ミッドチルダUCAT   作:箱庭廻

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帰ってきた馬鹿殲滅戦 上

 

 

 

 

 

 

 青い空、透き通るような風、それらを浴びて彼は立っていた。

 

 そこはミッドチルダの空港。

 

 様々な荷物を詰め込んだ旅行カバン――その大半がお土産。

 

 ボロボロのジャケットを羽織った青年、よく見ればミッドチルダUCATの武装隊の身に付ける専用ジャケット。

 

 その血走った目を押さえれば女にさえ見える端正な顔立ち、赤毛の青年。

 

 彼は帰ってきた。

 彼は帰ってきたのだ。

 そう、この世界に。

 六年ぶりの帰還として。

 

「ミッドチルダよ、俺は帰ってきたぁああああああ!!」

 

 奇声を上げて、喜びを表現する。

 周囲に居た人々が怪しそうな目で見てくるが、彼は気にしない。だって慣れているから。

 そんな彼の名はティーダ・ランスター。

 首都航空隊に所属していた空戦魔導師である。

 

 

 

 

 

 

 

 たったかた~♪

 などというスキップを踏みながら、陽気に彼はクラナガンの都市を爆走していた。

 無駄にベクトル操作を行い、加速する。

 されど人にはぶつからずに、全力疾走。めんどうくさいので車道の横を走り、水媒体駆動のスポーツカーを追い抜いてしまったが、些細なことだ。

 スピード違反の測定カメラには顔を隠して、ピースなどを取っていたりなどもするが浮かれているのだからしょうがない。

 そして、ミッドチルダに降り立って一時間と経たずに彼は一軒の家へと辿り着き。

 

「ティアナぁあああああ!!! ただいまー!!」

 

 ――扉を蹴破った。

 そして、ゴロゴロと中に転がり入りながら、クルクルシュピーン!

 決めポーズ!

 

「少しばかり寂しい思いをさせてしまったが帰ってきたよ、マイシスター!! さあお兄ちゃんの胸に飛び込んでおいで!!」

 

 バッと感激に咽び泣くだろう甘えん坊な妹を迎え入れるために、ティーダがY字ポーズを決める。

 しかし、数秒……数分経っても返事が無い。

 

「ん?」

 

 キョロキョロと周りを見てようやく気が付く。

 人気が無い。

 ていうか、生活の香りがしない。

 しばらく見ないうちに模様替えでもしたのか、少し家具の配置が変わっており、ソファーなどには埃避けのビニールが被せてあった。

 

「あるぇー?」

 

 唇を尖らし、彼の頭に疑問符が浮かんだ。

 目に入れても痛くないどころか嬉しい可愛い妹はどこへ行ったのだ?

 

「ティアナ!?!」

 

 絶叫を上げながら、ティーダは全力で家の中を捜索した。

 ティアナの部屋の扉を開く、タンスを開ける、なんか見覚えないぐらいに大きな衣服に違和感を覚えるが、誰も居ない。

 一応ばれないように掃除し、次へ!

 台所に飛び込む、水の出した形跡はなし、放置されてからしばらく経っていることを確認。

 浴室に入る、浴槽の蓋を開き、誰も居ないことを確認。

 ゴミ箱を開けた、トイレの扉を開いた、ベランダにも出た、自分の部屋のベッドをひっくり返そうと思ったら家具がなくなっていた。

 

「どこだぁあああ!?」

 

 探すところが見つからなくなったティーダは近所のご迷惑になりそうな絶叫を上げながら、頭を抱えた。

 考えろ、考えろ、ティーダ・ランスター!

 引越し? いや、俺に黙って消えるような子じゃない!

 男を作って逃げた? 馬鹿な! お兄ちゃんは許しませんよ!

 となれば。

 

「――誘拐かぁ! くそ、俺の居ない隙にティアナを!!」

 

 ずどんっと壁に拳をめり込ませて、ギリギリと歯軋りと共に憎悪の涙を流す。

 許さん、許さんぞ、犯人め。

 

「幾らこの世のあらゆるものよりも可愛く、お持ち帰りー! とか一日86400(二十四時間辺りの秒単位)回叫びたくなる気持ちは分かるが、俺の妹だ! 許さん! 決して許さんぞ!!」

 

 まかり間違っても妹を泣かしてみろ、貴様の魂を地獄の釜に茹でながら、貴様の■☆を××××(検閲削除)して、×♪××(検閲だってば)に××□×(放送禁止用語です)な目にあわせて、悲鳴を上げさせながら、フォアグラの鳥よりも醜く×△××(禁則事項です)してやる!!

