THE ビッグオー ~迷い人はひっそりと暮らしたい~   作:気分屋

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アニメ見返してたら書きたくなりまして。思い付きで書いてみたので更新は不定期になると思われます。


Act.1 迷い人

 時差式の信号が停止の赤から進行の緑に変わる。朝方の気温の低い街並み、朝霧と排水口から立ち上る湯気が店舗やアパートを、そして眠りから目覚め1日の始まりを準備する人々を飲み込まんと朦朦と拡がる。

 

 その白い湯気を切り裂き中から現れたのは対照的な黒い車。グリフォンと言う名の2ドアのセダンは、ワックスでコーティングをされたツヤのある漆黒の車体に周囲の風景を鏡のように写し出しながらやや低速で走行する。

 

 ガゴン、と音がした。グリフォンが道に敷かれた鉄板を踏んだ音だ。その音に、朝の準備をしていた人々は誰からともなくそちらへ顔を向ける。鉄板を過ぎた車は気持ち速度を早めた。鉄板があるのを予め知っていたから、“彼”はそこまで静かに走行していたのだというのは眺める人々には既知の事だ。

 

 というのも、人々にとってこの朝の光景は何ら珍しいものでもないのだ。高級感あるその車がこの通りを通るのも、その車を運転しているのが有名な人物である事も、この通りで生活する全ての人間が知っている。

 

 幻獣を冠したその名前を表すように、フロントの先に輝く銀色のグリフォンの意匠を横目で見送るオレもその一人。

 

 

――オレの名前は村雨 匠(むらさめ しょう)

 

 

ここパラダイム・シティで必要……と言えるかはまぁ怪しいが様々なアルバイトをして暮らしている。今も朝のバイトである新聞配達をするのに自転車に跨がって少々視界の悪い霧の中を、右へ左へと漕いでいる。

 

 

「あら、ショウ君。お早う、いつもご苦労さんねぇ」

 

 

「お早うジョーヌさん。いやいや、食べてくためっすからね。働かざる者食うべからず!ってね」

 

 

 この辺りの配達は何回も行っているから、幾つかの家主さんとは既知の間柄だ。こうして気軽に声を掛けてくれたり、たまに温かいコーヒーや軽いサンドイッチをご馳走してもらえるので大変ありがたい。

 

 生憎今日は戴けなかったが、まだノルマも残っていたし適当な所で挨拶をして再びペダルを踏み抜く。もう数件回れば今日のノルマは達成だ。仕事を終えたオレは配達所の隅にある換金所で賃金を受け取り、その少なさに溜め息を吐きつつも同じく賃金を受け取るために出来た人だかりを後にする。

 

 人気のない歩道を歩くオレの横を軍警察のパトカーが数台けたたましいサイレンを鳴らしながら走り去っていった。またどこかで事件でも起きたんだろうと他人事のように思ったオレは、大して気にも留めずに歩を進めた。そのときのオレの頭の中はどのようなメニューで腹の虫を黙らせるかという事で一杯だったからだ。

 

◆◆◆◆

 

 温かい湯気を上らせる黄金色に輝くコンソメスープ、野菜の表面に着いた水滴が朝焼けの光を反射させ煌めくサラダ、ふっくらと焼き上がった香りのいいパンケーキ、そして少し酸味の強いコクのあるコーヒー。それらがとあるダイナーの一角、オレの目の前のテーブルに置かれた今朝のメニューの全てだった。

 

と、一見豪華なように説明をしてみせたが実際のところは丸っきり違う。まず量が少ない。スープやコーヒーは固形化されたインスタント、ケーキは冷凍された業務用をただ解凍しただけ。サラダは野菜を切り分けただけでドレッシングも何もかけられていない。それどころか水気もちゃんと切れていない。

 

 そのようなお世辞にも上等とは言えない食事でも、今のオレにとっては一番上等なご馳走なのだ、懐の金銭的に。蛇足だが、朝のバイトでオレが稼いだ賃金はそのメニューのためにあっという間に消えた。

 

 味気ない食事に空腹だけは満たせた(正直に言えば腹八分目以下だが)オレが次に向かったのは、ソルダーノ重工。機械部品から鉄製製品まで幅広く製造の手を広げるパラダイムでも有数の製鉄会社だ。1週間の期限付きで臨時の仕事にありつけたオレは、5日前からここに出入りしている。

 

 

「なあ聞いたか?」

 

 

「聞いたって、何を」

 

 

 生産ラインを流れる機械部品に異状は無いか確認作業をするオレに話し掛けてくるのは、隣のラインを見ている青年。隣同士な事もあり食事や小休止を共にしたりと交流があるが、仕事中に話し掛けてくるのは珍しい事だ。

 

 

「ウチの社長、どうも悪い連中に目つけられたらしくてさ。身代金とか要求されて上の連中、今てんやわんやらしいぜ」

 

 

「ふーん。身代金ねぇ、社長って家族いたっけか? 誰が誘拐されたんだ?」

 

 

「さあ? 知らねぇな。そういえばこんな話もある。腕の良い作業員数人が別の工場に引っ張られて、そこで何か大掛かりなモンを造らされてるとか」

 

 

「それで空いた分補うのに臨時で雇われたのがオレ達……ってか?」

 

 

「ん? おお、なるほど! それなら頷けるな」

 

 

 しきりに感心する青年を横目に、部品を観察しては異状無しの印を手にもったチェック用紙に書き込んでいく。外見は興味無いフリをして平静を装っているが、内心ではドキドキと動悸が激しくなってしょうがなかった。

 

――遂にこのときが来たか。

 

◆◆◆◆

 

 その日の夕方、ある怪事件が起こった。とあるハイウェイの上空で突然大量のお札が空から降り注いだというのだ。それだけ聞くと何の事だかさっぱり分からないと思うが、オレには内容もその事件の裏側も含め全てが理解できた。

 

 話を持ってきた例の青年は「オレもあの場にいればな~」とか残念がっているが、オレはそれどころではない。迫りくるそのときをハラハラとした心情で過ごすしかない自身の現状に苛立ちしか感じられない。

 

 それから2日、最終日まで黙々と仕事をこなしたオレは無事賃金を受け取った。新聞配達などと比べても大分高い額の給金を貰えたが、鬱々とした今の心情では素直に喜ぶ事はできない。陰鬱としながらも今夜の寝床を探していたオレは、遠く街中に突然上り立った大きな土煙に過剰なまでに反応した。

 

 あの辺りは確か銀行のある場所……最近身に着けた土地の知識を頭から引き出していると、ビルにも匹敵する全高のロボットが2体土煙の中で立ち並んでいるのが見えた。片や甲殻類の鋏のような両腕をしたロボット、片や黒を基調とした前腕が妙に大きい人に近しいフォルムのロボット。オレの目は黒いロボットに釘付けになった。

 

 

「メガデウス……!!」

 

 

 この世界(・・・・)での巨大ロボットの総称を思わず叫ぶ。そう……この世界『THE ビッグオー』の世界に迷い込んだという認めたくない事実を、オレはこのとき再び嫌々ながらも認識させられたのだった。

 

 

 

 

 

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