。

 その長大な内部構造の中で次々と螺旋を描くかのように射出される連結ボルトが組まれていき。

 接続、接続、接続。

 その接続ボルト数は11であり、最後の連結ボルトこそトラボシブレードそのもの。

 12の連結ボルトがその刃を貫く絆となる。

 

『纏え、鋼の刀身を! 新たなる刃を!』

 

 一機と一刃鉄が舞い上がる。

 そして、空に輝く太陽の光に二つの影が掻き消えた瞬間、ガキョンと激しい金属音が鳴り響いた。

 そして、そして――舞い降りる。

 その手に巨大な一つの太刀を携えて。

 

『カウリング・エグジストブレェェェド!』

 

 着地する、その両手に巨大な太刀があった。

 左右に伸ばされていた両刃の剣が真ん中から開閉し、下方に向けて折り畳まれる。

 さらに射出音を響かせて、内部から飛び出した無数の金属カバーが片刃のエッジを構成していた。

 これぞ、クラナガンの最強武装の一つである【機殻化Ex-st-Blade/TypeV-Sw】

 クラナガンの主兵装たるEx-st-Blade。

 概念兵器たるそれを機殻化し、出力を上昇させ、指向性を持たせるための鋼の刀身である。

 何故それを最初からしなかったのか?

 それには理由があった。Ex-stの巨剣化自体は比較的順調に成功したのだが、それを強化し、指向性を持たせるために機殻化した。

 だがあまりにも出力が高すぎる上に、クラナガン単一では腕部ジョイントの耐久限界を凌駕し、マニピュレーターが破砕される強すぎる両刃の刃。

 それをクリアするにはいずれか他の機体と合体し、マニピュレーターとジョイントに強化したものでなければならない。

 故に通常時のクラナガンにはあえてリミッターのみを付けた剥き出しの剣のみを持つ。

 その力を、本来の可能性の燐光のみを噴き出す小刀として。

 

「来たか! クラナガン! それでこそ打ち倒す価値がある!」

 

 ゼストが歯を剥き出しに嗤うと、その槍が瞬く間に炎熱に飲み込まれた。

 燃え盛る。

 ギラギラと烈火の如く。

 

『行くぞ! ゼスト・グランガイツ!!』

 

「オウッ!!」

 

 グレートクラナガンが機殻化Ex-st-Blade。

 すなわちエグジストブレードを振り上げんとした瞬間だった。

 

『!?』

 

 ――僅かな挙動の遅れ。

 グレートクラナガンがたたらを踏んだ。

 

「遅い!!」

 

 一瞬の停滞を見逃さず、ゼストの一撃がグレートクラナガンの胴体を薙ぎ払った。

 装甲が破砕する、巨体が揺れ動き、苦痛の破壊音が鳴り響く。

 

『クラナガン!?』

 

「どうした! 反撃をしないか!!」

 

 打ち込む。

 燃え盛る紅蓮の噴出がグレートクラナガンの頭部を吹き飛ばした。

 烈火に燃えて、巨体がかしずく、膝を崩す。

 

『くっ。どうして!? 動きが――出力は変わってないのに』

 

「なるほど。調整不足、さらに違和感――貴様“合一”してないな!!」

 

『え?』

 

『――必要ない!!』

 

 エリオの疑問を吹き飛ばすように、グレートクラナガンの悲痛な叫び声が轟く。

 だがしかし、ゼストは止まらない。

 その鍛え抜かれた戦士の身体を旋転させて、巨大な柄を鈍器に変えて――放たれた。

 

「この愚か者がぁあああああ!!」

 

 めり込む。

 グレートクラナガンの胴体に紅蓮に燃え盛る棍棒の如き一撃がめり込み、その巨体を吹き飛ばす。

 追加装甲がさらに破砕し、その欠片が飛び散り、ガラガラと大地に跳ね返って悲痛な音を奏でた。

 

『くぅううう!!』

 

 その衝撃にエリオはコクピットでストラーダにしがみ付き、歯を食いしばりながら耐えた。

 耐えながら叫んだ。

 

