ミッドチルダUCAT   作:箱庭廻

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第24回 ナンバーズ捕獲作戦

 

 

 

 

 

 陸士108部隊。

 それは陸の精鋭。

 最新鋭の武装を保持し、優秀なる魔導師が揃い、兵揃いの部隊である。

 そして、彼らの中心人物に甘みも渋味も吸い分けた菩薩のようなゲンヤ・ナカジマ三佐。

 辣腕を奮う、とある陸士の集団から崇められるラッド・カルタス。

 そして、陸士たちのアイドル(一方的に)のギンガ・ナカジマがいた。

 

 

 そんな彼らの戦いをちょっと見てみよう。

 

 

 これは夢と愛と希望に満ちた名も無き陸士たちによる第二十四回ナンバーズ捕獲作戦である。

 

 

 

 

『こちらサードアベニュー警邏隊。近隣の武装捜査官応答願います』

 

『E27地下道に不審な反応を発見しました』

 

『識別コード、アンノウン。確認処理をお願いします』

 

 発せられる通報。

 それは非日常への誘い。

 

 

 

 ――状況アラート2 市街地に未確認隊出現

 

 ――隊長陣及び704出動準備

 

 ――待機中の隊員は準警戒態勢に入ってください

 

 ――現在は現場付近のフォワード部隊が確認に向かっています。

 

 機動六課に鳴り響く警報。

 

 

 

 戦いは始まる。

 そして、動き出す――熱い男たち。

 

「出撃だ」

 

 一人の陸士が呟く。

 その手にはカメラがあった。一眼レフカメラ、さらに暗所用に改造した違法品である。

 

「反応は?」

 

 もう一人の陸士が告げる。

 その顔には暗視スコープが付いていた。全員が同じように顔を覆う暗視スコープをはめている。

 顔は見えない、しかし不敵な笑み。

 

「わからん。しかし、可能性は高い」

 

 ボディスーツを着込みながら、陸士が告げる。

 彼らは戦士だった。

 そして、陸士108部隊のトラックの中で戦士の誇りを告げていた。

 手には手甲を嵌める。場所はレールウェイ。狭い場所での戦い、躱しにくいからの防御力の上昇。

 

「ガジェットはどうする? 捕獲するのか」

 

 ガシッと拳を打ち付けて、陸士が告げる。

 荒々しい獣の声。

 鉄すらも砕くベルカ式騎士の本髄。

 

「ボーナスのためだ。余裕があれば捕らえる、しかし――分かっているな?」

 

「ああ」

 

 全員が縄を背負う。

 ワイヤーを肩にかける。

 網をバックに背負う。

 盗撮用カメラを暗視スコープと連動させた。

 

「ナンバーズがいたら捕獲するぞおおおお!!」

 

「おぉおおおお!!!」

 

「メカ美少女萌ぇえ!」

 

「まだ見ぬ美少女たちよ!」

 

「はぁはぁはぁ」

 

 魂の咆哮。

 何かを決めているかのような叫び声が武装隊の輸送トラック内で響いていた。

 幸いというか予想済みなのか、輸送トラック内は完全防音であり、ガタガタと重量の高い面子が暴れても中で音が響くだけだった。

 ガタガタとタップダンスを踊るかのように足で床を踏み鳴らすが、不意に一人の陸士が我に返ったように告げた。

 

「落ち着け皆。ゆっくりと見かけ次第激写し、視姦し、捕縛し、説得して仲間にしよう」

 

 訂正。まったくもって我に返っていない。

 いや、元からこんなんである。

 

「レジアス中将がボーナス約束してくれるしなぁ」

 

 凶悪犯たるジェイル・スカリエッティの手先である。

 それの情報源として、そして実行犯の逮捕は至上だった。お手柄なのは間違いないだろう。

 

「っていうか、美少女のゲットは男の義務だな」

 

「愚問だ」

 

 問題はそんな理由ではなく、もっと下らない理由で乗り出す彼らだった。

 

 シリアスな顔つきで陸士たちは呟く。

 戦いの時は近づいていたのだ。

 

 具体的には十数分後だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現場に到着する。

 一糸も乱れぬコンビネーションで陸士たちがトラックから降りた。

 完全フル武装(?)の陸士たちの姿に、先立って到着していた機動六課のフォワード陣は一瞬呆気に取られたかのように口を広げた。

 

