ミッドチルダUCAT 作:箱庭廻
世界は常に揺れ動いている。
刻一刻と運命の振り子はふり幅を大きくし、世界を震撼させる運命を紡ぎ出す。
嗚呼、嗚呼。
世界は変わり果てる時を待ち望んでいる。
祈りたまえ。
嘆きたまえ。
運命は迫り来る。
牙を磨いて。
爪を尖らせ。
駆け来たるのだ。
――9月14日 後の世にJS事件と称される運命が世界に姿を見せる日。
その発端たる、地上本部襲撃事件。
それが今目の前まで迫ろうとしていた。
……のだが。
その運命を防ぐべく設立された機動六課の宿舎、そこで一人の少女がペンを走らせていた。
「ふんふふ~ん」
手に持つのはGペン。
使い慣れた仕草でスラスラと線を描く、文字を描く、絵を描き出す。
彼女が描くのは絵であり、文字であり、人物であり、背景であり、建物であり、命そのものだった。
原稿用紙にさらさらと描き出すそれは覗き込む同僚の視線を釘付けにするほど刺激的。
「う、うわ~……こ、こんなとこまで描いちゃうんですか?」
さらさらと凄まじい速度で手裏剣のようにインクを飛ばし、目を疑う速度でベタを塗る少女は高らかに告げる。
「もちろんよ。この私、アルト・クラエッタの辞書には自重という言葉は存在しないわ!」
メラメラと燃える瞳、ボキリト握っていたGペンがへし折れて、きしゃーと声を上げる。
「そう、時代は私の才能を求めているの! 尊敬する作家は言ったわ。【僕は読んでもらうために漫画を描いている! 読んでもらう、ただそれだけのためだ! 単純なただ一つだけの理由だが、それ以外はどうでもいい】と! だから、私は見てもらうために自重はしない、躊躇うことなんてしないの!」
時代はヴァイス×ティーダなのよぉおお! と叫びながら、同人誌を描き出すアルト。
彼女の描き出す原稿の中では鬼畜顔のヴァイスが、女顔のティーダをねっとりねちょねちょと押し倒していた。
それを横目ですごーいと憧れた目で見るルキノ。
休憩時間とはいえ、いいのだろうか?
アルト・クラリッタ。
元ミッドチルダUCAT首都航空隊 運輸部第2班にして、その前身はティーダ、ヴァイス、シグナムと同じ航空武装隊第1039部隊所属。
すなわち彼女も立派なUCAT隊員としてしっかり腐っていた(腐女子的な意味で)
そんなことが機動六課の隊舎で行われているとも知らず、機動六課のスターズ&ライトニング分隊(一名除く)はミッドチルダUCAT本部に訪れていた。
ミッドチルダUCAT意見陳述会。
警備としての収拾が海からの命令として彼女達に下っていた。
「うわー、凄いですねぇ」
改めてミッドチルダUCAT本部を見上げたスバルが凄いと声を上げた。
それはまさしく鋼の城だった。
UCATの隊服を着込んだ陸士たちがせわしくなく周囲を歩きまわり、何らかの防衛網を設置しようとしているのか、屋上からロープを引いて壁で補修作業らしいものをしている陸士もいた。
――その横でアーッ! という叫び声を上げてバンジージャンプをしている人がいたような気がしたが、おそらく気のせいだろう。多分。
落ちろ、落ちろ、貴様らー! うひゃひゃひゃひゃ! ティアナー、愛してるぞー! などと叫んでいる見覚えのある人物が積極的に蹴り落としているような気もしたが、ティアナも見なかったことにした。
ロープもついていなかったような気がするのもきっと気のせいだ。
「……本当にこれで敵の襲撃があるんでしょうか?」
フォワード陣は幻覚から目を背けて、傍らに立っていたなのはに話しかけた。
彼女達はつい数日前、予言の話を聞いている。
古い結晶と無限の欲望が集い交わる地。
死せる王の元、聖地より彼の翼が甦る。
道化達が踊り、中つ大地の法の心は空しく焼け落ち、
それを先駈けに数多の海を守る法の秩序は砕け落ちる。
聖王教会の騎士にして時空管理局少将であるカリム・グラシアのレアスキル【預言者の著書】
それが全ての発端だった。
その予言の解釈によれば幾多のガジェット・ドローン、それを裏で操るスカリエッティによって時空管理局が崩壊するという未来が推測された。
機動六課はその予言を覆すために設立された部隊。
