ミッドチルダUCAT   作:箱庭廻

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第一回 聖王争奪戦 その1

 

 

 

 ミッドチルダUCAT。

 元の名称は時空管理局地上本部。

 しかし、その名称はもはや建造物としての名称であり、組織名はミッドチルダUCATに統一されている。

 

 何故UCATなのか?

 

 それは数十年前、彼らが接触したある時空世界の組織による影響を受けたらしいが詳細は不明である。

 

 ミッドチルダという時空世界を護るための最後の壁でもあり、数百人以上の規模を誇る陸士たちによって構成された地上部隊。

 幾多の問題を起こしながらも、優れた実績と能力により幾多の危険犯罪者及び組織を摘発している地上部隊は極めて優れた組織といえるだろう。

 

 しかし、彼らを危険視する人間は多い。

 それも陸とは因縁の関係にある海――すなわち本局においてその意見は多かった。

 低資質の魔導師が大部分を占める陸士でありながら、極めて迅速な制圧能力を持つUCAT。

 質量兵器規制などで制限されながらも、日々画期的な武装や機器を作り上げる技術力。

 いずれは本局に反旗を翻すのでは?

 そう考える人間は多かった。

 同じ組織でありながら、他の優れたものを恐れる者は多い。

 それが人の性だ。

 

 そして、とりわけ採用という形で陸の優れた人材を引き抜き続けた負い目もあって。

 それは間違いないという疑心暗鬼にまで取られていた。

 

 時空管理局。

 

 時空の治安を護る組織は内部に孕む鈍痛にも似た爆弾を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、とある日の地上本部。

 第37陸士部隊詰め所で、声が上がっていた。

 

「おーい、線画出来たか?」

 

「ああ、ちょっとまってろ」

 

 机の上で、何やらペンを走らせていた制服姿の陸士がふぅーと息を吐いて、消しゴムのカスを飛ばす。

 そして、机に並べていた無数の写真――ティアナ・ランスターとフェイト・T・ハラオウンの写真(盗撮)を見比べて、満足げに浮かべる。

 

「出来たぞー、我ながらいい仕事だ」

 

「おおー、実にGJ!」

 

 それを見た陸士たちが、パチパチと手を叩く。

 線画に描かれていたティアナとフェイト、それはまさしく彼女達がバリアジャケット装着時に垣間見える裸身だった。

 

「スキャナーに取り込めー!」

 

「色塗りだー!!」

 

 フェイトそん萌えー! ティアナちゃん、実に色っぽいぜ! 百合最高! 実はくっついてんじゃね?

 などという喝采が上がる。

 

「納期は近いぞ、なにやってんのぉお!!」

 

 その言葉と共に陸士たちが一斉に作業用デスクの前に戻る。

 カチカチとペンタブを一人の陸士が動かし、或いはキーボードを叩き、もう一人はヘッドホンに耳を当てて音の調節をしていた。

 スキャナーに取り込まれた線画が、ペンタブを動かされるたびに次々と色が塗られていく。赤毛の掛かったブロンドも、黄金を寄り合わせたような金髪も、その実に絶妙な肌色をも陸士が手を振るうごとに魔法のように色付けされ、命が吹き込まれていく。

 そして、ティアナの裸身はもとより、特にフェイトの尻への色付けは実に神掛かっていた。

 彼らの中では尻神様と影で崇拝されるフェイトそん、その尻に関して一切の妥協など許されないのだから。

 

「BGMとSEの編集はどうした?」

 

「今やってるー」

 

「なぁ、ここのシナリオの台詞をさ『フェイトさんには分からない』 じゃなくて、『フェイトさんには、分からないんです!』っていう方がツンデレっぽくない?」

 

「あーそうだな。俺も修行が足りないぜ。ありがとな」

 

「か、勘違いしないでよね! 貴方のためにやったんじゃないんだから!」

 

「お前がツンデレかよ!」

 

 八人にも及ぶ陸士たち。

 待機中の彼らは詰め所で――エロゲーを作っていた。

 

 仕事をしろ

 

 

 

 

 

 

「うっ!?」

 

 機動六課隊舎、部隊長室でフェイトは突然走った悪寒に身体を抱きしめた。

 それは熱にして39度にも及ぶ風邪を引いた時にもする寒気であり、まるで尻を触られたかのようなおぞ気だった。

 

「ど、どしたん?」

 

 フェイトからの報告書を受け取り、目を通していたはやてが少しだけ驚いたように声を上げた。

 

「いや、ちょっと寒気を感じて」

 

「体が資本の仕事やからなー、気をつけなあかんよ」

 

