英雄のいない世界で   作:タク-F

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木虎が捕獲され現れる3体のラービットに立ち向かう亜樹達の戦いの行方は……?


崩壊した戦線

 

「本部! こちら三雲です! 新型の標的はC級隊員! 木虎さんが1体撃破するも3体追加で出現し捕獲されました!」

 

『────ーが──』

 

 通信にノイズ混じる。報告の中で、私は静かに目を閉じた。

 

「戦力は不足。前線は崩壊寸前。増援も未到着……私が……私が……やらないと!」

 

 開いた目に、迷いはない。

 

「……覚悟を決めないと……」

 

 私は戦域マップを拡大した。

 

この場の全訓練生は私の指示に従って! 近界民の狙いは君達なの! 

 

 マップでは本部から追加された情報で示された赤い光点が、じわじわと街を侵食している。そして白い巨体──ラービットの進行速度が、想定より速い。

 

(撃破は無理! ここで欲張れば、間違いなく全滅する)

 

 マップの把握は終わった為に私の指が止まる。そして次の瞬間には覚悟が決まっていた。

 

「全員速やかに本部へ逃げるよ! 本部には本部長達がいる! 死にたくない・捕まりたくない人は逃げて!」

 

 こんな事態だ。付近の住人には悪いけど……

 

「この区画は放棄する。全力で北上して本部へ後退!」

 

 ざわつきながらも訓練生達に私の意図は伝わった。自分達の危機を悟り本部へ退却して行く中()()()()()()()()()()()()

 

「千佳……ッ! あぁもう!」

 

 止むなく先導を中止して千佳の回収を試みる。そしてその意図に気づいたのは……

 

「メガネ先輩! 手伝うっす!」

 

「夏目さんっ! 皆と逃げて!」

 

 言葉は虚しく私と夏目さんで千佳の手を引く。

 

「馬鹿! 逃げるって言ったでしょ!」

 

「あ……う……あぁ……」

 

 混乱している千佳を私達で手を引こうとしたが()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「メガネ先輩!」

 

「チッ……! 追いつかれ……」

 

 ラービットの剛腕が私を吹き飛ばす。幸いレイガストの防御は間に合った。ダメージ自体は軽微。まだ立てる……まだ戦える! 

 

『私の事は良いから全力で本部へ逃げなさい!』

 

 通信機能で千佳達に退避を促す。でも……きっと……

 

「お願い……覚醒して……千佳……」

 

 私の心と言葉は矛盾している。

 

【逃げて欲しい幼馴染としての私の本心】

 

【覚醒して危機を自力で打開して欲しいあの作品の読者としての私】

 

 相反する2つの感情が私の胸中を渦巻く。だからせめて……祈らせて……

 

『チカ子に手を出すんじゃねぇコンニャロー!』

 

「夏目……さん……」

 

 聞こえた音声が私に希望をくれる。ならば今度は私が……立ち上がるんだ! 

 

「あとは……後は千佳が覚醒すれば……」

 

ドォン! 

 

 その期待の呟きの直後轟音が響く。立て直した体勢でその方向を見ればラービットが激しく損壊している。でもまだ活動停止していない。

 

「千佳が勇気を出した……なら今度は私が役割を果たす!」

 

 そんな時だった。

 

『こちら本部だ。三雲隊員報告を頼む!』

 

 このタイミングで通信……そうか! 

 

「こちら三雲! 新型近界民が出現! 交戦していた木虎さんが捕獲されました! 奴らの狙いは訓練生です!」

 

『木虎からの報告とも重複する……やはり奴らは訓練生が狙いか。現在地は?』

 

「現在南部・南西の訓練生と合流し本部へ北上しています。また、千佳……雨取隊員のトリオン量が奴らに露見した可能性が高いです!」

 

『なんだと……っ! だが安心しろ! 現在君達の後方から援軍が向かっている。BORDER最強部隊が来るまで凡そ5分だ……凌いでくれ!』

 

「ありがとうございます! 何とか戦線を保たせます!」

 

 私は通信を終えて彼女達の元へと駆け出した! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チカ子! あんた凄いじゃん! 新型ブッ壊してさ!」

 

「う……、うん……でも早く……早く逃げないと……」

 

 短いやり取りの後に2人が他の訓練生と合流するべく駆けたした。撃たれたラービットはまだ体勢を立て直していない。他のラービットは千佳からの攻撃を警戒してか距離を取っている。好都合だ! 

 

「他の訓練生を逃がすためにもここで釘付けにしてやる!」

 

 私は急いだ。ダメージは少ない。トリオンにもまだ余裕はある。無駄撃ちも控えてる。だから……

 

「スラスター起動!」

 

 一気に距離を詰めて……手負いのラービットを始末する。

 

「まだ戦闘中! 気を抜かない!」

 

「メガネ先輩!」

 

「亜樹ちゃん!」

 

「2人とも逃げるよ! 他の訓練生達と合流! でも千佳……覚悟を決めてるなら狙撃銃は残して!」

 

 私は2人に訓練生との合流を促す。今ラービットは千佳の一撃を警戒している。ならそのまま距離を取らせる! 

