ミッドチルダUCAT   作:箱庭廻

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続きです


第一回 スカリエッティ拿捕大作戦 その1

 

 夜が明けた。

 日付は過ぎ、明るくなった空が浮かぶ。

 けれども、昨日とは違う光景があった。

 壊れ果てた建物。破壊されつくした大切な場所。

 機動六課隊舎、それが全壊していた。

 そして、それを悲しげに見つめる者たちがいた。

 

「……酷いわね」

 

「そう、だね」

 

 スバルとティアナが見上げて呟く。

 力不足を嘆くかのように唇を噛み締める彼女たちの肩を叩くのは、ギンガとティーダ。

 

「落ち着いて、スバル」

 

「そうだ。ティアナ。幸い死傷者はいないんだ、建物なんざ幾らでも立て直せる」

 

「そうですね。そうですよね」

 

「ギャフー」

 

 二人の言葉に応えるのはキャロとフリード。

 俯いていた顔を上げて、拳を握り締める。

 

「……ヴィータ隊長、シャマル先生、ザフィーラが頑張ってくれたおかげですよね。まさか、まだ戦闘機人が二人も残ってたなんて」

 

 エリオが呟く。

 あの時、地上本部での戦いをめくらましに機動六課の隊舎に二人の戦闘機人が現れたのだと聞いていた。

 無数のガジェット――それも新型のⅣ型に、二人の戦闘機人と黒い人型の召喚獣を連れた召喚術士によってヴィヴィオが攫われた。

 隊舎に残っていたヴィータとリインフォースⅡ、シャマルとザフィーラが応戦したものの、地雷王と呼ばれた召喚獣の震動で建物は崩壊し、追撃を振り切られた。

 まだ軽傷だったヴィータは手当てもそこそこに仕事に戻り、重傷を負ったシャマルとザフィーラもまた今は病院で手当を受けているらしい。

 重傷者二人、軽傷者多数、施設全損。

 それが結果だった。

 

「僕が……僕がもっと早くあの人を倒していれば」

 

 護られたと信じたのに、護りきれていなかった。

 自惚れは自覚となって重くエリオの心に圧し掛かる。

 

「そんな。エリオ君は精一杯やったよ! あんなに強い人を倒したんだもん!!」

 

「そうだよ、エリオ」

 

「そう。エリオは精一杯やったわ。むしろ私たちの方が」

 

 ジュエルビースト一体を倒した。

 それだけの結果――常識的に考えればそれだけでも大収穫だというのに、フォワード陣たちは力が足りないと嘆く。

 もっと強く。

 もっと頑張っていれば。

 誰もがそう悔いながら……

 

「へーい、モロコシ一丁!」

 

「あ、俺ヤキソバで」

 

「私、豚汁ね~」

 

 崩壊した機動六課の施設の傍、炊き出し中の陸士たちから彼女たちの感情は砕かれた。

 つい一時間ほど前にガラガラと手製屋台を引きずって、現場検証から邪魔にならない位置で炊き出しを始めたミッドチルダUCATの陸士たちの下に、休憩中の陸士や六課隊員たちが群がっていた。

 

「あ、俺バターじゃがで」

 

「私はモロコシかな~。スバル何本食べるー?」

 

「え? アタシ三本!」

 

「あ、僕。バターじゃがください!」

 

 そそくさと駆け寄り、貰うギンガとティーダ。

 所詮UCATだった。

 そして、それに即座に答えるスバルとエリオもまた適応力が高いと言わざるを得ないだろう。

 

「……もうやだ、この人たち」

 

 体育座りで地面にしゃがみこみ、のの字を書き出すティアナ。

 

「てぃ、ティアさーん! 落ち込まないでー!」

 

 必死に励ますキャロだった。

 

 

 

 

 

 

 

 地上本部、中将室。

 そこに一人の女性が訪れようとしていた。

 

「――レジアス中将、先日の被害報告がまとまりました。チェックをお願いします」

 

 プシューと蒸気が抜けるような音と共にオーリス・ゲイズが室内に入る。

 と、同時に右を見た。

 ――マッサージ椅子には誰もいない。

 さらに左を見た。

 ――ルームランナーに走っている姿はない。

 前を見た。

 レジアスらしき後姿はちゃんと座っていた。

 

「中将。書類です」

 

 ほっと息を吐いて、オーリスが近づいた。

 しかし。

 

「……が~」

 

「?」

 

 何か奇妙な声が聞こえた。

 

「中将?」

 

