ミッドチルダUCAT   作:箱庭廻

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今週のナンバーズ(捕獲組)

 1.セインとウェンディの日々



「暇ッスね~」

 留置所とは名ばかりの部屋に転がりながら、ウェンディはパタパタと団扇を仰ぎ、漫画を見ながらだらけていた。
 太腿むき出しのチャイナドレス姿だが、もはや慣れたので気にしない。
 取調べというかセクハラのような日々が過ぎ去り、待っていたのは退屈な待機時間だった。
 一畳一間の美少女専用部屋と書かれた部屋に入れられて、だらだらと過ごす日々。
 唯一の暇潰しはたまに面会に来る陸士ぐらいだろうか?
 そういえば、貸したライディングボードは無事に使ってくれているだろうかと思う。
 今度感想を聞こうかなーと思っていると。

「暇なテメエが羨ましいわ」

「ん? セイン、どうしたんッスか?」

 通信が入った。
 さすがに顔を合わせての部屋は駄目らしく、連絡は通信のみが許されている。

「お前はIS大したことが無いからいいんだろうけどよぉ、こっちは毎日重労働だよ」

「重労働ッスか? ここの人たち、変態という名の紳士だから酷いことはしないと思ってたんすけど」

「いや、何故か知らんけど、ISディーブダイバーとかで埋蔵金掘りをやらされているんだよ」

「え?」

「埋蔵金ー! とか叫んでいる頭のおかしい自称冒険家がたまに来てな。ダウジングとか、古い地図とかで場所を探しては、アタシが潜る羽目に」

 およよといわんばかりに顔を両手で隠すセイン。
 しかし、ウェンディは気になることがあった。

「で、見つかったんッスか?」

「うん」

 コクリとセインが頷く。
 ちなみに彼女は寝ていたのだろう、ネコ模様のパジャマ姿だった。

「マジで!?」

「腰が抜けるかと思ったよ。一割くれるっていったから、貯金積み立てにいれてもらった」

「人生勝ち組じゃないッスか!!」

「まあねー!」

 彼女達は彼女達なりに人生の喜びを見つけているようだった。



第一回 聖王争奪戦 その3

 

 

 

 

 

 聖王。

 かつて古代ベルカにおいて権威を振るったと言われる古の王。

 信仰の対象となったほどの人物。

 されど、それが何を行ったのか、どのような人物なのか、それは驚くほど民間には知られていない。

 謎がある。

 過去は全て覆い隠されていた。

 

 そして、その謎は今ここに明かされるのだろう。

 

 古き王は蘇る。

 一つの預言書の一文通りに……

 

 

 

 

 

 海はいつものように蒼く美しかった。

 

「あおーい海~」

 

 その上を疾走するボートが一台。

 そして、その先頭にて佇む人物が二人――謎めいたポーズを取っていた。

 一人は後ろで前の腰を支え、一人は前に乗り出すポーズを取っていた。

 一昔前に流行った大作映画のポーズである。

 

「しろーい波~」

 

 しかし、悲しいことはそれを“男同士”でやっていることだろうか。

 ダイバースーツにも似たのっぺりとした防護服を身に纏い、頭には色彩模様のバイザーを被った男たち。

 誰が知ろうか、それはミッドチルダが誇る(?)海上防衛部隊である。

 

「海は美しい~ひゃっほぉう~」

 

 らららーと歌声を上げていると、ボートの中から同じような格好に耳にイヤホンを嵌めた陸士が一人出てきた。

 

「おーい、おまえたちー」

 

「あ?」

 

「なんか出動だっべさー。海上にガジェットの出現、ダース単位だってよ」

 

 連絡係の訛りある言葉に舌打ちを洩らし、二人の男がポーズを解除する。

 

「ガジェット~? それって確か陸と空をぶいぶい言わしている機械じゃなかったか?」

 

「それがえーとレリックとやら狙いで、海上から出てきたってよ。機動六課とやらの人員が二名ほどこっちにも向かっているらしいが、こっちにも出動が来とるわい」

 

「めんどくせーな」

 

 しかし、仕事は仕事である。

 陸士の二人は手袋を嵌めた手を握り締めて、ギリギリと音を立てると、おもむろにバイザーを外した。

 

「この海を汚すとあらば戦うしかねーな」

 

 キラーンと歯を日光に輝かせて微笑む陸士。

 しかし、彼は気付いていない。

 ずっとバイザーを付けて直射日光を浴びていたその顔は見事なバイザー焼けをしていたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海上の上で戦いが巻き起こっていた。

 

「どりゃぁああああ!!!」

 

 紅い衣が翻る。

 一人の少女が虚空を駆け抜け、音速を超えた速度でその身に余る鉄槌を叩きつけていた。

 破砕。

 機械仕掛けの鉄槌を、その身を越える巨大な絡繰兵器を打ち砕く破壊とし、一瞬遅れて発生する爆風をその身に纏う障壁を持って蹴散らしながら、その少女の外見をした戦士は空を舞っていた。

 指を鳴らす。

 瞬時に生み出されるのは塵埃を核とした疑似物質たる鉄球。

 それらを複数生み出し、投げ放つと、同時に手首を返し、スカートを翻し、まさしく踊るようなターンと共に鉄球の尻を打ち弾く。

 

「シュワルベフリーゲン!!」

 

 術式起動を発声。

 亜音速の速度を得た鉄球は銃弾をも超える質量を伴い、次々とガジェットのAMFを貫通し、破砕していく。

 

「けっ、AMFがあろうがこれなら効くだろ」

 

 生み出したのは純粋魔力ではなく、魔法をもって作り出した疑似物質だ。

 時間を掛ければ分解されてしまうだろうが、ガジェットの張るAMF程度では分解すらも出来ずに直撃する。

 鉄球の速度は銃弾には劣るが、その鉄球自体が持つ質量差を考えれば大口径マグナムの直撃に匹敵する破壊力を持っていた。

 