「これは失礼したね、六課の諸君」

 

 ばんっと車から降り立った一人のオールバックの男性が、ガタガタとレールウェイの地下道に入り込んでいく武装隊を見つめるフォワード陣に声をかけた。

 

「っ、あなたは?」

 

 ティアナが代表として声をかけた。

 

「ん? ギンガから聞いていないかな?」

 

「ギンガ、さん?」

 

「ああ、私はラッド・カルタス。陸士108部隊の捜査主任をやっている」

 

 そう告げて、ラッドは微笑を浮かべながら、ざっと頭に手を当てた。

 オールバックの髪型を撫でながら、不敵な笑み。

 

「よろしく、頼むよ。機動六課諸君、不幸にも部隊の皆は君たちよりも魔導師適正が低くてね。頼りにしている」

 

「え、あ、いやそんな」

 

 褒められたと考えたのだろう、スバルがぶんぶんと紅くなって手を横に振った。

 他のフォワード陣も頼りにされてまんざらでもないのか、少しだけ恥ずかしそうに微笑む。

 そして、ラッドは周りを見渡しながら、耳元のインカムに手を当てた。

 

「ん? ああ、了解。αチームを先行させろ、目標を逃がすなよ。βはバックアップ、機材と退路の封鎖に勤めろ。ん? ああ、機動六課が来ている――いや、烈火は来ていない。暴動が起きた? 知るか、若さに目覚めろと伝えろ」

 

 ちょっと失礼と告げて、ラッドが車の片隅に走る。

 フォワード陣は機密事項でもあるのかしら? と常識的に考えた。

 実際はこうである。

 

「いいかよく聞け。安易な胸や尻に目覚めるのは男の性だろう。それに飢えるのも男の性だ。大変嘆かわしいが、男の情けだ許してやる。

 例えお前たちが、乳神様だと毎日崇めて、Dカップ以上しか認めない変態だとしても私は許してやる。

 しかし、未来の可能性を否定するのは許さん。お前らには一人でも断言出来るのがいるのか? あの中に一人でもDカップ――いや、もしかしたらFカップに目覚めるものがいるものかもしれない。

 健康的な美少女がFカップ、大変素晴らしいだろう。ツンデレのDカップ、喜ぶべきだ。ロリ巨乳など、もはや戦略兵器だ。

 若さを認めろ、未来に絶望するな。いいか、私たちは日々の未来のために生きている! 陸士の誇りを忘れるな!!」

 

 変態という名の紳士だった。

 

『……つまり?』

 

「ギャップ萌えだ!」

 

 うぉぉおおおと号泣の声がするイヤホンの先の通信をぶちっと閉じる。

 息つぎもせずにそこまで言い切ると、ラッドは大変爽やかな笑みを浮かべてフォワード陣たちの元まで戻った。

 

「すまないね、少し部下の教育が悪かったようだ」

 

「い、いえ、そんなに待ってないですから!」

 

 ティアナが緊張したように告げる。

 ありがたいね、っとラッドは微笑を浮かべると、不意にスバルに顔を向けた。

 

「ああ、そうだ。スバル・ナカジマくん」

 

「は、はい!?」

 

 名指しで呼ばれたスバルがぴんっと背筋を伸ばした。

 

「今後は私のことを義兄さんと呼んでくれても構わないよ」

 

「……へ?」

 

『――解析結果出ました! 動体反応確認、ガジェットです! Ⅰ型17機! Ⅲ型2機。Ⅲ型は今まで見たことが無い形状です、相対の際には気をつけて!』

 

 機動六課の面々に、そしてデータリンクされている陸士たち全員に伝わるオペレーターの声。

 

「やれやれ、大量のお出ましか」

 

 ニコリと笑う――ラッドの不敵な笑み。

 同時に通常武装した陸士たちが各々の班でレールウェイに侵入していく。

 

「索敵と包囲はこちらで担当する。六課諸君はこちらからのナビゲートで、侵入してくれたまえ」

 

「は、はい」

 

「自由に叩きのめして構わない」

 

 ばっと手を伸ばし、ラッドは告げる。

 

「さあ、悪をより残忍に叩き潰そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い地下道。

 その中で蠢く大量の影と二人の人影があった。

 

「な~んか、凄い嫌な予感がする」

 

「……私もしてくるっす」

 

