ミッドチルダUCAT   作:箱庭廻

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第一回 スカリエッティ拿捕大作戦 その2

 

 

 その言葉はどこまでも鮮明に室内に響き渡った。

 一人の少女が告げた言葉が、一人の英雄の眉に皺を寄せた。

 

「ほう? 共同捜査、か。常ならばそちらで情報を掌握し、こちらに指示を出すだけの“共同捜査”とは違うのかね?」

 

 落ち着いた言葉。

 けれど、内容は辛辣。

 レジアス・ゲイズは表情を変えない、罵倒しているわけでもなく、辛辣にしているわけでもなく、淡々と事実を告げる。

 

 それが逆に恐ろしかった。

 

 それが逆に罵倒されるよりも辛かった。

 

 管理局に勤めて十年。もう十年も経っているけれど、八神 はやては師でもあるゲンヤ・ナカジマから教わったことぐらいでしか海と陸の軋轢を理解していない。

 海での戦い、海での時間、海での年月。

 

 レアスキルを取得し、望んだものでは無いとはいえ法外とさえ言えるSSランク魔導師のはやてが陸に属することなどなかった。

 一時の滞在などで陸の実情を分かりきることなど不可能に近く、この地上に派遣されることは機動六課を創り上げるまでなかった。

 故の不安。経験が無い、語る資格があるのか? という不安がある。

 だけど、それでもはやては表情を変えずにただ前に進むために言葉を告げた。

 

「違います。陸と海が共に手を取り合い、共に真相に歩み寄り、全てを露にするための共同捜査です」

 

 そこまで告げて、はやては手に持っていたトランクケースを開いた。

 強固なケースにいれられていた数枚の書類、それを手に持ち、静かに歩み寄りながら前に出てきたオーリスに渡した。

 

「――これは?」

 

「こちらの方で作成したこれ以後の捜査活動における必要だと思われる情報などのリストです。恐れ入りながら自分の権限を持って本局からの共同捜査の許可及び必要な情報共有の許可は降りております」

 

 はやてはあえて標準語で告げた。

 本来ならば単なる一部隊の部隊長の権限如きで、地上本部との連結行動である共同捜査など許可が降りるわけが無い。

 だがしかし、はやてはあえて己の持つコネクションを持ってその不可能を可能にして見せた。

 

 これは危険な賭けだった。

 

 これで下手でもうって捜査が失敗に終わり、はやてが本局の面子を潰すような結果を残せば懲戒は免れないだろう。

 共同捜査という形にすれば地上本部の責も本局が担うことになる。逆もまた当然なのだが、それは本局としては想定外の事態だろう。

 

 何故に海と地上での共同捜査が開かれにくいか。

 

 それは簡単に言えば二つの要因がある。

 

 一つとしては本局即ち海としては地上部隊自体が下部組織だという認識。

 第97管理外世界における極東の日本機構、そこにおける警視庁と所轄の警察の関係に似ているだろう。

 二つ目としてはそれらの認識によって海と陸の間による不仲が上げられる。

 共に時空管理局という組織に所属していても仲違いし、縄張り意識を持って協力を拒むのだ。

 一口に下らないと切り捨てられれば楽なのだが、現実はそこまで容易くない。

 始まりは些細なことだったとしても、積み重ねられた年月は深く、根深く、冷たいものとなる。

 ただの一人の努力で改善できるのならば当に世界は平和なのだろう。

 そして、今回のはやての行動は劇薬にも近いものだった。

 たった一人の二等陸佐が起こした行動。

 それに地上本部すなわちミッドチルダUCATの首魁といっても過言ではない男はオーリスから書類を受け取り、目を走らせると。

 

「ふむ。中々に画期的な行動だな、八神はやて二等陸佐」

 

「恐れ入ります」

 

 威圧感すらも感じる発言だった。

 その身に重ねてきた年月の違いか、それとも指揮するものとしての重圧の差か、レジアスの言葉一つ一つがはやてに重く圧し掛かる。

 ギィっと椅子が響かせる重みの悲鳴すらも、それは彼が行うだろう行動の前兆にしか思えなかった。

 そして、レジアスはゆっくりと顎の髭を撫でると。

 