「凄いですー!」

 

 そして、その少女――ヴィータの傍で妖精のように舞い踊るのはリインフォースⅡだった。

 

「さっさと潰して、他のフォローに回らねえとな!」

 

「ユニゾンするですか?」

 

「いや、まだいいと思うが……」

 

 この程度なら個別で潰したほうが効率がいい。

 そう発言しようとした瞬間、不意に通信が入った。

 

『スターズ02! そちらに援軍が入ります、彼らと協力して対処してください』

 

「援軍?」

 

 ルキノからの通信に、ヴィータが首を捻った瞬間だった。

 

『ぱらっぱっぱ~ぱ~♪』

 

「あ?」

 

 変な音が聞こえた。

 否、音楽が聞こえた。

 しかも、通信から直通である。

 

「っ、ルキノ! オマエ、なんで音楽なんて流してんだ、馬鹿か!」

 

『へ? え? 私じゃないですよー!!』

 

「あ? それなら誰が――」

 

「俺だぁあああ!!!」

 

 叫び声と同時に上空から被るシルエット。

 

「え?」

 

 見上げた先には一台のジェットスキーがあった。

 ……ジェットスキー?

 

「うぉおいいいい!!!」

 

「なんですかー!!」

 

 現状を確認しよう。

 彼女達の下は海である。

 数十メートルは上空だが、海だ。それならば問題は無い。

 しかし、彼女達がいるのは空である。

 

 

 Q.空でジェットスキーは走れるでしょうか?

 A.走れるわけないだろ、JK。

 

 

「フッハハハー!!!! 空を舞い跳び、海を支配する陸士海上防衛隊Cーチーム唯今推参!!」

 

 ぶるおぉおんと音を立てて、ジェットスキーに乗った一人は乗り手、もう一人は後方で縄を括りつけ、車体にしがみ付き奇声を上げるダイバースーツ陸士。

 しかも、車体の横には【海人】と達筆で書かれている始末だった。

 

「陸はどうなってんだー!!」

 

 常識を弁えたものならば誰もが上げるだろう、ヴィータの絶叫だった。

 リインにいたってはひきつけを起こし、「ああ、なんだか綺麗なお姉さまが見えるです~、なんかSLBとか防げるダイナマイツボディです~」とデバイスが逝けるか分からない彼岸を見ていた。

 しかし、そんな隙を見逃すはずも無い感情のないガジェットたちが居た。

 レーザーの発射口でもあるアイカメラに光を灯すと、無感情に隙だらけのヴィータたちに目掛けて照準を合わせる。

 

「ぬっ、あぶなーい!!」

 

 後方に乗っていた陸士が、腰に備え付けていた複数の銛の一つを握り締めるとトゥッと華麗に空を舞った。

 近代ベルカ式魔導師である彼は己の技術全てを盛り込んだ身体能力増強を施すと、途端にぴっちぴちのダイバースーツに筋肉が浮かび上がる。

 なんという素敵なボディ。

 ビフォー:痩せ男 アフター:アンチェインと言わんばかりの体つき。

 腹筋は盛り上がる筋肉に負けて湿ったTシャツの如くその素敵さを浮かび上がらせ、四肢はまるで大樹のように太く逞しく、肩はわーいパパーと言って抱きついても一寸も揺らぐことはないだろう逞しさ、そしてその笑顔はとても濃かったです……

 まるでボディペイントでダイバースーツを描いたような肉体の浮かび上がり。

 なんというマッチョ、なんという超☆兄貴。

 兄貴ぃー! サムソンー! という声が虚空から聞こえた。

 リインはぶくぶくと泡を吹いていた、刺激が強すぎた。

 ヴィータの目が死んでいた、ハイライトが消えていた。

 そんな彼女達の悲劇も知らず、陸士はクルクルと一秒前とは別人の肉体を翻しながら、ぬぉおおおおお!! という渋味ボイスを撒き散らして、銛を投げた。

 果たしてCランク程度の魔導師である彼が投げた銛はガジェットに突き刺さるのか?

 刺さるのだ。刺さる、AMFをも関係ない力技で投げ込んだ銛はガジェットの装甲を貫けるのだ。

 ザクリとまるでイミテーションのようにアイカメラに突き刺さった銛、それを見て、陸士は落下しながら素敵な笑みでポチッと腰のボタンを押した。

 

「逝ってまえぇ!」

 

 ばちぃいとっと銛との間に張られたワイヤーに紫電が迸る、バリバリとガジェットが悲鳴にも似た震えを見せて炎を吹き出した。

 内部部品が過剰電流で焼き切れたのだ。

 機械に大敵は電気である、それを体現した武装。

 さらに、とぅっ! と、足元を不運にも飛んでいたガジェットを水道管工事オヤジのように華麗なジャンプで飛ぶと、日本刀の柄頭の如く太い指でさらに銛を抜き去り、投げる、投げる、投げる。ついでに殴った。

 指弾の如き速度で銛が突き刺さり、流れる電流に次々とガジェットが落ちていく。

 

「ふぅははははー!! 深海の鯛を串刺しにするよりは簡単よのぉ」

 

 プラプラと事前に縛っておいた縄に吊り下げられながら、マッチョ陸士は不敵に暑苦しく笑っていた。

 ちなみにジェットスキーの運転手である陸士は「貴様に魂があるならば応えてみろ!」と、吼えながらドライビングテクニックを華麗に魅せていた。

 

「……あたし帰っていいか?」

 

 人生全てどうでもいいや、という顔を浮かべていた。

 遠い空に浮かぶ大切な家族をヴィータは見上げていた。

 無論、幻覚である。

 