 呼びかけるが反応はない。

 ゆったり、ゆったりと揺れながら、椅子を揺らしているだけ。

 

「……」

 

 カツカツとオーリスが近づき、その椅子の頭部分を掴んでこちらに向けさせた。

 

「が~……ご~……」

 

 レジアスがそこにいた。

 ただし、アイマスクを着けて。

 寝ていた。居眠りこいていた。

 

「……」

 

 オーリスが笑う。

 こめかみに血管を浮かべながら、書類を机の上に置いて。

 懐から長くて、白くて、分厚くて、ぎざぎざの角度が入ったものを振り上げると。

 

「起きろぉおおおお!!!」

 

 パシーンとひっぱたいた。

 ひたすら殴った。

 叩きまくった。

 

「ぬお!? な、なんだ!? まだ夜か!? めが、目がぁみえんぞぉおおお!?!」

 

 慌てて起きて、でも、アイマスクで前が見えないレジアスを涙目でオーリスは叩く。

 

「この馬鹿親ー!!」

 

 ぎゃー!

 という景気のいいレジアスの叫び声が地上本部に響き渡った。

 

 今日も地上本部は平和だった。

 

 

 

 

 

 そんな声は下の階でも聞こえた。

 廊下で片腕にギプスを嵌めた陸士と片目を覆う包帯を付けた陸士が、ばたばたと騒がしい廊下の邪魔にならないように隅っこで対局していた。

 

「おー。今日もレジアス中将の悲鳴が聞こえるなぁ」

 

 プルプルと震える指先で、駒を摘む陸士。

 

「だな」

 

 それに答えて、もう一人の陸士も駒を摘む。

 彼らがやっているのは将棋台に、将棋の駒を使ったゲームである。

 ただし、山崩し。

 神経を尖らせて、二人の目つきが真剣さを帯びていた。

 

「しかし、どうなるんだろうなー」

 

「あぁ?」

 

 ポツリと片腕ギプスの陸士の言葉に、片目包帯が首をかしげる。

 

「ほら、地上本部はまあ無事だけどよ。機動六課壊滅したらしいじゃん」

 

「らしいなー。ああー、ティアナちゃん無事だよなぁ。俺、昨日デバイスで撮影しちゃったよ。スパッツ美少女なスバルちゃんもいいけど。ツンデレは世界の宝だよな」

 

「ティーダがいなくて良かったな。お前殺されてるぞ」

 

 確かに。

 と、同時に頷く二人。

 

「ま、あれだ。俺が言いたいのはこのままで平気か、ってことだよ」

 

「あー?」

 

「だってよ。あ、確かスカリエッティだっけ? 昨日攻め込んできた馬鹿犯罪者」

 

 先日、何名かの陸士と聖王教会の騎士によって攻め込んできた戦闘機人の大半を鹵獲したらしい。

 一名ほどロビーで上着を着せただけでほぼ全裸の赤毛の戦闘機人を運んできた陸士が、帰りを待っていたらしい以前逮捕された戦闘機人の一人に蹴り飛ばされて、涙目で「お前が死ぬまで、殴るのを止めないッスー!! うわーん!!」 と、タコ殴りにされていらしいが、まあどうでもいいだろう。

 そこから尋問で手に入れた情報によると、敵の名前はジェイル・スカリエッティということがミッドチルダUCAT全員に通達されていた。

 

「あれがさ。なんも言ってこないの不気味じゃね?」

 

「まあ確かになー」

 

 プルプルと指先で駒を摘み、息を止めながら運ぶ片目包帯陸士。

 その前に。

 

「ほれ」

 

「ん?」

 

 片手を鼻に突き刺して、舌をベロベロと出した片手ギプス陸士の顔があった。

 

「ぶっ!!!」

 

 息を吹き出し、駒が反動で落ちる。

 同時にガラリと積んだ将棋の山が崩れた。

 

「ひゃっはー! オレの勝ちだー!! テメエ、ちょっとファーストフードでスマイル頼んで来い! あ、約束どおり――『僕は君に恋をしてしまったんだ。ああ、僕の心は今にも張り裂けそう、それを防ぐためには君の笑顔が必要なんだ! さあ笑顔を見せてくれ!』 と、あとポーズ忘れるなよ!!」

 

「ひ、卑怯だぞ!!」

 

「勝てば官軍じゃー!!」

 

 うるせー! と、逆切れを起こした片目包帯陸士が将棋台をひっくり返した。

 やるか、テメー! と、乱闘が始まり、それと同時にその背後で「こ、これで最後だ……」と、慎重に慎重を重ねてジェンガをやっていた陸士の手元が狂い――具体的には崩れた。