 

「よかろう。許可をする」

 

 

 そう告げた。

 一瞬心臓が止まったかと思えるような言葉。

 はやてが目を見開いたのを見て、再度レジアスは告げた。

 

「許可をするといった。八神 はやて二等陸佐。必要な部隊と閲覧情報の権限パスは――オーリス、お前に編成を任せる」

 

「ハッ!」

 

 オーリスが頭を下げて、承諾の意を取った。

 

「ありがとうございます」

 

 はやてが安堵の息を吐きながら、礼を告げると。

 レジアスは今までの頑固な岩のような表情を緩ませて、薄く微笑みながら告げる。

 

「なに。この程度ならば造作も無い。わしたちの宿願であり義務は地上の平和を護り、それを脅かすものを叩き潰すことだ。そのためならば悪魔の手さえも借りる覚悟さえある。それと比べれば主らのような美少女の手を取るなど何の抵抗があるか」

 

 といって、レジアスは軽く息を吐いて机に置いておいたコーヒーを啜った。

 その姿に、はやては思った。

 

(ああ、この間は変態やったけど、この人普段は真面目なんやねぇ)

 

 と、安心していた。

 だがしかし、この程度で終わるのならば横に立つオーリスが胃薬を常備する必要は無いのだ。

 レジアスがふと思い出したように告げる。

 

「む? そういえば、八神二等陸佐。一つ訊ねたいことがあるのだが」

 

「? な、なんでしょうか?」

 

「先日そちらの隊舎が半壊したらしいが、復旧までの間はどこで隊員たちを待機させるつもりかね?」

 

「あ、それなら一応考えがありまして。そっちの申請書類に内容は書いてあるんですが」

 

 予測外の言葉にうっかりと地の言葉遣いで出た。

 しかし、レジアスは気にした様子もなく書類を捲る。

 そして、見ながらうーむと唸って告げる。

 

「……なるほど、こういう手段を取るか。それなら確かに効率はいいだろうが……」

 

 ぬぬぬと眉間に皺を寄せるレジアス。

 あ、さすがに問題なんか、とはやてが息を飲んだ瞬間だった。

 

「しかし、困ったな。一応そちらから申請があるかと思って、仮の隊舎設備を準備しておいたのだが」

 

「へ?」

 

 まさか準備などしてもらっているとは思ってもいなかった。

 はやてが間の抜けた声を漏らすと、レジアスは目を向けた。

 

「なにかね? その態度は」

 

「い、いえ。まさかそのような配慮をしてもらえるとは思ってもみませんでしたので」

 

「何を言っている。これは義務であり、当然の事だ。我々ミッドチルダUCATは地上の平和と保安を保つことだ、それには地上に隊舎をおいている君たち、機動六課諸君も例外ではない。守護し、共存し、助け合う。それが同じ組織であり、同じ世界に生きるものの役目だ」

 

 素敵な言葉だった。

 

「れ、レジアス中将」

 

 かっこええなぁ、とはやてが一瞬考えてしまうぐらいにさらりと告げられた言葉にときめいた。

 あれぐらいさらりといい台詞吐いてみたいわぁ、と彼女が考えているとも知れずにレジアスはぽちっと机の上のコンソールを叩くと。

 

「ちなみにこんな建物だが、どうかね?」

 

 ブゥンと空間にモニターが現れて、一つの白い建物が映り出す。

 どこからかカメラを開いているのか、地上本部の施設近くにある建築物。

 それは白いプレハブ小屋だった。

 そして、その周りには――沢山の笑顔を浮かべた人々が焼肉を焼いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミッドチルダUCATライブ打ち上げ&来たれ美少女!! 機動六課の皆様大歓迎!!』

 

 というのぼりと共に沢山の陸士たちがわーといいながら、飾り付けをしていたり、ダルマの片目を墨で塗っていたり、なによりも施設の前で鉄板で肉と野菜を焼いていた。

 カメラと同時に集音マイクでも設置されているのか、声が聞こえる。

 