「あうあう、マッチョ怖いです~ですーです~……」

 

 トラウマになり、リインは純真さを失った態度でヴィータにしがみ付き、プルプルと震えていた。

 

『だ、駄目ですよー!! ヴィータ副隊長、カムバック! マインドカムバック!』

 

 ヴィータの心はボッキリと折れていた。

 

 どうやら他のフォローに回る暇はなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、空で激闘を繰り広げている二人の女性がいた。

 廃棄都市の上空、地下水路に潜ったフォワード陣を見送り、出現したガジェットたちの迎撃に出た隊長陣が二人。

 

「くっ、このぉ!!」

 

 術式演算、魔力充填、瞬くような速度で複数思考を同時稼働、それら全てで考え抜いた考えを手に持つ紅き宝玉の戦杖に入力する。

 

「レイジングハート、行けるね!」

 

『Yes』

 

「アクセル・シューター!」

 

 カートリッジロード。

 一つの薬莢がレイジングハートから排出され、誘導制御型の魔力弾が32個放出される。

 自分自身で制御するのはその内の三分の一程度、他は誘導制御プログラムを仕込んで、制御する魔力弾に追走させる。

 如何に彼女、高町なのはの魔法素養が並外れていようとも、32個の弾丸全てを制御するのはマルチタスクを用いても人間の演算能力を凌駕しているし、不可能だ。

 人間の能力を補い、さらなる高みへと上り詰めるのには修練以外に人は道具を用いてきた。

 長年に渡り磨き抜いてきた制御能力に、カスタマイズを繰り返してきたレイジングハートに記録されたプログラムが彼女の能力を人知を超えたものだと錯覚させ、起こりうる結果をエースオブエースの名に恥じないものに変えているのだ。

 

「いっけぇえ!!」

 

 そして、未だ成長途上のフォワード陣が作り出す魔力弾とは比べものにならない高圧縮の弾丸が、鳳仙花を描くように舞い散り、次々とガジェットたちに被弾していった。

 出力リミッターはかかっているため、一機体に付き4発の弾丸を必要としているが、それでも恐ろしい速度で撃破を繰り返している。

 そして、そこから打ち洩らした敵を撃破する閃光が一振り。

 

「なのは、鈍ってない?」

 

 黒衣のバリアジャケットを翻し、妖艶とさえ言える艶かしい体躯を晒し出しながら、その手に閃光の戦斧を握った金髪の美女。

 虚空を滑るように走り、重力制御とベクトル制御の両方でゼロから数百キロにも達する加速度を持つ閃光の如き死神――フェイト・T・ハラオウン。

 刃を細く、それと裏腹に肉厚に刀身を形成、斬撃の瞬間のみ供給量の魔力を伸ばし、一刀両断にしていく。

 加速、加速、加速。

 ソニックムーブと呼ばれる自身の反射性能を叩き上げ、常人には不可視の速度を約束する加速魔法を使いながら、フェイトはなのはから降り注ぐ弾幕の中を恐怖もなく、手馴れた様子で戦っていた。

 彼女とはかつて戦い合い、和解してから長いコンビを組んでいる。

 互いの呼吸は自身のように理解し、分かり合える。

 まるで双子のように息の合ったコンビネーションで次々とガジェットを撃破していった。

 

「この分なら!」

 

 遠からず殲滅も可能だろう。

 そうフェイトが、なのはが考えた瞬間だった。

 

 ――不意に視界がかすんだ。

 

「え?」

 

 瞬くような間に、周囲に敵影が増えていた。

 一瞬前まではいなかった場所に、無数のガジェットの姿が見えていた。

 

『敵増援を確認、十、二十、いえ五十!?』

 

「シャーリー、どういうこと!?」

 

「一体どこから、転送魔法!?」

 

『分かりません! 魔力反応はゼロ、転移魔法ではないはずです!』

 

「ということは幻影?」

 

 どうすればいい。

 なのはとフェイトが焦燥に煽られながら、襲いかかってくるガジェットを迎撃しようと構える――が。

 

 次の瞬間にはそれらが全て掻き消えた。

 

『え?』

 

 目を丸くする二人。

 

「あ、あれ?」

 

「敵は?」

 

『っ、レーダーからも敵反応が消失! っ、付近で新たな反応が複数! これは!?』

 

「どうしたの!」

 

『戦闘機人と陸士部隊がエンゲージです!!』

 

 

 

 

 

 

 時間は少々巻き戻る。

 なのはたちよりも離れた場所、雲よりも上の上空。

 そこに一人の少女が浮かんでいた。

 

「あらあら、ずいぶんと頑張ってくれてますわねぇ」

 

 メガネを掛け、銀色に輝くコートを羽織った少女――ナンバーズ4 クアットロ。

 大きく結わえた髪を風圧で揺らしながら、その顔に浮かぶのは醜い嘲笑の笑み。

 彼女はおぞましい。

 その心は邪悪に淀んでいるから。

 彼女は恐ろしい。

 その心に一片たりとも優しさなど存在しないから。

 手に浮かぶ空間投影型のモニターで、人知れず頑張り続けるなのはたちの姿を覗き見て、その徒労を嘲笑う。

 なんて愚かしいのだろう。

 正義を、愛を、人の優しさを信じているような純真な人間達。

 吐き気がするほどに馬鹿らしい。

 

『クアットロ、あまり油断しないほうがいいわよ』

 

 一人の女性がもう一つのモニターに写っている。

 紫色の髪、整った美貌、それはナンバーズの長女であるウーノ。

 彼女に対し、どこか愛想笑いのような笑みを浮かべてクアットロは答える。

 

「大丈夫ですわ、少し遊んであげるだけですから」

 

