ミッドチルダUCAT 作:箱庭廻
ミッドチルダ。
それは各管理世界における治安機関である管理局の前身、魔法文明の発祥地であることから地上本部が置かれた場所。
主要都市はクラナガンであり、その中枢に地上本部は存在していた。
地上本部とは銘打っているものの、実質的な権限と予算は本局に持ってかれており、戦力は常に枯渇し、予算不足できりきり舞いだった。
それを解決する手段をとある悪役を任じる青年が告げた。
「ふむ。無いものならば奪えばいいのではないのかね?」
なんという名案だろう。
秘書に任命したとてつもなくまロい美少女に膝枕させながら告げた適当な言葉は電撃のように地上本部を駆け巡り、武装隊に行き渡った。
無いなら奪え。
どこからどうみても強盗の発想だったが、別に犯罪をする気は無い。
悪人から奪えば合法なのだ。
例えば――陸士たちを悩ませるあのにっくき丸々メカとか。
それはミッドチルダ地上本部がミッドチルダUCATと言う名称になってから数十年後のお話である。
――ガジェット反応をクラナガン廃棄都市二番で発見。
ただちに武装隊は出撃せよ。
そんな警報が発令した数十秒後、選び抜かれた陸士たちが勢ぞろいしていた。
そして、声を上げていた。
絶叫である。
敬礼をする。
一糸乱れぬ動きで、陸士たちが血走った目で叫んでいた。
「野郎共! 準備は出来たかぁあああ!!」
「OKぇええだ!!!」
「今日こそ捕縛するぞおおお!」
数十人にも及ぶ陸士たちが一斉に絶叫を上げる。
その姿は大変醜い。
美的センスを持ち合わせ、醜いものを許さない奴ならば「汚物は消毒だぁあああ!」と叫びながら火炎放射器の引き金を引きそうな光景だった。
持っているものも大変怪しかった。
一人はドリルを手に持ち、一人は頑丈そうな縄を持ち、一人は何を捕らえる気なのかもわからない巨大な虫取り網を、最後の一人に至ってはテレビカメラの撮影スタッフが持ってそうなカメラを持っていた。
「俺たちの任務はなんだ!?」
「ガジェットの捕獲であります!」
「ガジェットの無力化であります!」
「ガジェットの解体であります!」
「ガジェットの転送であります!」
「美少女の撮影であります!」
「――よろしい!」
明らかに一人はまったく関係ないことを叫んでいるが、誰も気にしない。むしろGJと指を突き出し、笑う。
どうでもいいことだが、魔法素養が高い人間には女性が多いことはご存知だろうか?
それも美少女及び美女が多い。
去年のミッドチルダUCATの流行語大賞は魔法少女である。その前はスパッツ・フォームだった。
ちなみにこの数ヶ月、人気なのは海からのにっくき派遣部隊な機動六課のスバルとティアナとキャロの三名である。
え? 海からの部隊なのに、人気があるのかって?
美少女の存在は全て優先するのだ。
フェイトそん可愛いよ、フェイトそんと叫ぶ陸士も多い。
魔王様、俺を撃ってくれ。いや、俺こそ撃ってくれ! この興奮の登る頭を冷やしてくれ! と叫ぶ馬鹿も多数である。
備考だが、半ズボンが輝くエリオにも実は結構な人気がある。
エリオきゅん、はぁはぁとクラナガンの町を駆け巡るエリオの姿に鼻血を噴き出す陸士も実はいたりする。
エリオが男の子か男の娘なのか、3日前に討論会が発生し、Cランク魔導師なのにも関わらずAAAランク魔導師を超える戦闘能力で陸士たちが乱闘をしたのは記憶に新しいだろう。
「よろしい、お前らは立派な戦士だ! というわけで、出撃するぞ!」
「おぉお!」
士気だけは高く、陸士たちが思い思いにバイクに跨り、車に乗り、一人はクラウチングポーズを取り、一人はローラーシューズを履いた。
速度もばらばらに阿呆たちが土煙を上がる速度で出撃する。
廃棄都市二番へと向かって。
己の給料とボーナスのために。
「ぶるぁああああああああ!!!」
「ぬぉおおおおおおおお!!」
「HA-HAHAHAHAHAHA!!」
一名ほど直視してはいけない形相で飛行魔法の亜種であるベクトル操作魔法を駆使し、新幹線に迫りそうな速度で駆け抜けていた。
一名ほど激しく汗を撒き散らしながら、漢臭い笑みで走っていた。
一名ほど脳内で溢れるアドレナリンによるランナーズハイで、恍惚とした笑みでダッシュしていた。
とりあえず子供と一般人には見せてはいけないので、事前にフルフェイスヘルメット着用を義務付けていた隊長の読みは正しかった。
問題は奇声を上げて、道路などを駆け抜けていく陸士たちの姿にクラナガンの一般市民たちの不審度は高まったことだが、今更気にすることではない。元々酷いものだからである。
「よーしっ!」
がががーといつの間に履いたのか、スケートシューズにも似たエッジをアスファルトの上で滑らせて、火花を散らしながら回転する隊長が到着の声を上げた。
「到っ着!」
「到着!」
ぶるぉおおんと瓦礫をジャンプ台にして、ウルトラC級のジャンプで着地したバイク乗り陸士が叫び声を上げた。
同時にその横をベクトル強化及び応用展開した車輪保護用の障壁と、使い捨ての魔力カートリッジによって発生させたウイングロードの車道を通り抜けた車がごがんっとバイクを撥ね飛ばして、停止した。