 ぶるりと肌を震わせて、青い顔を浮かべているのは独特のカチューシャで髪を止めたナンバーズ6のセイン。

 ライディングボードを抱え、髪を結い上げた少女の名はナンバーズ11のウェンディだった。

 

「き、機動六課は別にいいんだけど、あの陸士共が出張ってるし……」

 

 そう呟くセインの顔には過去のトラウマが浮かび上がっているのか、戦闘機人にも関わらず青白い血相だった。

 初めて出撃した時の恐怖を忘れることは出来ない。

 機動六課が出撃してくるよりも早く、とある市街地でレリックを回収しようとした時、セインは陸士たちと遭遇した。

 しかし、あろうことか陸士たちはセインを認識した瞬間、鼻血を吹き出し、奇声を上げながら殺到及びバインドを乱射してきたのだ。

 

 慌ててディープダイバーでレリックを回収し、逃げ帰ったものの出会うたびに奴らの対処方法は激しくなってくる。

 壁に潜ると理解してからはつるはしを持ち出して壁を破砕し、出ようとした場所で先回りされてカメラを構えた陸士たちに激写され、護衛に付いたノーヴェに至っては殴られながらも胸を揉まれたと一晩中泣いていた。

 一度潜入任務で普通の格好で町を出た時など、たまたま覗いた露店で自分達のフィギュアが売られた時は腰を抜かした。

 しかも、完全フル稼働で、5種類ほどの衣装違いバージョンがあったほどである(ちなみにセインの場合はナンバーズスーツと独自で作ったらしい夏服姿のフィギアが一番多かった、売れ筋だった)

 陸士○○部隊が愛を込めて作りました♪ とかいう広告文が付いていた時はどう反応すればいいのか真面目に悩んだほどだ。

 

「……超絶的に帰りたいッス。なんていうか、お嫁にいけなくされそうで」

 

『ンー、その場合は諦めるべきね』

 

 モニター画面に写るクアットロが酷く冷たい顔でそう告げた。

 

「いやー! ッス」

 

「どうするクア姉~」

 

『とりあえずⅢのテストは大体終わってるけど、戦闘実験もしたいからぶつけるだけぶつけなさい。あとは遠隔で遊ぶ程度にして撤収ね』

 

「了解~」

 

「さっさと終わらせるッス!」

 

 というわけで、GOと叫んでウェンディの指示でガジェットたちが動き出す。

 同時に多脚型の新型ガジェットⅢも地ならしを上げながら動き出した。

 

 戦いが始まる。

 

 多数の人間(主に陸士たち)が望んだ戦いが。

 

 

 

 

 

 

 

 爆音。

 斬撃。

 打撃。

 粉砕。

 

「これでラストォ!!」

 

 マッハキャリバーを振り上げて、大きく足を上げての回し蹴りがガジェットにめり込み――粉砕した。

 爆風が吹き荒れるも、バリアジャケットの耐久性がそれを遮断する。

 精々強い風が吹き荒れて、鉢巻とそのたわわに実った乳房が揺れるだけだった。15歳にしては反則的なバストである。

 まるでマシュマロだと叫ぶものもいるほどである。

 

「おぉー」

 

 と告げる陸士たちの目はガジェットの撃破よりも、スバルの胸に注目していることは言うまでも無い。

 ついでとばかりに飛んでくるガジェットの破片をデバイスで払いながら、撮影をしている陸士も居た。片手で塞がって、家庭用ビデオ持ちである。

 相方らしい陸士が【機動六課の健康美少女、スバルちゃんがガジェットを蹴りで撃破する】と書かれた紙をカメラ前に写し、原始的な編集をしていた。

 

「よし、これで7機撃破したね!」

 

「ええ! 108部隊の人たちは――」

 

 そう叫んで、フォワード陣が振り返る。

 

「我に断てぬモノ無し!!」

 

 鮮烈とした制服をモチーフにしたバリアジャケットに、大剣型のアームドデバイスでガジェットを両断し。

 

「衝撃のファーストブリットォオッ!」

 

 紫色の装甲服型のバリアジャケットを身に纏い、華麗な脚部装着型の足甲デバイスで旋回しながら、ガジェットを粉砕し。

 

「クールに逝きな――ジャックポット!」

 