『俺の鉄板料理は世界一ぃいい! あーあたたたたたたっ!!』

 

『すげえ!? 肉が、野菜が、空を舞ってやがる』

 

 肉を焼いているコック帽陸士の手元が見えない。

 斬光のように両手に持ったヘラが閃き、乱舞を繰り出し、ジャカジャカと野菜を、肉を舞わせて、さらには投入されたヤキソバなどをものの見事に掻き混ぜていく。

 じゅうじゅうと赤く焼けた鉄板でありながら、それは丁度いいぐらいにしかこげずに、熱を通していくのだ。

 その後ろでは。

 

『いくぞ!』

 

『こい!』

 

 同じように包丁を両手に構えるエプロン装備の陸士が、野菜を両手に持ったパートナー達に頷く。

 そして、同時にキャベツが、ニンジンが、タマネギが、肉が、放り投げられて。

 

『おりゃあああ!!!』

 

 跳んだ。

 高々とエプロン陸士が舞い上がり、ほわー!! と奇声を上げて回転。

 煌めく一閃と共に野菜が切り刻まれて、皮を剥かれて、バケツを抱えた陸士にナイスキャッチ。

 ぴょいーんぴょいーんと地面に降りてはジャンプし、野菜を刻みながら、時折空中で『隠しブローック!』と何かを砕いていた。

 

『にくー! にくー!』

 

『はむはむ! はむはむ!!! はははむ! この気持ち! まさしく愛だ!! はむー!』

 

『俺の肉だー!!』

 

『私の肉よー!!』

 

 鉄板の隅では箸と箸、フォークとナイフを金属音と共に激突させながら肉を喰らっている男女の陸士がいたり、ビールを片手に恋人らしき女性に抱きついた大柄な男が廻し蹴りと共にぶっ飛んだり。

 ビールを飲んで真っ赤な顔の黒い髪に一房の金髪を持った女性の色気に悶えている少年が背後から飛んできた跳び蹴りで鉄板に頭をぶつけて、次の瞬間『やけー!? 焼けたー! なにするんですか!? 僕の真っ赤なハートよりも真っ赤な鉄板で僕の顔が焼けましたよ!!』と悲鳴を上げていたりする。

 

『あ、お兄ちゃん! 私の歌どうだったかな?』

 

『凄かったに決まってるだろ? お前の歌が綺麗なのは俺が一番よく知っているさ』

 

 と、どこぞで見たことのある青年が、見覚えの薄い少女と一緒に焼肉を食っていたりするが多分幻影だ。

 そう思わないとやっていられなかった。

 

『美っ少女、美っ少女、ランランラ~ン♪』

 

『今日も元気だ、萌え盛る♪』

 

『俺たちUCAT、魔法少女が大好きさ~♪』

 

 などと歌いながら、プレハブ小屋にペンキなどを塗っている陸士たちの姿が沢山いたけど、多分青春の過ちや。

 キャンプファイヤー式に松明を持って、輪になって『魔王様、魔王様、リリカルマジカル~』とかなにやら怪しげな言葉を呟いて踊っているが多分気のせいだ。

 

 

 

 

「と、局員たちは君たちを待ちかねているのだが……どうしたのかね? うなだれて」

 

 ORZ と言わんばかりにはやては突っ伏していた。

 その後ろで「主、どうしたのですか? どこか体調でも優れないのでしょうか?」 と言っている大切な家族の言葉がどこか遠いものに聞こえていた。

 すくっと頑張って起き上がると。

 

「――謹んでお断りさせていただきます」

 

 はやてはどこか乾いた笑みでそう告げた。

 

『ええ~!!?!?!』

 

 と、モニター画面に瞬時に飛びつき、顔をめり込ませた無数の陸士たちの顔をはやては見なかった。見向きもしなかった。

 

「む。そうかね。ならば、仕方あるまい」

 

