ミッドチルダUCAT 作:箱庭廻
そして。
「ようやく通り抜けたと思ったらこれかい?」
「ヴェロッサ、喋っている余裕はありませんよ」
「早くいかないといけないのに!」
三人はガジェットの群れに襲われていた。
隔壁の向こうに辿り付いた先に待ち構えていたのは数十を超えるガジェットの群れ、しかもどれもAMFを展開している。
魔導師殺しの悪夢だった。
対抗できぬわけでは無いだろう、三人はトップクラスの魔導師、時間をかければ叩き潰すことも可能。
そう、時間をかければ。
「ヴェロッサ、フェイトさん――私が道を開きます。お二人は先に行ってください!」
ヴィンデルシャフトを構えて、ガジェットを叩き潰しながら、シャッハが告げる。
「え?」
繰り出されるレーザーを避けて、バルディッシュを振り抜いたフェイトが思わず振り返ろうとしたが、状況が許さない。
ただシャッハの声が聞こえて。
「相性的に私が一番ベストのはずです。時間をかければかけるほど事体は悪化するでしょう、だからお先に!」
ヴィンデルシャフト、カートリッジロード。
蒸気を噴出しながら、身体強化を施すシャッハ。
「これで! 疾風怒濤!」
旋転するように両手を繰り出し、その衝撃波でガジェットの群を食い破る。
「わ、わかった!」
その隙をフェイトは見逃さなかった。
バルディッシュを振り抜き、射出した魔力刃が大きな三日月上になったその穴を広げる。
「ヴェロッサ!」
フェイトは声をかけながら、跳躍。
そして、その中にフェイトは高速移動魔法ソニックムーブを起動。全神経の伝達速度を加速させて、同時並行で大気抵抗を中和。弾丸のような速度で駆け抜けて、瞬く間にガジェットの群を突破した。
だが、突破したのは“彼女だけだった”。
「ヴェロッサ!?」
フェイトは突破して、次の瞬間付いてくるべき人物が来ないことに気づいた。
「ヴェロッサ、貴方も!」
シャッハは何故か動こうとしなかったヴェロッサに声を荒げた。
だが、彼は笑みを浮かべながら、無限の猟犬でガジェットたちを迎撃し。
「悪いが、ちょっと僕はそういうのには向いてないんだ。それに」
動揺したシャッハの肩に手を置いた。
「僕としても君が死ぬのは悲しい」
囁くようにヴェロッサは呟いて、シャッハの頬を撫でた。
「え?」
「フェイト! 悪いが少し遅れる、先に行っててくれ!」
ガジェットの向こうにいるだろうフェイトに声を上げた。
真っ赤に顔を紅潮させた彼女から目を離すと、己の意のままに動く忠実なる猟犬に命じる。
「さあ猟犬たちよ、僕の敵を全て噛み砕け」
猟犬たちがAMFで身体を砕かれながらも、その牙をガジェットの装甲にめり込ませる。
ヴェロッサは少しだけ微笑み。
「……少しぐらいは見栄を張りたいんでね」
そう呟いた。
そして、そして。
最後に残ったのはフェイトだけだった。
走る、走る、走る。
孤独を振り払うように。
大勢居た誰かの体温を忘れるように。
そうして何個目かの隔壁を越えて、辿り付いたのは一つのフロアだった。
無数のモニターが展開された一室。
端末機器の並べられたコンソールの前に、誰かが座っていた。
「来たかね?」
声がする。
座っている誰かが振り向いた。
それは黄金色の瞳をした男だった。
それは紫色の髪と純白の白衣を身に付けたスーツ姿の男だった。
それは笑みを浮かべる男だった。
それはどこまでも不気味な男だった。
背筋に震えが走る、恐怖にも似た感覚、眼球に浮かぶのは敵意ではなく好奇の色だと気付いたから。
怯えもしない、敵意もない、ただの好奇心。面白そうな愉悦の色にギラギラと輝いている。
「貴方が……ジェイル・スカリエッティ!」
正体を看破し、フェイトはバルディッシュを構えた。
「いかにも? そうだが、君は誰かね」
ニヤニヤと微笑むスカリエッティ。