 白髪、赤いコートを翻し、変則型の二挺拳銃デバイスで息する暇もなく蜂の巣にする陸士たちの姿が居た。

 一々ポーズを決めていた。明らかなカメラ目線でだ。ついでにパシャパシャと撮影している陸士も居た。

 

「全滅したな!?」

 

「さあ先を急ぐぞ、野郎共!」

 

「休んでなどいられない! 出撃だ!」

 

 同時にカメラを構えていた面々もイヤホンに手を付けて、「こちらβ! αチームどうした!? まだ敵は見つからないのか!! ケツの穴を二つに増やされたくなかったらさっさと見つけろ!」と叫んでいる。

 持っていた一眼レフなどを懐に隠した陸士の面子は一糸乱れぬ動きで先導するかのように、フォワード陣たちの横を通り過ぎていった。

 

「頼もしいわね」

 

「そうだね!」

 

「陸士の皆さん……強いです」

 

「どうして、僕を見て息を荒げてる人がいるんでしょうか?」

 

 三名の少女達が少しだけ意見を変えて、一人の少年が首を傾げていた。

 エリオきゅん、という声がしたような気がしたけれど、それは多分風がレールウェイを通り抜ける際に聞こえた空耳だということにしておいた。

 

『っ、ガジェットⅢの一機が近づいているわ! 警戒して、皆!』

 

「了解!」

 

 オペレーターのアルトの声が鳴り響く、フォワード陣が構える。

 その後ろで先ほどまでの様子からうって変わって、膝射姿勢で一斉に陸士たちがカメラを構えた。

 後ろからのアングルが撮り放題だった。

 盗撮用のシャッター音が消音された盗撮用カメラが凄まじい勢いでフィルムを切り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう、1機がぼこられてるッス」

 

 モニターしていたガジェットⅢの一機の反応がなくなったのと確認し、ウェンディが声を上げる。

 

「あいつら、フォワード陣はもう単独でAランク魔導師も同然だな。固有スキルならAAくらいか?」

 

 ガジェットの一機をイス代わりに、足を開いて休んでいたセインが呟く。

 

「やばいっすねー。別々の特化技能を組み合わせることで総合的に能力も上げてるし。仕留めるなら分断して、個別撃破が正しいッスね」

 

 そういって、ウェンディがライディングボードを構える。

 

「ん? どうするつもりだ」

 

「ちょっとテストッスー」

 

「しっぽ捕まれたら、ウー姉とトーレ姉が怖いから一発撃ったら終わりにしろよー」

 

「分かってるッス。これを撃ったら、後はⅢ型ぶつけて撤収ッスね」

 

 まるで砲台の如く、ウェンディが足を組みなおし、腰を低く、尻を突き上げるような構えで、ボートを構えた。

 その先端からは魔力の光。

 ボード内部に仕込まれた魔力カートリッジを応用したバッテリーから供給される魔力が、内蔵プログラム回路に沿って魔力弾を形成する。

 

「たまや~」

 

 カチッと引き金を引いて――弾が射出された。

 瞬間。

 

 ちゅぼんと爆発した。

 

「ぶふっ!!」

 

 自爆風味にウェンディが吹き飛ぶ。

 

「あー? なにやってるんだ、ウェンディ」

 

 アホかと暢気に身体を持ち上げて、セインが呟く。

 

「い、いや、それが――上ッス!」

 

 自分でも分からない、そう告げようとした瞬間、床に転がっていたウェンディが頭上に気付いた。

 その声は緊迫したものだった。

 

「は?」

 

 上を見るセイン。

 そこには――赤い光が無数にあった。

 二つずつ並んだ光が、まるで蝙蝠の群のように並んでいた。

 

「ウェェエエエエエエエエ!!?!」

 

 奇怪な叫び声を上げるセイン。

 それだけ目の前の光景はおぞましかった。

 

『発見!』

 

『発見!!』

 

『確保ぉおおお!!!』

 

 それは人影。

 それは人型。

 それは人間。

 それは――陸士。

 

 全身黒尽くめで、頭には暗視スコープを付けた、陸士たちがゴキブリのように天井に張り付いていた。

 

 その数は6!