大規模な予言の内容にフォワード陣は驚いたし、かかるプレッシャーに緊張もしたけれど、自分達の肩に掛かる重みに決意を新たにしていた。
「あると思う。ミッドチルダUCAT、意見陳述会。テロがあるとしたらこの日。時空管理局の本局幹部も来るし、聖王教会の人たちも来る。この日にミッドチルダUCATを潰せば、管理局の面子も潰されるだけじゃない、他時空世界に対する管理局の信頼も壊れてしまうだろうね」
なのははひどく冷たく、そして冷静な目つきで告げた。
「スバル、皆。気を抜かないでね」
『はい!』
フォワード陣が声を上げる、スバルの目に、ティアナの目に、エリオの目に、キャロの瞳には力が宿っていた。
その瞳を見て、なのはが微笑む。
自分達の選択は間違いではなかったと。
未来を託せる仲間達だと信じられた。
フェイトも微笑み、傍に立っていたシグナムも薄く微笑んだ。はやては恥ずかしそうに頭を掻くが、嬉しそうだった。
「しかし、ヴィータの奴も来れればよかったのだがな……」
シグナムが少し表情を渋くして告げる。
今ここにいないヴィータ。
彼女は体調を崩し、機動六課の隊舎にて寝込んでいるのだ。
「……しょうがないよ。なんか凄い状態だったし」
この間の少女保護の時から帰還したヴィータは無言で部屋に戻ると部屋の隅でぶつぶつとうずくまり、「怖い怖い、あたし帰る。おうち帰る」とどこか遠い世界で幼児化していた。
先日まで必死にはやてが慰め、シャマルがあやし、ザフィーラがもふもふされることによってようやく精神がカムバックしたのだが、何故彼女があのような状態になったのか誰も分からなかった。
通信していたルキノにも詳細は分からず、ガジェットからの負傷があったわけでもなく、現場で援軍として出ていたUCAT陸士にも聞いたのだが。
「はて? 俺は特になにもやってないのだが、ガジェットを倒しただけだしなぁ」
「だな。俺は運転してただけだし」
と原因不明。
同じく何故かひきつけを起こしていたリインは「ふははは! チャージなどさせるものか! 私こそが闇の書の意思だー!」 と喚き散らした後、翌日になったら何も覚えていなかった。
シャマル曰く「何か憶えていたくない嫌なことでもあったみたい。自我を護るために記憶を封じ込めたのね」 という判断が下されていた。
「……ヴィータ副隊長がいないと、戦力的にちょっと不安ですね」
実技訓練としてフォワード陣をしっかりと鍛えてくれているヴィータの強さを、ティアナたちの誰もが骨身に染みて理解していた。
彼女がいないことが少しだけ不安だった。
けれど、なのはは気丈に笑顔を浮かべてみせる。
「大丈夫だよ。私たちもいるし、それに私だけじゃなく、UCATの人たちも警備しているよ」
そういって、バッと警備網を引いているそこらへんのUCAT陸士を指差したのだが――
「――うほ、いいモンキー! 剥ぎ取れー!」「ちょ、おま! 俺今、襲われてるんだけど! ゴットモンキーつええ! いやー。爆裂樽、樽寄越せ! 剥いでないで助けろよ!」
……携帯ゲーム機でカチカチと遊んでいたし。
その横では。
「いっけぇ、俺のビガージュ!」「させるが、メラトカゲ!」「ちょ、おマ、進化させずにLV100かよ!? どれだけ愛してるんだよ!」「お前こそ、さっさとサンダーストーン使ってでぶっちょにすればいいじゃないか!」「うるせえ! あれは進化じゃない、メタボですぅ!」
と、有線式のどでかいゲーム端末にケーブルを繋いで、ピコピコしながら叫び声を上げていた。
ちなみに携帯しているストレージデバイスは地面に放置である。
というか、何故かケンケンしながら縄跳びで三重飛びに挑んでいる奴やベーゴマをやっている奴もいた。
腕に嵌めたどでかいディスクを構えて、立体型映像でカードゲームをしている奴らもいる。
「……」
「……な、なのはさん?」
「とりあえず頑張ろう。私たちが」
強い決意を手に、ガシリとスバルの肩に手を置くなのはだった。
そして、シグナムを除く全員が思った。
……ミッドチルダの平和は大丈夫なのだろうか? と。
しかし、彼女達は4時間後に始まる悲劇をまだ知らない。
カツ、カツ、カツ。
「中将、そろそろ意見陳述会の時間です」