 と、モニター画面を切る。

 うきぃー! という声が最後に聞こえていたような気がしたが、誰もが無視した。

 

 

 こうして、機動六課とミッドチルダUCATの共同戦線は確約された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 時空管理局本局、そこにはやては来ていた。

 地上本部からその足で流れるように、或いは逃げるようにやってきた。

 シグナムに幾つかの手続きと連絡事項を伝えて、今頃は六課のなのはたちに連絡は伝わっているだろう。

 真面目な雰囲気を漂う本局の空気を吸い、心が癒されていくを感じながらはやてはガラスにも似た窓の向こうに移る一隻の白い船を見下ろしていた。

 

「――はやて」

 

 その時だった。

 足音と聞き覚えのある声に振り返る。

 そこには一人の男がいた。

 女と見間違うばかりの深い緑の長髪を靡かせて、白いスーツを身に纏った男。優しく蕩けるような甘いマスク、長身の上に隙一つ無い規則正しく背筋を伸ばした姿勢。

 このような場所でなければどこかの貴族か、それともホストか。

 彼の名をはやては知っていた。

 ヴェロッサ・アコース。時空管理局本局に属する査察官。

 そして、はやての友人でもある青年提督の親友である人物。

 

「待たせたかな?」

 

 彼がそう告げると、はやてはううんと首を横に振って。

 

「別にそう待ったわけでもないで、ロッサ。少し遅刻やけどな」

 

 待ち合わせ時刻からは五分ほど遅れている。

 しっかりとした身だしなみとは裏腹に勤務態度にサボリや遅刻などが時々混ざるのがロッサだった。

 幾ら説教をしても直らないのが彼らしい。

 

「で、はやて。用件だけど、アースラの改修作業はほぼ終わった。手はずも一応三提督や義姉さんの権限を使って押し通したよ」

 

「悪いな~、ロッサ。こんなこと頼んでもうて」

 

「別に構わないさ。後ろ盾を使って押し通しているようなもんだけど、きっと必要なものだと僕も信じてるよ」

 

 そこまで告げると、ヴェロッサは静かにはやての横を歩いて、その透明な壁の向こうに見える一隻の船を眺めた。

 次元航行艦アースラ。

 はやてにとって色々と馴染み深い船だったが、耐久年数の限界が近く、老朽艦として解体されるはずだった。

 しかし、それをはやては使う。

 

「ごめんな、アースラ。ゆっくりと休ませたいのは山々なんやけど、もう少し頑張ってもらうわ」

 

 窓にその細い指を立てて、はやてはどこか謝るように告げた。

 必要な力がある。

 必要な翼があった。

 そして、はやては息を吐きながら目を見開いて――違和感に気付いた。

 

「ロッサ」

 

「なんだい?」

 

「あれ、なに?」

 

 そう告げた指先には、アースラの艦首が映っている。

 其処にはなにやらぶっとくて、グルグルで、螺旋で、凶悪で、鋼で、どでかい武装が接続されようとしていた。

 あえて言おう、それは――ドリルであると。

 

「……」

 

 サッとヴェロッサは顔を背けた。

 その肩をガシッとはやてが掴む。

 

「ね、ねえ、あれなんやの? ねぇ……」

 

 声が震えていた。

 嫌な予感がバリバリにした。

 

「……大変言いにくいことなんだがね」

 

「うん」

 

「アースラを借り受けようとしたんだが、とある提督からの進言で条件が付いたんだ」

 

「じょ、条件?」

 

「そう。老朽艦で、廃棄処分を待っているだけとはいえ、単なる一個部隊に貸し与えるには次元航行船は大きすぎる。だから、条件を付けると言われたんだ」

 

「どんなの? あのドリルだけなら私涙を飲んで我慢するで?」

 

 プルプルと小動物のように震えながら、はやては健気に告げる。

 だが、現実は非情で残酷で喜劇を好んだ。

 

「一つ目はアースラには幾つかの試作品装備の試験艦にすること」

 

「し、試作品?」

 