 指を鳴らし、手を虚空へと掲げ上げる。

 脳内の演算処理機能が唸りを上げて稼働するのが分かる、瞳の中に内蔵されたカメラがギュルギュルと音を立てて周囲の空間の感度率、明度、湿度、あらゆる自然環境の状態を調べ上げて、それらの情報を処理機能にデータとして入力。

 計算せよ、演算せよ、考え抜け、全てを騙すために。

 そう、それこそが己の持つ技能にして唯一己を証明する性能。

 

「ISシルバーカーテン、発動。回れ、回れ、回り続けろ」

 

 カッと目を見開き、空間中の光学率を変動。

 目に見えぬ不可視の電磁波をその両手から発した。

 幻影を作り出し、同時にセンサーで捉えているだろう情報網全てに迷彩をかける。

 するとどうだ。

 

「アハハハハ、楽しいかしら!」

 

 モニターに浮かび上がる女たちに戸惑いの顔が浮かぶ、自らが作り出した幻影に戸惑っている。

 秒単位で計算と迷彩を書き換えながら、クアットロは笑った。

 ゲタゲタと苦しむであろう彼女達の苦闘と戸惑いを感じて、笑っていた。

 

『? クアットロ』

 

 不意にウーノは眉を潜めて、クアットロに訊ねた。

 

「なんですの?」

 

 気分を害されたのか、不機嫌な顔が浮かぶクアットロ。

 しかし、それには気にせずウーノは訊ねた。

 

『傍にガジェットの反応があるけど、出撃させないの?』

 

「え?」

 

 ガジェット?

 傍にガジェットなど配置などしていない。

 シルバーカーテンでの偽装も考えて、己一人で上空に待機している筈だ。

 

「っ!」

 

 クアットロが下を見る。

 そして、分厚い雲の中から飛び出す黒影があった。

 ガジェットドローンⅠ型と呼ばれる筒型のそれは何故か真正面にドリルを搭載し、一直線にクアットロ目掛けて飛び込んできた。

 

「なっ!!?」

 

 重力制御を用いて、咄嗟にクアットロが横に避ける。

 天元突破とばかりにロケットのような速度でガジェットがクアットロのいた位置を貫き、展開していた空間モニターが消失、ガジェットはそのまま上へと舞い上がる。

 

「っ、UCATに拿捕されたガジェット!!」

 

 空を見上げて、その正体を看破する。

 単独での戦闘能力に欠けるクアットロはシルバーカーテンの演算は続けたまま、離脱しようとクアットロがコートを翻した時だった。

 

 パカンとガジェットの装甲が弾け飛んだ。

 

「え?」

 

 内部からバンッと弾け割れると、そのまま内部から何かが飛び出す。

 まるで花弁が開き、種が巻かれるような優雅さ。

 しかし、そこから飛び出したのは優雅さなどではなく、脅威。

 

『トゥッ!!』

 

 一斉に声が上がり、両手をY字に決めて、回転しながら落ちてくる人影。

 それは逞しい装甲服を身に付けた人型。

 それは背に折り畳んだボートを背負った男。

 そして、彼は装甲に包んだ脚部を突き出し、頭には――仮面を被っていた。

 

『究極☆ライダーキィイイイック!!』

 

 ベクトル操作の真髄、重力落下を超える加速、何故か白熱する靴底、竜巻の如く回転する体。

 それらを用いて人影――陸が誇る特車部隊甲部隊がクアットロの顔面に靴底をめり込ませていた。

 

「ぎゃっ!」

 

 パリィインと割れるメガネ、ついでに停止する演算処理、ギュルっと捻られて飛び上がる足の勢いにさらにダメージを受ける顔。

 

「トゥッ!」

 

 クルクルと上空を跳ぶと、その人影は背中から取り出したボートを空中で組みなおすと、それに足を乗せて起動させる。

 スラスター部分から噴射剤が吹き出し、内部に仕込まれた慣性制御を伴い、空中で浮遊して見せた。

 

「っ、よくもやりやがりましたね!!」

 

 靴底の残った顔を押さえつけながら、憤怒に歪んだ顔でその陸士を射殺さんとばかりに睨み付けるクアットロ。

 

「悪いが、メガネ萌えじゃないんでな。俺の給料とボーナスのために貴様を逮捕する!!」

 

 ビシッとポーズを決めながら、最近責任を迫ってくる某小娘から奪ったライディングボード(改造版)を乗りこなし、フルフェイス仮面を被った陸士は叫んだ。

 

「あら、そう」

 

 ぶちっとこめかみに血管を浮かばせて、クアットロは酷く冷たさを感じさせる笑みを浮かべた。

 

「ん? 観念したか、メガネ女」

 

「いえ、そんなんじゃないですわ」

 

 ニッコリと微笑み、その手を振るわせる。

 次の瞬間、ジャキンという冷たい音がした。

 

「あのー、なんかすっこく物騒な代物が見えるんですが」

 

「そうですわね」

 

 それは薄い鉄板のようにも見えた。

 黒光りする黒い筒、硬く冷たそうな金属部分、取っ手が一つ、トリガーが一つ。

 あえて言おう。

 それは銃器だった。

 しかも、サブマシンガンと呼ばれる類の銃火器。

 つーとヘルメットの中で冷たい汗が流れるのを陸士は感じていた。

 

「あのぉ、質量兵器違反なんですが?」

 

「犯罪者がそんなこと気にするかしら?」

 

「そうですよね~」

 

 瞬間、陸士はグリップを捻ったと同時に体重を横にかけた。

 そして、その次の瞬間、陸士が元居た位置を貫くように発射音と鉛玉が貫く。

 

「う、うちやがったぁあああ!!」

 