冷静な声。
感情を押し殺した声音が響き、ぷしゅーと空気が抜ける音と共に一人の女性がドアを開く。
オーリス・ゲイズ。
このミッドチルダUCAT本部を統率する実質的司令官であるレジアス・ゲイズの娘にして副官に当たる人物。
皺一つ無いぴっちりとしたスーツに身を包み、切れ長の瞳を顔にかけたメガネで隠した才女。
一切の乱れない歩法で彼女は室内に踏み込むと、胸に抱いた書類を手に取り、伏せていた顔を上げた。
「中将――ん?」
しかし、顔を上げた先。
本来ならばレジアスが座っているはずの席にはレジアスはいなかった。
いや、そこには違う人物がいた。
「おや、私はまだ客分なのだがね。オーリス君、いつの間に中将になったのかな?」
足を組み、不適な笑み。
白髪を交えたオールバックの髪型に、どこまでも冷たく冷静沈着な顔を浮かべた少年。
「佐山 御言。何故貴方がそこの席に?」
かつて全竜交渉部隊の指揮官として活躍した英雄。
悪役の姓を持ちし少年。
ミッドチルダUCATの設立に関係した佐山 薫の孫。
そして、現在ミッドチルダUCATに戦術・技術関連の交流監査役として居座る客分。
「ふむ。そこの質問は的確だ。故に回答は的確に行おう――そこの男が座ってもいいよといったのでね」
「は?」
ピシッと向けられた指先を見ると、そこに「あ~」という声を上げている男と少女がいた。
具体的に言えば二つの按摩器に座る連中がいるともいう。
「気持ちいいね~、佐山くん」
そう告げるのは佐山と同じく派遣されてきた新庄 運切。
「うむ。実に私も心地いい」
「ほえ? そんなにその椅子座り心地いいの?」
と首を捻る新庄。
その黒く滑らかに伸びた髪、男性とは思えない滑らかな体のライン、そして按摩器でぶぶぶと小刻みに振動するまロい尻を震わせて、静かに佐山の盗撮用カメラで撮影されていることを新庄は知らない。
そして、その横で極楽極楽と呟いているヒゲ面に、厳つい顔つきの男がいた。
レジアス・ゲイズである。
「中将ー! なにやってるんですかぁ!」
「む? 見ての通りだ」
「ふむ、オーリス君はどうやら按摩器の存在を知らない文明人だったらしいね! まさか魔法で肩こりが治るのかね?」
「ふ。魔法で肩こりが治れば鍼灸も按摩もサロン○スも要らぬわ!」
「肩こりはどこでも強敵のようだね」
同時にニヤリと笑う佐山とレジアス。
しかし、次の瞬間、唸りを上げたオーリスのハリセンに頭部をひっぱたかれた。
「ほら、さっさと行きますよ! 父さん!」
「ぬぉおお! 耳をを引っ張るなぁ、ちぎれ、千切れる! 遅かりし反抗期か!?」
ズルズルとオーリスに引きずられるレジアスだった。
それを眺めながら、佐山が一言。
「ハハハ、いつ見てもここは変態の巣窟だね。悲しい限りだと思わないかい、新庄君?」
「同じUCATだから大差ないよ。色んな意味で」
そう告げて二人も立ち上がった。
意見陳述会に、彼ら二人も出席することが決まっているのだから――
巡る、巡る、世界の螺旋。
運命は常に辿り寄せて、歴史の変革は間近である。
「ウーノ、準備はどうかね?」
一人の男がいた。
一人の狂人がいた。
嗤う、嗤う、玉座に腰掛けながら厳かに、王者のように、或いは発狂した狂い人のように振舞うヒトガタ。
「イエス、ドクター。準備は万端です」
主の命に従うは冷徹なる人形。
美しい造形、神に寵愛されたかのような美貌、その細腕の周りには螺旋を描くような鍵盤がある。
奏でる、歌う、音の調律を行うようにウーノと呼ばれた人形は操作を開始する。
「クアットロ、奏でる準備は出来た?」
「はい、お姉さま。我が銀色の衣は既にかの組織を蝕み始めていますわ」
嗤う。
モニターに映し出されるは邪悪を秘めた人形。
残酷なまでに清々しい笑顔を浮かべながら、その双眸の奥に秘めたるのは吐き気が込み上げるほどの闇。
彼女の闇を姉たる彼女は知り尽くし、それでもなお己が主の目的のために放置する。
「トーレ、出撃準備は?」
「問題ない。いつでも行ける、姉妹たちを取り戻すチャンスだ。逃がさん」
新たに出現したモニター。
そこに映し出されるのは翼の如き光刃を噴出した人形。