「そう。現在正常運用している次元航行船に装着させるよりも、比較的失っても問題の無い艦に装備させてデータをフィードバックさせたいっていう意見があってね。あ、とはいっても武装じゃなくて、艦船機能の追加装備らしいよ」

 

「……ど、ドリル以外になんかあるんか」

 

 それだけで倒れたかった。

 パタッとよろめいて、ビクンビクンして、何もかも忘れて布団に入りたい気分だった。

 けれど、ヴェロッサは最後に。

 

「そして、本局というかその追加条件の最後に――彼らを監査役として乗せる事だって」

 

 そう告げた瞬間、足音が聞こえた。

 

「え?」

 

 はやてが振り向く。

 そこには五人の男女がいた。

 一人は青年。黒いサングラスを付けた、黒い衣装を纏った青年。黒い髪に、その顔に浮かぶだろう冷静な黒い瞳をサングラスの奥に押し隠した熟練の戦士を思わせる静かな気配。

 

 一人は青年。女と見間違うような茶髪のポニーテール、女性のように細い手足、柔らかい笑みを浮かべ、私服らしい姿はどこもおかしくない。ただしその顔に仮面を着けていなければ。

 

 一人は初老。赤いサングラスを付けた初老の男。両手に白い手袋、どこか貴族を思わせるような豪奢なコートは軍服のようであり、威厳を漂わせた老獪。

 

 一人は女性。もう一人も女性。頭部にはネコ耳、尻尾も生えている彼女たちは美しい雌猫。人間ではない、使い魔。妖艶とさえ言える顔つきに妖しい笑みを浮かべて、それぞれ違う髪型だけが判別の要素。そして――何故か体操服にブルマ。

 

 あえて言おう。

 

 (頭の)おかしい連中だった。

 

「――!?!」

 

 ふらっと、はやてが倒れる。

 その背をヴェロッサが支えた。

 

「はやて! しっかりするんだ!!」

 

「ろ、ロッサ? 私、夢を見てるんやね、ここは本局なのに変態がおるなんておかしいわぁ。多分目が覚めればまた明日から真面目でぎこちなくて疲れる日々が。ああ、あと地上本部が壊滅したから私たちが頑張らないと、予言が実現してしまうんや」

 

「現実を直視するんだ!!」

 

 ペシペシとはやての頬を叩くヴェロッサ。

 そこに黒いサングラスを付けた青年が歩み寄り。

 

「ヴェロッサ、後は僕が引き受けよう。彼女はこれから頑張ってもらないといけないのだからね」

 

「……く、クロ――」

 

「違うぞ?」

 

 はやてを受け取り、むにーとその頬を引っ張りながら青年は告げる。

 

「僕のことは“ハーヴェイ”と呼んで欲しい。クロノ・ハラオウンという人物とは何も関係無い」

 

 ハーヴェイと名乗った青年は薄く微笑む。

 

「ちなみに、僕はマスク・ザ・フェレットで」

 

 仮面を付けた青年は何の臆面もなく告げる。

 

「私は提督と呼んでくれたまえ」

 

 初老の男は立派な髭を撫でながら楽しげに告げる。

 

「私はぬこ1号! 技の1号!」

 

「じゃあ、私ぬこ2号で! 力の2号!」

 

 ブルマネコ耳二人はノリノリだった。

 そして、ハーヴェイははやてを背負いながら、静かに告げる。

 

「さて、行こうか諸君」

 

 ザッと足音が鳴り響いた。

 歩く、歩く、歩く。

 変わった奇妙な集団が歩く。

 アースラに向けて、一つの戦舟に向けて、戦いの幕が開くのだ。

 

「戦いが始まるぞ」

 

 言葉が告げられる。

 

「待ちかねた闘争だ」

 

 言葉が輪唱する。

 廊下を歩く、怪訝な目つきが向けられる、だがそれがどうした。

 晒し者の聖人の如き視線、だがそれがどうした。

 生贄の処女のような哀れみの目が、だが、それがどうした。

 戦舟の前に佇む。

 一人の青年が言葉を紡ぐ。

 