楽しげに顎を撫でて、立ち上がることすらしない。
まるで王座にでも座っているかのような不遜な佇まいに、フェイトは軋むような唇を開いて叫んだ。
「私はフェイト・T・ハラオウン執務官! 禁止技術の使用及び流出、幾多の殺人未遂と傷害行為、未認可魔導兵器の使用、質量兵器違反、多次元に渡る重犯罪行為、全て含めて逮捕させてもらいます!! 次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ!」
「なるほど……」
耳に痛いとばかりに左手を耳に当てるスカリッティ。
その言葉にまったく怯んだ様子も反省の色も見せない彼に、フェイトはぎりっと歯を食い縛り。
「大人しく投降するならばよし。さもなくば――」
「さっさと叩き潰して、強制連行するといえばいいのではないかね?」
「っ」
「建前を並べるのはよくないな。そんなのでは意思は通じないな」
ニヤリと笑って、その右手に握られたカギヅメはギチリと音を立てて、フェイトの前に現れた。
デバイス、それもアームドデバイスの類かとフェイトは推測。
「――抵抗の意思があると判断、強制逮捕します!」
魔力をバルディッシュに注ぎこむ、AFM環境下の頭痛にも似た痛みに耐えて、踏み出した。
その身は既にリミッターを解除されている。
Sランク空戦魔導師の音速に迫る踏み込み。常人では反応すらも許されない閃光の死神。
だがしかし。
「――甘い」
スカリエッティはペダルを押し込んで椅子を倒すと、首を狙った斬撃を避けた。
空振り、同時に丁度いいポジションにあるフェイトの腹に蹴りがめり込む。
「っ!?」
その重い一撃に、フェイトは吹き飛ぶように後ろに下がって。バリアジャケットのおかげで大したダメージはないことを確認。
しかし動揺がある。
技術者型犯罪者の類と聞いていて、戦闘が行なえると想定していなかった。
「驚いたかね? まあ定番台詞なら、こんなこともあろうかと鍛えに鍛え抜いた肉体――といっておくべきだろうが」
スカリエッティは笑いながら椅子から降りて、片足でそれを引っ掛けて――旋転するように投げ飛ばした。
椅子が飛び込んでくる。
フェイトは迷わず両断し、返す刃でスカリエッティのアクションを待った。
何をする気か、わからないけれど返り討ちにしてみせる! そう決意して……
「さらば!!」
逃げ出すスカリエッティの背中を目撃した。
「え?」
一瞬硬直して。
「って、待てー!」
フェイトが慌てて追いかけた、
だがしかし、その前方に飛び出すのは――無数の銃器だった。
ガション、ガションとロボットアームの先端に付けられた銃身がマズルフラッシュを吐き散らす。
機銃の弾幕に、フェイトは手を差し出して。
「っ!」
ガリガリと銃弾の音が鼓膜が震えて、弾着の衝撃に手が痺れる。
「ふははー! 悪いが私は頭脳派でね、マトモに戦うつもりは――ない!!」
いばらないで! と叫びたいのは山々だったが、フェイトは魔力を蓄えて、マルチタスクで障壁とは別に攻撃魔法のプログラムを組み上げる。
変換資質に従い、魔力を電流に変換して。
「プラズマランサー!」
迸る電撃の閃光が弾丸を蒸発させて、銃器を破砕した。
AMF環境下により、常時よりも少ないたった四発の電流の放射だったが十分。
こちらを見下ろすような体勢だった、スカリエッティに接近するまで二秒と要らない。
加速。
『Sonic Move』
低空飛行での急加速。
ゼロから数百キロオーバーを叩き出すような尋常ならざる加速に、フェイトの身体も悲鳴を上げるが、歯を食い縛って耐える。
「っ!?」
間合いが縮んだ。
驚愕に歪むスカリエッティの目の前に降り立ち、バルディッシュの刃を叩き付けて――凌がれる。
左手に付けたカギヅメの障壁、それがシールドのように逸らし、流し、受け止めた。
回る。