 全力回避。

 スラスターを吹かし、巧みに蛇行しながらライディングボートで全速降下する。

 それを追撃するのは怒りを剥き出しにしたクアットロ。

 

「死ねぇええ!!!」

 

「死ぬわぁあああ!!」

 

 障壁も張れない低ランク魔導師である。

 銃弾なんぞ防げないのだ。当たるととても痛いことは保障済みである。

 

 逃亡する犯罪者に、追撃する捜査官という王道予定が一転して急展開を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走る、走る、走る。

 誰にも気付かれないように、灰色の服を上から下まで纏った男たちが走っていた。

 物陰から物陰へ、都市迷彩のスーツに、魔力と体温の全てを外部に洩らさない隠密専用スーツを纏った一団はハンドサインのみで意思の疎通を繰り返し、廃棄都市の市外を駆け抜けていた。

 音は最小に、露出は最低限に、存在全てを秘匿して移動する。

 そして、彼らは上空で行われている戦闘も見上げることすらせずに、一直線にあるビルを目指して移動していた。

 

『あそこか』

 

 外部に音声を洩らさず、指揮官らしきスーツの人物が独り言のように呟く。

 最小限、スーツ内部の空気を揺らしただけだった。

 彼らは呼吸すらも外界に洩らさず、嵌め込み式の酸素ボンベをつけて、徹底的な隠密を行っていた。

 重量にして数十キロにも及ぶ武装にスーツを身に付けているというに、その足取りはまるで重みを感じさせないものだった。

 

『はい、反応はあそこからです』

 

 指揮官の首元に手を乗せて、接触回線で部下が言葉を伝えてくる。

 同時に手首に付けたモニターには紅い光点が浮かび上がり、その言葉の正しさを伝えていた。

 

『分かった。ファースト、右から回り込め。セカンドは俺に続け、気付かれるな。気付かれれば、全てが徒労になるぞ』

 

 ハンドサインと共に告げると、続いていた全員が一斉に音も立てずに敬礼を返した。

 この世界の歴史には存在しないが、まるでその動きは現代に蘇った忍者のようだった。

 右から回り込めといわれた人員は一切の迷い無くその脳内に叩き込んだ地図に従って、大通りになり露出の危険性が高い道路を避けて、付近の建物内部へと侵入し、ターゲットの死角位置から回り込んでいく。

 

 指揮官は付近にあった水路の入り口を開くと、腰に付けていたスコープで内部を確認。

 人影や生体反応が無いことを確認すると、迷いも無く飛び込む。

 魔法ではなく、ただ鍛え抜いた身体能力と体術を持って体を痛める事無く着地すると、水路の中を見渡す。

 すでに十数年近く整備もされていない水路の中は濁った空気で満ちているが、外部からの酸素も温度も隔絶されている彼らには関係ない。

 

 彼らはスーツに備え付けた装置――デバイスそのものであるスーツをキーボードで操作すると、まるで魔法のように彼らのスーツの色が変化する。

 水路に相応しい緑色の混じった漆黒。

 迷彩色も変化させられるどこまでもスニーキングミッションに適応した装備。

 そして、部下の一人が事前に覚えこんでおいた既に使われていない水路のルートに従い、彼らはスムーズな速度と無駄のない動作で移動していく。

 まるで闇と一体化しているかのように、それらの存在を気付けるわけもなく、傍を歩くネズミですら視界に彼らが入ってようやく気付けるほどだった。

 如何なる修練と思いがそれを可能とするのか、想像すらも難しい。

 

 時間にして五分にも満たぬ僅かな移動。

 やがて、彼らは一つの出口を見つけ出す。

 指揮官、ハンドサインで一人に開けるように指示。それを受け取り、もっとも身の軽い部下がするすると蛇のように水路からの梯子を登ると、慎重にそのマンホールの蓋を開いた。

 音を立てぬように蓋をずらし、部下の一人が目だけ出して周囲の状況を確認。

 

 人影はなし。

 

 上を見る、ターゲットの位置からは死角の位置。

 気付かれぬように移動をするべきだと判断、水路の中の全員に分かるようにハンドサインを行い、彼はするりと水路から脱出する。

 ぞくぞくと素早く全員が脱出し、ターゲットの真下である建物に侵入。

 ガラスを踏まぬように細心の注意。

 埃臭いはずの倉庫の中に、複数の男たちが入る、少しせまっ苦しい。

 

 内部に入ると同時にスーツの迷彩を都市迷彩に戻す。

 同時に酸素容量が少なく、ターゲットの近くということで自然と増える酸素消費量に備えるためにボンベを変更。

 一瞬息を止めて、スーツに嵌め込んだ酸素ボンベを外し、息を止めたまま予備の酸素ボンベを嵌め込む。

 吸音物質で出来た接続部により無音、伝わってくる手ごたえのみが嵌ったことを教えてくれる。

 

 息を吸う。

 

 音は聞こえぬはずなのに、ハーハーと荒い息を吐いているような錯覚。

 十秒だけ休憩、荒くなる吐息、緊張と高鳴りで上がる体温、心を落ち着ける必要性がある。

 そして、その間に倉庫の扉の下からするりと白い紙が出てくる。

 それを見て、部隊の一人が警戒しつつも確信した動作で、ドアを開ける。

 そこにいたのは別れていたファースト班。

 

 ハンドサイン、事前に必要な鍵などを手に入れたというポーズ。

 

 ナイスだとサムズアップ。

 

 休憩終了、弾み心を押さえつけて、全員が移動開始。

 ひび割れた建物、老朽化した建造物、その中で慎重に階段を登る、移動する。

 扉の度に油を差す、鍵を開ける、音を立てぬように慎重に息を止める、体重移動などの技術の全てを使う。

 彼らは何を求めて移動しているのか。

 それは全ては一つの目的の為に。

 