「諸君、準備は出来たか!!」

 

 その時、アースラの改修をしていた局員たちが一斉に振り向いた。

 声が上がる。

 手が上がる。

 格納庫のドックの中で一人の青年の言葉が鳴り響く。

 

「諸君、祈りは済ませたか。諸君、思い残すことは無いか。諸君、朝から今までやり忘れたことは無いか!」

 

 帰って来たのは沈黙。

 肯定の沈黙。

 

「宜しい」

 

 ハーヴェイは笑う。

 

「ならば、向かおうか。待ちかねていた時だ、船も喜びを上げている!」

 

 ダンッと足音が鳴り響く。

 瞬間、アースラを包むドック内に音が反響した。

 それはまるで咆哮であり、或いは号泣の声かもしれない。

 何故に泣き叫ぶ?

 それは喜びだ。歓喜の涙だ。

 

「さあ出撃だ。心打ち震えるような出撃だ!

 船出の時は来た!

 空に輝く星々を見つけて方角を定めるように、我々は次元の星々を眺めて道を見つけ出そう。

 空から流れる風を帯びて前に進むように、我々はこの世に満ちる奇跡を魔法に変えて旅立とう。

 夢は見たか。

 夢を見よう。

 ただし楽しい夢だ。悪夢は許さない。

 これから始まるのは修正の効かない過去ではない。

 今進む未来だ。

 現在を積み重ねて突き進む未来だ。

 こんなはずじゃなかったと誰にも言わせない未来のためだ!」

 

 吼える。

 震える。

 心の赴くままに。

 

 艦長としての威厳が心を震わせる。

 

「さあ諸君、コレで万事後悔はないのならば声を上げろ!!」

 

『おう!!』

 

 咆哮が上がる。

 ただの船を整備するだけのスタッフが誇りを胸に抱く。

 その様相に提督は嬉しそうに告げた。

 

「立派になったな、少年」

 

「いえ、まだ未熟です。言葉を重ねなければ想いは伝わないのですから」

 

「そうか、修練したまえ」

 

 そんな会話を終わらせて、一人を背負った五人がアースラに乗り込む。

 

 

「う~ん、う~ん……わ、私が部隊長やでぇ」

 

 

 という寝言があったような気がしたが、聞いた者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 そして。

 そして、そして、そして。

 

「……UCATと機動六課が手を組んだか」

 

 一人の狂人は齎された情報にクスクスと笑い声を上げていた。

 静かな場所だ。

 嬉しい場所だ。

 壊れた場所だ。

 狂える場所だ。

 一人の愚者であり賢人は楽しげに笑う。

 

「喜ばしいじゃないか、嬉しいじゃないか、壊れたいほどに、狂えるほどに笑いが止まらない」

 

 彼は嗤う。

 笑みを浮かべながら、一人の女を抱いていた。

 美しい女だった。彼への愛を変わらずに抱く造り出された命だった。

 

「ドクター……何故嗤うのですか?」

 

 戦闘機人が長女、始まりの数字を持つ女は交わりながら尋ねる。

 ふくよかな肉感、細く編みこまれた鉄線のような鍛え上げられた胸板に丸い乳房を押し付けながら、喘ぐように声が漏れる。

 彼女の全身に流れる珠のような汗も、迸る旋律の如き声も、全ては創造主のための供物だった。

 

「妹たちはあれほどまでに負けてしまったのに……」

 

 ただ一人彼に体を許された女性は、己が姉妹たちの敗北に嘆きを発す。

 

「心配はいらないさ」

 

 狂える賢人はその手で機械の身体を持つ女に愛を囁く。

 

「彼女たちの敗北は価値がある。全て計算以内、悲しいが――まったくもって支障が無い」

 

 それが事実だった。

 彼に気にする要素はなかった。

 徹底的に心情を排除すれば彼の計画に問題はなかったのだ。

 悲鳴じみた強制を上げる己が作品を、壊れない程度にあやしながら彼は濡れた手で己の頬を撫でる。

 