フェイトはバリアジャケットの裾をなびかせるように翻ると、無数の斬撃を繰り出し、手刀型に伸ばされたスカリエッティの左手と激突する。
「っ、しぶとい!?」
「おやおや、今本音が出たね?」
「!?」
大気を焦がす魔力刃の激突音を雷鳴のように鳴り響かせながら、スカリエッティは数度目のバルディッシュの刀身を――砕いた。
「っ!? そんな!」
「馬鹿は君だ」
瞬間、その左手から伸びたワイヤーがフェイトの足を絡めた。
しゅんと上に閃いたスカリエッティの手の動きに従い、フェイトの片足が地面から離れて、それに従い彼女は転んだ。
そして、そのまま尋常ならざる力によって跳ね上げられた
「高濃度AMF環境下で、常時と同じ魔力力場の頑強性を維持できると思ったのかね!」
投げ捨てられたかのようにフェイトの体が壁に激突するも。
「なら!」
一瞬で体勢を立て直し、壁に着地しながらフェイトはバルディッシュの砕けた刀身を消し去り、形状を変えた。
『Zamber form』
バルディッシュが変改する。
駆動音を鳴り響かせて、その形状を変えると、まるで巨大な大剣の柄となった。
「はぁあああああ!!」
咆哮一閃。
そのボディから巨大な、長大な、光の刃が形成される。
フェイトの身長を超えんばかりの巨大な肉厚の刀身――バルディッシュ・アサルト、ザンバーフォーム。
彼女の限定解除の証明。
高濃度AMFの領域内であろうとも、その輝きを失うことはなかった。
「ほぅ?」
ニヤリとスカリエッティが嗤う。
楽しげに笑いながら、指を折り曲げて。
「試してみるか」
指を鳴らした。パチンと。
「――雷光一閃!」
彼女の肢体が壁を蹴り、解放される。
美しい剣の乙女のように空中を踏み舞いながら、旋回し、その刃が振り抜かれる。
「プラズマザンバァアアアアア!!」
それはまさしく雷神の裁きだった。
施設内を覆わんばかりの閃光が迸り、極光が闇を蹴散らした。
しかし。
「え?」
振り抜いたフェイトが地面に降り立ったとき、光が止んだ時に――倒れたものなど誰もいなかった。
「無駄だな」
スカリエッティは怪我一つ負わずに立っていた。
しかも、その左手一本でザンバーフォームの刀身を受け止めながら。
「その程度かね? とは、哀れだから言わないでおこう」
憐れむような目つきだった。
弱者を見る目だった。
愚者を見る目だった。
「っ!」
フェイトの頬に屈辱の熱が浮かび、咄嗟に刀身を下げようとして――ピシリと罅が入ったのに絶句した。
「脆いな」
掴み砕かれる。
先ほどのバルディッシュの刀身と同様に。
パラパラと光の粒子が舞い散って。
「っ!?」
それに隠れるように閃いた靴底の一撃に、フェイトは両手をクロスして防いだ。
ドンッとトラックにでも撥ね飛ばされたかのような衝撃。
手が痺れる、重く、痛く。
「っう!」
靴底でブレーキしながらも、五メートル近く距離が離されるほどの打撃。
それを放ったのはただ一人の技術者だった。
「やれやれ、明日は筋肉痛になりそうだな。まったく」
静かな声だった。
スカリエッティは緩やかに左手を伸ばすと――
「不思議かね? ここまで圧倒される理由が」
指を閃かせる。
デバイスから伸びた真紅のワイヤーが鞭のように迸り、フェイトは飛び退くように避けた。
「君は強い、君は優れている」
閃く、閃く、生きた蛇のように五本のワイヤーが音速を超えてフェイトの身体を切り刻まんと迫ってくる。
彼女は時には避けて、時には刃で切り払い、ダンスでも踊るかのように、けれど真剣に回避行動を続ける。
巧みに二人共が位置を変えて、走りながら戦い続ける。
「けれど、君は勝てない」
鞭を振るう調教師と美しき猛獣とでも呼ぶべきか。
魅了されるような光景。
だがしかし、猛獣たる美しき女性は吼える。
「バルディッシュ!」