「ぶべらぁあああっ!」
舞う、舞う、吹き飛ぶバイクと陸士。
スタントアクションもかくやという勢いで廃墟の壁に激突し、酷く捻じ曲がった体勢で陸士はヘルメットごと地面に激突し、バイクはくるくるとアスファルトの上を滑りながら壁に激突し、ちゅどむっという音と共に炎上した。
「……」
「……惜しい男を亡くしたな」
遅れて到着した陸士たちが一斉に合唱。
彼のことは忘れないだろう。彼の部屋に溜め込んであるエロゲーとグラビア写真集と秘蔵に隠している30年ものワインを飲み干すまでは。
「な、なにするだぁあああ!」
瞬間、撥ねられた陸士が起き上がった。
彼はベルカ式魔導師。
肉体の身体強化を専門とする彼は耐久力のみならばサイボーグ並みだった。
「い、生きていたのか!!」
「ふ、仮面が無ければ即死だったな……」
ダラダラとひび割れたヘルメットの下から血を流す陸士。
彼のかっこよさに陸士たちは涙を流した。
ち、惜しい。こいつが死ねばゲームを奪えたのに、という声はきっと気のせいだ。そうに違いない。
「む! お前ら、そんなことをしている場合ではないぞ!」
「え?」
「あそこを見ろ!」
陸士の一人が指を突きつける。
その指先を陸士の一人がジット注視し、残った全員がその先を見た。
そこにはふよふよと空を飛ぶ複数機のガジェットⅡ型の姿があった。
「が、ガジェットだ!」
「給料だ!」
「ボーナスの元だ!」
「まっとれ、俺の晩飯ぃい!」
絶叫を上げて、陸士たちが駆け出す。指を突き出した陸士の指先に注目していたやつだけが、え? ああ、まってよーと慌てて追い出した。
陸士たちは空を飛べない。
一部変態的に壁を垂直歩行出来る奴はいるが、基本的に徒歩である。
故に高速で空を滑空するガジェットを走って追いかけるしかないのだ。
「おのれ、カトンボ!」
「捕まえてやるぅう!!」
とうっと一人の陸士が跳んだ。飛んだではなく、跳んだ。
前を走る同僚を無断で踏みつけて、高々と跳んだ。
「うりゃぁあああ!!」
手に持つのは巨大な虫取り網。
それは見事なフルスイングでガジェットを捕らえて――
「ぁ、ぁああああああああ!!?」
網で捕らえたのはいいものの推力で負けていたのか、そのまま飛び続けたガジェットに引きずられて、陸士は空を舞った。
「ぉおおおおお!!!?」
バーニアを吹かし、可愛い女の子が色っぽくいやいやするかのように機首を振り回し、網を持ったままの陸士がぶるんぶるんと振り回される。
まるでメリーゴーランド。
ただし加減無しで、お空への旅付きだった。
そして、すぽっと数十秒ほど耐え続けた彼の手から虫取り網のもち手がすっぽ抜けた。
「あ~」
ちゅどーんと廃墟の壁に激突し、粉塵が上がる。
「敬礼!」
見送る陸士たち。
同僚を助けるという発想はあったけれど、どう見ても階層七階以上だったので後回しにすることにした。
昇るのはめんどいし。
そして、残った陸士たちも果敢に襲い掛かった。
壁を蹴り上げて、ガジェットに飛び乗り縄で縛りつけようとするものの、亀甲縛りに挑んでいるうちにレーザーで焼かれて失敗。
天元突破ぁああ! と叫びながらドリルを下から飛び上がって叩きつけたものの、完全粉砕しそうだったので、他の陸士が飛び蹴りで中断させたので失敗。
美少女ま~だ~? とかいいながら、【今年のNG大賞】と書かれたディスクを挿入したカメラで撮影を続ける陸士一名。
彼らは頑張った。
けれども駄目でした。
「くっ、手ごわいな、さすがAMF!」
「魔法を全然使ってないような気がするが、気にするな!」
「了解!!」
不味くて有名なジンギスカンキャラメルを噛みながら、陸士たちはガジェット共を見上げる。
ジュンジュンと撃ってくるレーザーはうざいので、手で弾きながらだ。ぺしっと。
え? どうやって手で弾いているかって? そんなのガジェットが出てきてから開発部が「レーザーは反射ぁああああ!」と叫びながら作った鏡面装甲製の手甲でである。
一名ほど途中で拾ったレリックを持っているせいでガジェットに集中砲火を喰らっているが、ベルカ式魔導師にして毎日千回の正拳突きを日課にしている陸士だったため「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁああああああ!」と叫びながらレーザーを殴り倒し。
「最高にハイって奴だぜええええ!! URYYYYYY!!」
と叫びながら、デンプシースタイルをしているのであと一週間は平気だろう。
「しかし、どうやって捕まえるかなぁ」
くいっと首をかしげて、レーザーを避けながら陸士が呟き。
「くそ、あれが美少女だったら俺が全身を使って捕まえるのに!」
と悔しそうに手でレーザーを叩いて陸士が呟く。
「馬鹿野郎! 美少女だったら、この胸に飛び込んでこいと叫んで、熱いキスを交わすべきだろうが!」
げしっと先ほどの発言をした陸士を蹴り飛ばし、ついでに飛んできたミサイルにベクトル変換をかけて、後ろへと受け流した陸士が告げる。
どうでもいいが、こいつらは全てBランク以下の魔導師である。
空も飛べないとても弱い武装隊だ。
彼らにはガジェットは捕らえられないのか!
