ミッドチルダUCAT   作:箱庭廻

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第一回 スカリエッティ拿捕大作戦 その4

 

 群れる、群れる、群れる。

 

 駆け抜けるそれは不可視の猟犬。

 

 闇の中に疾走する、音もなく、姿もなく、荒く吐き出す息すらも大気を震わせずに疾走する。

 

 ただ殺意を持って、役目を持って、疑似生命体たる己の魂に刷り込まれた思念という名の本能に従い駆け抜ける。

 

 だがしかし、数十メートル踏み込んだ時点で、大気が焼けた。

 撃ち込まれる、無機質な殺意の熱線。

 降り注ぐそれに次々と貫かれる。

 焼かれ、解け、魔力で編まれた身体は大気に還元されていく。

 

 猟犬たちは瞬く間に殲滅された――それを理解したものが一人。

 

「――間違いないね」

 

 それは外側。

 洞窟にしか見えない入り口の外で魔力の粒子をまとわせながら、佇む白いスーツの男が呟く。

 

「ここが、スカリエッティのアジトだ」

 

 そう告げるのは緑色の髪を女と見間違えんばかりに長く伸ばした青年、ヴェロッサ・アコースが断言した。

 

「どうみても、ただの洞窟にしか見えないのですが……」

 

 その彼の発言に反論するかのように呟いたのは横でヴィンデルシャフト(38号)を携えた騎士服姿のシャッハ・ヌエラだった。

 

「いや、僕の不可視である猟犬を察知し、ほぼ一撃で迎撃された。かなり高レベルのセキュリティだから」

 

「入り口を偽装してるだけで、中は重要施設そのものってことだね」

 

 ヴェロッサの言葉を続けるように呟いたのは一人の女性。

 流れる金髪をツインテールに結び、その手には閃光の戦斧を握り締め、決意に溢れた瞳を浮かべる女性――フェイト・T・ハラオウン。

 

「ありがとう、シャッハ、それにロッサも。貴方たちの協力がなかったら発見出来なかったね」

 

 静かに呟くフェイトの表情は揺らぐ事無く、抑揚がなかった。

 感謝の念がないわけじゃない。

 ただはち切れんほどにその身に蓄えた怒りの念を堪えているだけだった。

 

「なに、捜し求めるのが猟犬の仕事でね」

 

「私はカリムとロッサの護衛が仕事ですから」

 

 苦笑を浮かべるヴェロッサ、そしてシャッハは当然とばかりに笑みを浮かべる。

 そして。

 

「ありがとう、皆さん」

 

『いえいえー!』

 

 背後でどったんばったんとガジェットたちを叩き潰し、粉砕し、縛り上げて、気炎を吐き散らしている陸士たちが沢山いた。

 陸と海の共同捜査、応援として駆けつけた陸士たちは十数名を超える数。

 頼もしい限りだった……時折上がる奇声や奇行を無視すれば。

 

「警備用ガジェットはあらかた片付けましたぜ!」

 

「レッツ、侵入!」

 

「さっさとふん捕まえて、逮捕しちまいましょうや!」

 

 ゲシゲシとガジェットの残骸を踏みながら、陸士たちがステキに微笑む。

 

「それじゃあ行きましょう!」

 

 フェイトは声を上げて、前を向き、じーと下半身に突き刺さる視線を気付かなかったことにして前に進み出した。

 突入する。

 中に何が待ち受けようとも決して退かない、打ち破る、不退転の覚悟を決めて。

 

 ただし。

 

 ズルリと踏み込んだ一歩から転ばなければ。

 

「え?」

 

 滑る、ずるりと、視界が回転する。

 大きく威勢よく踏み出した一歩目からフェイトはこけた。

 見事にひっくり返って、ゴチンとお尻を地面にぶつけた。

 

「っ、つう~!」

 

「フェイト、大丈夫かい?」

 

「フェイトさん、大丈夫ですか」

 

 骨盤にまで響く痛みに、涙目でフェイトが腰をさすりながら前に目を向ける。

 フェイトそん、可愛いよ、フェイトそん。という不気味な声がしたが、空耳にしておこう。

 

「い、いたい……なんで転んだ――の?」

 

 バナナの皮だった。

 何故誰も気付かなかったのか分からないほどにバナナの皮だった。

 どうやらこれで滑ったらしい。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 誰も言葉を発しなかった。

 ツッコミすらも出来なかった。

 フェイトは無言で立ち上がると、ばっばとお尻の部分に付いた土埃を払い。

 