 

「わ……わかった……!」

 

 その警戒もあって私達はラービットと一定の距離を保ちつつ他の訓練生と合流出来た。今この場にいるのはざっと15人弱……思ったよりも大所帯だ。

 

「な……なぁ……アイツが上手くやれば俺達逃げられないかな……」

 

 ざわ、と空気が揺れた。

 

『は? 流石にまぐれだろ? もう無理じゃね?』

 

『敵は二体だけだぞ?』

 

 期待を持てた場面では当然の反応だった。()()()()()()()()()()()

 

「ひぃ!! 近界民!?」

 

「BORDERだ!」

 

「助けてぇ!」

 

「ッ! 逃げ遅れた民間人!?」

 

 私達の眼前にいたのは3人の民間人だ! 

 

「今動けば3人助かる。仮に見捨てれば……ッ! に馬鹿な考えになってる!」

 

 私は自身の頬を叩き喝を入れる。

 

誰かこの人達も連れて行って! 全力で基地へ! 

 

 見捨てる訳にはいかない。全員助けるんだ。だから私は()()()()()()()()()()()()

 

「状況が変わった! 私が殿になって時間を稼ぐ!」

 

 もう知識もへったくれも無い。見過ごすわけにはいかない! 

 

「私はまだ戦える。ここを守れるば援軍が来るんだ!」

 

 この戦編を完全に崩壊させてはいけない。ここが崩壊すればアフトクラトルの狙いが民間人になるかもしれない! だから私は自分に言い聞かせる。

 

「倒さなくていい……援軍が来るまで耐えれば私はそれで良いんだ……」

 

 言い切りたい。最善でなくても構わない。だけど……

 

「“保たせる”……それが私の役割だ!」

 

 だから今は私が殿になるしかない。私が2体のラービットをC級……千佳達を守る為にはこうするしかない。その行動に一瞬沈黙が流れた。だけど……

 

「亜樹ちゃん!?」

 

 意味が伝わらないという動揺だ。だから私は断言する

 

「千佳はとにかく逃げない! 貴女が最も攫いやすくて相手の標的になってるの!」

 

 私は続けた。

 

「私の目標を変更する。援軍が来るまでは私が凌ぐ!」

 

 私の視線はマップの外──まだ来ない援軍の方向をみていた。

 

「玉狛第1到着まで、戦線を維持するから!」

 

 それだけだと。その一言ですべてを塗り替える事は出来ない。でも希望になればそれで良い! 

 

 ──-

 

 

 

 短い沈黙。

 

『……わかった……』

 

 千佳達の足音が、遠ざかっていく。狙わせてはいけない。その姿を確認してから、私はゆっくりと息を吐いた。

 

「あと3分稼ぐには……」

 

 あの通信から凡そ2分……ここが次の“遅延点”。

 

 本来なら、木虎さんと私で抑える場所。

 

「けれどもう訓練生も含めて誰もいない。犠牲になるのは……一人で足りる」

 

 私の呟きはただの確認だ。

 

「追わせない!」

 

 瓦礫をラービットへ蹴り、あえて音を立てて走る。

 

「奴らの標的をコッチに釘付ける。視線を引きつけるために」。

 

 ギロリ……と私へ注意が向いた。

 

「狙い通り。でも……」

 

 ラービットの頭部がこちらを向いて赤い光が収束する。

 

(正面戦闘をすれば5秒も保たない。遮蔽物使用しなければ60秒も稼げない)

 

「だけどこれが合理的判断」

 

 遮らないといけない。

 

「ここで私が引きつけるのが1番効率がいい筈」

 

 感情を乗せる余地がない。なのに思考には学校でのモールモッド戦だ。

 

『……! …………っ!』

 

「本当になんであの日が浮かぶな。退けない状況……明らかな強敵……いつ到着するのが不明な援軍」

 

 そしてもう1つ思い出す。

 

「あの日の思考を思い出せ」

 

 何か言いかけて途切れた。代わりに遠くで銃声が響いた気がする。

 

「後退が始まっている……そう考えないと!」

 

 希望を抱くにはそれだけで十分だった……そう思っていた

 

「ッ!?」

 

 背後から衝撃がする。油断はしていなかった。視線も外しては無かった。でも……

 

「速すぎる……」

 

 吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。保護されている筈の肺から空気が抜けたような感覚がする。

 

「駄目だ……視界が揺れる」

 

 このままでは本当に10秒も稼げない。でも出し惜しみが出来ない

 

通常弾(アステロイド)!」

 

 弾速と威力に調整した弾を放つ。でも防御すらされない。

 

「全然足りない。でも諦めるわけにはいかない!」

 

 吹き飛ばされた体を起こす。

 

 私のトリオンの残量はこのまま戦えば心許ない。すぐにガス欠は避けられ無い。それでも! 