 

「ノ、ノノノノ――ノォオオオオオオオ!!!」

 

 断末魔の如き悲鳴が上がる。

 両手を頬に当てて、腰をくねくねと捻り、ジェンガ陸士が血の涙を流し、振り向いた。

 

「オバエラナルャッデンディスカー!?」

 

「人語じゃねー!?」

 

 ろれつが廻らない挙句に、人外の叫び声を上げて、ジェンガ陸士が参戦。

 馬鹿の醜い争いが始まった。

 担架で運ばれている隊員が巻き込まれてぶち切れを起こしたり、近くの仮眠室で寝ていた陸士がデバイスを持ち出して「一晩中戦ってたんじゃー!! 寝かせろや、ごるあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」と、血走った目で参戦するなど。

 カオスな状態になっていく。

 

 しかし、これもまたいつものことである。

 

 

 

 

 

 

「……騒がしいなぁ」

 

「仕方ありません、主。これが彼らのいつものなのです」

 

 そんな喧騒を見ながら、廊下を歩いていた二人の女性がいた。

 八神 はやて。

 そして、その侍従にして烈火の騎士、シグナム。

 積み重なる頭痛に冷えピタを貼って対応しているはやてと違って、シグナムは何を見ても平然としていた。

 

「……よく平気やな、シグナム」

 

「まあ慣れました。お忘れですか、主。私の本来の職場はここなのですよ?」

 

 そう告げると、シグナムはふぅっと息を吐いて、少しだけネクタイを緩めて、チラッと襟首を開いた――瞬間、バッとカメラを構えて近づいてきた陸士の一人の腕を掴み「甘い、シグナム背負い!!」と、投げ飛ばした。

 

「ァー!!!」

 

 ポーンと飛んでいく陸士が壁に激突し、その次の瞬間、彼は鈍器を持った陸士たちに殴打されていた。

 抜け駆けすんなー! この不浄ものぉおおお!! お仕置きよ、お仕置きよ! 飛び散る罵声に加えて。

 テメエ、しかも失敗しやがってー! と、本音が混ざった怒りだった。

 

「……油断しないでください、主」

 

 ネクタイを締め直し、慣れた仕草で手櫛を使い髪を整え直すシグナムだった。

 

「今、シグナムに対する評価が70度ぐらい横に歪んだわ」

 

「まだ私でも主の刺激になれるのですね。嬉しいです」

 

 私は嬉しくない。と、少しだけはやてが凹んだ。

 シグナムが首を僅かに横にかしげると、はやてを先導するように。

 

「では、行きましょうか」

 

 辿り付いたエレベーターの開閉ボタンを開けた。

 

 ガーと開いた先には『きゃもーん!』『許可します』『ウェルカム!』という立て札に、親指を立てて、構えた三人の全身白タイツにネコ耳を付けた男たちがいた。

 

 

 具体的にはこんなの↓

 

 

 

 

「……」

 

 言葉も語らず、はやては閉めるボタンを押した。

 ガーと閉まっていく彼らはずっと笑顔を浮かべたままだった。

 チンッと閉じた扉にはやては一言。

 

「あれ、なに?」

 

「ああ、UCATに住み着いているネコ耳精霊ですね。運がいいですよ、主。滅多に出てこないですから」

 

 シグナムは平然と答えた。

 その冷静さが逆に恐ろしかった。

 

「あんなおぞましい精霊がおるかー!!!」

 

 絶叫だった。

 はやては頭を押さえて、叫んだ。

 

「では、こっちのエレベーターを使いましょう」

 

 もう片方のエレベーターの開閉ボタンを押した。

 チーンと音を立てて開かれたドアの内部には――

 

「ほら、奥さん。ちょっとぐらいいじゃないですか」

 

「え、でも、私には夫が!」

 

 何故か酒屋の格好で、エプロンを付けた女性に迫る光景があった。

 

「……」

 

「……」

 

 二人と二人の視線が合う。

 エレベーター内の二人はいそいそと離れると、隅に置いた板を取り出し、見せた。

 

『エレベーター昼メロ劇場第53話 【奥さん、ちょっといいじゃないですか。寂しいんでしょ~】の巻』

 

「ご視聴ありがとうございましたー」

 

「ま――」

 

 バンッ!!