フェイトは叫ぶ。
敗北を告げられた言葉を否定するように、己が魔力を注ぎこみ、再び長大な刀身を形成する。
そのたびに体が軋む気がした。
違和感に気付く、先ほどよりもAMFによる干渉が強まっている。
ただ刀身を維持するだけでも失敗しそうなほどに。
これがスカリエッティの余裕の理由か、そう確信しながらも、フェイトは止まらない。
「挑みます! 勝てるまで!!」
何度砕かれようとも剣を振るうだろう。
何度防がれようとも刃を振るうだろう。
負けられないのだ、負けるわけにはいかないのだ。
幾多の思いを背に背負い、不退転の覚悟を背に背負い、フェイトはただ待ち受ける運命すらも切り開いて見せるだろう。
雷光が迸る。
それを纏う乙女の道先を照らし出すかのように。
「はぁあああああ!!」
鞭を避ける、ワイヤーを避ける、踏み込みながら、フェイトは真っ直ぐに地面を踏み叩き。
身体を回転させて、遥か昔に己の宿敵から教わった剣技のままに振り抜いた。
誰が躱せるだろうか。
その音すらも置き去りにした神速の一刀を。
「っ!!?」
スカリエッティが左手から障壁を形成した。
それだけを目迎しながらもフェイトはただ振り抜いて――煌めく埋め尽くした光爆に目を閉じた。
音と光の洪水だった。
耳の奥でサイレンにも似た音が鳴り響いているような気がした。
「はぁ……はぁ……」
フェイトは荒く息を吐く。
最高の一太刀だった。
あれで倒せないのならば……
「く、ククク」
最後の切り札を使うしかないだろう。
フェイトは顔を上げる。
荒く息を吐き出しながら、前を見た。
スカリエッティは笑っていた。弾き飛ばされたのだろう、コンソールに背中をぶつけて、幾つものモニターにノイズを走らせて、それでも笑っていた。
クスクスと楽しげに。
ゲラゲラと愉快げに。
右手に着けた“もう一つのデバイス”を動かし、囁く。
両手で障壁を張ったおかげで防ぎきったというのか。左手で使えるならば、右手でも使える。
その可能性まで計算をしていなかったフェイトのミスだった。
「さすだがよ、プロジェクトFの遺産」
その言葉にフェイトは一瞬心臓が止まったかと思った。
それだけの衝撃があった。
「っ!? 何故それを!」
こちらのことを調査済みだった?
不快感が込み上げる。
だが、次の瞬間、スカリエッティから発せられた言葉はフェイトの想像を超えていた。
「知らなかったのかね? 君は元々……私のおかげで産まれたのだよ」
スカリエッティは嗤う。
「プロジェクトFは、私の戦闘機人技術の副産物だ。不完全なデータを再構築し、ほぼ完成までこぎつけた。いわば私は君たちの父になるかな?」
彼はどこまでも雄大に、嘘一つなく、真実を告げた。
残酷なまでに。
「そ、そんな……」
震えが走る。
激痛にも近いフラッシュバックが脳内を駆け巡る。
「こんにちは偽者のアリシア・テスタロッサよ。本物になりきれなかった偽者の少女よ、会えて嬉しい」
「……その名を呼ぶなぁああ!!」
私はもうアリシアではないのだ。
フェイトなの。フェイト・T・ハラオウン。
それが己の存在意義、存在自己だった。
音速を超えて速度で、踏み込む。
首を撥ね飛ばさんと迫り――
「哀れだな、死者の蘇生は誰もが望む夢だった。叶うはずもないのに」
刃が止まった。
目の前の男に、触れる事無く。
ギチギチと制止していた。
「な、なんで」
彼は涼しい顔で佇むだけだった。
防御すらせずに。
「簡単なことさ。私が“そう願ったからだ”」
「え?」
「実験は成功だ」
スカリエッティの胸元で何かが輝いていた。
ジュエルシード、忘れられるわけがない輝き。
「願望を叶える石か、まったくつまらないほどに優れている」
かつて何度もフェイトはジュエルシードと対峙していた。
だが、一度としてこれほど圧倒的な差があっただろうか?