 おかしいな? 昨日は早めに寝たのにと首を傾げるフェイトを置いといて、はやてが再び報告書に目を向ける。

 そこには【逮捕したナンバーズにおける調査内容】という文面だった。

 ミッドチルダUCATによる尋問の結果、大した情報は未だに手に入ってないらしいが、戦闘機人の総数は12人だということが判明したと記述されている。

 他にも細々と文章が書かれていたが、はやては酷く気になるものがあった。

 

「なあ、フェイトちゃん。一つ聞いてええか?」

 

「なに?」

 

「逮捕されたナンバーズの写真なんやけど――なんでチャイナドレスとレースクイーンの衣装?」

 

 ファイルに送付されていた写真に写っていたウェンディはレースクイーンの水着姿、セインはチャイナドレスだった。

 それも一人に付き5枚もの写真で、それぞれ違う角度とポーズで撮られている。まるでグラビア写真集のような勢い。

 何故かシクシクと泣いているし、その写真の横でスリーサイズが羅列されているのが酷く不気味だった。

 

 測ったのか? 計ったのかとはやては思った。

 

 一瞬はやての脳裏に、メジャーを持って襲い掛かる暴漢魔の如き複数の男たちの姿が浮かんだが、真実は違う。

 

 ただ簀巻きにしたウェンディとセインを輪になった数十人の陸士で囲んで、パイプイスに座りながらメモ帳とペンを手に競り市のように予想スリーサイズを討論しただけである

 

 その反応をうかがいながら一番正解に近い数字を割り出しているというおまけ付きだ。

 むろん指一本触れてなどいない、彼らは紳士だから。

 

「えっと……報告書を渡してくれた人は『ああ、それですか? その格好は写真を撮るならこの格好じゃないと嫌だ! と是非ともいわれたので、着替えを渡してあげました』って凄い爽やかな笑顔で言ってきたよ?」

 

 フェイトは気付かない。

 それを言い出したのはナンバーズなんかではなく陸士たちだということに。

 決して嘘はついていないものの、爽やかな笑みと口調でフェイトは騙されていた。

 

「そ、そうか……」

 

 とりあえず後でこのウェンディとかいう戦闘機人の写真だけはコピーして、秘蔵アルバムに納めとこうとはやては密かに企んだ。

 おっぱい、おっぱいという単語が一瞬脳裏に浮かんだが、仕事中だということを思い出して軽く頭を振った。

 

「まあともかく、まさかUCATの皆がナンバーズを逮捕するとは思わんかったわ」

 

「そうだね」

 

 自惚れるつもりはないけれど、ナンバーズ――すなわち戦闘機人は極めて優れた戦闘能力とISを保有している。

 本局の高位魔導師クラスの実力はあるのだ。

 基本Bランク以下、陸士の中でも練度の高い陸士108部隊とはいえ、Aのギンガを機動六課に出向させている以上真正面からの相対は危険だと踏んでいたのだが――

 

 数の暴力はやはり偉大だったようである。

 

「まあええわ。どちらにしてもこれでぐぐーっと預言を防げる可能性が高まったことやし」

 

「そうだね」

 

 どこかじろじろ見られているかのような悪寒に、フェイトが後ろ手でお尻のスカート部分の皺を直した。

 

「そういえば、フォワード陣はどしたん? 確か今日は休暇のはずやけど」

 

「あ、あの子たちなら街に出てるはずだけど。ティアナとスバルならヴァイス陸曹からバイクを借りていったみたい」

 

「そか」

 

 そう告げてはやては不意に一枚の書類を取り出した。

 

「まあのびのび楽しんで欲しいわ。まだ子供やし、私らが頑張れええ」

 

「それは?」

 

「例の事故の報告書や。今、ギンガに調べにいってもらっとる」

 

 そう告げて、はやてがぱさりと机の上に書類を置いた。

 その文面には【市外地下トンネルで発生したトラック事故について】と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そこは暗い場所。

 それは地下トンネル。

 そこにギンガは訪れていた。

 

「やぁ、ギンガ。七十八時間、三十五分、二十四秒ぶりだね」

 

 散乱したトラックの部品。

 ゲシゲシと陸士たちに蹴られているガジェットの残骸。

 勘弁してくださいと泣きついているトラックの運転手の首筋を掴み、尋問している陸士。

 パシャパシャと現場証拠のための写真を撮り、効率的に現場現象をしている鑑識班。

 彼らは陸士108部隊。

 ギンガの元の部署であり、ギンガに声をかけたのはその主任でもあるラッド・カルタスだった。

 