――そう諦めようとした時!
「諦めるなぁああああ!!」
咆哮と共に、ガジェットたちに上からネットが降り注いだ。
それはとても巨大で、まるで美少女がバインドされたかのようないやらしさでガジェットたちの動きを拘束していく。
「なっ、あれは!」
「お、お前は!」
廃墟の屋上。
そこにネットを投げたのは先ほど死んだはずの陸士だった(虫取り網から放り出されて、飛んで逝った彼である)
「諦めたら、そこでゲームは終了なんだぜ!」
「しかし、どこからネットを!?」
「あいつがくれたのさ!! そう、あの方が!」
そう告げて、屋上の上に立つ陸士が天を指した。
その先には一台のヘリが。
その運転席には一人の男が指を立てていた。
「ヴァ、ヴァイス!」
「ヴァイスの兄貴ぃいいい!!」
ヴァイス・グランセニックが親指を突き出し、微笑んでいた。
陸士たちの中ではヴァイス・グランセニックはとても有名だった。
美少女たちが勢ぞろいする機動六課に配属し、つい六年前にうっかり愛しい妹を誤射してしまったが、それのせいでブラコンに磨きがかかった妹(美少女)といちゃいちゃする日々を送り、なおかつフレンドリーな性格と妹誤射事件以来美少女には決して当てず、悪党だけは抹殺する最高の狙撃主として名を馳せる青年。
しかし、彼は妹にのみ操を立て、よく機動六課の女性陣とコンパを開いてくれるまさしく陸士たちの救世主。
まさに阿修羅を超える男。きゃー抱いてぇええと陸士の薔薇スキーが叫ぶほどのイケメンなのだ!!
「よし、よくやった!」
「やった! やったぞ、捕獲したぞおぉおおお!」
「ボーナスぅううう!!」
陸士たちがハイタッチする。
喜びのあまりフラダンスを踊った。
「よし、回収班を呼べ! 解体班! 奴らの完全な無力化を――」
そう叫んで、まるで美少女に襲い掛かるケダモノのような勢いで陸士たちがガジェットに群がおうとした瞬間だった。
「陸士の皆! そこで止まって!」
声がしましたよ?
「え?」
「全力全開! ディバインバスターァアアアア!」
桃色の砲撃が、彼らの前を通過し、ガジェットを消滅させた。
『ゲェ――――!!!!』
誰しも悲鳴を上げていた。
ヴァイスでさえも、え~という顔をしていた。
屋上の陸士はムン○の悲鳴ポーズだった。
「大丈夫? ありがとう、皆さんが足止めしてくれたんですね」
そういって舞い降りる白い天使。
高町 なのは。
機動六課 スターズ隊長 コールサインはスターズ01 いまだ彼氏なし、狙う時は防御魔法を憶えるのが必要不可欠とされる女性だった。
「な、ななななな」
「お、おおおおおお」
「どうしたんですか?」
ガクガクと陸士たちが揺れる。
震える。
貧乏ゆすりが全身を駆け巡っていた。
「何をするだー!」
「う~ううう、あんまりだ・・・HEEEEYYYY あァァァんまりだアァアァAHYYY AHYYY AHY WHOOOOOOOHHHHHHHH!!」
「陸士の夢と希望を打ち砕いた高町なのは、この俺が許さんッ!!」
「月に代わって、お仕置きよ!」
陸士たちの絶叫が上がり、悪魔のように飢えた陸士たちが絶望の声と共に地面に泣き崩れていった。
「ぇ、ええええええ?」
なのはが戸惑いの声を上げる中、陸士たちの泣き声はいつまでも止むことはなかった。
ヴァイスすらもヘリの中で「空気嫁」と呟いた。
「び、美少女? いや、美女はぁはぁ」
そして、カメラを持った陸士はなのはの周りでシャッターを切り続け、呆然とするなのはの貴重な写真を手に入れた。
数分後、頭を冷やされたが。
「アッ――!!!」
第一回ガジェット捕縛作戦……失敗。
第二十四回ナンバーズ捕獲作戦に移行する。