否、否である。
感じたことがあるとしたら、彼女の母であるプレシア・テスタロッサが次元の壁を破砕し、開放しようとした時のみ。
「もっとも効率よく、そしてもっとも暴走しやすく使うには人の身が使うということだな」
グンッとスカリエッティは手を上げて。
「――“離れよ”」
フェイトは離れた。
己の意思とは無関係に――吹き飛んだ。
撥ね飛ばされたように吹き飛んで、次の瞬間スカリエッティが手を閃かせた。
両手の指、合わせて十本。
魔力のワイヤーがバインド状に彼女を縛り上げる。
「くぅっ!?」
魔力を放出し、さらにバインドブレイクの術式を脳内で構築開始するが、身体に食い込んだバインドは全く弱まらない。
彼女の乳房を締め上げて、腰を内臓を圧迫せんと強く拘束し、その太腿は螺旋を描くように入念にワイヤーが張っていた。
淫らな妖艶さすらも感じれる光景。
美しい女性を捕らえたその扇情的な光景に、スカリエッティは軽く目を向けながら、パチンと胸元で輝き続ける紅い宝玉を収めてブローチの蓋を閉じて。
「……やれやれ、まだ制御するには危険のようだな。危うく、凄いことになるところだった」
「!?」
ボソリと呟いたスカリエッティの言葉に、ゾクリとフェイトの背筋に怖気が走った。
「さて、どうするかね。まだ足掻くかね?」
「っ、私は決して諦めない!!」
フェイトは諦めなかった。
バインドを振り払おうと努力しながらも、ある準備を開始する。
最後の切り札を切る覚悟を決めた。
しかし。
「ふむ、一つ言っておくが君の行なおうとする行為を薦めないぞ」
「?」
「調査は進んでいる。どうせライオット・フォームと言うフルドライブモードがあるんだろう」
「!?」
看破された。
フェイトは僅かに表情が揺らぐのを自覚し、汗が額に噴き出す。
「そして、さらにもう一つそのバインドを破る方法があることも知っている」
「な、何のことですか」
フェイトは焦りを感じながらも、言葉には出さない。
ただ今すぐにでも行なう必要を感じて、バルディッシュに命令を出し――
「一つ言っておこう。私は一発で倒れる自信がある」
「……え?」
「そのライオット・フォームとやらならば多分私は一発で失神するだろう。一本でも精一杯なのに、二本も繰り出されたらそれは防げないからな」
スカリエッティは淡々と告げて。
「ただし――君が脱出したとき、大きな犠牲を払うと思いたまえ」
そう告げて出されたのは何の変哲も無いボタンだった。
「そ、それは?」
「なに、ただのボタンさ」
カチッと押されると同時にモニターにフェイトの顔と全身が映り出す。
どうやらフロア内に仕込んでいたらしいカメラからの画像。
何の意味があるのだ? とフェイトが首を捻った瞬間だった。
「ソニックフォームとやらを使ってみるがいい。ただし」
スカリエッティは笑って。
「脱げるが」
「……え?」
「バリアジャケットの再構成はこのAMF濃度だと不可能だ。つまり、スッパだ、全裸だ、破廉恥フォームを通り越して、ヘブン状態だ!」
断言した。
スカリエッティは酷く楽しそうな笑みを浮かべて。
「さあ脱出してみるがいい! その場合、ネットを通じて君の全裸姿がミッドチルダ及び次元世界中にお披露目されるのだがね!!」
「えええー!!!?」
フェイトが絶叫にも似た悲鳴を上げる。
そんなまさかだった。
「う、嘘。え? でもハッタリだよね。幾らなんでもAMFでバリアジャケットの構築阻害なんて、いやでも、さっきのザンバーが……」
「さて、私は用事があるので失礼するよ?」
「え? ま、まってー!!」
スカリエッティは白衣の埃を払うと、てってけってーと逃げ出した。
向かう先はモニターの奥に隠されていた転送ポット。
このままだと逃げられる。
だがしかし、フェイトは迷っていた。
「ぜ、全裸……恥女認定? いや、でも……」
うーん、うーんと迷う。
己の精神的生命の継続を選択するべきか、それとも背負った願いを叶えるべきか。
迷い、迷いながらも。
「では、さらだ!」
転送ポットに入ろうとするスカリエッティを見て。
彼女は覚悟を決めた。
覚悟完了。
さようなら、私の人生と涙を流しながら。
「し、真・ソニックフォーム!!」
フェイトは叫んだ。
バリアジャケットの大半を衝撃波に変換し、バインドを振り払う。
同時に新しいバリアジャケットを構築。
電光を全身に纏いながら、フェイトは涙を流して音速を超えて疾走し――スカリエッティの背に迫った時だった。
「どりゃー!!!」
壁をぶち抜いて、それが飛び出したのは。
「え?」
それは蒼い髪をした女性だった。
両手に彼女の親友の部下がつけているのと同じデバイス――リボルバーナックルを嵌めて、怒声を張り上げて壁を貫通してきた。