 

『見つけたぞ!』

 

『我がボーナス!』

 

『俺の嫁!』

 

『いや、俺の嫁だけどな!』

 

 ボトボトと天井から6人の人影が落下する。

 それはさながら熟れ過ぎた果実が重力に引かれて落下し、地面で潰れる様のように。

 けれど、彼らは手足を使い床で受身を取り、生まれたての子鹿のような動きで起き上がる。

 

「変態ダァアアアアアアア!」

 

 絶叫を上げて、反射的にウェンディがライディングボードの砲口を降り立った陸士たちに向け、即座に引き金を引いた。

 しかし、それを陸士たちは見事な側転で左右に跳び分かれて避ける。

 爆風が、着弾した遥か向こうの通路から響いた。

 

「逃げるぞ、ウェンディ!!」

 

 セインが指を鳴らし、残ったガジェット全てを戦闘モードに移行させる。

 レーザーが発射される、さらにⅢ型が軋みを上げながら軽やかな動きで陸士たちに迫るが。

 

「無駄、無駄、無駄ぁあああ!!」

 

 陸士たちがレーザーを飛び跳ねて避けると、さらに壁を蹴った。三角跳び。

 跳ねながら、旋回、体のバネを極限までねじ回し――

 

「ドリルキィック!」

 

 飛来し、チューブで襲い掛かるガジェットに蹴りを叩き込む。めり込み、さらに捻りを入れた蹴りが内部部品を撒き散らした。

 

「触手プレイ以外に、メカは要らん!!」

 

 そう叫んで、残った片足で器用にオーバーヘッドキック。

 遥か後ろに飛んでいったガジェットが床にガコンとぶつかり、爆発。背中から落ちた陸士は受身を取って、さらに後ろにバック転をしながら起き上がる。

 残った五人も踵落としを決めたり、拳でカメラ部分を貫き取得していた魔力変換資質の電気でショートさせたり、二人掛かりで左右から魔力弾でゼロ距離射撃などをして、即座に破壊する。

 

「雑魚が!」

 

「味噌汁で首を洗って出直しやがれ!」

 

「そして、地獄で懺悔しろ!」

 

「フゥハハハハー!」

 

 アドレナリン全開状態の興奮し切った声で陸士たちが吼える。

 しかし、そんな彼らの前にガシガシとコンクリートの床に亀裂を入れながら迫るガジェットⅢの巨体があった。

 

「っ! フォーメーションダブルデルタ!」

 

『ラジャー!』

 

 隊長格の陸士の言葉と同時に陸士たちが駆け出す。

 ガジェットⅠ型とは比べ物にならない高出力のレーザーが駆け巡り、咄嗟に回避する陸士たちの裾を掠めて、焦がした。

 

 けれど、彼らは止まらない。

 撹乱するかのように壁を蹴り、床を蹴り、ベクトル変換の魔法を使用し、天井と壁を駆け回る。

 まるで編隊を組む鳥のようだった。

 

 一糸乱れぬコンビネーションに、Ⅲ型のAIがレーザーでは捉えきれぬと判断して、前面を開いて作業用兼戦闘用のアームベルトを吐き出す。

 縦横無尽に敵を叩き潰す鋼鉄のベルトが狭い空間に吹き荒れた。

 壁を破砕する、天井が崩れる、床が砕け散る。破壊の嵐だった。

 生身の人間にはひとたまりも無い。

 Bランク程度の魔導師のバリアジャケットでは耐え切れまい。

 防弾繊維と強靭な合金で作り上げられた手甲とアーマーならばなんとか耐えられても、数発程度。

 吹き飛ぶ。

 何名もの陸士が吹き飛んだ。

 

「ぶっ!」

 

「がぁっ!!」

 

 壁に激突し、ゴムのように跳ね飛ぶ。

 中央から打ち込まれ、床の上に転がった。

 けれども、彼らは止まらない。追撃に迫る細いアームチューブの刺突を躱し、床を転がって跳ね起きる。

 

 ダン、ダン、ダン。

 踊るような破壊の乱舞。

 数分と見たずに、周辺が破壊される。壊れ逝く。

 

「だが、タイミングは掴めた!」

 

 隊長格の陸士が叫ぶ。その手には障壁、魔法の力。

 

「タイミングを合わせろ!!」

 

『応!!』

 

 二人が床を蹴る。

 一人が壁を蹴る。

 三人が天井を疾る。

 デバイスと武装を抜き放つ。

 

「アイン!」

 