 などと心の中でスラングどころか紳士淑女が聞けば卒倒しそうな罵倒を洩らしながら、ティーダは悲痛に叫ぶ。

 

「くそ、ティアナ無事で居てくれ!!」

 

 俺のエンジェル。

 唯一の生きる理由である妹がかすり傷でも負っていたら、ティーダは生きていることが激しく難しくなるのだ。

 胸をわしづかみにし、彼は荒い息を吐き出しながら、ボタボタと壁を貫通した時に傷ついた手から血を流しながら、決意する。

 

「こうしてはいられない、出撃――いや、捜査だ!」

 

 加速魔法を使い、疾風のような速度で再び玄関の扉を蹴散らしながら、ティーダは疾走した。

 目指すのはただ一つ。

 己の職場、ミッドチルダUCAT本部である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソニックブームすら撒き散らしながら、その人影は飛び込んできた。

 

「レッツパリィイイイイ!!!」

 

 ミッドチルダUCAT、玄関口。

 ガラス張りの入り口を蹴り破り、飛び込んできた影が一つ。

 キラキラと天馬流星拳の如く煌めくガラス片を、顔色一つ変えずに受付嬢の二人は受付に備え付けてある番傘をバッと広げて防いだ。

 

 その横で書類を持って運んでいた開発班の老人がぎゃー! と叫び声を上げて、ガラス片に串刺しの槍衾状態になっていたが、受付嬢は気にもしない。

 だってよくセクハラをしてくるエロ爺なんだもん。

 

「え、衛生兵ー! 衛生兵ー!」

 

「ご用件をどうぞ」

 

 パラパラとガラス片が防いだ傘から滑り落ちて、床が静かな音を立てる。

 そして、その降ろした傘の向こう側から、まるで悟りを開いたかのようなアルカイックスマイルを浮かべた受付嬢が完璧極まる接客態度で現れた。

 

 その横で老人を相手に、駆けつけた衛生兵が「傷は浅いぞ、しっかりしろ!」と叫び、白衣の老人が「う、うぅ、こ、この仕事が終わったら孫にゲームをプレゼントするんじゃ……」と呟いて、衛生兵が「馬鹿野郎! 死亡フラグ立てんな!!」と怒鳴りつけていた。

 

「ふぅ~、ふぅ~、首都航空隊所属のティーダ・ランスター一等空尉だ。隊長を呼び出してくれ」

 

 獣の一歩手前でギリギリ留まりながらティーダは荒く息を吐き出しながら、そう告げた。

 

 その後ろで「そう、ワシお手製のエロゲーを孫にやらせるまでは……」と老人が呟き、「死にそうにねえな。おい、薬はいいから救護室にぶちこんでおけ。放置すれば治るだろ」と衛生兵の冷たい診断が下っていた。

 

「分かりました」

 

 ピポパポッと受付嬢が通信をかけて、しばらく言葉を交わせた受付嬢の眉間に皺が寄った。

 

「あの、ティーダ・ランスター一等空尉」

 

「なんだ?」

 

「貴方M.I.A.(行方不明及び戦死の意味)になってますよ?」

 

「へ?」

 

 受付嬢の言葉に、目を丸くするティーダ。

 その後ろを、「鬼畜ー! 麻酔ぐらい打たんかー! ああ痛たたた! ぬぉおお!! 老人虐待じゃー!」と運ばれる老人と「はいはい、元気エロジジイ乙」運ぶ衛生兵が歩いていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなってるんですか、隊長ー!!」

 

 空中回し蹴りと共に首都航空隊の隊室に飛び込むティーダ。

 ボーンと吹っ飛んできた扉をパシッとお茶を啜る手とは逆の手の指で挟んで止め、ずずぅーとその男――ミッドチルダUCAT首都航空隊隊長は湯飲みから音を立て、注げた。

 

「おう、久しぶりだな。ティーダ、六年ぶりか?」

 

「はぁ? 六年? いや、それよりも高々半年ぐらい居ないだけでMIAとはどういうことですか! 俺の給料! 可愛いマイスィートハートのティアナのために貯めた積み立て貯金がぁあ!!」