「クラナガン! 合一ってどういうこと!? まだ何か足りないんですか!?」

 

 コクピットの中に響き渡るように声を張り上げるエリオ。

 それに答える声があった。

 

『――エリオ。よく聞け。私の本来は武神。今の生体電流システム、それはあくまでも仮登録したパイロットで動かすためのシステムだ。通常戦闘には支障は無いが……』

 

「全力は出せない、の?」

 

『……ああ。もしも君が私を動かし、このエグジストブレードを動かすには……合一。すなわち融合する必要がある』

 

「それなら!」

 

 今すぐにでもやるべきだ。

 エリオはその意味を理解する暇もなく叫ぶが。

 

『しかし、それは私の敗北が君の死に直結する!!』

 

「!?」

 

『君はまだ若い。そして、UCATに登録している戦士ではない。君はあくまでも善意の乗り手だ』

 

 クラナガンが応える。

 その己の魂だけで巨大な刀身を掲げて、再び振り上げる暇も無くゼストに吹っ飛ばされた。

 

『だから、私が戦う! 君は私のサポートをしてくれるだけでいい! 思いだけで十分だ! 命までは必要ない!!』

 

 撃ち出されるゼストの衝撃波。

 それをラウンドプロテクターで防ぎ、グレートクラナガンは重たげに刃を振るってゼストと激突する。

 しかし、遅い。

 彼の処理限界を超えているのか、今までと同じ速度にも関わらずエリオは今身体に満ちる力とは不釣合いだと思えた。

 だから。

 

「合一しよう、クラナガン」

 

『駄目だ!』

 

「言った筈だ! 僕は護って見せると! 君は僕に勝利を齎してくれると!!」

 

 叫ぶ。

 叫んで、ストラーダを握り締めながらエリオは涙を零して、告げた。

 

「やく…‥そくは…‥まもらないといけないんだよ、クラナガン」

 

 僕らは誓ったのだから。

 Tes.

 その聖なる契約に殉じると。

 

『……』

 

 数秒の沈黙。

 だが、永劫に長いと思えた。

 命の危機に晒されながら体感する走馬灯のように。

 

『分かった』

 

 そして、答えが返ってくる。

 

「本当!?」

 

『だが、約束してくれ。決して無理はしないと、死なないための努力は私はする。けれど、全てを決めるのは君だ。私の操縦システムを君に全権委託する』

 

 手に握っていたストラーダがその床下から開く亀裂に飲み込まれた。

 そして、エリオの周囲に青い光が溢れて――

 

 

「二度目の敗北を噛み締めろ、クラナガン!」

 

 

 ――エリオは

    ――クラナガンと

       ――化していた。

 

 

『おぉおおおお!!!』

 

 繰り出される刺突。

 それをエリオは叫びながら、グレートクラナガンの両腕を使って防いだ。

 

「ぬ!?」

 

 突き刺さる矛先、絶叫を上げたいほどに痛い。

 痛い、痛い、痛い。

 全身が痛かった。砕けた装甲が痛みとしてフィードバック、操者に襲い掛かる、痛覚として、現実の傷として。

 命すらも共有しているに違いない。

 だけど。

 

(クラナガンは今までこの痛みを一人で耐えていたんだ)

 

 エリオは我慢する。

 幼い、もっと幼い子供の頃の自分を考える。

 優しかった両親の思い出。一人で転んでも起き上がるように言われた、その時の気持ち。

 なんで起こしてくれないの?

 なんで優しくしてくれないの?