 一人の陸士が飛んだ。真正面からアームベルトに拳を叩きつける。ベクトル操作、方角はそのまま、ただ――加速させる。

 触れた陸士の手甲を削りながら、止まらずに、その矛先のみが突き進み、進みすぎた勢いにガジェットのアームベルトが伸びきり、体勢が崩れた。

 

「ツヴァイ!」

 

 そこに天井から落下する陸士。

 その手には短杖形のデバイス。その先端から魔力刃。カートリッジロード、鉄すらも切り裂く刃。

 一刀両断。

 アームベルトが吹き飛ぶ。

 

「ドライ! フィーア!」

 

 二人の陸士が床を疾走する。

 ベクトル操作、足に嵌めた足甲に障壁を展開。旋回しながら、ベクトル操作。

 加速――全てを砕く鉄槌と化す。

 足が砕けた。2本の脚部を粉砕する。

 ガジェットⅢの巨大が揺らぐ。同時に防衛機能が働いたのか、AMFの出力を上げる。

 空間が揺らいだ。

 

「フュンフ!!」

 

 カートリッジロード。

 発生したAFMにも負けぬ魔力量で、陸士の一人が真正面から砲撃。

 絶叫を迸らせながら、減衰していく砲撃をガジェットⅢの装甲に撃ち込む。装甲が溶解する、反撃のレーザーが陸士を吹き飛ばした。

 悲鳴が上がる、けれどバリアジャケットが、事前に着込んだ装甲服が彼を護る。吹き飛びながら親指を立てる。

 

「ゼックス!」

 

 隊長格が走る。

 手には長杖。無骨なデバイスで、天井から飛んだ。

 狙いは溶解した装甲、魔力刃。AMFの濃度に減少しながらも、ナイフサイズの刃が装甲に食い込む。

 しかし、それではトドメにならない。

 ならば、ならば、仕留めるには――

 

「くたばれ、鉄くず」

 

 杖の中心部からカートリッジが排出される。

 増強する光、突き迫るアームチューブに恐れもせずに、叫んだ。

 

「ぶっとべぇええ!」

 

 追加魔法発動――砲撃。

 AAAの魔導師ならはいとも容易く障壁で弾ける程度の砲撃。

 けれど、それは装甲を貫かれたガジェットⅢの内部を焼き尽くすには充分過ぎた。

 

 ――爆散。

 

 陸士たちを巻き込んで、その通路は燃え上がる紅の炎と風に呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁはぁ――あー、ビビッた」

 

「マジで犯されるかと思ったッス」

 

 クラナガン市外、ディーブダイバーの能力でリニアウェイから脱出したウェンディとセインが荒く息を吐き出した。

 

「ぅー、ガジェット使い切っちまったし、迎え呼ぶかー?」

 

「一応ライディングボードがあるから、途中まで飛んでいけるッスよ~」

 

「でも、少し休憩しようぜ」

 

「さ、賛成ッス。神経が磨り減った……」

 

 はぁはぁと夜の闇の中で、発汗機能だけは残してあるのか、喘ぐように二人の美少女が息を吐き出し、胸を揺らめかせた。

 腰を下ろし、両手で地面に触れる。

 ぴったりと体のラインを浮かび上がらせるスーツが艶かしく仰ぐ少女の肢体を映し出していた。

 

 空を見る。

 クリーンな環境のおかげで、都市内だというのに星がよく見えた。

 静かな空には相応しい光景だった。

 

 ……ウゥゥン……

 

「ん? ウェンディ、お前何かいったか?」

 

「え? なんもいってな――」

 

 ブルウゥウウン!

 それは唸り声にも似た鋼の咆哮。

 

「なっ、嘘だろ!?」

 

「ど、どこか!?」

 

 セインとウェンディが立ち上がろうとした瞬間、音は――上から降り注いだ。

 空から、正確には周りに建造されたビルの屋上から何かが飛び出す。

 それはバイク。

 フルフェイスのライダーたちが乗り回す、鋼の馬。

 

「うぇえええええ!!?!」

 

「ええええええええ!!?」

 

 唸り声を上げて、バイクたちはビルの壁を滑走する。

 まるで床のように、まるで重力の存在を忘れたかのように、一気に落ちていく。

 ブレーキなどしない。

 アクセルを回し続け、水触媒のエンジンが咆哮を上げて、車輪を回転させる。

 

 それは陸が誇る特車部隊。

 Cランクまでの魔導師によって作り上げられた、ミッドチルダの交通を護り、犯罪者を追う鋼の騎馬隊だった。

 何故彼らが壁を走れるのか?