 

 どしどしと歩み寄り、バンッと手の平をデスクに叩き付けて、直談判するティーダ。

 しかし、そんな彼の行動に、隊長は再び音を立ててお茶を啜ると、んーと眉を上げて告げた。

 

「しょうがないだろう。お前行方不明だったし、というかそもそもどこにぶっ飛んでた? 違法魔導師の転送魔法の術式を辿ったが、お前の行方はとんと知れなかったが」

 

「いや、ちょっとLow_Gとかいう次元世界に飛ばされてましたね。時空移動の魔法もなかったんで、少し現地で概念戦争とやらに参加してましたよ」

 

「……そうか」

 

 そういえば別れの挨拶もする暇もなかったが、飛場の奴とか八大竜王の連中無事かね~と遠い目を浮かべるティーダ。

 

 隊長推測。

 彼の知識によれば概念戦争は六十年前以上昔に終わった事件である。

 じわりと呆れを含んだ汗を流す。

 

「お前、よく無事だったな?」

 

「まあ死に掛けましたが、ティアナの笑顔を見るためならば!」

 

 サムズアップをして、キラーンと歯を輝かせるティーダ。

 隊長呆れ。

 ここまでシスコンの度合いが酷かったかと疑問。

 欲求不満による暴走と判断、隊長は静かにため息を吐き出した。

 

「まあ生きていたならばいいが、お前の籍は残ってないぞ?」

 

「そうだ! なんで俺の籍が消されてるんですか!?!」

 

「いや、さっきも言っただろうが。ティーダ・ランスター、お前はこちらとしても死亡扱いでな。復帰となると手続きが面倒だ」

 

 ……チッ、死んでればよかったのに。

 そう呟かれたのは気のせいだということにしておこう。

 

「そこをなんとか!」

 

「まあいいがな。シグナムもヴァイスの奴も今はいないし、優秀な魔導師の復帰となれば歓迎しよう」

 

「え? そういえば、二人の姿が見当たらないと思ったら、どこか転属したんですか?」

 

 キョロキョロと周りを見渡すが、そういえば室内に居るのは見覚えの無い連中ばかりだ。

 

 ――その大多数がフィギュア作成と同人誌の原稿を書いているのはいつもどおりの光景だが。

 

「お前はデロリ○ンにでも乗っていたのか?」

 

「は?」

 

「だから、さっき言っただろうが。どうやら類まれなる経験をしたようだが、今は“お前が行方不明になってから六年は経っている”」

 

「え?」

 

 今更のように事態に気付く。

 ティーダの主観は半年ほど、しかし現地の時間は六年後。

 

 そう、彼は時を駆ける青年となっていた。

 

 

「と、ということはティアナが立派な淑女になっているのか!!」

 

「驚くのはそこか!?」

 

 

 

 

 

 

 帰ってきた馬鹿殲滅戦 開始

 

 作戦を続行する つ NEXT

 

 






今日のUCAT

1.レジアスの一日


「うーむ、ここはこうして……」

 カタカタと入力端末を打ち込みながら、レジアス・ゲイズは電子モニターに向かっていた。
 指が踊る、瞳が忙しく揺れ動き、瞬く間に無数の文章が画面の中に踊っていく。
 まるで音楽を奏でる演奏家のようにその動きは優雅に、華麗で、無駄がなかった。

「――中将、失礼します」

 プシュッと空気が抜ける音が響いて、ドアが開く。
 そこにいたのは怜悧な美貌を浮かべた女性。
 レジアスの娘であるオーリス、彼女はレジアスに提出すべき電子ファイルと何枚かの書類を胸に抱き部屋に入ってきたのだが。