彼女は凛々しい、彼女は気高い、刀身を削り上げ少女の形を取ったかのように鋭い存在。
その四肢からは強化手術を受けて、ありあまる出力を手に入れた光の翼にして、輝ける刃たるインパルスブレードを持ち合わせている。
彼女の機動はまさしく音速を超過。
人間には太刀打ち出来ない、最強無比の一刀。
「ルーテシアお嬢様、準備はよろしいですか?」
「問題ない……父さんも大丈夫だって」
三つ目のモニター。
そこには両手のアスクレピオスに光輝を抱いた少女がいた。
少女は美しい、まるで美の女神に祝福されたかのよう、紫水晶を溶かしたかのような髪を風になびかせ、夕日の輝きに輝ける姿は黒衣と相まって死神のように背筋立つ。
「では、全ての姉妹たちよ。祈りなさい」
神に祈るではなく、己の創造主のみが信奉の対象たる人形は歌う、奏でる、紡ぎ出す。
破壊の旋律を。
歴史を書き換える一音を。
「さあ開始しようか。歴史の境界線を越える刻を!!」
狂人は告げる。
ダンと床を踏み鳴らし、人形がその意のままに手を這わせた。
淫猥に、絢爛に、偉大に、ポォーンという運命が戸を鳴らす音を奏でる。
今ここに、ミッドチルダUCAT(ついでに機動六課)とスカリッティとの戦いが始まる。
なお、3年後のスカリエッティはこの時のことをこう述べている。
「認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものを」
と。
今日だってUCAT
1.スカリエッティの大いなる野望
スカリエッティ、ラボ。
今日もその主にして狂科学者、スカリエッティは研究に明け暮れていた。
「ふむふむ、ここはこういう風に改造したのか」
(ドクター……今日もUCATの兵器解析をしているわ)
UCATに拿捕されたガジェット。
ドリルを付けられ、何故か追加バーニアに、内部に搭載していたミサイル全てがドリルミサイルに改造されていたそれを回収したのだが、スカリエッティはここ近日その解析に夢中だった。
「ドリル。うむ実にドリル。螺旋の輝きを秘めている、ぬ? こ、これはまさか鉄の城モデルか!?」
などと、不眠不休で内部をばらし、稼働した時の画像を見てうーむと感嘆の声を上げているのである。
それを影ながら見ているウーノはスカリエッティの体調を心配しつつも、彼の興味をそれだけ引きつけるUCATに嫉妬の炎を燃やしていた。
(ドクターの技術のほうが素晴らしいのに、何故あんなにも調べるのかしら)
彼女はしばし悩んだものの、彼女の電子処理機能つきの頭脳でも計算は不可能だった。
しょうがないとため息を吐き、彼女はそのまま日課の掃除のためにスカリエッティの私室に入った。
手にはスカリエッティ自作の掃除機を持ち、腰にはホコリ取りを掃き、エプロンを身に付けた姿こそ人妻の完全装備!
とは、この間妻と夫の関係を熱く語っていたゼストの談である。
そして、そのメガーヌの後姿はあまりにも綺麗だったのでついムラムラと襲い掛かってしまった――とまで説明したところで、ルーテシアの情操教育に悪いと判断されたガリューにぶっとばされていたのは思い出したくも無い記憶である。
「さて、どこから掃除しようかしら」
相変わらずスカリエッティの私室は荒れ放題だった。
研究資料のレポート用紙は床に散乱し、分厚い科学書などは机に山済み、この間お忍びで出かけてきた時に買ってきたナンバーズのフィギュアはケースの中に納められている。
最初こそ呆れたものの、もはや慣れたウーノはテキパキと書類を集めてファイルに入れて、さらにパタパタと上の方から埃を落とし、掃除機をかけていった。
ガーガーと溜まった埃を吸い込みながら、「ドクターと結婚したら毎日こうするのかしら?」 と少しだけ頬を染めて、ウーノが腰をくねらせる。
きゃードクターとバタバタと身もだえして、もじもじと顔を隠すウーノ。
他の姉妹が見たら幻滅確定の痴態を繰り広げると……ようやく立ち直ったのか、息を吐いた。
「こ、こんな場合じゃないわね。掃除をしないと」
掃除機による床の吸い取りはほぼ終えている。
後は雑巾で空拭きでもすればいいだろう。