 考える、考える。

 

 そして――エリオ、君は強い子だから一人で起き上がれるよ。

 

 かけられたのは優しい言葉。

 偽りの記憶だとしても、それが大切だった。

 連れ去られた研究所で味わった実験はもっと痛かった。泣き叫んだ。

 でも、この痛みに比べてはどれだけマシだったのだろうか。

 誰かの為に耐える痛みはこれほどに痛くて、けれども耐えなければいけないと勇気が湧き上がる。

 

『ゼェストォオオオオ!!』

 

 グレートクラナガンの口元のフェイスガードが吊り上がる。

 瞳に電光の如き光を宿して、エリオは、クラナガンは、腕を振り抜いた。

 

「ぬっ!!?」

 

 ぶん殴った。

 迫っていたゼストを殴り飛ばした。

 吹っ飛んだ、まるで投げ込んだ野球ボールのように、吹き飛んだ、大地に叩きつけられて、粉塵を巻き上げる。

 

『ハァ、ハァ』

 

『エリオ。よくやった』

 

『……クラナガン?』

 

 二重に響く声。

 

『合一に成功した。ストラーダから得た君の子体自弦振動によって上手く調整が出来たようだ』

 

 僕の武器。僕のデバイス。それが故に成功したのだといわれて、エリオは嬉しくて笑みを浮かべようとした。

 そこでようやく彼は気付いた。

 自分の視点が変わっていることに。

 

『こ、これが?』

 

 エリオは巨大な巨神そのものとなっていた。

 自分の手足のように感覚が伝わり、反応がある。まるで自分の身体が装甲を纏ったような重み、けれど力強い。

 

『ああ。これが合一だ。命を共有する故に出来る感覚の同調、武神本来の操縦方法』

 

『そうなんだ』

 

 すると、エリオは先ほどまで味わっていた痛みが少なくなっていることに気付いた。

 オートリザレクションが昨日していることもそうだが、おそらくクラナガンが演算処理と同時に痛覚の減殺化を行っているのだろう。

 それがありがたくも申し訳ないような気がした。

 

「は、はははは!!」

 

 その時だった。

 

『!?』

 

 声がした。

 忘れようのない声が。

 粉塵を吹き飛ばし、額から血を流すゼストが其処にいた。

 

「合一を果たしたか! ならばいい。ならばこそ、戦う価値がある!」

 

 轟々と唸りを上げて、地面に突き刺さる巨槍。

 それに手を当てて、持ち上げながら叫ぶ。

 

「アギト! 炎熱の出力を上げろ!!」

 

 巨大なる槍、それが握り手から火が伸びていく。

 メラメラと可燃物でもないのに燃え盛り、それは美しいほどの炎を槍と化して、グレートクラナガンの剣と相対する。

 

「アギトの焔。B-Spの聖槍ほどではないが、武神如き灰も残さずに焼き尽くすぞ!」

 

『ならば、その焔ごと叩き切るまで!』

 

『これが最後の勝負だ!! 負けて、負けて、けれど最後には僕らが勝つ!!!』

 

 三度目の仕切りなおしの決闘。

 それが始まり、瞬く間に激化した。

 

 二つの姿が掻き消えた。

 

 二騎が風となって、舞い踊る。

 戦場そのものを嵐で包み込むように走りながら、大剣を、巨槍を、叩き付け合う。

 粉砕せよ、巨槍を!

 爆砕せよ、大剣を!

 蒼い粒子が、紅い火花が、お互いを喰らい合うように激突、激突、突撃突貫。

 誰もが手に汗握る。

 誰もが息を潜める。

 誰もが肝を冷やす。

 誰もが魂を燃やす。

 

『おぉおおおおお!!!』

 

「おぉおおおおお!!!」

 

 若き闘士が、偉大なる戦士に挑みかからんとする光景。

 それはすなわちベルカの騎士同士の決闘に他ならない。

 その身に叩き込まれた烈火の将、そしてクラナガンが放った剣術の数々を身体で覚えて、さらに喰らい尽くしていくエリオの剣技が、熟練たるベルカの騎士ゼストの槍技に挑みかかる。