「ついこの間会ったばかりなんですけど、カルタス主任」

 

「いけないな。物事は全て正確に測るべきだ」

 

 そうだろう? と当然のように告げるラッドはいつみても見事なオールバックの髪を一撫でして、当然のように告げる。

 ギンガは少しだけ頭痛を堪えるように頭に手を当てた。

 彼女が管理局、それもミッドチルダUCATに所属してから数年。未だに彼女は独特な彼らの雰囲気になれない、なれることを拒絶していた。

 過去には何度もフィギュアを無断に作成され、注意と没収の果てに、泣きながらそれを破砕し、同僚を殴り飛ばした暴行事件などを起こしてしまったこともあったのだが。

 

「純情少女は実にイイッ!」

 

「最高だね!」

 

「君は売れるぜ!」

 

「俺たちのハートを、キャッチマイハート!」

 

 などという意味の分からない言葉と共に笑って許された。

 むしろもっと踏んでくれと告げる人間も多数居た。むしろ翌日には陸士たちを殴った時のポーズそのままのフィギュアが大量生産されていた。あまりのおぞましさに、ギンガが布団を被ってしくしくと涙を流したのも十回ではきかない。

 少なくとも父親であるゲンヤに続いて、まだマトモなラッドにギンガは頼ることが多いのだが、独特な会話のテンポに戸惑うことも多い。

 

「ああ、そうだ。いつものことだが、気軽にラッドと呼んでくれないか?」

 

「いえ、上司ですし」

 

「君と私の仲じゃないか」

 

 ハッハッハと笑って告げるラッドの言葉はきっと彼なりのジョークなのだろう。きっとそうだ。そうに違いない。

 ギンガは知らない。ラッドは常に本気だということを。

 

「まあ将来の話はそこまでにして、とりあえず鑑識班の報告を聞くかい? ギンガ」

 

 しょ、将来?

 と首をかしげながらも、ギンガが頷く。

 

「どうやらこのトラックは違法品を運んでいたらしくてね、それも――生体物らしい」

 

「え?」

 

 そういって、ラッドが首を傾げる。

 トラックの運転手が羽交い絞めにされて、その両脇をくすぐられながら「吐けー! 中に積んでいた幼女はどこだぁああ!!」「し、知らないんだ! 本当なんだ!」

「うるさい黙れ! 幼女だぞ!? ょぅじょなんだぞ! 傷一つ付いてみろ!! お前の罪を五倍に増やして、臭い飯を鼻から食わしてやる!!」「ひぇええええ」という阿鼻叫喚状態だった。

 

「あ、あの人は何を?」

 

「先ほど違法物を運んでいたと説明したね? どうやらそれを運んでいる最中に、トラックがガジェットに襲われたらしい。通報を受けて到着した特車部隊がガジェットを撃破したものの、どうやら積荷の幼女が脱走したそうだ」

 

「よ、幼女ですか?」

 

 真顔で幼女と告げた上司をマジマジと見るギンガ。

 その視線にラッドは軽く微笑み、視線を違う方向に向けた。

 すなわちトラックに。

 

「ああ。そのポッドを見てみたまえ」

 

 そう告げてラッドが指差した遺留品、それは大人ほどの大きさを誇るポッド。

 辺りに緑色の薬品を撒き散らし、事故の衝撃で破砕したのかガラス部分が砕け散っていた。

 

「どうやら人造人間――或いは改造人間、それも少女らしきものが脱走したようだ」

 

「なっ!?」

 

「現在特車部隊及び追跡班が追っているが、ギンガも彼らに合流してくれ。ガジェットが襲撃してきたということはおそらくレリックがらみだ」

 

「了解です!」

 

 ラッドが差し出した無線機とイヤホンを受け取り、耳に装着しながらギンガが走り出そうとする。

 

「ああ、それといつ戦闘になるか分からないからバリアジャケットは装着しておいたほうがいい」

 

「っ、はい!」

 

 言葉に甘えて、ギンガがデバイス――待機状態のブリッツキャリバーを握り締め、バリアジャケットを纏う。

 一瞬の閃光にも似た輝き。

 瞬くような瞬間に衣服が分解され、待機状態から起動状態になったリボルバーナックルが左手に、ブリッツキャリバーが両足に、露出していた裸身に光が纏う、それは視認するのも難しい一瞬の装着だった。

 その姿を鑑識班が、運転手を羽交い絞めにしていた陸士が運転手の顔を明後日の方向に向け、全ての陸士が一斉にカメラと血走った目を向けたのはいうまでもない。

 そして、ギンガの装着シーンをもっとも間近で視姦したラッドは短く、「実にいいね」と表情を変えずに告げると、手に持っていた無線機の通話スイッチを押した。

 