 登る、登る、登る。

 

 階段を登り、音すらも出さずに、最上階、屋上の真下の部屋に移動した。

 部下の一人、センサーを見ながら慎重の位置を確かめる。

 もう一人、荷を降ろし、粘土のような物質を用意する。

 指揮官、拳銃型のとある道具を取り出す部下達に、ワイヤーなどを渡し、手はずを打ち合わせる。

 

 位置を確認した。

 

 ここに間違いないと部下の一人、ハンドサイン。

 粘土のようなものを持った男、音も立てずに踏み台になった男の上に立ち、天井に粘土を張り付けて、雷管を差す、銅線を引いていく。

 他の全員、何故かその位置に合掌のポーズ。

 まるで崇めるかのごとく怪しい動作。

 二人の男、腕まくりをして、硬い鋼の手甲を握り締める。

 

 準備完了である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 市外を逃走する一人の陸士、悲鳴すらも感じられそうな必死の様子でライディグボードを操り、瓦礫などを吹き飛ばしながら全力離脱中。

 それを後方から追うクアットロ、ぶちぎれた顔、銃弾を撒き散らし殺そうとしている、しかし、それを巧みに避けられている。

 

 一秒たりとも同じ軌道にはいない陸士。

 弾丸を吐き散らすにも、その軌道を避けて、スラスターを吹かし、障害物などを盾にしながら逃走していた。

 あの分だと仕留めるにはまだ時間がかかりそうだし、そんな暇もないのだが。

 

「うーん、クアットロ完全に目的忘れてるな~」

 

 つなげたままの通信からはあらゆる罵倒の言葉が洩れ出てきて、聞くに堪えない代物だった。

 やれやれとため息を吐くのは廃棄都市にあるビルの一角、その屋上に佇む一人の少女。

 布に包んだ大型の物体を背負い、キュルキュルと目に埋め込んだ高精度のカメラを稼働させて、左目をクアットロに、右眼であるヘリを補足している彼女の名はナンバーズ10 ディエチ。

 助けに行くにしても彼女の能力はそれには向いていないし、それとは別の役割を彼女は帯びていた。

 

「そろそろ準備しないといけないんだけどなー、補足は出来てるし~」

 

 ディエチが肩に担いだ物の布を取り払うと、そこから現れたのは長大な砲身だった。

 イノーメスカノン。

 彼女のISを伝達するための媒体、全てを薙ぎ払うための兵器。

 

「クアットロ、マテリアルが逃げちゃうけど、そろそろ砲撃してもいい?」

 

 恐る恐る通信を繋げて訊ねるが。

 

『ああん!?』

 

 返ってきたのはとてつもなくドスの利いた声だった。

 ううう、ブ千切れてるよ~と内心泣きたいディエチだったが、恐る恐る訊ねる。

 

「あのー、マテリアルとケースが逃げちゃうんだけど……」

 

『ならさっさと撃ち落してやりなさい! くそ、ちょこまかとぉ。落ちろ、カトンボ!!』

 

「……了解~」

 

 もう諦めようと思い、ディエチはよいしょとイノーメスカノンを肩に担いだ。

 空は晴れており、空気も澄んでいる。

 左目の補足を解除し、両目でJF704式ヘリに狙いを定める。

 

「ISへヴィバレル、起動」

 

 体内で稼働を続ける小型魔力炉が唸りを上げて、イノーメスカノンにエネルギーを充填していく。

 灼熱にも似た光が迸り、周囲でジリジリと焦げるような唸るような音が鳴り響く。

 照準設定、起動確認、照準誤差をリアルタイムで修正し続ける。

 

「悪いね」

 

 操縦しているだろう人物に、そして乗せられているだろうマテリアル――“聖王の器”に詫びるように呟いて、それすらも言い訳だと自覚しながらディエチはチャージ完了と共に引き金を引こうと身構えた。

 瞬間だった。

 

 バキッという音が足元から響いたのは。

 

「え?」

 

 一瞬照準から目を外し、足元を見た。

 

 なんか手が生えていた

 

「……なに?」

 

 まるで悪夢のように屋上の床から生えた手はガシリと次の瞬間、ディエチの両足首を掴んだ。

 片方二本の手、計20本の指が絡みつく。

 

「なっ!?」

 

 咄嗟に引き剥がすが、足を抜くか動こうとした刹那、さらに奇音。

 ボンッという爆発音と共に彼女の周囲の床が破砕する、丸く円を描くかのように。

 そして、崩落だ。

 

「わわわっ!」

 

 飛行機能を持っていない彼女に重力に抗う術はない。

 ただ奈落へと引きずり込むかのように掴んでくる手にも逆らうすべもなく、そのまま落下し――

 

「い、たたた」

 

 もやもやと噴き上がる粉塵の中でディエチは下の床に打ち付けた腰を摩りながら、目を見開く。

 何があったんだ。

 敵の襲撃、それとも?