「――それじゃあ行きましょう!」

 

 再び同じポーズと台詞と共に踏み出した。

 

『見なかったことにしたー!?』

 

 どうやら見なかったことにしたかったらしいが、思わず誰もが突っ込んだ。

 その言葉を受けて、フェイトは肩を震わせると、涙目で。

 

「いいのー! もういくのー!」

 

 といいながら、走り出した。

 やけっぱちだった。

 先ほどまでの勇ましさなど微塵もなかった。

 

「せ、制圧ー! 制圧ー!」

 

「行こうか、シャッハ!」

 

「はい、ロッサ!」

 

 続いて他の全員も突入を開始した。

 

 しかし、彼女たちは知らない。

 これが地獄の始まりだということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まず第一の犠牲者はフェイトの後ろに続いた陸士の一人だった。

 

 内部に高濃度のAMFフィールドが発生し、魔法の阻害がされていることを確認し、警戒を強めようと誰もが考えた矢先だった。

 入り口の洞窟部分を走り抜けて、機械じみた施設の広間に入った瞬間――カチッという音がした。

 

「ん?」

 

 足音から音が響き、下を向いて――落下してきたタライが頭に直撃した。

 

「ぐおっ!?」

 

 ぐわんという金属音。

 脳を揺さぶる衝撃、それによろよろと前に踏み出した次の瞬間、視界がすっぽりと暗くなった。

 

「おわっ!? 前が、前が!!?」

 

 目の前が見えない。

 視界がなくなった。何も見えない。

 

「お、おい! 動くな、頭に!」

 

「頭に!? お、俺どうしたんだよ!」

 

「――花瓶被ってるぞ!」

 

 それは上から落下してきた花瓶のせいだった。

 慌てて他の陸士が外そうと駆け寄った瞬間だった。

 カチッという音がして、その陸士は上空へと吹っ飛ばされていた。

 

『アッー!!!!』

 

 スプリング仕掛けのバネ板が解放されて、二人諸共吹っ飛んだ。

 放物線を描いて、前を進んでいたフェイトの上空を跳び越して、さらに先で墜落。

 ゴロゴロと転がりながら壁に叩きつけられると――その真横の壁が飛び出した。

 凄まじい勢いで。

 

『ぎゃーっ!!?』

 

 巨人に殴られたの如き勢いで吹っ飛ぶ花瓶陸士ともう一名。

 そのまま吹っ飛んだ彼らは遥か奥の壁に激突し、ズルズルと滑り落ちるように落下し――その床が回転した。クルリと。

 ヒューン、という音と共に二人が消えた。

 まさに落とし穴だった。

 

「と、トラップだらけ!?」

 

 フェイトたちは慌てて足を止める。

 

「っ、尊い犠牲が出てしまったな……」

 

 そして、その背後で十字を切ったり、思い思いの祈りを捧げる陸士たち。

 既に死んだものと判定したらしい。

 

「さて、いくぞ!」

 

「おー!」

 

 一斉に掛け声を上げて、気合を入れる陸士たちだった。

 

「え? いいの!? そんな軽い扱いで!?」

 

「……うーむ」

 

「まあ、あの程度で死ぬようなら陸士ではありませんから大丈夫でしょう」

 

 フェイトが戸惑い、ヴェロッサは頭痛を抑えて、シャッハはいつもどおりだった。

 

「とりあえずヴェロッサ、無限の猟犬でサーチを」

 

「ああ、分かった」

 

 ヴェロッサは魔力光を発しながら、無限の猟犬を解放する。

 無数の不可視の猟犬たちが出現し、足音すらも立てずに突き進んで……進んで……何も起こらなかった。

 何も異常なく、猟犬たちはフロア奥の隔壁の扉をガリガリと爪で削っている。

 

「む? もうトラップはないのかな」

 

 周囲の進むべき道を無限の猟犬で確認したヴェロッサは首を捻りながら、少しだけ足を前に出して――シャッハに突き飛ばされた。

 

「え?」

 

「ヴェロッサ!」

 

 彼女がヴェロッサは押し飛ばし、代わりに彼女が罠に掛かった。

 すなわち――グワンという音を響かせるタライに。

 

「っ、ぅぅ~!」

 

 痛い。

 シャッハは頭を抑えて、少しだけうずくまった。

 

「シャッハ!? だ、大丈夫かい?」

 

「大丈夫?」

 