「追跡班、追跡班、そちらの状況はどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 闇の中に声が響いた。

 

「こちら追跡班、チームγ。現在クラナガン地下下水道を探索中です」

 

 そう告げるのは三人組の陸士の一人。

 手に短い警棒タイプのデバイスを握り締めた隊長格の陸士。

 

『こちらラッド。引き続き変わったことはないか?』

 

「こちらチームγ。下水道内を反響して、機械の駆動音らしきものを補足。おそらくガジェットが潜伏している模様」

 

『了解。そちらのチームにギンガ及び援軍を送る。交戦しても無理はするな、繰り返す無理はするな』

 

「了解」

 

 そう告げて、陸士が通話スイッチのボタンから手を離した。

 

「無理するなだとさ」

 

「いいね、素敵な上司だ」

 

「なら、無理せずにいつもどおりに任務を完了させようぜ」

 

 そう告げると、陸士たちが走り出す。

 ぱしゃぱしゃと下水を踏み締めて、クリーンな世界の裏側に流れるどこか鼻を突く異臭の世界を走り抜けた。

 闇の中を彼らは駆け抜ける。

 まるで猟犬。

 下手すれば見落としてしまいそうな、誰かが流した血痕――おそらくポッドから飛び出した時、そのガラスで切り裂いた血の雫。それを追って、彼らは走る。

 探査魔法を使用し、さらに組み合わせた目元に被ったカメラにより、ルミノール反応を起こす血液はまるで夜闇の中の蛍のようだった。

 無数に下水道に潜り込んだガジェット。その位置を音と注意深い警戒によって、避け、或いは隠れ、彼らは突き進む。

 彼らの目的は戦闘ではない。

 追跡と捕縛。

 それに特化されたチームだった。

 厳しい訓練を潜り抜けた彼らの足取りに迷いは無い。

 暗い足元もなんなく走り、溢れた下水の水も蹴散らし、転がっていたスーツケースも飛び越え、一歩先にいつでるかもしれない敵に恐れもしなかった。

 

「って、ん?」

 

「どうした?」

 

 不意に一人が足を止めた。

 くるりと振り返り、先ほど飛び越えたスーツケースを見る。

 

「こんなところにスーツケース?」

 

 陸士が拾い上げる。

 鍵は掛かっていたが、携帯していたデバイスを短く起動させ、発生した魔力場で切断。

 中を開くと――紅い結晶があった。

 売り飛ばすと高く売れそうだなっと一瞬考える。

 

「……これなんだっけ?」

 

「レリックだな」

 

「そーなのかー」

 

 嫌な予感がした。

 そして、不意にぶぅうんという稼動音がしたので三人は顔を上げた。

 そこには紅い光――カメラの眼光があった。

 

 彼らは理解する。

 レリックの魔力波を押さえ込むスーツケース。それが開封されたことでガジェットの探査に引っかかったのだと。

 そして、目の前にいるのはまさしくガジェット・ドローンだということを。

 

「し……失礼しましたーっ!」

 

 彼らは逃げ出す。

 そして、その背中を追ってレーザーの嵐が吹き荒れた。下水道の壁が焼ききれる、悲鳴を上げて陸士が跳ねた。見るのも可哀想な醜態だった。

 彼らは猟犬。

 彼らの専門は追跡と捕縛。

 

 すなわち――戦闘には向いていない。

 

 

 

 

 




今週のナンバーズ(捕獲組)

 1.ウィンディとバイク乗り(名無し君)

「なあ、なんで俺を毎回呼び出すんだ? なんか上司から「死ね! お前は豆腐の角に頭をぶつけて死ね! 氏ねじゃなくて、死ね!」って言われるんだけど?」

「うるせーッス。毎日、暇なアタシの愚痴ぐらい聞けーッス。胸もんだくせに、この乙女の敵」

「うるせえ、黙れ俺のボーナス帰せ」

 入るはずだったボーナス。
 しかし、それは入った瞬間、同僚に両腕を捕まれ、無理やり連れて行かれた飲み屋で全て飲まれた。金も払わされて、全て消えうせた。

「今日は非番だし、パチンコで金すったし」

 そう告げて、特車部隊の下っ端とウェンディは面会室で会話を交わしていた。
 ちなみに途中から雑談から、ライディングボードとバイクの差、そしてその魅力を熱く語る内容にシフトしていったのは同じライダーとしての性だろうか。
 金の亡者のはずの陸士。彼は着実に人生の墓場へのフラグを立てていた。

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