「必要なファクターは揃った。古き傀儡の如き王の一体も、それの纏う鎧であり墓場も手に入れた」

 

 嗤う。

 嗤う。

 楽しいからこそ嗤う。

 

「賢く生きてもしょうがない、ならば愚かしく嗤うだけさ」

 

 その黄金の瞳はどこまでも濁って、壊れて、泣き叫ぶ女の痴態を見ながら冷めていた。

 世界への革新などどうでもいい。

 まだ見ぬ探求と悦楽こそが目的。

 目的無き目的を果たすために、愚かな賢人は最後の駒を進めていく。

 

 

 

 

 歴史の革新は間も無く。

 

 悪と悪役と正義の舞踏会はベルを鳴らして、演奏を奏で始めた。

 

 

 






 今回のナンバーズ



2.陸士は見た! 愛憎渦巻く姉妹同士の争い。事件は恋愛のもつれ!? 嗚呼、悲劇。守銭奴陸士はフラグブレイカーだったのか。それともフラグメイカーだったのか。ミッドチルダUCAT、特車陸士首ちょんぱ斬殺事件(希望的予定)


 その時、二人の姉妹は対峙していた。(巻き添え一人)

「……で? どういうっスか?」

 ゴゴゴゴといわんばかりの迫力で睨みつけているのは一人の少女。
 その名前はウェンディという。
 彼女はワンピースを身に付けた姿で、バシンと手に持った一枚の紙を囲んだちゃぶ台に叩きつける。

「どういうことって、な、なんだよ?」

 その迫力に怯える少女が一人。
 ノーヴェという名前の少女は手に持った紙をおずおずと差し出し、返事を返す。
 怪我による治療と検査を負えたばかりで身に付けているのは検査服だった。
 目の前で相対している少女と同じく赤い髪、数ヶ月前に共にいたときとはまったく正反対の状態だった。

「おわー、怖い、怖い。火花散ってるなぁ」

 そして、その間で肩を狭くしているのはひとっぷろ浴びたばかりなのにどこか寒い思いをしている浴衣姿のセインだった。
 目立たないように手に持ったカードをちゃぶ台の上に重ねる。

「……なんか変なことやられてないっスよね? あ、8で流しっス」

 手に持ったカードを置いて、ざっと場を流す。

「変なことってなんだよ!? あ、3だな」

「……胸揉まれたとか。お尻触られたとか。或いは押し倒したとか。うい、4っス」

「ノーヴェ。大人の階段をステップで登っていったんだなぁ。私、6で」

「ちょっとまて最後のはこっちからの行動になってるじゃねえか! あとしてねえよ! で、7。ダイヤで縛りっと」

 スパスパとカードがちゃぶ台の上に重ねられていく。
 ウェンディとノーヴェとセインは絶賛大富豪中だった。

「……っていうか、別にあたしはあんな奴なんてなんでもねえよ」

 ごにょごにょと顔を染むけてノーヴェが発言するが。

「あー、ツンデレの見本みたいな行動っスね。あたしは素直デレ狙いでいくつもりスから、言えない台詞っスねぇ」

「病気だなぁ。医者でも、草津の湯でも治せない例のアレだ。ところで、現在重症状態のウェンディさんから見てどうですかね?」

「まだ軽傷ですが、じわりじわりと来てるっスねぇ。ああ、数ヶ月前のあたしを見ているような気分っス」

 顔を合わせて二人の姉妹が囁いた。
 しかも聞こえるような小声で。

「うるせぇえええ!! ていうか、あたしのいない間にお前ら何があったんだよ!? それに、ウェンディ! お前なんで、あんな奴にフライングボード貸してるんだよ!?」

 ちゃぶ台がひっくり返しながら、ノーヴェが叫びを上げる。
 それにウェンディは。

「……きゃ。っス」

 と、赤くなった頬を手で隠して、顔を逸らした。

「おぉおい!? 何があった!? ねえ、あたしが見ない間に一体何があった!?」

 修羅場のような、そうじゃないような、姉妹雑談がありましたとさ。

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