 

「ここで止めるんだ! スラスター!」

 

 1体のラービットの首へレイガストを投げる。上手く刺さって損傷させれた! 

 

「まだだ……通常弾(アステロイド)!」

 

 追撃で着実にダメージは与えてる筈。でも……

 

「シール……」

 

 もう1体のラービットの剛腕がシールドを割りながらもう1度私を吹き飛ばす。

 

「私が粘れば千佳達が逃げれる。1秒でも長く粘る。私が粘れば先輩達が千佳達を助けてくれる筈なんだ。だから!」

 

 それが役割だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「余裕は無いけどコイツを倒す!」

 

 投げて手元に無いレイガストを再生成する。乱用すればトリオンはすぐに底を尽きる。それでも! 

 

「ここから先には行かせない! 千佳達は追わせない!」

 

 そんな時に足音が迫る気がする。

 

(先輩達が到着すればラインは繋がる)

 

 それでいいと。そう思った瞬間──

 

 ──ドオン──

 

 轟音が響いて壁が内側から吹き飛んだ。私はその正体を識っている。だけどそれはあり得ない。いや……()()()()()()()()()

 

 黒い巨体が横からの攻撃弾き飛ばされていた。そして煙が晴れたそこには見慣れた小さな背中があった。

 

「間に合った……戦うよ亜樹ちゃん。私も戦うんだ!」

 

 震えた声だった。

 

「ここで逃げたら亜樹ちゃんまでいなくなる! そんなの駄目! 逃げるなら皆で! その為に私もBORDERに入って戦うって決めたの!」

 

 振り向いたその顔に私はわずかに目を見開いた。守るべき相手(雨取 千佳)

 

「……馬鹿」

 

「でもそれは亜樹ちゃんも同じ!」

 

「返す言葉も無いよ」。

 

 けれど、その目は強い覚悟が宿ってる。もう説得は無理だ……。私は千佳に1歩近づく。

 

「自分を駒だと思いすぎだよ! 亜樹ちゃんは私の親友でもあるんだよ!」

 

 千佳の言葉に、私は何も返さない。いや……

 

「ここで倒すよ! 今なら倒せる!」

 

 千佳はただ静かに銃を構えた。

 

「まずはあの手負いのラービット!」

 

 私はスラスターで加速してダメージの蓄積したラービットを活動停止させる

 

「次はあのラービット!」

 

 〜〜!!! 

 

 遠くで、新たな戦闘音が響く。重くて圧倒的な気配がする。

 

「──時間は、足りたかな?」

 

 時計を見る。あの通信から凡そ……6分。

 

「まったく……最も弱いお前達が無茶をしてどうする……」

 

「レイジさん!?」

 

 ラービットと私達の間に割って入ったレイジさんがあの剛腕を受け止めていた。だけど……

 

「砲撃が来ます!」

 

「エスクード!」

 

 新たな声が響き砲撃を試みたラービットの足元から出現した壁が砲撃を暴発させた。その使用者は……

 

「烏丸先輩!」

 

「あたしも……いるのよ!」

 

 ダメージを受けて怯んだラービットを上空から飛来した人物の一撃が叩き込まれた。いや……追撃の炸裂弾(メテオラ)が振り注ぐ。

 

「小南……先輩……」

 

『玉狛第1──到着したよ! 亜樹ちゃんもう大丈夫だよ!』

 

 通信から聞こえる宇佐美先輩の報告に、私達はようやく息を吐いた。

 

「……しのぎきった?」

 

「いや……随分なダメージを受けたようだがまだ動いてる。小南……始末しろ」

 

「アレで倒れて無いの? 了解!」

 

 言うが速いか小南先輩の双月が亀裂の入った装甲を叩き割る。その手並みは流石最強部隊だ。

 

「これが攻撃手3位……っ! 先輩方! 【門】を発生させるラッドが!」

 

「新手か……京介!」

 

「来ます!」

 

 先輩方が構えた中で新しい声が聞こえる

 

「ほっほっほ……中々のお手並ですな」

 

「問題ありません。目標を捕らえます」

 

 ラービットを退けた私達の前に開かれた【門】から最強の剣士(ヴィザ)ヒュース(軍事国家の精鋭)が現れた。

 

 

 




玉狛第1到着前までの攻防は【亜樹】が原作よりも戦闘力があったことで僅かに……けれど確実に正史とは異なる展開を見せます。

しかしその代償は必ず……確実に彼女を蝕むでしょう。

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