 ヴェロッサとフェイトが慌てて駆け寄るが、シャッハは涙目で「だ、だいじょうぶです~」と告げた。

 どうやらかなり痛かったらしい。スンスンと鼻を鳴らし、頬も赤かった。

 

「うーん、こりゃあ――手動だな」

 

 陸士の一人がぼそりと呟く。

 

「え?」

 

 フェイトが顔を上げると、壮年の陸士は腕を組んで。

 

「タイミング的にどこからか監視して作動させてるんだ。自動式じゃないから、そっちのワンコじゃ作動しない」

 

 と、告げた。

 他の陸士もうんうんと頷き。

 

「このタイプ見覚えあるよなぁ」

 

「確かコクメイ……なんとか屋敷ってを制圧しにいった時とそっくりじゃね? 俺らが出張に行った時のあれ」

 

「あそこの女の子可愛かったよなぁ、俺たちから必死に逃げるのがすげえ可愛くて、思わずカメラのシャッターをフルオートで切ってしまったし」

 

「罠かかりまくったけど、俺ら結局死ななかったしなぁ」

 

「魔神とかってやつボコボコにして、確保したんだっけ。彼女、元気にしてるかなー」

 

 などと、遠い目をしていた。

 

「となれば、対処法方は一つだ」

 

「一つ?」

 

「俺らが先行する。君たちは俺たちが護ろう」

 

「え? そんな」

 

「いいんだ、ジェイル・スカリエッティって奴のことだ。どうせ強いんだろう」

 

 陸士は告げる。

 壮年の彼はフェイトの肩に手を置いて。

 

「きっと倒せるのは俺たちのような雑魚じゃない、高ランク魔導師の君たちだけだ。だから温存する、いいな」

 

「ういっす!」

 

「りょうかーい!」

 

 陸士たちが手を上げる。

 誰も彼もが納得していた。己の命を踏み台にすることを一瞬も迷わずに。

 

「そんな。どうせなら全員で!」

 

「なに、俺たちはこういうイレギュラーに慣れてるのさ」

 

 ニヤリと微笑む。

 フェイトの肩を改めて叩くと、壮年陸士は手を上げて。

 

「いくぞ、お前らー!!」

 

『応!!』

 

 喝采が上がった。

 勇ましい声が響いて。

 

「しゅっぱ――」 ズボッ! 「おわー!? 前が、前が見えないぞー!?」

 

 壮年陸士の頭にバケツが被っていた。

 慌てまくりなその様子を見て。

 

「だ、大丈夫……だよね?」

 

 フェイトが首をかしげたのもしょうがない。

 

「どうだろう?」

 

「頑張ればいけます!」

 

 そして、何気にヴェロッサの手を掴んでいるシスターは自重しろと誰かが思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音が鳴り響く。

 ズシンとズシンと爆音が轟いた。

 

「あらあら、ずいぶんと楽しそうね」

 

 研究所の奥深く。

 隔離された地下施設ブロックで、一人の少女が邪悪に笑っていた。

 その顔にはメガネをかけて、流れるままに伸ばした髪を掬いながらも、その笑みは止まらない。

 屈辱を晴らせる時が近づいている、それを理解しているのだから。

 

「何人死んだかしら?」

 

 この研究所に部外者が立ち入ることは死を意味する。

 スカリエッティが作ったトラップとは別に、彼女――クアットロが設計した致死性の罠が待ち構えているのだ。

 血の雨が降っているはずだ。

 惨劇が起こっているはずだ。

 ゾクゾクと背筋に興奮の電流が走り、下腹部に熱が宿るようだった。

 

「悲しいわねぇ、悲しくて悲しくて笑いが止まらないぐらいに」

 

 笑みが浮かぶ。

 目の前にある正方形の黒い物体、サイズにして直径三メートル四方の物体を撫でながらクアットロは笑う。

 それを嘲笑うように撫でて、バイバイと手を振った。

 

「ここも放棄が終わる。そうすれば永久に消え去ることになるわ」

 

 いい気味だ。

 ゲラゲラとその“中”に封じられている人物を嘲笑う。

 

 それは敵だった。

 

 それは化け物の一人だった。

 

 これの十数倍の厚さがありながらもとっくの昔に脱出した例外が一人いるが、その一人への雪辱方法も既に考えている。

 誰にも教えていない、彼女だけの愉悦を満たすために。

 

「さようなら」

 