 危うく、凄まじき、荒々しく、言葉を失う絶景。

 だがしかし、それはどこか楽しげでもあった。

 必死に挑みかかるグレートクラナガン、それと打ち合うゼストは丁寧に矛先を交えて、弾き、受け止め、斬り返す。

 荒々しき過剰殺戮武芸破砕の宴。

 天よ裂けよ、地よ割れよ、何もかも顧みない、何もかも背負いして戦う勇猛なる猛獣たちの戦い。

 クランガンと合一化したエリオの全身神経は膨大な演算処理を誇る機械と一体化し、人間の動態限界を超える速度で、思考速度で、あらゆる判断を下し、巨剣を叩き付ける。

 クラナガンと相対するゼストはアギトのサポートを受けて、出力を上昇させ、人体反応を超える速度の斬撃を予測と経験による未来予測に匹敵する六感で悟り、巨槍を打ち付ける。

 それには魔法が関わらない。

 それには兵装が関わらない。

 合一を果たし、グレートクラナガンの追加武装にもまたリミッターが外れていた。今ならば肩に付けたベルセルクカノンも、両手から繰り出すスパイラルキャノンダスターも放てるだろう。

 だがしかし、暇が無い。余裕が無い。それを繰り出す暇が与えられない。

 ゼストの肉体はあらゆる魔法が、大気を震わせ、障壁を張り、巨塊を粉砕するための射撃魔法もある。

 だがしかし、暇が無い。余裕が無い。それが無粋だと思えるほどに敵が強い。

 故に。

 打、打、打。

 破、破、破。

 前に進むために、進みを止めるために、破壊を撒き散らす。

 永劫に終わらない戦いのロンド。

 互いに力尽きるまで続くかと思えた舞踏。

 

 その時だった。

 

『信じようよ、自分の世界を』

 

 歌が聞こえた。

 

『護ろうよ、大切な誰かを』

 

 音すらも凌駕する鋼鉄を叩き付け合いながら、歌が聞こえる。

 

『突き進もうよ、友達が倒れても』

 

 誰の為に突き進むのか、誰の為に戦うのか。

 

『歩き出そうよ、どんなに辛くても』

 

 まだ迷ってる、エリオは迷ってる・

 だけど、それでも。

 

『私の前には誰かがいる』

 

 目標とすべきと言われた人物が笑いながら、矛先を打ち付けて。

 

『私の後ろには誰かがいる』

 

 護らないといけない人が沢山後ろにいて、それを受け止めて。

 

『仲間が、友達が、好きな人が待っているから』

 

 勝ち抜くために矛先を弾いて、逸らし。

 

『私たちは突き進む』

 

 足を踏み出し、無限駆動が唸りを上げて直進して突き進み。

 

『私たちは武器を取る』

 

 手に持った巨大な刃を、声にならない声で振り翳して。

 

『私たちは信じあう』

 

 目の前に迫る槍の柄、燃え盛る焔の盾。

 それを。

 

『手の平を突き出して、掴み取る』

 

 打ち砕く。

 

『ただそれだけは間違ってないから!』

 

 断てると信じて、エリオは真っ直ぐに信じて振り下ろした。

 

 遠くから響く歓声の咆哮に応えるように、エリオは世界に響き渡る絶叫を吼え上げた。

 

 

 

 

 

 決着は付いた。

 疑似物質で造り上げた巨槍の柄を粉砕し、鋼鉄をも灰に還す紅蓮の炎を突き破り、グレートクラナガンの一刀はゼストを打ち飛ばした。

 

「がっ!!」

 

 血が流される。

 己へと迫る巨大なる刃、それを神がかり的な速度で障壁を張り、さらに身体を捻じ曲げて、回避しようとしたゼストの速度。

 だがそれでもなお、負傷を負った。

 決着は付いた。

 

「ふ、ふふふ……敗れたか」

 

 衝撃で吹き飛ばされた十数メートル先の虚空で、ゼストが薄く微笑みながらそう呟く。

 同時に融合を解除し、その傷を全て背負ったらしいゼストとは裏腹に無傷のアギトが飛び出した。

 

「だ、旦那! 大丈夫!?」

 

「ああ、平気だ」

 

 唇から血を滲ませながらも、ゼストはアギトを傍らに抱きしめて――こちらに構え続けるグレートクラナガンを見た。

 

「いい太刀筋だったな」

 