一端雑巾などを取ってくるかと踵と返した時、ウーノは不意に気付いた。
「あら? これは何かしら?」
スカリエッティの机の上に、なにやら沢山の線が描かれた紙切れが一つ。
手紙などではなく、ただの紙切れのようでウーノはそれを掴み取り、見てみた。
沢山の縦線に、その途中に幾つもの横線が走っている。
そして、最後にこの二つの言葉が書いてあった。
【UCATに入って、わはーする】
【頑張って世界を変える】
ぶっちゃけあみだくじだった。
どうやらスカリエッティはあみだくじで、選択を選んだらしい。紅いボールペンで線を引き、【頑張って世界を変える】のところに丸が描かれていた。
「……見なかったことにしましょ」
ビリビリと紙を破ると、ウーノはゴミ箱に入れて部屋から出て行った。
スカリエッティ一味はギリギリのところで存続させていた。
2.ガンバレ エリオくん(の保護者達)
踊る、躍る、疾る。
手には槍を、脚には速度を、全ての心技体を戦いに傾けろ。
「おぉおおお!!」
疾る、吼える、貫く。
音速に触れるか触れないか、それほどの速度で彼は駆け抜ける。
待ち構えるは歴戦の剣士。
燃え盛る焔の使い手。
「いい速度だ」
来たる飛翔の矛先。
鋼鉄すらも貫くそれ、だがしかし、烈火の将は笑いながらその刃に体を差し出す。
「え!?」
驚愕に歪む、防御をしない、回避もしない彼女。
それに驚愕をし――瞬間、大地から空へと舞い上がる一閃があった。
「躊躇うな」
それは逆手に刃を構えた彼女の一閃。
何たる神技、迫る細い針の如き矛先を見事に捕らえて上へと弾き上げた。
剣聖の如き刃の一閃。
それに幼い槍は逆らう術を知らず、噴き出すスラスターによる補正すらも忘れて手から槍がすっぽ抜ける。
「あ」
「これで終わりか」
パシンと首元にレーヴァテインの刀身が触れた。
少年、エリオの敗北だった。
「……負けですか」
がっくりと頭を落とす。
クルクルと落ちてくるストラーダ、それに遠隔操作、手元に戻ってくる槍をエリオは見もせずに捕らえた。
確かに彼は成長している。ストラーダの扱い方に精通し、サードフォームすらも解禁させていた。
だがしかし、届かない。
目の前の烈火の将に、他の閃光の戦斧の使い手に、不屈の魂の持ち手に、鉄槌の騎士に、まだ届かない。
「まだ弱いな」
刃を振るい、もはや体に染み付いた血払いの動作をしながら、シグナムは肩にレーヴァテインの刀身を乗せた。
「とはいえ、本来ならもう及第点はやれるな」
「え?」
「今の年齢から言えば魔力の放出量も、制御技術も、身体能力も十二分なほどに上がっている。後はゆっくりと肉体の成長を待つしかないほどにな」
「……ですが」
まだ自分は弱いと思う。
同僚の誰よりも弱い思える。シューティングアーツの使い手には技巧で劣り、若きフォワードリーダーほどにも強かではなく、彼にもっとも近い召喚術士の少女ほどの切り札もない。
その悩みに気付いたのだろう、シグナムは静かに口元に手を当てて。
「後は、そうだな。その槍術を鍛えるしかない」
「え?」
「見ているのだが、お前は槍を武器としては使っているが、技としては使っていない。エリオ、本局の短期予科訓練校で槍技は学んだか?」
「い、いえ。最低限の持ち方と、使い方を教えられたぐらいで後は魔法を」
「だろうな。私は剣技なら教えられるが、槍は専門外だ」
やれやれと肩を竦めると、シグナムはしばし考えて。
「そうだな。もしもこれ以上、エリオが強くなるとしたら方法がないわけではない」
「な、なんですか?」
「どうせ死んでないだろうし、いずれ帰ってくるだろう人物が一人いる。そう私よりもおそらくは強い達人が、そいつに師事すれば――」
「だ、誰ですか?」
「ミッドチルダUCAT最強の武人、ゼスト・グランガイツだ」
こうして、エリオは彼の名前を知ることになる。
しかし、今の彼は知るはずも無い。
3年後、彼が師匠にしてエリオの命を狙う最強のラスボスとなることに。
この時の彼はまだ知らなかったのだ。
「はう!」
「どうしたの、キャロ?」
「い、いえ。何故か今すぐにでもヴォルテールを呼び出して、抹殺しないといけない人が出てくるような予感が」
「はぁ?」