 

『ようこそ』

 

「え?」

 

 しかし、想像は現実を上回る。

 彼女の周囲、粉塵が晴れた先にいたのは顔を隠し、全身を隠し、まるで彼女を迎え入れるかのようにポーズを取った一団。

 気付く、それは罠だったと。

 理解、こんなおぞましい奴らは一つしかいない。

 

「ミッドチルダUCAT!?」

 

『正解だ』

 

 ギラーンと指揮官らしき人物のマスクの内側で、そして全ての人物が目を輝かせた。

 

『歓迎しよう、新たな美少女よ!! かかれぇええい!!』

 

 キシャアアァアアアアという奇声すらも感じられるほどにおぞましく、一斉に男たちがディエチに襲い掛かった。

 

 

 彼女が捕縛されるまで二分と掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クアットロ、逃げて!! これは罠! って、どこ触ってる!! ああ、返して、あたしのイノーメスカノン!』

 

「っ、ディエチちゃん!?」

 

 姉妹の悲鳴に、怒り狂っていたクアットロは我に返った。

 

『い、いやー! なに!? それなに!? なんで、ジャンケンなんかしてるの!? 亀甲とか、座禅とか、菱縄ってなに!?』

 

 絶叫にも似た泣き声の混じった悲鳴。

 それを最後にぷつりと通信が途切れた。

 

「まずいですわね」

 

 靴跡の残った顔でクアットロは苦々しい表情を浮かべると、事態を甘く見ていた自分に気付いた。

 屈辱を払すのは後で良い。

 ディエチが捕まった以上、任務は失敗だろう。

 

「命拾いしましたわね!」

 

 距離を保ったまま様子を伺っているライディングボート乗りの陸士を睨み付けると、用意しておいたガジェット全てを撃破したらしい隊長陣二人から逃れるためにシルバーカーテンを起動させようとした刹那。

 パリィインと傍のガラス窓が粉砕され、中から飛び出した人影があった。

 

「っ、二度も通じると――」

 

 それはライディングボート(コピー品)に跨った同じような装甲服に、少しだけ違うヘルメットを被った影。

 飛び込んできたボートを跳躍するように避けたクアットロ、その眼前に紅く燃え滾った拳を振り翳した男が居た。

 カートリッジロード、使い捨ての小型バッテリーを用いた擬似付与魔法機能の発動。

 

「必殺! ゴット――」

 

 フィン、そう叫びながらクアットロの顔面を叩き潰そうとした瞬間、彼はまるで何かに気付いたかのようにその腕を別方角に叩き込んだ。

 ガリィインと金属音が響き合う。

 そして、その瞬間現れたのはつい数秒前には居なかったはずの人物。

 

「っ!」

 

「ISライドインパルス。私の速度を認識したか」

 

 それは凛々しい顔つきを浮かべた女性。

 しなやかな刃物を思わせる四肢に、光の翼か刃と呼ぶべきそれを吹き出し、虚空にて紅く燃える手甲と激突し合う脚部があった。

 硬直は一瞬にも長い時間のようにも思えたが、互いに縛る重力がそれを許さない。

 

 陸士が呼吸を止める

 螺旋のように旋転、掴んでいて手を反動にしなやかに跳ね上がり、空中を舞うように男の体が弾けるように離れた。

 それを掠める光の襲撃、音速を超えた女性の蹴り足が陸士の前面にめり込む。

 

(!? なんだ!?)

 

 蹴り足を振り下ろした女性が、奇妙な違和感に顔を歪めるも肝心の相手は再びビルの中へと吹っ飛んでいく。

 そのまま女性は空を駆けるように傍のクアットロを抱えて跳ねた。

 

「トーレ姉さま!」

 

「やれやれ、監視役のつもりだっただが功を奏したな。ミッドチルダUCAT、これほどとはな」

 

「あ、あのディエチちゃんは」

 

「助けたいが、セインも居ない以上救出は無理だ。諦めるしかあるまい」

 

 苦々しい顔を浮かべるトーレ。

 彼女は既に撤退を選択していた。

 

「逃がすと思ってんのかぁ!」

 

 仲間の敵討ちといわんばかりに、先ほどまでは距離を保っていた陸士がライディングボードの速度を極限まで高めて、突撃してくる。

 打ち出されてくる砲撃を、トーレはライドインパルスの使用で掻き消えるように躱すと、姿を見失ったトーレを探そうと顔を左右に振る陸士の背後に降り立ち。

 

「力不足だ」

 

 彼女はその背を蹴り飛ばした。

 悲鳴を上げて、転げ落ちる陸士。

 そして、ライディングボードは搭乗者を失いながら疾走して。

 

「――テメエがな」

 

 その先に飛び出していた一人の陸士。

 その進路を予測していたのか、本来骨肉を砕くはずのトレーの蹴りを受けたはずの陸士が現れ、そのボードの上に着地する。

 

「なにっ!!」

 

「とぉっ!」

 

 ライディングボートを踏み台に跳躍、さらにビル壁に爪先を引っ掛け、駆け上がるように跳躍。

 手足を捻り、トーレへ向かって流れるようなソバットをめり込ませる。

 金属音。

 咄嗟に防御として突き出されたトーレの右手――先ほどの焼き直し。

 だがそこからが違う。

 

「――止まってろ」

 

 旋転。

 如何なる身体バランスをしているのか、そこからその陸士は“飛び直す”。

 空気のような重さ、空でも歩くような動きと共に体を捻り――流れるように繰り出された二段目の蹴りが彼女のこめかみにめり込んだ。

 

「っ!」

 

 繰り出された最後の蹴りに、弾き飛ばされるかのようにトーレが背後に跳ぶ。

 同時に担がれていたクアットロが速度さに目を回しそうになるが、戦闘機人としての頑強さが救ってくれた。

 

「クアットロ、シルバーカーテン!」

 

「は、はいですわ!」

 

「不可視に、認識外の速度。貴様は追いつけん」

 

 咄嗟にライディングボートを操作し、追おうとしていた陸士が止まる。

 

「名を聞いておこうか、戦士よ!」

 

 トーレがこめかみを押さえる。

 足場無き空中にもかかわらず響くような一撃、戦闘機人として強化されてなければ脳震盪を起こしていただろう蹴打。

 ――魔力無き人間とは思えない戦闘力。

 

 それに彼女は闘争心を掻き立てられた。

 

「名などないさ。単なる組織の下っ端だ」

 