 それは飛行魔法が関係している。

 一口に飛行魔法といっても、幾つか種類がある。

 大気などを操作し、飛行するタイプ。

 重力などの慣性を操作し、擬似的に飛ぶタイプ。

 魔力の足場を形成し、それらから跳躍して空を舞うタイプ。

 そして、その中にベクトルを操作し、空を舞う魔法がある。

 

 実質飛行魔法の習得自体は難しくない。問題は飛行適正――すなわち三次元の機動及び空中での飛行に適応出来る脳力があるか否かである。

 生まれつき飛行適正も持つ者は限られている。後天的な訓練でも習得は可能だが、多大な訓練期間と資金が掛かる。

 そのため空士がエースと呼ばれるのだ。

 肝心なのは飛行魔法の習得自体は難しくないということ――すなわちベクトルの操作は可能ということである。

 繊細な操作技術の習得と血のにじむような修練の果てに、バイクという乗り物に乗りながらのベクトル操作を可能とした部隊なのである。

 

 そんな彼らが一斉に二人のナンバーズの周りにタイヤを軋ませながら、着地する。

 

「くっ」

 

「ウェンディ! ライディングボードで!!」

 

 そう続けようとした瞬間だった。

 さらにド派手な破壊音を響かせて、工事途中だったらしいバリケードを突き破り、頑強な装甲車がドリフトしながら到着する。

 ガンっと扉を蹴り破り、その中から現れたのは無数の大砲らしきものを構えた装甲服の集団だった。

 

「援軍か!」

 

「しかし、なんでこんなに早く!?」

 

 逃走ルートは念入りに下準備をしたはずだ。

 何故こうも読まれるのか、二人には理解出来なかった。

 

「ふふん。教えてやろう!」

 

 そう叫ぶのは最後に現れた全身が黒こげた陸士だった。

 ごふっとススを吐き、不敵な笑みを浮かべる。

 

「答えは一つ! お前達に発信機を付けたのだ! というわけで、お尻辺りを触ってみろ」

 

『え?』

 

 二人が慌てて自分のお尻に手を当てる。瞬間、パシャパシャというフラッシュと音が響いた。激写タイムだった。

 そして、ウェンディが声を上げて、くっ付いていた紅く点滅する発信機を発見する。

 

「っ、やられた!」

 

「さあ、観念するがいい!」

 

「嫌だね! ディープ――」

 

 セインが地面に手を当てて、ISを発動しようとした瞬間だった。

 

「構え!」

 

 ザッと重々しい足音を立てて、砲口が一斉にセインに向いた。

 

「セイン!」

 

「――放てぇ!!」

 

 瞬間、連発した砲撃音が轟き、黒い砲弾が次々とセインに着弾する。

 そして、着弾した砲弾は破裂し――白濁液となってセインに降り注いだ。

 

「っう! なんだこれ!?」

 

 粘つく白いジェル。

 もがければもがくほど絡みつく粘着質な白濁色の物体。

 火傷しそうなほどに熱く、全身に絡みつく。

 それはセインの全身を束縛し、拘束し、覆い尽くす。

 その光景に数名の陸士は鼻を押さえ、数名が無言で録画用ビデオの録画ボタンを押したのはいうまでも無い。

 

「見たか! 開発部特製トリモチ弾だ! 大人しくゲッチュされるがいい!!」

 

『ゲッチュー!』

 

 一糸乱れぬ動きで一斉に手を挙げ、奇声を発する陸士たち。

 

「セインッ!」

 

「逃げろ、ウェンディ!! アタシはいいから!」

 

 そういって、セインは指先に仕込んだカッターでスーツの胸元から手首までの部分を引き裂き、僅かに動くことが出来る手で携帯していた閃光弾を掴んだ。

 同時にスーツの剥がれたセインにカメラを向ける陸士多数。

 艶かしい肌を露出させながら、姉妹を逃がすためにセインが絡みつく拘束に抵抗しながら閃光弾を投げ放つ。

 

 そして、閃光。

 

 夜闇が白い光に満たされた。

 

「くっ!!」

 

『目が、目がぁあああああ!』

 

 カメラを向けていた陸士全員が目を押さえて悶え苦しむ。

 馬鹿の末路だった。

 