如何なる威力か。
如何なる実力か。
「母親を舐めるなー!!」
そう叫ぶ女性が突き破った壁の勢いのままに飛び出して。
「あ」
「え?」
「おや」
飛び出したフェイトに、勢いよく撥ねられた。
前方不注意だった。
パンを咥えて、てってってどしーん! という出会いから始まる漫画チックな状態とはまるで違って、二人共大きく撥ね飛ばされる。
片方は音速を超える物体に激突されて、もう片方は速度を追求して防御力の欠けた状態だったから。
「……結果オーライ!」
指を立てて、スカリエッティは転送ポットに逃げ込んだ。
「あ、いたたた。何よ一体」
その数分後、むくりと起き上がったのは陸士ジャケットを羽織った女性だった。
「い、いたたた。なんなの?」
フェイトも起き上がる。
パチリと目が合った。
「あら? 管理局の魔導師かしら?」
「え? えっと、貴方は。あ、スカリエッティ!」
「もう逃げられたわよ」
はぁっと女性がため息を吐いた。
「所属教えてくれる? 状況がさっぱりだから」
「あ、えっと、機動六課のフェイト・T・ハラオウン執務官です」
「機動六課? 名前は聞いたことは無いけど、ミッドチルダUCATのクイント・ナカジマです」
「あ、そうなんで……え?」
フェイトは一瞬耳を疑った。
ファミリーネームに聞き覚えがあったからだ。
そして、よく見れば顔にも見覚えがある。正確にはそれと良く似た顔をみたことがあった。
誰が知ろうか。
それは八年前、ジェイル・スカリエッティにカーボンフリーズされていたクイント・ナカジマ。
それがつい先ほどそれを打ち砕いて、脱出したということをフェイトは知らなかった。
「それにしても、ずいぶんと破廉恥なバリアジャケットね? 流行っているの?」
「え? あ、ああ!」
全裸!
まっぱ!
ヘブン状態!
その言葉を思い出して、フェイトが慌てて胸を両手で隠した。
のだが、そこに衣服の感触があった。
「あれ?」
肩のむき出しになったバリアジャケット、太腿を露出させ、涼しげでもある真・ソニックフォームのバリアジャケットが其処にあった。
裸などではなかった。
「だ、騙された」
ガクッとフェイトが肩を落とした。
そんな彼女に、クイントは肩を叩いて。
「まあ気を落とさないで。機会はまたあるから」
「は、はい」
パリパリ。
フェイトが頷いた瞬間、変な音がした。
「え?」
フェイトが身体を見下ろす。
ボロボロとバリアジャケットが剥がれ落ちて――肌色が目に飛び込んできた。涼しすぎるほどに。
そして、モニターに沢山の肌色が踊って。
「いやぁあああああああああああああ!!!!」
フェイトの絶叫が響き渡った。
ちなみに、後日フェイトが泣きながらネットを確認したが、一切流れていなかった。
どうやらブラフだったらしい。
「っ、フェイトの声?」
「急ぎましょう、ヴェロッサ!」
ずたぼろになりながらも、散らばったガジェットの群れの中を二人の男女が歩いていた。
スーツは残骸もなく、露出した肩から血を流したヴェロッサとヘソも丸出しに、乳房も切れ込みが入ったかのようにずたぼろのシャッハが支えている。
「ああ」
息するのも辛いように歩き出しながら、不意にヴェロッサは気付いた。
地面が揺れている。
「震動?」
「しかも、勢いが強まって……まずい崩落するぞ!?」
二人が慌てて駆け出そうとした時だった。
奥から一つの人影が飛び出した。
正確には一人の女性を背負った女性が。
「っ! フェイトさん! と、誰?」
「いいから早く逃げるわよ!」
二人にクイントが叫ぶ。
背中で、「ぅう、お嫁にいけないよぉ、クロノもらってぇ」とフェイトがバリアジャケットを再構築した姿で俯いていた。
「しかし、どこに!?」
「引き返すにしても道が――」
その時だった。
周囲の扉を蹴破り、現れた人影があった。
「こっちだ!」
「き、君たちは!?」
それは陸士たちだった。
しかも、途中で行方不明になっていた面子ばかり。
「裏口ルートでなんとかやってきたんだ! それよりも逃げるぞ!!」
『応!!』
巨大なポットを抱えた陸士たちが頷く。
四人はそれに続いて走り出した。
震動は限界まで達しようとしていた。
「さあ始まるぞ」
嗤う、嗤う、男が一人。
「始めましょう、歴史の改革を」
語る、語る、女が一人。
「聖王の揺り篭を、起動する!」
地響きを上げて。
大地を震撼させて。
今日この日、世界が震えた。
大いなる白き墓守の復活に。
さあ、物語を始めよう。
恐ろしい物語の最終章を。
そのクライマックスを。
スカリエッティ拿捕大作戦 続行
聖王の揺り篭攻略戦に移行する 世界の命運を頼んだ。