 だがしかし、それに陸士は冷ややかに肩をすくめる。

 頭に被ったテンガロンハットを指で押さえ、ニヒルを気取った笑みを浮かべる。

 

「なるほど。ならばまた機会があれば貴様を打ち倒してやろう、その時に名を尋ねる。ライドインパルス!」

 

 掻き消えるような速度でトーレとクアットロが離脱する。

 そして、さらにシルバーカーテンの機能で彼女達は消え去った。

 陸士が繋げた通信からもセンサーから消失という言葉が聞こえてくる。

 

「やれやれ、めんどうくせえ」

 

「せ、先輩……たすけて~」

 

「うるせえ。幸せボケはそこで死ね、豆腐の角に頭をぶつけて死ね!!」

 

 ビル内部の壁にめり込み、瓦礫でもがいている陸士に石を投げつけながら、帽子を被った一人の肉体派陸士はため息を吐き出した。

 そんな彼だが。

 遅れてやってきた機動六課の隊長陣、二人に手を振りながら。

 

(うーむ、いい尻してたなぁ)

 

 と渋く心の中で呟いていたことは秘密にしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは既に終わっていた。

 下水道は原型を留めず、破砕の限りを尽くされ、無事な人間は殆どいなかった。

 

「っ……何故」

 

 ゴホッと血を吐き出し、ギンガはその纏っていたバリアジャケットをボロボロに千切れさせながら、下水道の床で倒れこんでいた。

 増援だったはずの陸士たちは殆どが床に沈み、あるいはプカプカと水面に浮かび、或いは壁にめり込み悶絶している。

 本来ならば彼女達が勝っているはずだった。

 数に勝り、戦力に勝り、負ける道理などなかった。

 

 そう“たった一人の増援が来なければ”。

 

「何故……貴方が」

 

 ギンガは見上げる。

 そこに一人の男が居た。

 右手に無骨な槍を携え、左手に覆わんばかりの装甲を纏い、着古したコートを纏った一人の男。

 彼の名前をギンガは知っていた。

 彼の背をギンガは知っていた。

 何故ならば――彼は彼女の母親の――

 

「ゼスト叔父様! 答えてください!」

 

「答える道理は無い」

 

 それは冷たい鋼。

 それは金属で紡ぎ上げられたヒトガタのように、無骨で、雄雄しく、冷たい鋼。

 彼はどこまでも強い。

 かつてミッドチルダUCATにおいて最強を誇った人物。

 曰く、ミッドチルダUCATの秘密にしておきたかった秘密兵器。

 曰く、彼には魔王すらも撲殺される。

 曰く、彼の■■には触れてはならない。

 最強無双。

 強靭無比。

 限定的ならばSSすらも凌駕する最強の矛。

 

「すまない。だが、貴様らが悪いのだ」

 

 冷たく、無骨に、その腕に抱いたルーテシアの頭を撫でて、肩に乗せたアギトにぎこちなく微笑みながら告げる。

 

「俺の家族に手を出すならば誰であろうが許さん」

 

 

 曰く、史上最強の家族馬鹿。

 

 

 ルーテシアとアギトの危機と聞いて、天井を蹴り破り、出現したUCATの誇る変態の一名である男は貫禄ある背中を見せたまま去っていった。

 

 ギンガは思う。

 

「……絶対に、スカリエッティは潰されるわ」

 

 それはもはや確信だった。

 だって。

 彼の妻であるメガーヌはクイントと共にスカリエッティに死んだとされているのだから。

 え? ゼストも死んだんじゃないのかって?

 UCATだと誰も信じていませんでした。

 

 

「ガクッ」

 

 そして、ギンガは気絶し、30分後他の部下を蹴り倒して、彼女を搬送したラッドに起こされるまで夢の中に落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一回 聖王争奪戦 成功

 

第一回 地上本部攻防戦 或いは 帰ってきた馬鹿殲滅戦に続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 戦いが終わり、騒乱が去った後の市街地。

 そこに降り立つ二つの影があった。

 

「合同会議を終わらせ、即座に駆けつけてきたぞ! さあ、敵はどこだ!!」

 

 燃えるような髪。

 凛々しい美貌を熱い情熱に輝かせ、艶かしい豊かな体躯を惜しげもなく晒した女性。

 その手には烈火に燃える魔剣が握られた彼女は剣士であり、機動六課の副隊長シグナム。

 

「……いませんね」

 

 その横に立つのは両手をむき出しに晒した防護服を纏った女性。

 短く切りそろえた髪型、少年を思わせる顔つきだが、その体つきは立派なまでに女を思わせるライン。

 その両手にはトンファーにも似た双剣のデバイスを持つ彼女、聖王教会の騎士シャッハだった。

 

「遅かったか?」

 

「みたいですね」

 

 勢いごんで現れた二人だったが、既に敵の影はなく、見上げれば他のメンバーも居ない。

 

「帰ります?」

 

「……ああ。っ、久しぶりの出陣が」

 

 シグナムはとぼとぼとシャッハは彼女を慰めるように立ち去っていった。

 

 

 駄目だこりゃ。

 

 

 





2.ディエチ その護送方法


「うぅうう……」

『えっほ』

『えっほ』

 彼女は見事に捕獲され、口に出しては言えない方法で縛られて、運ばれていた。

「やめてー」

『わっほい』

『わっほい』

 ゆさゆさと彼女が上下に揺れる。
 ぶらぶらと彼女が左右に揺れる。

「なんで、なんで」

『うほほーい』

『うほほーい』

 えぐえぐと泣きながら、彼女は青い空に絶叫を上げた。

「豚の丸焼き風に運ぶのー!!」

 長い廃材に両手両足を括り付けられ、彼女達はまるでどこぞの人食い族の獲物のように運ばれていったのであった。


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