『これは僕だけじゃない』

 

『私だけでは貴方には勝てなかった』

 

 エリオとグレートクラナガンの声が重なり合う。

 

『私たち二人で貴方を凌駕した。それだけです』

 

 その手に握られたのは勇壮なる巨剣。

 魔を斬り、悪を切り裂き、闇を払い――神を断つ。

 斬神巨刀と化したエグジストブレードを構えるグレートクラナガン。

 その姿こそ傷だらけだったが、僅か数分前よりも大きく、そして力強く輝いているような気がした。

 

「なるほど。ならば、名も知らぬ若き少年よ。名前を聞いておこうか」

 

 一瞬息を飲んだような間が開いて。

 

『エリオ。エリオ・モンディアルです。ゼスト・グランガイツ』

 

「なるほど。覚えておこう。いずれまた会う時までな」

 

 そう告げた瞬間、ゼストが千切れたコートの裾を翻して、アギトを包んだ。

 

「ああ、そうだ。一言言っておく」

 

 静かに、けれど響き渡るように。

 

「俺の役目は果たした」

 

 それと同時にその周囲が歪む。

 

『っ! まて!!』

 

 手を伸ばしたグレートクラナガン。

 その一瞬前にアギトがべーと舌を突き出して、二人の姿が掻き消えた。

 

『無理だ。エリオ。転移魔法――いや、転移魔法に対してはジャミングをしいている。高レベル召喚術士による召喚転移だ、間に合わない』

 

 グレートクラナガンが解析した結果を言葉に出す。

 おそらくは今までのガジェットなどもその召喚術による転移だったのだろうと、エリオに告げるクラナガンの音声素子は告げた。

 

『そうか。でも――』

 

 エリオは後ろに振り返る。

 グレートクラナガン、彼が振り返った先には喝采を上げる陸士たちが、人々が、そして仲間たちが居た。

 

 

『僕は護れたんだ!』

 

 

 腕を振り上げて、咆哮を上げる。

 それと同時に皆がグレートクラナガンに走り出した。

 

 

 

 

 

 

「う、うぅ~。エリオ~、立派になったね。私保護者なのに置いてかれそうだよ」

 

「ほらほら、泣かないで」

 

「嬉し泣きだよ、はやて」

 

「男の子だね。ユーノ君とかもあんなんだったのかな? 司書を務めるようになってから凛々しくなっちゃったけど」

 

 悲しい涙から嬉しい涙に切り替わったフェイトが、ポケットから取り出したハンカチで涙を拭っていた。

 他の人々も既に感化されたのかパチパチと拍手している。

 

「友情、努力、勝利! やったね、佐山君」

 

「うむ。これで新庄君の喜びバリエーションが13個ほど増えた。後で編集して新庄君アルバム花開く時Ver21として作成しなくては……む? 新庄君、何故私の襟に手を」

 

 ギューと無言で佐山のネクタイを締め上げる新庄。

 青白くなっていく佐山の顔をレジアスは楽しげに見ると、やれやれと肩を鳴らして。

 

「まあ無事に終わったのぉ」

 

 息を吐いた時だった。

 プルルルル。

 古めかしいベルの音がした

 

「む?」

 

「私が出ます」

 

 シュタッと黒子が持ってきた黒電話を、オーリスは頭痛薬を飲むことを決めながら受け取り「もしもし?」と訊ねた。

 

「え? ふむふむ、分かった。伝えておく。ああ、関係者はここにいるから問題は無い。病院に搬送してくれ」

 

 ガチャンと電話を切り、オーリスが振り返った。

 

「レジアス中将。それにはやて部隊長」

 

「む?」

 

「なんや」

 

「――機動六課隊舎が敵の襲撃で壊滅したそうです」

 

 沈黙。

 沈黙。

 五秒ほど経って、はやては息を吸い込み、叫んだ。

 

 

「なんやて~!!!!」

 

 

 

 

 

 地上本部攻防戦終了

 

 第一回 スカリエッティ拿捕大作戦 に移行する

 

 

 

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