「ごめん、セイン!!」

 

 咄嗟に視界をシャットし音声もシャットして、ライディングボードに飛び乗ったウェンディがバーニアを吹かして、空に舞い上がる。

 その目には涙が溢れていた。

 天へと帰る天女のように、光を曳きながらウェンディが空へと飛び出していき――

 

「逃がすかぁああああ!!」

 

 バイク部隊の陸士の一人がエンジンを吹かし、己の脚力のみで地面を蹴りつけると、バイクごと跳んだ。

 衝撃音を立てて装甲車の上に飛び乗り、さらに車体をジャンプ台へと変えて、跳ぶ。

 まるで月へと攫われるカグヤ姫を追う、帝のような形相で高々と舞った。

 

「なっ!?」

 

 高さにして数十メートルの高みに、迫る声にウェンディが振り向く。

 瞬間、陸士がバイクを踏み台に、さらに跳んだ。

 怪鳥のポーズで、陸士はウェンディの上を取った。取ったのだ。

 

「だりゃあああ!」

 

 両手を広げて、ぐわしとウェンディにしがみ付く。むしろ抱きついた。

 

「なっ、ナナナナナ! 離せぇええッス! 変態! ど変態! Do変態ッス!! どこを掴んでるんすかぁあああ!!」

 

「放すかボケェエエ!! 俺のボーナスゥウウウ!!!」

 

 クルクル舞い踊るライディングボード。

 暴走する回転に、乱暴なダンスは美しくも騒々しく空に舞い踊る。

 必死に叩き落そうとするウェンディに、ちょっとだけイケメンの若いバイク乗り陸士はウェンディの大きな胸をわし掴みにし、腰に腕を廻し、必死の形相で捕らえていた。

 まるで美少女に襲い掛かる暴漢のような光景だが、彼は至って真面目にボーナス狙いだった。

 美少女狙いではなく、金の亡者というミッドチルダUCATの中ではマトモな男である。

 

「よくやった!」

 

 そして、地上にいる装甲服の陸士が右手を左手で掴み、天へと伸ばした。

 ――シュバンッ!

 音を切り裂く、破裂音。

 同時に天へと滑走する黒い礫が、空を舞い踊り、破廉恥な声を上げる少女と男の足首に絡みついた。

 

「へ?」

 

「ぬぉおおおおおお!!」

 

 ワイヤーアンカー。

 手甲に内蔵された特殊装備であるそれを放った男は、大地に脚をめり込ませながら全身に魔力を込める。

 

「第97管理外世界の嵐の海でカツオとかいうのを一本釣りした時と比べればナンボのものよー!」

 

 ふんぬ! と鼻息を発し、彼が大きく体を捻る。

 そして、二人が空をさらに舞った。

 ぁあああああっという声と共に月の綺麗な夜空に二人の人間が放物線を描いて墜落した。

 

「へい、キャモーン!」

 

 両手を広げて、満面の笑みを浮かべる陸士。

 ――そこに割り込み。

 

「どけぇええい! 俺がキャッチする!!」

 

 飛び蹴りで退かした陸士の場所に、もう一人の陸士が滑り込む。

 

「いや、俺だ!」

 

「いや、私だ!」

 

「僕だ!」

 

「それも私だ」

 

 しかし、そこに殺到する陸士共。

 ひゅるひゅると近づいてくる二つの影――そして。

 

 

 どごーん。

 

 

 大量の陸士を踏み台に、男と少女が無事墜落した。

 

 

「ナンバーズ――ゲットだぜ!」

 

 

 

 こうして、ウェンディとセインは逮捕された。

 その後、祭り上げるかのように大量の陸士たちが簀巻きにしたウェンディとセインを踊りながら地上本部に連行したのは言うまでも無い。

 こうして再び市民たちの不信感は上がったが元々最低クラスなので誰も気にしなかった。

 

 機動六課の面々?

 ああ、ガジェットを掃討して、無事に任務完了です。

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ。

 

「うぅ、お嫁に行けなくなったッス。責任取れッス」

 

「えぇええ!?」

 

 ウェンディと名も無い陸士の間にちょっとしたフラグが立った。

 

 

 

 

 第24回 ナンバーズ捕獲作戦 成功

 

 第1回 聖王の器 争奪戦に移行する。

 

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