「……」

「中将?」

「……むむむ、ここの表現はこうして」

「中将~?」

「それはまるで風が踊るように……いや、もっと詩的にすべきか?」

 ブチッ。
 オーリスのこめかみで何かが切れる音がした。

「父さん!!」

「ん? な、なんだ、オーリスか」

 レジアスがようやく顔を上げて、オーリスを見た。
 そして、デスクに置いた高価な栄養ドリンクの蓋を指で開けると、ゴクリと飲み干す。

「仕事です。確認をお願いします」

「……うーむ、締め切りが迫っているのだが」

 目を逸らし、ぶつぶつと言い訳をするいい年こいた男が居た。

「地上の平和と小説の締め切りどっちが大切なのですか!!」

 ビシャーンとこの日、ミッドチルダUCAT本部を揺るわせる稲妻が落ちた。
 レジアス・ゲイズ。
 ミッドチルダUCATの中将にして、地上治安回復の立役者。


 しかし、その実体は人知れず冒険小説と恋愛小説を書くプロの小説家だった(趣味で、妻を基にした官能小説も書いてるが非公開)。


「く、私に力があればこんなふざけた組織立て直すのに!!」

 その娘、オーリス・ゲイズはマトモな性格のために日々奮闘している模様。
 まあイキロ。







2.UCATな日々 開発班の華麗極まる日々


「オォオオオオ!! いいぞ、いいぞ! びゅーてぃほぉおおお!!」

 この日も奇声が上がっていた。
 幾人もの白衣の科学者が、解体されているガジェットを見ながら激しい討論を交わしている。
 今度はドリルを! いやいや、ドリルは既にやった。今度は巨大合体ロボットに改良を! いや、その前に変形機能を付けるべきだ! 三種類の装備で、陸海空の全てに対応した傑作を! その前にダンボールの開発はまだか! 注文来てるけど、開発遅れてるよ、なにやってんの!
 などなど、熱い討論が繰り広げれている地獄絵図の如き現場。
 そして、今宵も生贄がやってくる。

「おおーい、タイプゼロシリーズが検診に来たぞー!」

 研究者の一人が、泡を食った態度で扉を叩き開き、前転しながら飛び込んでの一言。

『なんだってー!!?』

 驚愕、歓喜、狂乱、恍惚。
 四つの感情を顔に浮かべて、ワラワラと移動を開始する白衣の怪物共。
 五分と掛からずに十数名近くの科学者が戦闘機人用に調整された検査室へと迫り、そして扉の前で必死に抗う一人の女性に詰め寄っていた。

「な、何度逝(言)ったら分かるんですかー! あ、貴方達の触って良いものじゃないんですよぉ!」

 彼女の名はマリエル・アテンザ。
 管理局本局の第四技術部に籍を置き、現在は機動六課に出向している才気溢れる技術者の一人。
 だがしかし、彼女は現在無数の白衣の男たちに詰め寄られて、涙目だった。

「ああん? 君、本局に所属しているからって調子乗ってるんじゃないの?」

「そもそも戦闘機人タイプゼロファーストっていうか、ギンガ・ナカジマはミッドチルダUCAT所属なんだよ? 何で本局がデータを独占するつもりなんだい?」

「データなら渡しますよー! っていうか、アンタたち正論言いつつも、目的違うことでしょうが!!」

『当たり前じゃないか!』

 言葉は一致に、白衣たちはマリエルを包囲。

「良いかね? 彼女はISがない」

「ならば、それを補うための兵装が必要だ」

「ドリルを付けよう」

「目からビームを」

「いやいや、ロケットパンチを」

「とりあえず根性(G)で動ける永久機関を付けようか」

「人権を護るべきですよー!!」

 マリエルのもっともな反論。
 しかし、そんな正論が通じる世界か? 否、否である。
 既にこの身は科学に魂を売り渡し、楽しさに心を売り渡した修羅たちである。

『馬鹿な。科学者が人道を守ったら終わりだろ JK』

 断言だった。

「とりあえずこやつ技術者としてなってないな」

「少し説教しよう」

「まずはプランAの素晴らしさから教えよう」

「ああ、あとダンボール」

 ガシリとマリエルの両手が掴まれる。
 必死の抵抗もむなしくずるずると引っ張られて、簀巻きにされて、わっほいわっほいと運ばれていく。

「ま、マリエルさーん!!」

 後輩の技術者の声が聞こえる。
 そんな彼女に残したマリエルの最後の言葉とは。

「か、彼女をお願い! わ、私はまた科学の魔道にー! 嗚呼―!! いやー! また科学式を見てご飯三杯楽勝な性格になるのはいやー!!」

「マリエルさーん!!!」


 そして、彼女はしばし席を外し。


 数時間後、帰ってきたときには。

「ギンガ、良い改造案があるんだけど、どうかしら♪」

「正気に戻ってください! ていっ!!」

 恍惚の笑みで改造プランの設計図を見せ付けるマリエルを、殴り飛ばすギンガの苦悩が終わる日は遠い。

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