 

 はやては無言でエレベーターの扉を手動で閉めた。

 

「……ねえ、シグナム。あれなに?」

 

「ああ。あの二人はたまにエレベーターで寸劇やってるんですよ、さすが主。運がいいですね」

 

「あほかー!!」

 

 絶叫だった。

 はやての常識がまた砕かれた。

 粉々だった。

 

「あ、主。今度は普通ですよ」

 

 ポーンと音を立てて開かれたエレベーターは綺麗だった。

 

「もういい。さっさといくで!」

 

 血気盛んにはやてが踏み出す。

 が、一瞬ピタッと足を止めて。

 

「なあ、シグナム。罠とかあらへんよね?」

 

「なにいってるんですか」

 

 シグナムは自然に微笑を浮かべて。

 

「エレベーターに罠なんて常識的に考えてあるわけがないでしょう?」

 

「アンタが言うなぁああああああああああ!!」

 

 はやての三度目の絶叫だった。

 

 

 

 

 

 二人が向かう。

 エレベーターで階層を昇り、二人が向かったのはある一室だった。

 

「失礼します」

 

 それはある一室。

 ミッドチルダUCATの最高司令官である人物のいる場所。

 

『どうぞ』

 

 声をかけると、中から声がした。

 扉が開く。

 そして、はやてとシグナムはその内部へと入った。

 

「機動六課部隊長、八神はやて二佐です」

 

「機動六課ライトニング分隊副隊長 シグナム二等空尉です」

 

 踏み出す、中へ。

 そして、待ち構えるその人物にはやてとシグナムは敬礼した。

 

 

「ようこそ、機動六課の部隊長と副隊長」

 

 

 そこにいるのはレジアス・ゲイズ。

 そして、その副官たるオーリス。

 

「何用かね?」

 

 静かに訊ねられる問い。

 それに、はやては静かに告げた。

 

「今回の一件。犯罪者、ジェイル・スカリエッティ」

 

 彼女は告げる。

 ただ思いの為に。

 プライドを捨てて、誰かを護るためだけに。

 

 

「その捜査協力を申請します。海と陸、その共同捜査を!」

 

 

 今、この瞬間に歴史に刻まれる1ページが生み出された。

 

 





 今回のナンバーズ


1.劇的! ナンバーズ


 一人の少女がいた。
 数ヶ月前に逮捕された少女は囚われていた……筈である。

「え、えっと……こうすればいいのかな?」

 後ろ髪だけを長く伸ばしたポニーテールが特徴な少女。
 彼女は扇情的なポーズを取っていた。
 その身に纏った白いドレス。祈りを篭めて、願いを溢れさせたかのような純白のドレス。
 それは世間一般的にはこう呼ばれる格好だった。
 新婦、と。
 ウェディングドレスを纏った少女は手を伸ばし、しゃがみこむような姿勢を取る。
 どことは言わないがむきゅっという音がした。

「次はこうですよね?」

 煌めく光の乱舞を浴びながら、ディエチはドレスのスカートを指で摘むと、少しだけ膝を曲げた、可愛らしいポーズを取った。
 パシャパシャとシャッター音が鳴り響く。
 そして、そのままターン。
 ヒラリと白いドレスが風を孕み、ふわりと踊るように彼女を美しく描き出す。

「どう、かな?」

 手に持ったブーケの香りを嗅ぐようなポーズ。
 後ろの背中部分が露出しており、それは息を飲むほどに色気と清純さが混合した矛盾した美しさだった。

「えっと……え? 次はそうするんですか?」

 ディエチが息を飲んだ。
 顔が蒸気したように赤く染まり、少しだけ後ろ手でモジモジした後に。

「す、少しだけだからね」

 するりと絹ずれの音がした。
 パシャシャシャとシャッター音が鳴り響く。
 今この瞬間の彼女を捉え、写すための音が鳴り響いた。

「……こらー! ディエチー! そんなはしたない子に姉は育てた記憶は無いぞー!!」

 その時、抗議するような声が響いたが。

「動いたらメーね!!」

「あ、痛! やめて、絵筆投げるのはやめて!」

「うわー、ピエール先生の絵筆投げだー!!」

「ミリ単位での微動ですら怒る先生だ! チンクちゃん、命が惜しければ動かないほうがいいぞ~」

 などという賑やかな撮影会でした。まる。



 ――月刊ナンバーズ(自費出版、ミッドチルダUCAT内限定販売) 新表紙はウェディングドレスディエチ。
 今月号から四コマなんば~ず(著作ピエール陸士)に、チンクが登場したとかしなかったとか。
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