 ニタニタと笑いながら、クアットロはシルバーコートを翻して立ち去った。

 静寂だけが満ちる墓地へと戻すために。

 だが、しかし――彼女は気付かなかった。

 地響きの間に隠れるように、その内部から震動してくる唸りに。

 びしり、びしりと少しずつ走る亀裂の存在に。

 

 その物質の名はカーボン。

 炭素結合された物体の中から聞こえるのは――“女性の声”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陸士たちとフェイトたちは駆けていた。

 何人もの犠牲者を出しながら、進んでいた。

 

 一人は爆弾の仕掛けられた罠でうひょーといいながら吹き飛んで、ドボンとトリモチまみれのプールに呑まれて動けなくなった。

 

 一人は顔面狙って飛んできたブーメランの数々を手で払いのけたのはいいけれど、天井から飛んできた振り子のような鉄槌に殴られて、飛んだ先に仕掛けられていたロープに足をひっかけられて、グルグル回された。

 

 一人は落下してきた鉄格子から陸士を救おうとして駆け出したフェイトを庇い、地面から飛び出した三角木馬に股間を直撃されて、あふんと失神した。

 

 さらにもう一人はその光景に動揺したフェイトを狙ったかのように押し倒し、壁から飛び込んできた異様にアームだらけのガジェットに激突されて、拘束されたままどこかへ転がって、パカッと開いた穴から落下した。

 

 致死性の高い罠こそ神がかったカンで避けまくるも、巧みに仕掛けられた冗談のような罠に崩され、連携するように襲い掛かってくるトラップに陸士たちが一人、また一人と脱落していく。

 

「ぬ!? うらー!」

 

 飛んでくるノコギリ型のトラップを背中から取り出した金属バットで跳ね返し、さらに飛来してくる三本の矢を身体を曲げて躱す、躱す、噛む!

 

「ぐぐぎぃ!」

 

「す、凄い! 歯で受け止めた!?」

 

 飛んできた矢を陸士は歯で噛みとめ、その速度と勢いを首を曲げて相殺し、ペッと吐き捨てる。

 

「かっ! この程度で――って、あらー!?」

 

 決めポーズを取っていたバット陸士が、壁からせり出した磁力式の壁に引き寄せられて飛んだ。

 バットを離す暇もなく、その身に身に付けた金属製品の引力に沿って壁に張り付き、さらに壁が回転して――消えた。

 

「ご、伍長ー!? くそぅ、俺が仇を!」

 

「あ、待って!」

 

 陸士の一人が泣きながら飛び出す。

 長く続く通路の奥、そこからゴロゴロと音がする。

 

「お、大岩じゃなくて、鉄球だあー!?」

 

 それは通路を埋め尽くすような大きな鉄球だった。

 逃げるか? 否、逃げても追いつかれると判断した陸士数名とシャッハが飛び出す。

 

「止めるぞ!」

 

「よし!」

 

「トンファァアアア!」

 

 近代ベルカ式魔導師三人が加速。

 床を蹴る、大気を切り裂く、途中で飛んできた致死性の罠は軽くかわして、回転床で転びそうになりながら全速力。

 ベクトル制御を駆けて、飛び込みながらドロップキックを繰り出す。

 

「一人では勝てなくて!」

 

「二人でも勝てないけれど!!」

 

「三人でなら勝てるよキィイイイック!!」

 

 民主主義バンザーイ! と何故か万歳ポーズを決めて放たれた三人の蹴りが鉄球にめり込み、粉砕。

 砕いた反動で三人は空中を舞いながらしゅたっと着地すると、ポーズを決める。

 頼もしいやら、悲しいやらと、少しだけ遠い目をしたフェイトとヴェロッサが思った時だった。

 

「ん?」

 

 ガコンと音がした。

 上を見る。

 なにやら天井に――切れ込みが走っていた。そして、パラパラと粉埃が落ちてくる。

 振り返れば、歩いてきた通路の天井が、間隔ごとに落下している。

 

「まずい、全員走れ!!」

 

 壮年の陸士が叫んだ。

 

「吊り天井だ!」

 

 落下し始める天井、それに全員が駆け出す。

 ダンダンと轟音を立てて、大質量の物体が地面を揺さぶる、施設を揺るがす。

 ベルカ式も、ミッド式も出来うる限りの身体強化を駆けて全力疾走するも段々落下する天井に追いつかれ始めていた。

 

「くっ!」

 

「まずいね、どうにも僕はこういう労働は苦手なんだが」

 

「走ってください、ヴェロッサ!」

 

「はいはい、厳しいね」

 

 先頭を駆けるのはもっとも速度のあるフェイト。

 その後ろにシャッハとヴェロッサ、そして残り五名程度になった陸士たちだった。

 走る、走る、走る。

 数秒にも、数十秒にも思える、円環を描くかのような緩やかな通路を駆け抜けて、皆が走っていたときだった。

 地響きを立てて、彼らの前方にある天井が長い間隔で落下し始めた。

 

「っ、まずい! いそげえええええ!!!」

 

 絶叫にも似た声が上がった。

 ゆっくりとした速さだが、見える通路の扉は遥か先にある。

 遠く、あまりにも遠い。

 自動車を越える速度で全員が駆けるも、天井が落下し終えるまでに辿り付くのは無理だと誰の目にも明らかだった。

 だから。

 

「――バインド!」

 

 一人の陸士が足を止めて、天井にデバイスを向けた瞬間、動揺した人間は少なかった。

 

「え!? な、なにを!」

 

「足を止めるな! 先にいけ!!」

 

 天井全体に移動物体に掛ける抵抗とシールドを応用した障害物を作り、落下速度を落とす。

 AMFの高濃度フィールドに阻害されつつも、陸士は己の全魔力と集中させて展開し続ける。

 

「時間を稼ぐ!」

 

「そ、そんな!?」

 

 フェイトが悲痛な声を上げた時だった。

 他にも二名の陸士が同じように足を止めて、天井にデバイスを掲げた。魔力の光が宿る。障壁が重なり、地響きを上げながら天井を減速させる。

 

「お、お前ら!?」

 

「へ、一人でいい格好をさせるわけにはいかねえよ」

 

「フェイトそんを惚れさせるのは俺一人で十分だ!」

 

 ニヤリと三人の陸士が天井を支えると同時に、二人の陸士が足を止めたフェイトの両腕を掴んだ。

 そして、無理やり引きずるように掴んで、走る。

 

「足を止めるな!」

 

「言ったはずだ、俺たちはお前らの道を開くと!」

 

「っ、でも!」

 

 抵抗するようにフェイトは声をだそうとして、横を走る二人の陸士の唇から血が流れていることに気付いた。

 苦痛の決断なのだ。

 その目には怒りと決意があった。

 

「フェイトさん!」

 

「行くんだ、彼らの意思を無駄にしてはいけない」

 

「うん」

 

 フェイトは足を動かし出した。

 走る、涙を振り払うように。

 通路の扉、大きく開かれた隔壁の向こうが見える。

 残り距離、百メートルを切った時だった。

 ガパリと床に穴が開いた。

 

「っ、通路が!?」

 

 大きな穴が開き、跳躍だけでは渡れない距離。五十メートル以上もある谷間の底には電流が走っているようだった。

 フェイトだけならば飛行魔法で飛べる。だが、この高濃度AMF環境下で四人も抱えて飛べるか? と言われたら首を捻るだろう。

 ヴェロッサは無限の猟犬の応用で空を飛べることは知っているが、シャッハは陸戦魔導師だった。

 分断して飛ぶか? しかし、時間が――そうフェイトが迷ったのは僅かな時間だった。

 けれども、陸士たちは足を止めると。

 

「行ってくれ」

 

「おれたちはここで時間を稼ぐ!」

 

 そう告げた。

 

「っ、分かりました!」

 

 フェイトの迷いは一瞬だった。

 シャッハとヴェロッサがその決断の早さに驚くが、頷く。

 彼らに出来るのは一瞬でも無駄にせず進むことだったから。

 フェイトが飛行魔法を使用し、ヴェロッサはシャッハを抱き抱えると無限の猟犬を身体に纏わせて浮遊力に変える。

 そして、飛んだ。

 高々と飛び渡るように、見えない道を駆け抜けるように、滑るように。

 走り抜けていく。決して振り返らずに。

 その後姿を見ながら二人の年老いた陸士は。

 

「まったくすげえな魔導師って奴は」

 

「まあ俺たちには真似できねえわな」

 

 軽く笑った。

 笑いながら障壁を展開して、体が壊れんばかりの重量に耐える。

 

「っ、骨に響くな」

 

「黙って耐えてろ。若いものの花道だ、年長者は笑みで送るのが礼儀だろうよ」

 

「ちげえねえ」

 

 ケラケラと笑って、気合を入れる。

 両足で踏ん張り、笑いながら自分の娘ぐらいの年頃の魔導師たちを送った。

 

 

 

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